とらいあんぐるハート3 To a you side 第六楽章 星たちの血の悦び 第九十三話







『貴方の海外行き、条件付きで許可します』

『ほんまか、シャマル!? ありがとう、良介の事を分かってくれたんやね!』

『――理解してくれた女は、男を平手打ちしないと思う』

『だ、だから、謝ったじゃないですか!? 神咲さんともお話して、貴方の御人柄について伺いました。
神咲さんに感謝して下さいね。私が渡航を認めたのは、あの人が私に頭を下げてまで貴方の事をお願いされたからなんですから』

『分かってるよ。それで、条件というのは?』


『この指輪を、貴方の指にはめて下さい』


 青い石と緑の石が光る、二対の金色の指輪。シャマルの綺麗な手に乗せられた指輪が、美しく輝いている。

女性より贈られる指輪でも、シャマルが相手ではときめきは感じられない。義務的に受け取って、一応点検する。

何か細工でもあるのかと疑ったが、どう見回しても普通の指輪だった。意図する所が分からず聞いてみるが、本人は静観したまま。


これ以上こじれるのも面倒なので、俺は利き腕ではない方の手を差し出した。


『……何です?』

『片手でははめられない』

『もうっ、早く海外に行って怪我を治してきて下さい!』


 その海外行きの話に今まで反対していたのは、貴様だ。美人参謀もその辺は分かっているのか、文句を言いつつもはめてくれた。

青い宝石の指輪を人差し指に、緑の宝石の指輪を薬指にはめてくれた。はやてが何故か頬を染めて、熱い視線を向けている。

指輪は違和感なく、俺の指にはめられた。サイズもピッタリで、指に吸い付くように馴染んでいる。

きちんと指輪をはめたのを確認して、シャマルは満足そうに微笑んだ。


『主である八神はやて、貴方の御友人である神咲那美さん。そして私自身の目で判断し、貴方の海外行きを認める事にします。
書の改竄が貴方の悪意によるものではない事も、分かりました。
良好とは言えない関係である私に頭まで下げてまで、友人を助けようとしたのですから。

ただ、私はまだ貴方という男性・・の理解に至ってはいませんし、何より貴方の法術は本人の意思とは無関係に発動するケースもある。

よって、海外に行かれる貴方を引き続き監視させて頂きます』


 シャマルの俺を見つめる瞳に、悪意や拒絶は感じられない。ただ真っ直ぐに、俺という個人を見極めようとしている。

彼女は俺と同じ、スタートラインに立ったのかもしれない。他人と接する決意をした、6月最初のあの頃へ。

他人だからと安易に否定したりせず、他人であるからこそ知ろうとする。その上で好きか嫌いか、仲間か敵かを見定める。


その為には、一歩近づかなければならない。その人の顔がよく見える、距離まで。


『それで、この指輪が何の関係があるんだ?』

『その指輪は、「クラールヴィント」の基本状態。騎士の指輪の形を持つ、ベルカの騎士が扱うデバイスです』

『騎士のデバイス、これが?』


 ヴィータが普段担いでいるハンマーも恐らく、デバイスだろう。てっきり武器型だと思っていたのだが、指輪もあるのか。

高町なのはのレイジングハート、フェイト・テスタロッサのバルデッシュ。デバイスとは武器という認識が、俺の頭にはあった。

でも、シャマルのデバイスだと言われると納得がいった。参謀役の彼女には、武器より指輪の方が似合っている。


本人に言うと若干照れていたが、この程度のお世辞で感情を揺らす女性ではない。


『風のリング「クラールヴィント」、癒しと補助が本領です。攻撃力は殆どありませんが、強力なサポート機能を有しています。
貴方の傷付いたその腕も、海外への出発までには治癒出来ると思います。さすがに、壊れた腕まではどうしようもありませんが』

『……』

『な、何ですか、その疑心に満ちた目は!? 貴方の力になると言ってるんですよ』

『今までのお前の言動と行動を振り返ってみろ、疑いたくもなるわ。美味しい話には、絶対に裏がある』

『いやですね、男の醜い勘繰りは。女性に嫌われますよ』

『急に好かれる方が、怖いんだよ。監視と言っていた部分を説明してみろ』

『限界はありますが、デバイスは形態の変形が可能となっています。クラールヴィントも、ペンダルフォルムに移行出来ます。
今は指輪の形になっていますが、腕輪にする事も出来るんです。当然、サイズの変更も自由』

『レイジングハートも確か、赤い宝石から杖に変形出来ていたな。それで?』

『例えば――貴方が、海外で女性に対して不埒な行為に及んだとします。すると』


『お前はまだそんな事をいっ――ててててててて、締まる、締まる、締まってる!?』


『このように、指を締め上げる事も出来るんです。便利でしょう?』

『のおおおお、指からはずれない!?』

『貴方の指にピッタリ合わせていますので、私が解除しない限り取れませんよ。うふふふふ』


 御伽噺に出てくる道具の中に、『緊箍児』と呼ばれる環が存在する。孫悟空の頭にはめられた、金の・・輪っかである。

天すら畏怖される問題児であった孫悟空を伏するための輪で、魔を緊縛する箍である。

三蔵法師という女性・・制限の輪を架せられて、暴れん坊の男は悪さが出来なくなったのだ。


伝説通りというのも変な話だが、引っ張ろうが何しようが取れはしない。とんだ、呪いのアイテムである。


『これじゃあ、お前の主観で行動が左右されるじゃねえか!? 他人なんぞ見極めれるか!』

『正確に言えば、私だけではなくクラールヴィントも判断します。この子はとても合理的なので、時に貴方の力になるかもしれません。

クラールヴィントは4つ一組で使用するデバイス、指輪を通じて貴方と私は繋がっている――

海を越え、国を超えても、私達は繋がりを持っている。その事を、忘れないで下さい。
女性を泣かせるのではあれば容赦しませんが……助けるのであれば、助言くらいはしてあげますよ』


 シャマルは以前、言っていた。心無い主に理不尽な命令をされて、時には身体を強要される事すらあったと。

彼女にとって、騎士の任は必ずしも誉れ高きものばかりではなかったのかもしれない。戦いの日々に、疲れを感じる事だってあった筈だ。


思わぬ形で訪れた、平和な日々。敵であっても誰かに必要とされて、誰かを助ける為に能力を使う。その事に意義を感じたのかもしれない。


シャマルも、そして俺も他人を助ける事になれていない。だから自分一人だと、意地を張ってしまう。

でももし同じ人間が二人でいれば、時には自分ではありえない事も出来るかもしれない。繋がる事で、可能性は広がる。


『何か婚約したみたいやね、二人とも。初々しいわ』

『気持ち悪い事を言うな!』

『気持ち悪いとはどういう意味ですか!?』


 新しい世界を、可能性を見てみたい――シャマルはようやく、この平和な世界に目を向け始めていた。















 次の日から、湖の騎士は見舞い以外の理由で病院へ来なくなった。クラールヴィントがある限り、付きっ切りになる必要もないらしい。

監視役は事実上の解任、となれば今日から訪れるのは残り二人の騎士だろう。


盾の守護獣、ザフィーラ――もしくは、剣の騎士シグナム。


この二人は真の武人、主に忠義を誓っており、任務に私情を挟まない。ゆえに、改竄の危険性のある俺を海外へ逃がしたりはしない。

そういう意味で言えば、可能性はある。ようするにその危険性を除去すればいい。改竄される仕組みを理解出来れば、制御も行える。

ただ、その仕組みを解明するのは非常に難しい。何しろ法術は、異世界でも詳しく解明されていないのだ。

プレシアは、何か手がかりを持っていたようだが――


「聖王教会、とか言ってたな……クロノやリンディに詳しく聞いてみるか」


 とにかく、時間がない。連絡手段を持っているユーノに、なのはを通じてコンタクトを取ってみよう。

そう思って携帯電話を手に病院の玄関へ向かっていた矢先、玄関口から見覚えのある人間が見えた。


前がミニ、後がロングの黒いドレス。細くて白い肩の見える、美より動を意識した衣装。


少女は真っ直ぐに俺に歩み寄り、しっかりとした眼差しで見上げた。



「剣士さん、お願いがあります。私と、勝負してください」



 黒のドレス戦闘服を纏った月村すずかが、俺に決闘を申し込んだ。
























































<続く>







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