とらいあんぐるハート3 To a you side 第六楽章 星たちの血の悦び 第四十九話
月村忍とすずかの護衛、その初日は何とか無事に終わりそうだった。映画を観ただけだったけど。
軟派な連中を撃退してアリサとすずかを保護、騒ぎになる前にノエルの運転する車に乗り込んで退散。
俺達は月村のお嬢さんを迎えにいくので、アリサは八神家に近い場所で降りてもらった。
「送ってくれてありがとう。楽しいデートだったわ」
「映画に連れて行った優しい主人に感謝して、明日からも仕事に励むように」
「はいはい……すずかも、また遊ぼうね。連絡するから。
大丈夫、良介は強いから貴女を必ず守ってくれるわ」
あんなひ弱な学生連中を撃退した程度でも、アリサは感激したらしい。
帰りの車の中でもずっと、妹さんに御主人様の自慢をしていた。男から自分を守ってくれた事が、よほど嬉しかったのだろう。
俺としては最近巨人兵とか大魔導師とか人外魔境な奴等と命懸けで戦ってきたので、一般人相手に手応えは感じなかった。
……考えてみれば先月は映画のような体験をしたんだよな、俺は……現実に早く、慣れないと。
映画鑑賞で夕刻となり、学校は既に放課後の時間に。校門前で待つお嬢さんをお迎えする。
「お迎えに上がりました、忍お嬢様」
「いつもありがとう、ノエル。あれ、私のボディーガードは?」
「助手席で寛がれております」
「私を守る気がないよね、あの人!?」
車外でうるさく騒ぐ護衛対象を尻目に、俺は携帯電話を出して通話。報われない努力に涙しながら。
それほど待たせずコール音は途切れ、着信画面に切り替わる。
電話の相手は城島晶。本人の希望で俺の助手となった熱血空手少女である。
「月村忍の様子はどうだった?」
『ターゲットは休み時間はほぼ熟睡していました。隠れて様子を見ていましたが、怪しい人はいなかったです。
教室ではうちの師匠が話しかけていたくらいです』
「高町恭也が? 恐ろしく腕の立つ剣士、怪しい……有力容疑者だな」
『ありえないですって!? いや、本当に!
忍さん、短期間ですけど休学されていたんでしょう? クラスメートを心配するのは当然じゃないですか!』
……冗談で言ったのだが、そこまで必死で弁護されると腹が立ってくる。
フィリスや月村も第一印象は良いようだし、憎からず思っているのは間違いない。
アリサも恭也を褒めていたし、フィアッセや美由希、レンや晶といった家族受けも抜群。俺の知る女関係で、あいつを嫌いな人間はいない。
俺なんて今月に入って襲撃食らったり、二十四時間監視されたりしているのに……他人に好かれる人間、俺とは真逆の存在。
人格者で剣の腕も立ち、ハンサムな外見の男。美男美女のカップルで、月村ともお似合いかもしれない。
これが報酬のある仕事でなければ、喜んで恭也にこの女を押し付けてやるのに。残念である。
とりあえず学校生活は何の問題もないとの事、お嬢さんを車に乗せて――拍子抜けするほど何もなく、自宅に送り届けた。
「本日は映画に誘って頂いて本当にありがとうございました、宮本様」
「ありがとうございます、剣士さん」
グロッキー状態のファリンを背負って礼を述べるノエルと、妹さん。
その傍らで、実に可愛くない顔をしてお姉さんが俺を睨んでいる。舌でも出してやろうか。
「……また観に行けばいいだろう。金、持ってるんだから」
「侍君と一緒じゃないと意味ないもん」
「お前が払うのなら、護衛の仕事が終わった頃にでも一度行ってやるぞ」
「侍君のお金じゃないと意味ないもん」
言い直した!? 何で俺が金持ちのお前に金を出さねばならんのだ。自分の財産を削りやがれ。
貧乏人に出す金はあっても、金持ちに奢る金なんぞないわ。
まあ、朝の段階でこの反応は予想していたので――
「仕方がねえな……ほれ」
「? 音楽CD――ってこれ、『エレン・コナーズ』!? 最新アルバムが出てたんだ!」
「俺の一押しだ。気分が良いので、お前にも聞かせてやる。
明日絶対に、返せよ。まだ聞いていないのだからな!」
本当ならこのまま家に帰って百万回ほど聞きたいのだが、軟派な連中相手にして携帯プレイヤーを買えなかった。
音楽を聴く道具がなければ、持って帰ってもただの円盤である。むしろ下手に手元にある方が、聞けないジレンマに悶える。
……後でパソコンでも聞けるとアリサに言われて発狂したのは、笑い話。
「意外……侍君って、音楽に興味があったの?」
「音楽に興味を持ったのは最近だ。吸血鬼の恋愛映画で聞いて、感動しちまった。
良い稽古になりそうでな、帰りに買ってみたんだ。お前のような俗な女でも知られているんだな、この歌の奴」
「侍君はいい加減、私への認識を改めるべき――きゅう、けつ、き……?」
「? どうしたんだ、真面目な顔をして」
「う、ううん! え、映画見て、どうだった?
ち……血を、吸う、女とか――やっぱり、怖い? き、気持ち悪い、かな……?」
手に持つ音楽CDをカタカタ震わせて、月村は俺を見上げる。顔を真っ青にして、綺麗な瞳を揺らして。
質問を吟味している。最近意味ありげな事を言う連中が増えているので、警戒してしまう。
心が素直な人間に会いたかった。綺堂とかアリサとかプレシアとか、やり手な女が多すぎる。何だ、この町。
考えても分からないので、自分で思ったとおりに答えてやった。
「そんなもん、ツラの良し悪しだろ」
「顔……?」
「ホラー映画に出てくるような女モンスターにガブッと噛まれて、喜ぶ男がいるか?
逆に今日の恋愛映画のような美人な吸血鬼に噛まれて、ドキドキしない男はいないだろう?
美人なら、悪意がないなら金を払えば献血程度は許してやる。ブスなら、理由があろうとぶった切る」
「美人でもタダじゃ許さないんだ!? すごく現金だよ、この人……!」
侍君らしいと、月村は腹を抱えて笑う。あまりの面白さに涙を流して、泣きながら笑っている。
気難しい顔が安堵で崩れ、素直な感情を見せていた。世間の常識も知らんとは、さすが金持ちのお嬢様。
――後日綺堂にこの事を話すと俺らしいと同じく笑われた、何なんだこの一族。
「妹さん、アホな姉を連れて早く家に戻ってくれ。時間外労働に付き合うのも馬鹿馬鹿しい」
「はい。行きましょう、お姉ちゃん」
「あはは。お疲れ様、侍――っ。
……す、すずか、今、何て……?」
「お姉ちゃん」
「……っ!?」
「――駄目でしたでしょうか?
アリサちゃんが教えて下さったんです。親しい人にはちゃん付けするように、と」
多分、他意はないのだろう。月村すずかはある種俺と同じだから、その胸の内は分かる。
姉の事を本当の意味では想っていない。アリサにそう言われたから、教わった事を実践しただけだ。
俺がよく他人の名称を気分で変えているのと同じだ。他人に無関心だから、固有の呼び方を持たない。
俺と違うのは、他人の意見を受け入れる事と――月村を『親しい人』の中に入れている事。
不器用な姉は言葉に出来ず、首を振って自分の妹を抱きしめた。
姉の温もりに包まれても、妹の心は決して温まらない。冷えた心は他人を寄せ付けず、ただ在り続けるだけ。
根本的には、何も変わらない。けれど――
孤独な人間だって、他人の肌の温もりは感じられるさ。なあ、桃子……?
アリサが死んだ雨の日の夜、あの温もりがなければ俺は立ち上がれなかっただろうから。
ノエルに手を振って、俺は黙ってその場から立ち去った。他人はもう帰る時間だ。
夕焼けの空は曇っていたけど、緩やかな温もりは感じられた。
「――どういう事ですか!」
家庭の食卓を乱暴に叩いて、金髪の女性が憤りを露に叫ぶ。
夕陽が完全に沈んで暖かさは完全に消え、夜の家庭は緊張と殺意に冷え切っていた。
凍てついた殺意を向けられて、俺は仕事疲れの溜息を盛大に吐いた。
「俺は知らないと言っているだろう」
「貴方以外に誰が居るんですか! だから、私はあれほど反対したんです!
もう絶対に、この人を家に置いておく訳にはいきません。即刻、出て行ってください!」
第三回、八神家の家族会議。折角仕事が平和に終わったのに、家庭が修羅場であった。
仕事が終わって気分良く八神家に帰った途端、玄関で待ち伏せていたヴィータに無理やり連行されたのである。
ハンマー片手に玄関先で立っている少女――ご近所の噂にならないか、不安だ。
「まあまあ、そう怒らんと。家族会議なんやから、皆で話し合おうな」
「はやてちゃんがそんな甘い事を言っているから、この男が付け上がるんです!
貴重な頁もまた改竄されたんですよ! しかも、三頁も!?」
――湖の騎士シャマル、彼女の言い分はこうである。
早朝に俺が出て行った後八神家で家の掃除をしていた時、保管していた闇の書が突然光ったらしい。
出かける前だったミヤも変調を訴え、八神家は大混乱になった。
異変が収まったのはその直後――重々しく夜天の魔導書は開かれ、真っ白な頁に新しい記述が生まれた。
最初は書の再生に喜んでいた騎士達だったが、その内容に愕然としたらしい。
まあ、当然だろう。
描かれていたのは、古代の魔道知識ではなく――尊き願いが描かれた、人の心だったのだから。
「一枚目の頁に描かれた女性に、当然心当たりがありますよね!?」
「……俺の依頼人だよ」
――家族の肖像画。月村忍とすずか、ノエルとファリン。その背後で綺堂が優しげに立っている。
優しい家族となりますように――綺堂さくらの切なる願いが、夜天の魔導書に描かれていた。
シャマルの執拗な追求に、俺は今回ばかりは強気で言い返せない。
"だったら――そんな他者の願いを叶えてやるのが、魔法使いの役目ってもんだろ?"
……朝方、綺堂の願いを叶えると心に誓ってしまったのだ。迂闊にも。
正確には報酬の範囲内で力くらいは貸そうと思った程度だが、書が反応してしまった可能性がある。
ミヤと合体しなくても発動するとは予想外だった。とはいえ、このまま黙っていたら追い出されてしまう。
「お、俺の仕業だという証拠があるのか!」
「見苦しい言い逃れはやめて下さい! 子供ですか、貴方は!」
「大体、お前が俺を怒る理由が分からん。
お前らが俺を監視する理由は、書の力を借りてはやてに害するからだろう!?」
「こうして立派に闇の書を書き換えておいて、何を言ってるんですか!」
「ミヤと合体もしていないし、はやてだってこの通りピンピンしているじゃねえか!
おい、はやて。何か身体に不調は出ているか?」
「ううん、今日も元気に御飯が美味しいよ」
車椅子に座った主様は朗らかに笑っている。その元気な笑顔に、シャマルが気後れしてしまう。
チビスケとのユニゾン――夜天の魔導書へのアクセスは、主以外は禁じられている。
万が一他人が強制的にアクセスすると、主を巻き込んで転生してしまうらしい。シャマル達が恐れているのはそれだ。
「でもよ、書にお前が影響を与えているのは事実だろ?
無理やりユニゾンしてなくても、主に何かあったらどうするんだよ」
「俺だってやりたくてやった訳じゃねえ。監視役に聞いてみろよ」
「……確かにこの男が今日、不審な行動に出た形跡はない。
警護役を生業にしている割には、迂闊な行動が多々あったがな」
守護の達人に護衛の失点を指摘されて、今度は俺が黙らされてしまう。
俺なりに警戒したつもりだったが、守護騎士の将にはド素人にしか見えなかったようだ。
シグナム先生の厳しい採点に、ヴィータが口をあけて笑ってやがる。くそ、ゲートボールは弱いくせに。
「でもでも、改竄されても別に問題はないと思いますよ。見て下さいです、二枚目と三枚目。
何も記されていないじゃないですか! きっときっと、すぐ元に戻ると思いますです!
今回は、リョウスケを責めないであげて下さい」
「……記述がないのというのも不可解だが、ミヤの言う通りだ」
俺の為に必死に頭を下げる蒼き妖精に、厳格な守護獣も相好を崩した。
改竄されたのは事実なのに、完全の頁に何も描かれていない。守護騎士達の不審に拍車をかけてしまった。
事情は分からない。けれど、理由は分かる気がする。
綺堂さくら――優しい叔母の願いに、ファリンとすずかが何も反応しなかったのだ。
願いが描かれていないのではない。魔法使いに祈る願いが、存在しない。
真っ白な心が描く絵は、当然白紙に決まっている。
赤ん坊のように無垢な存在――それゆえに、哀しい。
生きる理由もなく、願いも持たず、彼女達はこの世に存在している。
他者の願いを叶える魔法使いが、彼女達の心の孤独を表現してしまった――奇跡の出番はないと、残酷に告げられた気分だ。
白紙の頁から、綺堂さくらの苦悩が伝わってくるようだった。
「戻らなかったらどうするんですか!? 私だって、他の魔法ならこんな事は言いません。
闇の書が保有する魔法『ラグナロク』――如何なる軍勢をも滅ぼした、絶対の力が消滅したんです!
こんな小さき男一人が原因で、古代ベルカの力が失われてしまいました……」
悲痛な表情でシャマルが黙り込み、他の守護騎士達も厳しい顔をしている。
ミヤにこっそり聞いてみた薀蓄によると、ラグナロクとは強力な直射型砲撃魔法らしい。
極上の魔法ランクの魔導師だけが行使出来る力で、夜天の書に蓄積された魔力を放つ最強の攻撃魔法。
古代魔法の遺産が、少女の真っ白な願いに蹂躙されてしまったのだ。
……ふーん、としか思わなかった。
「お前さ、はやてを戦争にでも行かせるつもりか?」
「な、何を言うのですか!?」
「前々から何度も言ってるけど、強力な魔法なんて平和な日常生活では必要ない。
戦争にでも行かない限り使い道がないだろう、そんな力。
町が吹き飛ぶ力をはやてにどう使わせるつもりなんだ、お前」
「そ、それは……な、何かあった時の為に、ですね……」
「緊急事態でもラグナロクは危険ですよ、シャマル」
古代魔法としての価値があるのは認める。古代の騎士様がここまで言うんだ、強大な力なのだろう。
異世界のみならず、この世界でも有効的に活用すれば莫大な利を手に入れられる。征服は無理でも、世界を震撼せしめる力はある。
ただ、平和な世界に生きる八神はやてには全く不要な代物だ。
軍人ならば力として活躍できる。学者ならば知識として活用できる。はやてはそのどちらでもない、一般人だ。
ピラミッドの壁画が壊れたら学者は嘆くだろうが、一般人はニュースの一つでしか扱わないだろう。分野が違う。
そんな力を持っていても困るだけだ。
「シャマル、良介。ちょっとわたしの話、聞いてもらってもいい?」
「? ああ」
これまで家族の主として黙って聞いていたはやてが、手を上げる。
彼女の配下たる守護騎士に反対なぞ出よう筈もない。皆姿勢を改めて、黙って耳を傾ける。
俺は黙って日本茶を飲み、はやての話を聞く。
「……今日な、良介のお仕事の手伝いで、御近所のお婆さんの家に行ってきたんよ。
アリサちゃんの紹介で、ゲートボールやってた人の知り合いさん。
随分前にお爺さんに旅立たれて、ずっと一人で住んでたんやって」
一人暮らしの年寄りは、この町には多いらしい。病気がちだったゲートボールの爺さんを思い出す。
どんな仕事だったのか知らないが、アリサの配役には感謝する。
俺だったら年寄りの長話に耐え切れず、初日から逃げている。
「わたしのお仕事は、お婆さんの話し相手。一人暮らしで色々寂しい思いしてるから、とのご友人にあたる人の御依頼。
お仕事いうても、お金は一切貰わへん。ご近所さんとして、一緒にお話しただけなんよ。
だから、良介のように立派な仕事とは言われへんけど……」
「あたしがはやてにそう頼んだのよ。引け目を感じる事はないわ」
タダで婆の相手なんてアホか。そう言いかけたところを、アリサの口添えで黙らされた。
文句を言いたかったが、アリサなりの考えがあるのだろう。
数日で四十万円の金と二十万円のパソコンを手に入れている手腕を、俺は信用してやる事にした。
「わたしな、自分がこんな足やから、まともに生きられへんと思ってた。
不況だの何だの……テレビを見れば社会がどれほど厳しいか、子供でも分かる。
大の大人が、ぎょーさん困ってる。自由に歩ける人が、不自由な暮らしをしている。
わたしなんて、足も自由に動かされへん。立派な障害者や。
出来る事なんて限られてる。親が遺してくれた遺産で子供一人、ほそぼそと生きていくしかない――そう思って、本の世界に逃げてた。
こんなわたしの話をな――あのお婆さん、嬉しそうに聞いてくれた。
この手で作った簡単なご飯を、ほんまに美味しそうに食べてくれた。
何も出来へんと嘆いていたわたしにありがとうと、お礼を言うてくれたんよ」
八神はやて、この娘は足を動かせない。まだ小さい子供なのに、絶大なハンディを背負っている。
俺は一人で生きてきたが、五体満足だった。身体が自由だから、一人でも生きられた。
はやてとはスタートラインが違っている。共感出来ない思いだが、それでも分かる事はある。
自分が弱いと分かったからこそ、社会的な立場の弱いこの娘の苦しみが共感出来た。
「こんな自分にも出来る事がある――そう思ったらな、すごく恥ずかしくなった。
アリサちゃんだってまだ自分と同じくらいやのに、一生懸命頑張ってる。
良介なんて……フェイトちゃんを助けるために、入院するほどの大怪我して……
ミヤが言うてた。良介はフェイトちゃんだけじゃなく、お母さんやお姉さんを――世界も救ったって。
足が動かされへんからって、クヨクヨして。家の中に閉じこもって、何もせえへん自分に腹立った。
それで、今日――こんな自分でも出来る事はあると分かって、嬉しかった」
はやて……悪いけど、俺こそ恥ずかしくなったよ……
まだ十歳足らずのガキが、ここまで真剣に人生を考えているんだぜ?
こいつだけじゃない。なのはもフェイトも、アリサだって自分と向き合って、何とかしようと頑張ってる。
俺なんて今になって、色々悩んだりしているのによ……遅すぎるだろ、17歳にもなって。
「だから、わたしはわたしなりに出来る事をやってみようと思ってる。
良介の仕事を手伝って、足も動かせるように努力して――勿論、勉強もちゃんとする。
シャマルの気持ちは嬉しいけど、わたしは魔法なんて必要ない。
そんな便利な力を持ったら、多分自惚れてしまう。何も出来なかった反動で、色々無茶するかも知れん。
さっきもな、ラグナロクの話を聞いて――世界平和とか、そんなん考えてしまいそうになった」
世界の平和、時空管理局。クロノやリンディのような立派な服を着て、敬礼しているはやてが思い浮かんだ。
うーむ……実に似合っていないな。平和な家庭で朗らかに生きている姿を見ていると、尚更。
はやては吹っ切れたように、自分の気持ちを伝える。
「わたしが今必要なのは、魔法やない。ここにいる、皆やよ。
ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ、ミヤ――皆にずっと、傍に居てほしい。まだまだ駄目な自分を、助けてほしい。
大事な家族がこうしてくれるなら……魔法なんて全部消えてもええよ」
「はやて、ちゃん……!」
「……そ、そんなに、アタシらの事を大切に思って――」
肝が冷えた。温かい言葉の中に、冷徹な事実が伺えた。
魔法が消えるのならばともかく、改竄が進めば――こいつらが消滅する危険がある。
俺は別にどうでもいいけど、はやてが困る。それはきっと……ユニゾンするよりも、はやてには辛い事なのだ。
シャマルの叱責より、よほど俺には堪えた。夜天の主は、思いがけず強敵だった。優しさが、この娘の本当の強さなのかもしれない。
守護騎士の将であるシグナムが、一同を代表して告げる。
「我ら守護騎士、貴方と共に――その誓いは決して、違えません。御安心下さい」
アリサに続き、はやても着実に騎士達に信用を得られつつある。この食卓の居心地の悪さが堪らない。
ミヤと一緒じゃなければ安心だと思っていたが、そうでもないらしい。
解決策が見えないこの監視生活は、思いがけず難航しそうだった。
ファリンに月村すずか、そして守護騎士――難物を抱えたまま、六月は中盤を迎える。
<続く>
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