とらいあんぐるハート3 To a you side 第九楽章 英雄ポロネーズ 第六十九話
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
| おい、ガール >「良介」
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
「ノア」< へい、ボーイ |
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
| 人の留守中に何してる >「良介」
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
「ノア」< エロ本がない |
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
|何してるんだてめえ!? >「良介」
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
「ノア」< オープンコンバット |
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
| やめろ >「良介」
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
「ノア」< サンクス |
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
| 心配して言ってる >「良介」
| んじゃねえよ!? |
ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
「ノア」< 報酬7:3 |
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
| 俺の配分が少ない!? >「良介」
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
「ノア」< お詫びにパンツ |
| 部屋に置いといた |
ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
| 火種を増やすな!? >「良介」
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
「ノア」< 脱ぎたて |
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
|(゚ε゚(O三(;_;`)コドモガミテル! >「良介」
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
「ノア」< ヌクヌクダヨ>(゚ε゚(O |
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
| そんじゃ頼んだぞ >「良介」
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ゝ___________,ノ
γ´ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`ヽ
「ノア」< ん、任せて |
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ゝ___________,ノ
「猟兵団の狙いは魔龍バハムートだ、治安維持を理由に猟兵団の全戦力を出撃させている。今ノアに魔女の足止めと、時間稼ぎを依頼しておいた」
「何故こんな馬鹿なやり取りで意思疎通が行えるのですか!?」
――シスターシャッハは近代ベルカ式の魔導師AAランクで、素早いフットワークを駆使した近接戦闘型。特に移動系魔法に関する技能の練度は、瞬間的な距離移動を行う"跳躍"に達する精度を誇っている。
跳躍と呼ばれるスキルにまで特化した移動系魔法は内外問わず建造物を自由に移動出来て、無機物に潜行して自在に通り抜ける事すら可能とする。この能力が広大な聖地で人助けを行える一因となった。
決闘後に起きた突然の地震は今も止まることを知らず、ベルカ自治領の大地を根底から揺さぶっている。立つことすら出来ないこの状況下で、地震の影響を受けない彼女の跳躍スキルは心強い援軍となった。
「悪いな、背負わせてしまって」
「聖女様のご要望でもあります、お気になさらないで下さい。剣士殿こそ聖地の希望であり、聖女様の護衛に相応しき御方であると、私も確信しております」
最初は地震の影響を受けない大空を飛んで急行する事を考えたのだが、全員から難色を示された。敵がAMFの展開を可能としている以上、俺を担いでの飛空は集中攻撃の危険があって薦められないらしい。
逆に地震が起きている中で、大地を駆け回れる移動系能力者は少ない。そこで手が挙がったのがシャッハ・ヌエラ、聖女様の推薦と本人の希望が上手く重なって即座に俺を背負ってくれた。一緒でも移動出来るらしい。
情けない話だがプレセア戦での肉体的負傷と、決闘における精神的負担で、もう身体がロクに動かせない。よたつきながら歩くよりも、シスターシャッハに背負って貰った方が遥かに早かった。
地震という災害と戦争という人災、白旗だけでは同時に対応出来ない。ならば、他の勢力の力を借りればいい――此処で、二つの治安維持勢力が決闘を行ったのだから。
緊急時の判断力においては、長年聖地を守ってきた騎士団長の決断が早い。
「陛下、この場は我ら聖王教会騎士団にお任せ下さい。貴方様は急ぎベルカ自治領へ戻り、聖地を荒らす蛮族共を討伐して下さい」
「……我々が、聖地の治安を守る第一の任を承ってもよろしいので?」
「雌雄は決しました。"聖王"陛下と陛下の騎士団であれば、安心してお任せ出来ます。観客には信徒達も多い、人々を守る事が騎士道の原則です」
「誉れ高き騎士団の決意、確かに見届けました。我らもあなた方の勇姿を目に焼き付け、誉れといたしましょう――参りましょう、陛下!」
「お、おう……」
何故か最後はチンクに取り仕切られて、地震に怯える観客達の避難や警護を聖王教会騎士団に託し、白旗総員は新たな戦場へ向かう事となった。念の為現地に残していたスタッフも全員出動している。
救世主であるローゼは地震に怯える民を慰撫すべく残そうと画策したのだが、"救世主"という肩書が逆に仇となってしまい、団長殿に強く避難を求められた。VIP待遇というのも玉に瑕だ。イレインに切り替わり、出撃。
セッテは世話係の為聖女様に随伴するべきなのだが、白旗騎士団団長を襲名する本人はいい加減我慢の限界だったらしい。姉も妹の気持ちを理解して司祭様と聖女をお守りすべく、代わりにドゥーエが側につく事となった。
ドゥーエ本人の能力が戦闘向きではない点もあるが、本人はチンク達と違って武功を望んでいない。要所要所の立場を理解している才女は、この場にいる重要性を重んじてここに残ってくれた。
白旗騎士団最年少の少女が出撃するとなると、チビッコ軍団も黙っていない。
「あいするふぃあんせさま。おっとの"せ"をおまもりすべく、らいていであるわたくしもしゅつげきいたしますわ!」
「私の"後"を守って下さるのですか、ありがとうございます。この地震は必ず私が止めますので、どうか私の代わりに民の皆さんを励ましてあげて下さいな」
「ううう、あなたさまのやさしさがいまはつらいですわー!」
「ふっけばいんさん、わるものたいじにいくんやろ? せかいせーふくのじゃまするやつはうちがぶっとばしたるわ!」
「よくぞ言った、我が戦闘員よ。災害の恐怖に怯える愚かな民衆を、貴様の武で支配してしまうのだ!」
「きょうふでだまらせるんか!? ほんま、わるいひとやなー!」
「アリサ、リーゼアリア」
「へいへい、フォローしておきます」
「はいはい、サポートしておくわ」
今はまだ周囲の混乱で済んでいるが、決闘場に集っている大手メディアを通じれば、世界中に恐怖が伝染してしまう。治安維持を保証する舞台で、治安の乱れを吹聴するような事があってはならない。
白旗の強みは単純な戦闘力のみならず、知力や財力、権力に精通した人材が揃っている点にある。この豊かな人材について、三役の方々には本当に感謝している。あの人達の威厳と貫禄が、多くの人達を惹き付けた。
観客達は聖王教会騎士団と白旗の非戦闘員、貴賓席及び来賓の方々は三役や聖王教会のお偉いさん達が、必ず取り纏めてくれる。非常時ではあるが、信頼出来る人達に託せる今の状況がとても嬉しかった。
異世界に来て二ヶ月余り――沢山の苦労があったが、俺達は今大きな困難を前にして一致団結している。
「プレセア・レヴェントン、お前の身柄は俺が預かる」
「……我は貴様に敗北したのだ、どんな命でも聞いてやろう」
「今何でもすると、言ったな?」
「うん……?」
ふっふっふ、愚か者め。この俺が何の見返りもなく、敵を助けると思ったのか、馬鹿め。
「カリーナ姫様ー!」
「ええい――田舎者の分際で、このカリーナを気安く呼びつけるとはいい度胸ですわね。余程の要件でもなければ許しませんわ!」
隙を見せたな馬鹿め、と言わんばかりに喜々として飛び込んでいるお嬢様。背後に控えるセレナさんもご満悦の様子、地震でパニックだというのに何だこの主従コンビ。
「アギトとミヤのような、珍しいペットをお望みでしたね」
「ええ、それがどうかした――!?」
地面に落ちていた鍵を渡す。受け取るカリーナが見つめる先は――
魔龍の姫君、プレセア・レヴェントン。
「商談成立ですわ!」
「ありがとうございます!」
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―!?」
「よくやったぞ、リョウスケ!」
「えっ、これでよかったのですか!?」
よし、これでアギトとミヤの一件は片付いた。聖地を荒らして人々を虐殺しようとした罰だ、せいぜいこき使われろバーカ。大量虐殺未遂と大騒乱をかましておいて、安々と許されると思うなよ。
まあ、カリーナ・カレイドウルフも単なる世間知らずの我儘お嬢様ではない。プレセアほどの有用な人材であれば単純に可愛がるだけではなく、彼女のスキルを最大限生かした有用な扱い方をするだろう。
俺に敗北して尚且つ救われてしまった以上、プレセアも龍姫のプライドもあって逃げ出せない。反抗するかもしれないが、あのセレナさんの前では凶悪な魔龍とて歯が立たないだろう。あの人は本当に謎すぎる。
カレイドウルフ大商会は、白旗のスポンサーだ。彼女に預ける事は、聖王教会騎士団との協定内に含まれている。単純に俺の支配下に付くより、ミッドチルダ最大ブランドの庇護下の方が社会復帰もしやすい。
とはいえ放置は出来ないので、アギトやミヤをプレセアの監視につける。後は龍族との交渉と――あの魔龍だ。
「今から向かう場所は戦場、此度の決闘のような仮想シミュレーションではない。魔女は巨大昆虫の大群を率いて攻め込み、猟兵団と傭兵団が全戦力で迎え撃っている。文字通り戦場、命懸けだ。
戦争に参加するからには俺はお前達に死んでも勝てと命じるが、戦争なんてしたくない奴は此処に残ってくれ。戦えない人間にだって、成せる事は沢山ある。俺は非難したりしない。
弱いことは決して、罪ではない。弱いことを自覚せず自分勝手に死ぬような人間こそ、本物の馬鹿だ」
これは訓練ではない、実戦である。人斬りを吹聴しておきながら、放浪するだけだった俺がこのような大言を述べる日が来るとは思わなかった。卑小な人間には所詮、実体験でしか物事を語れない。
白旗は同じ旗の元で一致団結しているが、命懸けで行うべき救済なぞありはしない。自分の命を大切にして欲しいと、心から思っている。どいつもこいつも馬鹿ばっかりで、死なせたくないお人好し共なのだ。
精一杯の誠意を込めて呼びかけたつもりだが、呼びかけた者達全員がジト目で俺を見返している。何故だ、俺なりにいい事を言ったつもりだぞ。何の問題があるというのだ。
戸惑う俺に対して、代表者として我が右腕のシュテルが手を挙げる。
「父上」
「どうした、我が娘よ。可愛い娘であるお前にも、なるべく戦争には参加してもらいたくはない」
「素晴らしい親心に感激しておりますが――」
「うむ」
「父上以外の全員無傷で健康ですので、申し訳ございませんがこれ以上ないほど父上の言に説得力がございません」
全員に頷かれて、盛大にズッコけた。も、もしかして、今まで苦労してきたのって俺だけなのか……? えっ、あれ、怪我も疲労も俺だけしか負っていないのか!?
魔女に支配された連中も俺が死ぬほど頑張って救い出したので、完全復調。部隊長相手に大苦戦した妹さんも、仮想戦闘なので当然無傷。聖王教会騎士団との決闘も振り返ってみれば、黒星だったのは俺だけである。
身体中に包帯を巻いて疲労困憊、シスターに肩まで借りている男が、超一流の戦士達(全員健康)の前で大言を語る――実に寒い光景だった。
「余計な心配しているんじゃないよ、マスター。あんたは黙ってアタシらに命令すればいいんだ」
「陛下はもう十分に戦われました。後は私達にお任せ下さい」
「今こそ父の娘に恥じない戦いを見せてくれようぞ」
「陛下にばかり手柄を立てられては癪ですもの、戦場でこそ戦闘機人の真価が発揮されますのよ。指揮も私が取りますから、陛下は黙って立っていて下さいな」
ベルカ自治領の外れに降下した魔龍バハムート、アギトの自爆で瀕死の負傷を負った魔龍は休眠状態にある。安置されていながらも半ば対処に苦慮していた隙を見計らって、魔女が支配すべく動き出した。
白旗及び聖王教会騎士団、決闘場を警備していた時空管理局。治安維持の主戦力が空白状態だったこの機会に悪魔の女が動き、正義を気取る猟兵団や傭兵団が強引な出撃を行っている。どいつもこいつも曲者揃いだ。
あれほどの連中を前にしてイレインは胸を張り、アナスタシヤは自然体だ。ディアーチェは不敵に微笑み、クアットロも采配を振るうべく意欲を漲らせている。俺の為に全力を尽くすことで、他人に貢献しようとしている。
怪物達を相手にするというのに、怯む気配もない女性陣。所詮は女子供だと言っていた過去の自分は本当に、どうかしていた。
「飛空部隊と陸戦部隊に分けて、出撃する。空を飛べる連中は俺さえ担いでいなければ、迎撃も行えるだろう。急ぎ聖地へ戻り、状況を把握して対処に当たる」
「皆さんの目的は、あの魔龍なんですよね。お父さんはどうするつもりなんですか?」
「聖王教会騎士団に決闘で勝利した以上魔龍バハムートの権利は俺達にあるのだが、この非常事態に乗じて今各勢力が横取りしようとしている。そこで、ユーリの出番だ」
「えっ、わたし……?」
「俺達白旗が参戦すれば、戦場は更に荒れるだろう。そこでユーリには徹底して魔龍バハムートの防衛に当たって欲しい。誰にも渡すな」
「ええっ、そ、それって、わたしに攻撃が集中してしまうような気が……!?」
「ユーリ、愛しているぞ」
「お父さん以外の人には絶対渡しません!」
――実に酷い親子劇だが、実のところ手堅い戦術だったりする。騎士団長の渾身の一撃を軽く弾いたユーリの防衛能力ならば、隕石が落ちてきても絶対に耐えられる。魔女であろうと、近付けないだろう。
魔龍バハムートは安置されている状態だが、放置はしていない。結界が張られている上に、魔女、猟兵団、傭兵団、この三すくみではそう容易く独り占め出来ない筈だ。魔龍を中心に戦火が広がっていると見ていい。
連中が争っている間に直接介入して、ユーリが魔龍バハムートの防衛に徹する。この一手だけで、少なくとも連中の最大目標は取り上げられる。戦乱はこの程度で収まらないだろうが、最悪は避けられる。
この思考を魔女は恐らく読んでいるだろうが、読んでいてもどうしようもない。"自分"より優秀な娘が相手なのだ、抵抗は無意味だ。
「父の案は私も賛成です。たとえアンチ・マギリング・フィールド下であろうと、父の愛に支えられた今のユーリであれば問題なく対応出来るでしょう。
問題はお宝を取り上げられた連中ですね、各勢力が大人しく引き上げてくれるとは思えません」
「父よ、あの卑しき魔女は我に任せて欲しい」
「ディアーチェ……?」
「――赦せぬ、断じて赦せぬ。よりにもよって我が父と"同じ存在"であるなどと言いのける、不埒なあの輩が許せないのだ。父の後継者であるこの我が直々に、魔女を断罪してくれるわ!」
我が家の暴君が怒りを剥き出しにして、殺意を漲らせていた。俺への愛はユーリやナハトヴァールが強いが、尊敬に至ってはこのディアーチェが何より強い。常に憧れの眼差しで、俺を見上げている。
娘に尊敬される気持ちというのは親にとってこの上ない幸福なのだが、敵からするとこの上なく厄介である。ユーリの凄まじさに目を奪われがちだが、暴虐性でいえばディアーチェのほうが上である。
否、とは言えなかった。師匠が復讐に走るのを見かねて止めたのもまた、俺だ。尊敬していた存在が汚されるのは、自分勝手であろうと我慢ならない。ディアーチェは誰よりも強く、俺の心を引き継いでいる。
猛り狂う剣士の苛烈さを継いでいながら、何故これまでの戦いで大人しかったのか理解できた。アギトと同じく、ディアーチェも自分の敵を定めていたのだ。
「はいはーい、パパ。りょーへーだんのふくちょーさん、あの紫電女はボクが相手するね!」
「理由は――聞くまでもないか、はは」
「この前の借りをぜーんぶ返してやるんだ。部下達もまとめて相手してやる、うしし」
聖王のゆりかごへ向かう道中の山岳地帯で、猟兵団の襲撃に遭った俺達。AMF展開で苦しめられた状況を脱せたのは、レヴィの殿があってこそだった。あの時レヴィは一人、地獄の釜底で鬼共を切り払った。
あの時何とか追い返せたようだが、レヴィも少なからず傷を負っている。副団長であるエテルナ・ランティスは"紫電"の異名を持つ実力者、元より狙っていた首だったが動機も出来てやる気を漲らせている。
ディアーチェと違うのは、決して遺恨ではない事だ。この娘は純粋に戦いを楽しんでいる。剣士としての業、人を斬る喜びを知るこの娘は俺の狂気を受け継いでいた。
姉妹の目標を吟味した上で、シュテルは提案する。
「でしたら私は、傭兵師団『マリアージュ』を指揮する団長オルティア・イーグレットに対処しましょう。父との相性も最悪なので、私が出るべきでしょう」
「俺との相性……? あの人について何か知っているのか?」
「ローゼさんの調査で判明致しました。魔力変換資質"凍結"を持つ稀少技能者、遠距離を得意とする砲撃型魔導師です。私であれば戦えます」
げっ、よりにもよって砲撃型なのか。銃火器は剣士にとって難敵、御神流は銃器を想定した技もあるが体得はしていない。クリスチーナの一件もあって、苦手意識がある。特に、砲撃はやばい。
加えて凍結のスキルも厄介だ、万物の停止は物理法則を停滞させてしまう。静から動を演出する剣士にとって、法則の停滞は戦術の破綻を意味する。あらゆる意味で相性が悪い。
その点、シュテルであれば問題なく戦えると断じる。やはりこの娘は聡明かつ冷静であり、俺にはない多くを有している。一番俺に似ていない分、姉妹の中で誰よりも俺に近しい。自分にはないからこそ、補完し合える。
子供達が意気揚々としているのであれば、大人も黙っていられない。
「リョウスケ、わたしはあの子に支配されている子を救ってあげたい」
「……"ガリュー"とか呼ばれていた、あの化け物か。大丈夫なのか?」
「あの子を救えないようでは、魔龍との契約なんて到底出来ない。やらせてほしい」
最初に対峙した際、魔女が使役していた人型の昆虫。ルーテシアの見解ではナンバーズと同じく、魔女に強制的に支配されていると言う。以前から随分と、気にかけていた。
話し合いで解決する相手とは、彼女も思っていないだろう。説得を試みるだろうが、言葉で何もかも通じるほど甘くはない。必ずと言っていいほど襲い掛かってくる。
魔女はあらゆる才能に愛された、恐ろしき女だ。あの女の支配を解くのは、並大抵ではない。加減の出来ない相手に対して、敵意もなく挑むのは大変な戦いとなるだろう。
それでもやるというのであれば――魔女の相手をするディアーチェも、力強く頷いた。
「ならば我々騎士団は、召喚された地雷王の大群を制圧しましょう。ウーノの話では、地雷王は魔力を使用して振動を起こす手強い相手です。広域攻撃となると、魔導師では対処しづらい」
「聖王教会騎士団より我々は使命を託されています。一刻も早く地雷王を制圧して、この局地的地震を止めたい」
「陛下の理想を、実現してみせる」
「まあ、虫如きが相手でしたら余裕でしょう。虫退治はお任せ下さいな」
なるほど、局地的地震を起こす魔獣が相手は戦闘機人が適している。AMF環境下でも右往左往しない安定した戦力なら、地雷王の制圧も滞りなく行えるだろう。
現状信徒達を苦しめているのは、地震を起こしている地雷王だ。諸悪の根源はあくまで魔女だが、震源が地雷王であれば確かに騎士団長より聖地を託されたチンク達が向いている。
ただ治安維持名目の元出撃している、猟兵団と傭兵団の連中が邪魔しそうなのだが――
「争いは好みませんが、戦争を起こすというのあれば切り払うまでです」
「おっ、やる気だね。ほんじゃあアタシらも先輩として付き合ってやるか、ザフィーラ」
「うむ、我も昔から乱を起こす猟兵の類は好かん」
「ほんじゃあアタシはファリン達と一緒に、傭兵団が囲っている機械女共を蹴散らすよ。アタシこそ最強最高の自動人形ということを証明してやるよ、マスター」
――暴悪な猟兵、苛烈な傭兵。戦争屋集団を相手に、事もなく全員倒すと言いのける聖騎士やイレイン達。二つ名持ち程では無いものの、敵とて一流の戦士。決して楽な相手ではない筈なのに、この自信。
思えば彼女達にはそれぞれの立場や任務があって、実力を目の当たりにしたことは殆どない。強いことは分かっているが、どの程度強いのか判明していないのだ。
大丈夫なのかという心配とともに、正直期待もあった。弱者にとって、強者はいつでも憧れの存在だ。到達できない高みにいる存在、その至高の強さを目の当たりにしてみたい。
各自がそれぞれの目標を見据える中で、この子は少しもぶれない。
「私はシャッハさんと協力して、剣士さんを守ります」
「ええ、お任せ下さい」
「はは、よろしく頼む――では白旗、出撃する!」
『了解!』
託された使命と、与えられた役目――各自の信念を胸に、俺達は戦場へ向かう。
「ところで、俺の相手は――」
『もう戦わないで!』
<続く>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
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