とらいあんぐるハート3 To a you side 第十楽章 田園のコンセール 第四十五話
"夜天の魔導書"の主である八神はやてに、"闇の書"に関する情報を連携した上で現場の全てを語った。薄々察していたのか、魔導書や守護騎士達の暗部に触れてはやては唇を噛み締めた。
結局のところ、事の全てが明らかとなればどうなってしまうのか、予測するのは困難だった。闇の書は過去の遺物であり、夜天の魔導書は現実にあり、蒼天の書が未来への産物として残されている。
俺達が隠し立てしている秘密は八神はやての存在のみであり、魔導書本体や魔導書より生み出された存在については徐々に明らかにしている。はやての存在だけは、確実に表沙汰にしない。
その代わりに俺が浮き彫りとなってしまう事に対してはやては抵抗があるようだが、俺にとってはもはや笑い事でしかなかった。
『"聖王"に祭り上げられた時点でもう今更過ぎる。危険とされる魔導書の主だと誤認されても、今更俺は困らないよ』
『わたしだけじゃなく、うちの子達の事でも良介に迷惑かけてるやんか』
『タダ働きじゃない、彼らには俺の私情で力となってもらった。剣士にだって、義理や人情くらいはあるさ』
『……分かった。わたしは、良介を信じる。管理局とか教会とかじゃなくて、良介のことを信じてわたしを預けるわ』
『お前本人はローゼのアホと違って、何の問題もないからな。さほど面倒というほどでもない。
ただそれはあくまで俺の私見であって、本当に何の問題もないのか分からない。だからこそ』
『どのみち明日通院の予定やったから、一緒に検査もしてもらうわ。でもほんと、元気そのものなんやけどね――足も絶好調やしな』
『よし、明日の飯をかけて徒競走でもやるか』
『生憎やけど、ドラゴンさんと戦うような人と競争するのはNG』
深夜となってしまったがそのまま熟睡する心境にはなれないらしく、はやてはヴィータ達を呼んで自室へと戻っていった。家族ではあるが、立ち入るほど野暮ではない。
クロノ達との交渉で一歩前進したが、状況が改善されるまでには至っていない。聖王教会と交渉して、聖遺物とされている蒼天の書の分析許可を求めなければならない。厄介であった。
考える事が多くて、俺も眠れる心境ではない。だからといって夜更かしして悩むほど、繊細な神経を持ち合わせてはいない。こういう場合剣の修行に限るが、意欲が相変わらず出てこない。
夜の一族の姫君達が毎晩逢瀬を求めてきて大変困っているが、暇な時に彼女達の相手をするのは有意義である。何日も間を開けるとまたうるさいので、連絡でも取ってみるか。
と、自室の前でパジャマを着た我が娘が待ち構えていた。
「眠れないのか、シュテル」
「夜のお相手を務めるべくこうして伺いました、父上」
「いい心がけだ、我が娘よ。ではお前に足置きの役目を命じる」
「なるほど、私の柔らかなお腹の感触を足で味わいたいのですね」
「お腹で攻めてくるとはなかなかやるな!?」
誰かに選んでもらったのか、自分で選んで購入したのか、黒地に白玉のパジャマは可愛らしくてなかなか似合っている。本人も愛でられて、口元が緩んでいた。
基本的に生真面目で杓子定規な子なのだが、家族に見せる顔は緩んでおり、父には思う存分気を許している。剣士の娘としてはどうかと思わんでもないが、立派な魔導師なので問題はないか。
自分の部屋だがシュテルに招き入れられて部屋に入ると、我が子達が勢揃いしていた。水玉パジャマのレヴィにジャージ姿のディアーチェ、父譲りのTシャツ姿のユーリに、リーゼアリアにプレゼントされた着ぐるみタイプのパジャマをきたナハト。
揃いも揃って、嬉しげに表情を輝かせて飛び付いてきた。
「パパ、ディアーチェに聞いたよ。ボク達のことをパパの子だって言ってくれたんだね!」
「我らが父は管理局の役人共の前で堂々と我らを誇ってくれたのだぞ、お前達。これで今日から我らは正式に、父の後継者だ!」
「ありがとう、お父さん。何も聞かずに私達のことを受けいれてくれて、本当に嬉しかった。
"永遠結晶エグザミア"の力も、"UDプログラム"のシステムも全てお父さんの為に使うから、何でも私に言ってね!」
「おとーさん、だっこー」
……言われてみれば立場を確立させるという事は、こいつらの事を自分の子供だと認知するのと同じである。今までは馴れ合い程度の関係だったが、これで完全に確立されてしまった。
何しろ時空管理局という次元世界最大の法の組織に、諸手続きを求めたのである。今更覆すことはもう不可能に近い。ローゼのような主従ではなく、親子として認知してしまった。
シュテルとの契約こそあっても、彼女達との関係に根拠は何もなかった。求められるままに俺は受けいれていたが、シュテル達も内心は不安だったのかもしれない。俺の一存で全て白紙に変えられるからだ。
子供の認知なんて生々しい事この上ないので、シュテル達も今までなかなか言い出せなかったのだろう。俺が自ら父であることを認めたことが、よほど嬉しかったに違いない。
「ありがとうございました、父上。私からの勝手な申し出であったのにもかかわらず、こうして娘として迎え入れられて感謝しております」
「立場が確立するのと言うのも良し悪しなんだぞ。少なくとも以前の生活には戻れない」
「我々の存在を確立して下さったのは、他ならぬ父上です。実態なき過去に戻るつもりはございませんとも」
「えへへ、ボクをこんなに可愛くて強くしてくれたもんね!」
「騎士達の主であるあの娘とやや似通っているのは気になるが……我もこの姿、この力には満足しておるぞ。充実しておるわ」
「わ、私もこんなに女の子らしくしてくださって、とても気に入っています。力の制御もまさかここまで完璧に行えるなんて、夢にも思いませんでした」
「にへー」
確かに言われてみれば、ディアーチェは先程まで話していた八神はやてと似ている気がする。ぐっ、まさか実体化する上で、身近な女の子をイメージしてしまったのか!?
心当たりを探ってみるとシュテルは高町なのはに、レヴィはフェイト・テスタロッサと共通点がある。イメージが貧困な自分が憎らしい。今まで女の子と縁がなかったからな……
ユーリなんて明らかに顕著で頭を抱えたくなる。お伽噺から飛び出したような可愛い金髪のお姫様、自分の偶像を具現化してしまうなんて目眩がしてくる。
その点、ナハトヴァールは分かりやすい。アリサ達が納得するほど、ナハトは俺によく似た黒髪の野生児である。
「今まで追求はしないでおいたけど、お前らはあの魔導書について何か知らないのか。前々から言っている"永遠結晶エグザミア"というのが、ユーリのあの巨大な力の源なんじゃないのか」
「我らは父の法術によって実体化した力そのもの、魔導書本体からは既に切断されている。現状置かれている、魔導書の実態については預かり知らぬよ」
「ボクもむずかしーことは全然知らないけど、確かユーリが自分の及ぼすえーきょ―とかを考えて、魔導書の中に隠れていたんだよね?」
「正確にいいますと、ユーリ本体の上に別のシステムを上書きして隠れていたのです。騎士の方々が私達を把握していないのも当然でしょう」
理屈はまだよく分からないが、納得できる事情ではあった。国家戦略級兵器の直撃を受けてほぼ無傷だったユーリの力、暴走でもしたらとんでもない事態となっていた筈だ。
彼女達は自分達の影響力を考えて、今まで魔導書の中に隠れていた。良心的なクイントやメガーヌが目の色を変えてスカウトするほどだ、次元世界の観点で見ても管理局が飛びつく程の戦力なのだろう。
ユーリ達の力を秘めた魔導書という観点で見れば、危険に感じても無理はない。聡明な彼女達もそうした自分達の影響を考えて隠れていたというのであれば、納得できる。
クロノ達へ説明したユーリ達に関する弁明にも、特に破綻は生じていない。聖遺物という理由の方が、教会側にも受け入れられやすいだろう。
「力のコントロールが行えない状態だったから、ずっと魔導書の中で眠っていたのか」
「魔導書を通じて父上の法術を知りまして、何とかコンタクトを取るべく機を窺っておりました。その機会が、精神世界での接触だったのですよ」
「力の集合体でしかなかったお前達だからこそ、思念での接触が容易かったんだな。だったらひとまず、お前達については問題はなさそうか」
「こうして父の娘となった以上、父に恥じぬ生き方を行いますとも。ただ我々としても、過去の記録については熟知しておりませんので――」
「ふむ、魔導書に封印されていた永遠結晶に冠する伝承がないとは言い切れぬ。万が一、管理局側に知られてしまうと面倒ではあるな」
「クロノ達との情報交換は、思いがけない収穫がありそうだな……」
魔導書本体への分析を交渉材料に、時空管理局側からの情報提供を約束させている。闇の書に関するあらゆる情報が、クロノ達を通じて入手できる。
注目すべきは夜天の人ことリインフォースの存在、守護騎士達の伝承、シュテル達の存在記録、そして永遠結晶エグザミアの在り処について。
聖地の夜を美しく照らし出したユーリの力に目を付けられると、単なる危険物である以上に厄介だ。巨大な力は善悪問わず、あらゆるものを惹きつけてしまう。
聖地ではユーリ達の存在が浮き彫りとなっている。彼女達の存在に目を付けられる事自体はともかくとして、永遠結晶エグザミアにまで辿られるのはまずいな。
「近日、聖地へ行って教会と交渉してくる。その時に情報収集を行って、お前達に目をつける存在がないかチェックをしてみるか」
「いらぬ心配をかけてすまぬな、父よ。一刻も早く我が父の後継者となって聖地へ君臨し、人民を掌握してみせるぞ!」
「ははは、そうしてくれればお前達も安泰だな。まあ任せろ、何とか上手く管理局や聖王教会と交渉してみせる」
シュテル達本人の問題は全て改善されているのに、シュテル達を取り巻く因縁が改善されていないのと言うのは何とも皮肉であった。
魔導書においてもそれが言える。リインフォースの話では法術の改竄により、闇の書は既に蒼天の書として何の問題もない魔導書となったと聞いている。
問題点だったシュテル達もこうして実体化して飛び出した以上、魔導書本体は無害となった。だが、闇の書を知る者たちにとっては、その事実までは知りようがない。
そして俺達の事情を顧みれば真実を明らかに出来ない以上、安全性の証明が私情により行えない。難儀な話だった。
「でも確かになーんか、ボク達への視線をたまに感じたんだよね」
「それって聖地でのことか、レヴィ」
「うん、えーと……パパがあのメイドさんのオークションに行った後から」
ノエル・綺堂・エーアリヒカイトが出品されてしまったあのオークションか。黒幕から分捕った金を思う存分使いまくったからな、仕方ないとはいえ目立ってしまった。
俺に目をつければ、自然と白旗に目を向ける。白旗に目を向ければ、最前線で活躍していたユーリ達にも目を向ける。ユーリ達の正体をもし知っていたのであれば――
やはり早いところ、聖地へ行った方がいい。海鳴でゆっくり過ごしたかったのだが、あっちも放置しておくと問題が勝手に積み上げられていってしまう。何とかしなければ。
その問題を今現地で解決してくれているディアーチェが、俺が聖地へ行くと聞いて目を輝かせる。
「我が父の手腕、この目で見せてもらうぞ! 例の龍族がうるさく騒いでおるからな、いい加減黙らせたいのだ」
「おお、俺の娘だけあって考えが一致したな」
「むっ、どういう事だ?」
憧憬を持って見上げるディーチェに、俺は不敵な笑みを向ける。
「龍族からの干渉と、天狗一族からの宣戦布告。この二つの問題を結びつけて、一気に解決しようじゃないか」
――仲良くすることだけが交渉じゃない、人外共に剣士の流儀を見せてやろう。
「それじゃあ、おやすみ――何で布団に潜り込んでくるんだ、お前ら」
「だってもう親娘でしょう。どーどーとパパと一緒に寝れるもん!」
「父上の右腕である私には、右隣が相応しいですね」
「後継者である我は、父の胸元に飛び込もうぞ」
「で、では、私はお父さんの左隣に……」
「ギュッ」
「暑苦しいわ、お前ら!?」
<続く>
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