とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第四十六話
休暇を兼ねた里帰りだったのだが、問題が山積している為に渋々異世界ミッドチルダへ行く事になった。個人の問題が解決していないので、出戻り感が酷すぎる。
三ヶ月前と違って海鳴に入国管理局がある為、ベルカ自治領への直通ルートが存在する。闇の書関連の任務も兼ねているので管理局の承認も早く、素通りの感覚で聖地へと転移出来た。
長期滞在の予定はないので同行者は少数、護衛として聖騎士が同行。関係者としてディアーチェが同行、闇の書の関係者としてのろうさとザフィーラが表向き白旗要員として一緒に来てくれた。
妹さん達は"特命"により別行動中だが、白旗には有能な仲間達が多いので人手には不足しない。
「さて、今日はホテルで荷物を降ろしてのんびりと――」
「まあ、早速お嬢様が滞在するホテルへ足を運んで頂けるのですね。お嬢様に忠実なそのお気持ち、ありがたく頂戴いたしますわ」
「セレナ!? 今日の帰還は教会にしか伝えていないはずなのに、何故此処にいる!」
「貴方様の女であらせられる娼婦様が、ご機嫌麗しくカレンダーに丸をつけておりましたので」
「しまった、あの女は教会通だった!?」
「ささ、参りましょう。貴方様の不在でお嬢様が退屈されておいでで、実にご立腹でした」
「放せ―!?」
女の細腕だというのに全く抗えずに、出だしから拉致されてしまった。俺に忠実な妹さんならば撃退してくれた筈なのだが、聖騎士は同じ教会関係者なので俺の帰参にはむしろ賛成の立場。
のろうさ達には全く期待していない。案の定完全清楚なセレナさんに高級菓子で歓待されてご機嫌、高級車でのVIP待遇にディアーチェまで王様気分で悠々と乗り込んでいる。
初日から予定を狂わされてしまうが、全体的なスケジュールには影響しないので諦観気味に連行されるしかない。どのみち、お嬢様には会わなければならなかったのだから。
できれば教会に事前に話を通しておきたかったのだが、仕方がない。こっち方面から根回ししておこう。
「よくもこのカリーナをこれほど長く待たせましたわね。初めてですの、カリーナをここまでコケにしたお馬鹿さんは」
「お嬢様、どうぞ落ち着いて下さいませ。他ならぬ旦那様の事です、必ずお嬢様を驚かせる立派な理由がありますわ」
「なるほど、伺いましょう。言っておきますが、下らぬ理由でしたらその首を刎ねますの」
「勝手にハードルを上げておいて酷い!?」
そもそも当初はしばらく聖地へ戻る予定もなかったのだが、こいつはその間どうするつもりだったのだろうか。友達もいなさそうだし、退屈で死んでいたかもしれない。
挙句の果てに誘拐までされたお嬢様なのだが、もはや事件の事など無かったかのように完全無欠に振る舞っている。豪奢なドレスに身を包んで、スイートルームの高級感を楽しんでいた。
セレナさんはシワ一つないメイド服を完璧に着こなしており、涼しげな美貌も健在だった。カリーナお嬢様の傍に控えて、優雅な立ち振舞いで俺に無茶振りをしてくれている。
いきなりの難題だが、不幸中の幸いにも今の俺は手ぶらではなかった。
「お忘れですか、カリーナお嬢様。この私は田舎者、カリーナお嬢様の知らぬ世界より参上した者です」
「此処から遠いので時間がかかったとでも言いたいのですの? 実につまらない理由ですのね、商売の世界では通じぬ道理ですわ――セレナ」
「お任せ下さい、お嬢様。このセレナ、ギロチンの用意は常に万全です」
「常に断罪を心掛けるお前は何者ですの!?」
首切りを要求しておきながら、首を撥ねるとなると腰を浮かせるお嬢様は世間的には可愛らしく見える。断罪される当人からすれば、悲惨の一言なのだが。
処刑されそうだと言うのに、のろうさ達は高級スイートルームの探検で忙しそうだった。ディアーチェなんてまるで自分の部屋であるかのように、悠々と振る舞っている。
仲間は全く頼りにならないのでアナスタシヤに目を向けると、心得たとばかりに袋から丁寧に包装された品を取り出した。管理外世界より持参した手土産である。
この手の贈り物は今まで散々貢がれているであろうカリーナは、受け取りながらも不機嫌極まりない様子だった。
「何ですの、これは。この程度の品でこのカリーナの機嫌を取れるとでも思っているんですの!?」
「無論ですとも、必ずお嬢様に気に入って頂けると思っておりました」
「ふふん、そこまで言うのなら――思って、おりまし"た"? このお土産、いやに軽いような――」
「聖地の入国審査官に、『お願いしますから持ち込まないで下さい、陛下』と泣きながら取り上げられました。くっ、折角の天然モノなのに無念」
「一体何を渡そうとしていたのか、逆に気になりますの!?」
「空手箱とは恐れ入りましたわ、旦那様」
――などと再会を喜び合いつつ、代わりに地元産のゆるキャラ人形をプレゼントしたら満足してくれた。異世界であろうと、人気のゆるキャラは愛される存在であるようだ。
機嫌を直してくれたカリーナお嬢様はルームサービスを通じて食事に誘ってくれたので、遠慮なくご相伴に預かった。お嬢様が見立てた料理はどれも絶品で、全員揃って満足。
ディアーチェも相手の顔を立てられる器の持ち主、己を不当に乏しめずに相手を持ち上げられる器量は大したものだと思う。この娘のお陰で、俺も不要に気を使わずに済んだ。
俺から話を持ちかける前に、カリーナお嬢様より何故かお褒めの言葉を頂いた。
「魔導端末メーカーである、カレドヴルフ・テクニクス社。田舎者らしい素朴な提案ではあるけれど、AMFを搭載した兵器が出現しつつある以上、対抗策は確かに必要。
カレドヴルフ・テクニクス、いわゆるCWシリーズの根幹を成すシステム構築が完成しましたの。セレナ、説明してあげて」
「アンチ・マギリング・フィールドは術者の魔力で編み上げた構成を分断し、魔法の完成を阻止する力。このAMFが魔導端末で容易く使用できるようになれば、ミッドチルダの主力である魔導師の戦力低下を意味します。
そこで我が社は対抗策を軸としてこの度、技術革新を推進する魔力駆動兵器を造り上げました」
「魔力駆動兵器とはまた、大仰な名であるな……魔導端末とはまた異なるのか、メイドよ」
「我が社の目玉であるCWシリーズは術者の魔力を端末内部で瞬間編成し、防性障壁として出力する機能を核としたシステムです」
ディアーチェの問い掛けに対して、セレナは魔力駆動兵器の根幹について説明する。カレドヴルフ・テクニクス社が製作する武装端末は、これまでのデバイスとは根幹から異なるらしい。
これまでデバイスは術者の構成を主軸として、魔法の精度を高めていた。対してCWシリーズは構成の分離を防ぐ為に、端末の内部で瞬間編成して力を発動する仕組みとなっている。
デバイスが補助であるとすれば、CWシリーズは支援を目的とした武装端末。障壁として出力する機能を有していれば、AMFのような妨害を防ぐ事も出来るということだ。
魔導のド素人である俺の提案はキッカケに過ぎず、カリーナ達はあくまで俺達の経験に基づいて兵器開発を行っている。
「CW社が製作した武装端末には、最新式の通信技術が搭載されております。教会より御支援頂いたジェイル・スカリエッティ博士のご協力もあり、実用化に成功致しました。
旦那様の素晴らしきご提案に大いに興味を示されまして、この度完成へと至った次第です」
「? 俺、なんか提案したっけ……?」
「ご謙遜を。一連の事件の経緯で念話を始めとした通信が一切行えず、救難信号も出せずご苦労されたお話を食事の席で打ち明けられたそうではありませんか。
博士より伺いましたよ。緊急事態による救難信号なのに、信号が送れない今のシステムは間違えている。俺達で正してみせようではないかと、拳を掲げられたと」
――散々苦労させられた当時の酒の場での愚痴を、あのおっさんは革新的提案と受け止めて本当に実用化したらしい。アホだった、天才だけど大アホだった。
アンチ・マギリング・フィールド内では魔法も使えず、当然念話も使用不能となった。携帯電話で言う通信範囲外に困り果てて、博士に愚痴を零してしまったのだ。
作ってくれと頼んだのではない。作られていない今の状態が変だと、ユーザー側の苦情を言っただけだ。ユーザーなら親切対応だと喜んだだろうが、俺の立場はメーカー側なので頭を抱えるしかない。
聞きたくないが、聞かないと余計にドツボにはまるので恐る恐る聞いてみる。
「今、実用化に『成功した』とおっしゃいました?」
「魔力及び電波遮断状況下での通信が可能となり、傍受による解析を困難にする我が社独自の暗号化技術を用いております。見事な提案力と実現力に感服致しました、旦那様。
社長であらせられる貴方様を称えて、CWコネクトとして全世界に発表する手はずが整っております」
よし、分かった――この人、全部分かっててやってる。
「で、電波が遮断された状況下でも通信が可能なの!?」
「何故驚かれるのですか、旦那様の発案ではありませんか。社長が唱えれば、全社員一丸となって取り組むのは当然。妥協などせず、通信技術の革新を行いました」
神輿を天高く胴上げしそうな勢いで技術革新しまくる連中に、何も知らなかったトップは突っ伏した。俺の留守中に何してくれてんだ、こいつら!
酒の場でのバカ話を真に受ける奴があるか! しかもこいつらは実用化するだけにとどまらず、全世界を納得させる営業力まで発揮してくれやがった。優秀過ぎて、当事者は置いてけぼりである。
もしかして時空管理局が急激な人事改革に努めている最たる理由は、聖王教会の敷地でやりたい放題やってるこいつらが原因じゃないか!?
――待て、さっきこいつはなんて言った?
「俺の名で発表すると言ったか?」
「勿論です、旦那様の発案ではありませんか」
「だったら提案書に俺の名前を書いておくくらいでいいよ。わざわざ俺の名前で発表しないでくれ」
「田舎者、お前は自分の名で発表されるのが嫌なのですの? 有名になりたくはないと?」
「当たり前じゃないですか、絶対にいやです」
「よく分かりました――セレナ、この田舎者が嫌がっておりますので」
「お任せ下さい、カリーナお嬢様。このセレナ、お嬢様と同じく旦那様の困った顔を何より愛しております。すぐに、発表いたしましょう」
しまったああああああああああああああああああああ、こいつらの前で本音を言っちまったああああああああああああああああああああああああああ!?
アリサやシュテルの不在に、頭を抱える。彼女達がいれば、性格の悪いカリーナやセレナを決して刺激せずに穏便に対応してくれた。交渉事において、自分の本心を見せるなんて最悪である。
嫌なら嫌で、発表を取り止めさせる交渉を手順を踏んで行わなければならない。それなのによりにもよって、正直に嫌だと言ってしまったのだ。
俺への嫌がらせをこよなく愛する二人に、どうして弱みをさらけ出す真似をしてしまったのか。
「そ、そんなに珍しい技術じゃないよな……?」
「アタシは古いタイプの騎士だけど、魔力が遮断された状況下で通信出来る技術ってのがどれほど凄いのか、実体験を通じて身に染みてる」
「お前の会社であるというのであれば、むしろ実用化された製品を融通してもらいたい程だ」
過酷な戦場を渡り歩いた歴戦の騎士達からの太鼓判に、絶望する。彼らがそれほど強力に推薦するのであれば、現代に生きる戦士達はこぞって購入するだろう。
CWコネクトに、CWシリーズ。元来の魔導に頼らない新技術は、皮肉にもアンチ・マギリング・フィールドという力の存在によって生み出されてしまった。
聖地で勃発した戦争が、新しい技術を生み出してしまったのである。もしあの戦争が起きなければ、間違いなく今の段階でこんな技術は必要とされなかっただろう。
歴史の針を勝手に回してしまったお陰で、ドエライ反響を招いてしまった。他人事ならいいのだが、台風の目には俺の名前が書かれてしまっている。
「うぐぐぐぐ、CWシリーズはどこまで実用化が進んだんだ!?」
「陸空両対応の砲戦端末として設計及び製作された『ストライクカノン』、こちらの試作が完成しております」
うわああああああ、試作品まで完成してしまってるぅぅぅぅーーーーー!?
いや待て、落ち着くんだ俺。そんなどえらいシステムの試作品を、そう容易く使用できる術者なんぞいない。心当たりのある連中は白旗に所属している、つまり俺の部下である。
上司の命令は絶対である。俺がビシっと言ってやれば、誰も協力なんぞ――
「よかろう。そのストライクカノン、父の家族として我らがテスターとして名乗り出ようではないか!」
――唯一制御不可能な自分の子供達に名乗り出られて、俺はその場に崩れ落ちた。
ただでさえ世界最強の娘達が、武装まで整えてしまったらどうなってしまうのか。確実に言えるのは、時空管理局に絶対目をつけられるということだ。
まずい、絶対にまずい。さっさと問題を解決して、当事者シカトで盛り上がるこの技術革命を止めなければならない。
「カリーナお嬢様、お願いがあります」
「何ですの、一体?」
「貴方様に身請けして頂いておりました魔龍の姫に、会わせて頂きたい」
<続く>
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