とらいあんぐるハート3 To a you side 第十一楽章 亡き子をしのぶ歌 第ニ話






 問題は、続く――















「時空管理局からの、視察?」

『時空管理局からの公式視察団が、参られます。ミッドチルダ地上本部からベルカ自治領聖王教会への訪問、マスメディアより大々的に喧伝された正式な視察。
ご存知の通り、時空管理局と聖王協会との関係は今天秤が傾いている状態。この機に聖地へ訪れる本当の理由は、カレドヴルフ・テクニクス社への視察が目的です』


 ――極めて読み辛い、一手である。最高評議会主導による時空管理局の一大改革、人事を中心に今司法組織は大いなる変革が行われている。


状況を考えれば、目的は明らかだ。聖王のゆりかごの発見と聖女の予言、"聖王"の降臨による聖王教会の隆盛。対等だった力関係が今、聖地へ大きく傾いている。

実際のところ、対等なんてのは幻想だ。宗教組織が、司法組織に敵う道理はない。次元世界を管理する司法組織に対して、自治領一つを有するだけの宗教組織が敵う筈がない。

だが"聖王"、神の降臨により聖王教会の信者は今全次元世界へ拡大を続けている。神様が本当に居るのであれば、信仰は確立される。祈りが報われるのであれば、人は神に縋る事が出来る。


「……メディアは、どちらが主軸と捉えている?」

『首都防衛隊の代表者、レジアス・ゲイズ中将。地上本部の予算拡大の重要性を唱えた演説が先日、全次元世界へ向けて発信されました。
時空管理局の中でも武闘派である中将が目的とされるのは、我が社の"武装端末"であるとの見方が強いですわ』


 法律による秩序と、信仰による安寧。力関係が本当の意味で拮抗し始めたことにより、時空管理局が重い腰を上げて改革に乗り出した。それほどまでに、法が神を恐れている。

レジアス・ゲイズ中将、かの首都防衛隊の代表者への抜擢は世間を大きく賑やかせたばかりだ。ゼスト隊長の話では、自身の思想を強引に押し通すワンマンな傾向が見られると言う。

だからこそ、この一手が読み辛い。レジアス中将が最高評議会と繋がっているのは明らかだが、この視察が評議会からの命令か、中将による独断なのか、判断し辛い。


どちらも敵だというのは分かっているが、前者と後者では対応の仕方が異なってくる。悩ましいところだ。


「本社、カレイドウルフ大商会の意向を聞かせてくれ」

『カレドヴルフ・テクニクス社の誕生から、数ヶ月。カリーナお嬢様肝いりで行われた起業に多くの有力者が疑問を投げかける中での、時空管理局からの正式な要請と訪問。
我が社の武装端末が注目されているこの状況に、お嬢様は殊の外お喜びになられております。旦那様への、カリーナお嬢様からの意向をお伝えいたします。


"必ず、成功させなさい"――万が一を起こせば、即座に旦那様の首を斬るように命を受けました』


 ――カリーナお嬢様とセレナさんは、ジュエルシード事件に続く一連の次元犯罪を起こした首謀者が、時空管理局の最高評議会である事を知らない。この点が、非常に厄介である。

敵の目的が、『敵情』視察である事は明白だ。議論の余地もなく、学歴のない俺でもそのくらいは分かる。聖地の動向を探り、俺が保有する戦力を探るのが目的だろう。

何しろこちらは聖王のゆりかごを保有しているゆえに、ユーリを筆頭とした一大戦力を抱えている。地上本部へ戦争を仕掛けられる戦力があると、個人的に捉えている。


それに加えて新兵器の開発まで行っているのだ。最高評議会からすれば、かつて自分達から全て奪い取った軍資金で戦力増強なんぞされて怒り心頭になるのは無理もない。


「兵器の開発と言っても、実際は俺の思い付きなんだぞ。相変わらずの、無理難題だな」

『発想こそ旦那様のお考え一つでありますが、カリーナお嬢様が貴方様を社長へ就任させたのはそれだけではございません。ひとえに、貴方様の人脈にございましょう』

「と、いうと……?」


『一企業による兵器開発は慎重な対応と、厳正な手続きが求められます。カレイドウルフ大商会はベルカ自治領を代表する商会でございますが、兵器開発の推進までは行なえません。
此度の一大事業が成立いたしましたのは、聖王教会を代表する貴方様の存在あってこそ。自治権を有する教会の承認と、白旗の支持者である御三方の推進あってこそでしょう。

そして何より、兵器開発に欠かせない技術力と開発力――スカリエッティ博士とウーノ様達、そして忍様達の御協力により実現いたしました。

その全ては、貴方様へと繋がる力。お嬢様は貴方様であれば成し遂げられると、確信を持ってその座に据えたのですわ』


 ……たった数ヶ月で何故俺の馬鹿な思い付きが実現できたのか、不思議で仕方なかったのだが、その理由が今分かった。ちゃっかり俺の愛人を名乗る女まで加わっていて、仰け反ってしまう。

高校三年生の女に、どうしてそんな科学力が備わっているんだ。確かに自動人形を修理して動かせる技術があるのは知っているが、ミッドチルダと地球では文化や技術が異なる。

兵器開発なんぞに加われるとは思えないのだが、実際セレナさんに認められる技術者の一員となっている――となれば、理由は一つだった。

俺が聖地で戦っている間、同行したあいつもまた死に物狂いで戦っていた――俺の愛人だと表面では呑気に笑いながら、影では汗水流して勉強して技術を磨いていたのだ。


(さくら……悪かったな)


 この点についても、問題はあった。綺堂さくらより先日呼び出され、言われたのだ――月村忍は、大学への進学の道を閉ざしたと。

今は十二月、高校生の冬。既に遅きに失しているが、それでもまだ機会はあった。教師との三者面談で、忍は言ったそうだ。大学の進学は、しないのだと。

以前から、本人が口にしていた事である。俺に永久就職するのだと、笑って夢を語っていた。冗談交じりだったし、多少なりとも本心であることも分かっていた。だが、今回は違う。

職歴も学歴もない俺だからこそ、よく分かる。何もない人間が大成できる世の中ではない。確かに俺は自由だったが、限りなく不自由だった。今日食べるのに困っていたぐらいなのだ。


男尊女卑の気風は薄れつつあるが、それでも大学へ行かないとなると厳しいだろう。あいつはそれでも自分のやりたい事を選び、安易な道を捨てた。


「判断する上で、進捗を聞かせてくれ」

『旦那様が提唱された、「魔力無効状況でも有効に戦える戦力」の開発。社長が大々的に掲げた理想をモチーフに、この度コンセプトを擁立いたしました。
"魔力無効状況でも魔法が使用でき、魔力有効状況なら更なる強化が得られる"戦力の開発。

我がカレドヴルフ・テクニクス社はこのコンセプトの元に次世代魔導端末を開発いたしました』


 大層に言っているが、アンチ・マギリング・フィールドの驚異を考えれば誰でも思い付く発想である。本当に実現出来たのはカリーナの資金力と、博士や忍の技術力あっての賜物だろう。

たった数ヶ月で本当に開発出来たとは、恐れ入る。聖王教会のバックボーンあってこそだろうけど、どうやら俺の人脈を活躍しまくったらしい。あのお嬢様、やりたい放題である。

時空管理局に精通しているあの御三方が推進してくださっているというのも、意外だった。それほどまでに、最高評議会が実行する変革を止めたい想いが強いのだろう。

急激な改革に司法組織が歪み始めている。変質しつつある正義に対して、あの御三方が強く憂いている証拠だった。


『御決断をお願いいたします、旦那様。時空管理局側からの此度の決断に対し、社員一同が貴方様の判断を求めております』


 一長一短はある。時空管理局による視察で正式に認可が出れば、カレドヴルフ・テクニクス社は大企業として不動の一位を獲得するだろう。兵器産業の頂点に立てる。

カリーナお嬢様とセレナさんが確実な成功を求めている以上、この次世代魔導端末は相当な自信を持っていると見ていい。それこそ最高評議会が難癖をつけるのも難しいほどに。


奴らも容易くこちらの兵器開発を断念できるとは思っていないだろう。主目的はこちらの戦力を確認し、保有する技術を奪う事になる。技術を辿れば、ジェイル・スカリエッティに辿り着くのだから。


全資金を奪われ、ジェイル・スカリエッティに離反され、戦闘機人に裏切られた彼らは後がない。なんとしてもこちらに介入し、奪うつもりでいる。

この決断を誤れば俺自身どころか、白旗の運営も危うくなる。"聖王"が脅かされれば聖地が危うくなり、ローゼの安全が保証されない。


俺の決断は――


「時空管理局との共同制作を提案しよう」

『か、管理局からの合意や認可にとどまらず、更に一歩進んだ関係を構築なさるのですか!?』


「民間企業であるカレドヴルフ・テクニクス社と管理局の共同制作による試作装備品を、地上本部の魔導師達に提供するんだ。
我が社の次世代魔導端末を次なる世代の戦力、"第五世代デバイス"として確立する」


 俺は起業家ではない、一介の剣士だ。敵が公式の場で決闘を挑んできたのであれば、受けて立とう。その上で白旗の理念を持って敵の奸計を打ち破り、ゼスト隊長との約束を今こそ果たす。

ゼスト隊長はレジアス中将と浅からぬ関係にあり、一時は決別を覚悟して対決する覚悟でいた。それに待ったをかけたのは他ならぬ俺であり、関係の修復に手を貸すと約束した。

俺は最高評議会の刺客ではなく、ゼスト隊長の友であるレジアス中将を信じてみたい。行き過ぎであったとしても、彼の正義に対する信念は本物だと思いたいのだ。

だったら、及び腰では駄目だ。毒を食らわば皿まで、とことん突き詰めた関係になろう。共同制作となれば、密接した関係となる。そのためなら、うちの技術を見せつけてもかまわない。


俺にはもう、剣がない。あるのは、セレナが武器だと言っていた人脈だけだ。ゼスト隊長は、俺にとっても大切な兄貴分だ。


『旦那さまの御英断、しかと受け止めました。一字一句違わず全社員に伝え、社長の決断を叶えるべく尽力を致しましょう』

「よろしく頼む」

『お任せください。このセレナ、権力者の前で名刺を引き裂く特技に長けております』

「確かにスカッとするけどやめろ!?」


 彼との約束を果たすべく、時空管理局とだって戦ってみせる。













<続く>








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