とらいあんぐるハート3 To a you side 第五楽章 生命の灯火 第六十八話
時空管理局と接触し、各方面の関係者が勢揃いして自分の目的を明かした。
その上で最終的な結論とそれに至る過程を話し合い、一同は解散。
作戦決行日に向けてクロノ達が準備を進める一方で、俺は独り海鳴町に帰還した。
プレシアやフェイト、ジュエルシード――向こうの世界の事は、ひとまず向こうに任せてきた。
時空管理局にジュエルシード事件を任せる上で、一番気掛かりなのがプレシア・テスタロッサの処罰。
俺を利用する為にコンビニ娘を攫った女だが、あんなのでもアリシアとフェイトの母親――
ジュエルシード事件解決後、クロノ達がこの世界に留まる理由は無くなる。
時空管理局に身柄を拘束された後は俺が介入出来る余地が無いので、今の内に進言しておく。
まず俺やレンの誘拐罪は被害者が否定しているので、追求はしないと渋々確約してくれた。
ジュエルシードに関しては使用/未使用で罪が全く変わってくるので、保留。
使えば問答無用で世界崩壊の危機、ロストロギア危険使用で重罪なので早くとっ捕まえねばなるまい。
クロノ達が頭を悩めているのは、例の暴走事件裁判後の空白の数年――人造生命研究について。
違法な研究なのはまず間違いないが、行った実験や研究成果で処分が異なってくるらしい。
その間に犯罪を行っていればアウト。
今も引き続き調査が行われており、彼女の身辺が洗い出されている。
俺も異世界の法律には詳しくないが、それでも軽い刑罰になるように必死で頼む。
会議後もクロノとリンディに改めて頼み込み、プレシアの悲しい過去を聞かせて情状酌量の余地がある事を訴えた。
リンディは提督――艦一隻のみならず、艦隊クラスの指揮権を持つ将官位。
クロノは執務官――事件捜査や法の執行の権利、現場人員への指揮権を持つ管理職。
共にキャリアを積んでいて、やはりこの手の話題に難色を示した。
ただ、
「時空管理局は、犯罪を取り締まるだけの組織ではない。
人の道を誤った者を更正させる組織だと、僕は思っている」
ジュエルシードを必ず使用させない事。
プレシア・テスタロッサが自分の罪を認め、潔く自首する事。
君がその誓いを果たせれば、彼女を悪いようにはしない――約束する。
クロノも、リンディも、力強くそう言ってくれた。
実現不可能な理想だと嘲笑えず、俺はクロノ達に事件解決後の彼女達を託した。
他人を正しく導く柄ではないがこの際だ、必ず成功させてみせよう。
馬鹿な事ばかりやらかした俺自身のけじめでもある。
俺は一人地上へ降りて、最終決戦へ向けて準備に移った。
まずは、自分自身の体調管理――
「……特に無茶はしていないようですね。
新しい怪我も無いようですし、過度な負担もかかっていません」
「信用しろよ、少しは」
包帯を解いた俺の怪我を、一つ一つ丁寧に診断する主治医。
白くて細い指先が触れる度に、冷たい感触にくすぐったさを感じた。
一応自由気ままに動き回っているが、俺の身体はハードに傷ついている。
ジュエルシード暴走で全身疲労と裂傷、アルフ戦で死傷寸前の大打撲、巨人兵戦で大火傷に骨折――
アリサの命に那美の魂、月村の輸血に回復魔法――そして、フィリスの治療。
どれか一つでも欠けていたら、俺は死んでいた。
血と肉でドス黒く染まった包帯を解けば、まだ身体中が痛々しい傷で覆われている。
血管を食い破った腕や折れた鼻や胸骨の破損が特に酷く、歩く度に痛みを強烈に訴える。
大怪我満載の身でベストコンディションなんぞ到底不可能だが、騙し騙しやっていくしかない。
「事情聴取は既に終わったんですよね?
リンディさんに迷惑はかけませんでしたか。
取調べだからと言って、嫌な顔をしてはいけませんよ」
「……リンディより、お前の方が余程母親らしいですよ」
「りょ、良介さんが心配かけるからじゃないですか!」
母親と呼ばれる事に抵抗があるのか、フィリスはムッとした顔をする。
患者と医者の他人行儀な関係が近頃無くなりつつある。
俺が一方的に迷惑かけているからだけど。
「事情聴取は全部終わったよ。事件は向こうが正式に受け持つ事になった。
犯人も特定出来ているし、解決は時間の問題だ」
「そうですか……良かった……
これで良介さんも安心して病院で休めますね」
――うっ、そんな心底安心した笑顔を見せないでくれよセニョール。
次に切り出し辛くなるじゃないか。
言わない訳にもいかないので、事件の概要と犯人の説得役を任された話を伝える。
途端、フィリスは天使の笑顔を疑惑に染める。
「……説得ですよね? 戦闘ではありませんよね?
犯人さんが抵抗したので仕方なく戦った――も、絶対駄目ですよ」
……す、鋭いじゃないか、君……
事件解決後の言い訳を容赦なく封じられて、俺は息苦しさを覚えた。
これで説得以外の道は完全に絶たれた。
プレシアを説得出来なかったらフェイトの人生どころか、俺の今後の入院生活もやばい。
「だ、大丈夫だって! 犯人もそれほど悪い奴じゃないんだ。
大事な家族を喪って、ちょっと自棄になっているだけだ。
きちんと話し合えば、きっと分かってくれると思う」
――まさか俺様が、こんな砂糖丸齧りな台詞を吐く日が来るとは思わなかった。
後日自己嫌悪で泣きそうだが、幸い病院のベットがある。
身体も心も静養させて、布団の中で引き篭もろう。
本人は苦々しい気持ちで吐いた言葉でも、聞いた相手は感動したらしい。
綺麗な瞳を輝かせて、俺の手を取る。
「本当に成長しましたね、良介さん。私、嬉しいです。
我侭ばかり言っていた貴方が、これほど人を思い遣れるなんて……
今の良介さんなら、友達も沢山出来ますよ。頑張りましょうね!」
「えっ、まだ友達の輪を広げる気か!?」
友達100人出来るかな運動は、彼女の中で継続中らしい。
お願いしますから、これ以上面倒な関係を作らないでくれ。
この話を続けると危ないので、機嫌が良い内に外出許可を貰っておいて退出。
戦闘行為厳重禁止、事件解決後即連絡を条件に作戦決行日だけの外出行動を許された。
丁寧な治療で包帯やガーゼも新品、少しは動きやすくなった。
次に、事件関係者との面会――
俺の責任で巻き込んでしまった連中に、事件の経緯を伝える義務があった。
自分の病室へ戻ると、俺の人生を変える機会を与えた少女達がいた。
「おかえりなさい、良介。向こうの話し合いは無事に終わったのね」
「――おかえり。フィリス先生に看てもろたんやね。
怪我の具合は大丈夫?」
アリサ・ローウェルに、八神はやて。
憔悴した様子でベットに横たわる少女を、金髪の両サイドを纏めた女の子が見守っていた。
俺の入院生活を通じて、二人はすっかり仲良くなったようだ。
どうせ居ない間、俺の悪口でも言って盛り上がっているに違いない。
俺がこの二人にかけた迷惑は命すら危うくしている、言いたい事は山ほどあるだろう。
それでも無事に帰った事を素直に喜んでくれるのだから、得がたい家族達だ。
「口煩い連中が俺の周りにゴロゴロ居るからな。一人で散歩も出来やしねえ。
お前らの方こそ大丈夫なのか?」
一方は魔力の暴走で昏倒、もう一方に至っては既に死んでいる。
俺より余程何が起きても不思議ではない少女達だ。
二人は顔を見合わせて、明るく微笑みかけてくる。
「あたしは平気。アンタに貰った命だもん、大事に使うわよ」
「わたしも大丈夫や。グッスリ寝たら気分も良うなったよ」
事件後は色々大変だった二人だが、少しずつ安定しているようだ。
静かな病院で少しの間養生すれば、はやても早期退院出来るだろう。
俺は病室のベットに座って、帰還報告と事件の経過を話す。
この二人に隠し事なぞ必要ない。
説得役を願い出たところまで話して、作戦決行日も伝えておいた。
「いよいよね……フェイトやなのはを助けてあげるのよ、良介。
二人ともアンタより精神的に大人だけど、脆い面もあるんだから」
「俺の評価が低いのが気になるけど――分かってるよ。
二人には恩も借りもあるからな、平穏無事に終わらせてみせるさ」
「なのはの家族や忍さん、那美さんの所にはあたしから連絡を入れておいたわよ」
「連絡……? お前、あいつらに何か用事でもあったのか」
怪訝に思って聞いてみると、天才少女は盛大に溜息を吐いた。
物知り顔がむかつく。
アリサは俺の顔に指を突きつけて、自分の考えを主張した。
「フェイトのお母さんは、良介に娘を蘇らせる為に人質を取ったのよ。
幸いにも無事に救出出来たけど、二度三度向こうが同じ手口で来る可能性もあるでしょう。
誘拐なんて姑息で卑怯で大嫌いだけど、有効的な手段には違いないんだから。
予め注意しておけば、それこそ魔法でも使われない限りは防げるわ」
時空管理局へ出頭する前から姿が見えなかったが、そんな事をしてたのか。
二番煎じは通じないのは、都合の良い物語だけの話――
俺は事件を早く解決させて周りへの被害を無くそうと考えていたが、アリサは現実的に考えて予防策を取ったらしい。
俺の知り合い関係を何故知っているのか不思議……でも何でもねえな、儀式の時主だった面々集まってたし。
連絡手段はフィリスや桃子に聞いたに違いない、抜け目のないメイドさんだった。
「高町家は恭也達が居るし、月村は金持ちだからSPでも何でも雇える。
さざなみ寮は名目上警官っぽいヤニ女が一匹生息してるから、どうとでもなるか」
「皆、アンタよりよっぽど頼りになるもんね」
「放っとけよ!?」
事実だから余計に腹が立つ。
プレシア本人が出張る事はまず無いだろうし、巨人兵レベルの敵を差し向ける可能性も低い。
時空管理局がこの世界に来ているのは、事件の前後関係を追えば突き止められる。
重傷を負った俺を救出に来た時点で、まず発覚していると考えていい。
理性があれば強引な誘拐は出来ず、無ければ誘拐よりジュエルシードをとっとと全力解放する。
「この病院にはあたしがいるわ。フィリス先生にも事情を説明してるから安心して」
「……俺に心配させまいと何も話さなかったな、あの医者……」
自分から事情を説明してくれるのを辛抱強く待っていたのだろう。
一度だけの外出許可とはいえ、妙に機嫌良く貰えた理由が判明した。
人間、素直が一番という事か。
アリサは戦闘力皆無だが、何か起きても対処出来る頭脳がある。
後は任せて、俺は心置きなく最後の戦いに出れるな。
素直に褒めると、当然だと胸を張るがアリサは嬉しそうだった。
……アリサほど賢いと幼少時からさぞ褒められただろうに、俺の賞賛程度で大袈裟な奴。
はやてもベットの上で、優しい微笑を浮かべていた。
「わたしからもお願いするわ。
フェイトちゃんと、フェイトちゃんのお母さん――助けてあげてな」
「他人を助けるなんざ柄じゃねえけどな、仕方ねえ。
……色々悪かったな、結局最後までバタバタしちまった。
また――あのチビスケとの合体も、必要になると思う」
プレシアとは戦わない。目的も手段も考えている。
ただ、穏便には済まないだろう。
法術は勿論の事、ミヤの助力や助言も必要となってくる。
情けねえ話だが……今の俺は立つのがやっとの、重傷者。
最悪力ずくで押さえられて、魔術的な拷問を受けて法術を強要されるかもしれない。
俺は弱く傷付いている、えげつない拷問なんぞされたら精神が屈服する。
あの女の強力な魔力や重圧の前では、俺如き紙屑同然なのだ。
ミヤと融合して傷付いた肉体を支えて貰わないと、大魔導師のプレシアの前にすら立てない。
ただミヤとの融合は――自動的に、はやてと俺の命を賭けたギャンブルとなる。
はやてが拒否すれば、俺は融合が出来ない。
これは何もはやてに申し訳ないとか言う問題ではなく、本当に融合が不可能となる。
――彼女の妨害で。
彼女の存在を正式に認識した以上、今後は遠慮なく介入してくるだろう。
今まで融合を黙認して貰えたのは、彼女が俺を少しは信頼してくれていたからだ。
だがはやての暴走で、最早完全に俺は信頼を失った。
ギリギリ食い止める事は出来たが、今度は那美を犠牲にして生き残った。
こんな男を……彼女が、信頼なんぞ出来る筈が無い。
那美の魂を半分奪った事やはやてを蔑ろにした事実を,俺は最後まで責められた。
はやてが今後俺の融合を否定すれば、俺が無許可で実行に移しても彼女は必ず妨害する。
俺を殺す事も厭わないに違いない。
重ね重ね言うが、俺が今殺されずに済んでいるのははやてが俺を家族として認めてくれたからだ。
はやてが拒否した瞬間――あの美貌の死神は、俺を容易く永遠の闇に沈める。
融合して理解できる、圧倒的な魂の器――蟻と恐竜以上の存在力の差があった。
つくづく、今回の事件では俺に良い所が無い。
何もかも裏目に出て俺は沢山の物を失って、周囲を傷つけて信頼を失った。
はやては俺の話を聞いて――本当に何でもないような顔をして、言った。
「ええよ。
わたしの事は気にせんでええから、ミヤと話して協力して貰ってや」
「い、いいのか……?」
「フェイトちゃんを助ける為に、あの子の力が必要なんやろ?
わたしで力になれるんやったら、嬉しいから」
「でもよ――いてててて!?」
「はやてがいいって言ってるんだから、素直に『ありがとう』でいいの!
人の顔色伺うの、やめなさいよ。気持ち悪い」
「耳を引っ張るなよ。乱暴な。千切れるかと思ったぞ!」
血が零れる耳たぶを擦って,俺は涙目で訴える。
復活してからと言うもの、本当にアリサは俺に遠慮が無い。
はやてもはやてで何が可笑しいのか、楽しげに声を立てて笑っていた。
「ほんまや。わたしのお仕置きが、そんなに怖かったんかな……?
この調子で、今度から良介を厳しく躾けようかな」
「その度に入院するのか? 車椅子の分際で調子に乗るな、ボケ」
「女の子の身体的欠陥を容赦なく突きおった!? ひどい、ひどいー!」
「それだけ文句言える生命力あるなら、心配は要らないな。
今後は容赦なくお前の命を使いまくってやろう。感謝しろ」
「うわ、余計な事言うてしもうたかも……うう、わたしの命がまた危うくなってしまう……
新しい家族に苛められたシンデレラのように、虐げられる人生が待ってる――」
「図々しい喩えだな,おい」
「苛められてるのに、ちょっと嬉しそうなのも気になるわ」
アリサと顔を寄せ合ってヒソヒソ話し――ふと目が合って、二人して笑った。
くすぐったい距離感が何だか馬鹿みたいで、嬉しくて。
――こいつを取り戻せて心から良かったと、そう思える自分に驚いて。
これから先どれほど間違えても、この決断だけはきっと胸を張れる。
プレシア、アンタの願いは――その気持ちだけは、よく分かる。
だけど、俺の身内を巻き込んだのは絶対許さない。
誘拐という手段を取った事を、骨の髄まで後悔させてやる。
安心しろ、俺も一緒に付き合ってやる。
一緒に償おう――自分自身の、過ちを。
「その元気があれば平気だな。俺はもう行くぜ。
最後に重病人に顔だけ出して来る」
何処の誰を指しているのか、すぐに分かったのだろう。
子供と呼ぶには聡明なはやてとアリサは、俺を茶化さず見送ってくれた。
彼女達はこの病室で待っていてくれるだろう、俺の帰りを。
今度という今度は裏切らず、期待に答えてみせよう。
神咲那美の病室はとても静かで、人の温もりを感じさせなかった。
部屋の南側にある窓のカーテンを両手で引くと、シャッっと小気味良い音を立てて、布地が窓枠の元へと移動する。
それに応じて、晴れた空から日光が部屋へと入り込んできた。
「……那美。ようやく、事件も終わらせる事が出来そうだよ。
迷惑ばかりかけて悪かったな」
こんな平和な女学生が、命がけで俺を癒してくれた。
優しげな風貌は今も深い眠りに包まれて、穏やかに瞳を閉じている。
寝息を感じられるのは、せめてもの慰めか――
少女はまだ生きていると、俺に実感させてくれた。
「危険な事は何もないとは言えねえけど、アンタに救われた命は絶対に粗末にはしない。
何も心配せず、ゆっくり眠っていてくれ」
魂を削った那美はこの先――目覚めるかどうか、分からない。
彼女の話では俺に生命の半分を供給して、今魂の修復が行われているらしい。
那美の実家は霊魂に関する術に長けた家系らしく、彼女の魂もまた霊的な力を秘めている。
けれど人間の魂である事に違いなく、一人一人違う魂同士を癒着させれば変質する。
彼女の魂に俺が――俺の魂に、彼女が宿る。
水と油のように反発し合うか、男と女のように深く結ばれるか。
繋がっても離れても、神咲那美の存在は危うくなる。
それ以前に削った魂が元に戻らない事も――当然、ありうる。
俺と那美は何の関係も無かった。
少しだけ縁があっただけの、赤の他人だったのに……
「……何で俺を助けたのか、なんてもう聞かねえよ。お前はそういう奴だって、彼女も言ってた。
アンタのような出来の良い人間じゃねえけどよ――
――この魂をくれたアンタのように、俺も一度だけ誰かを救ってみせるよ」
誓いを立てよう、神咲の魂に。
一人の剣士として、俺は今も眠る少女の優しさを胸に大事な人達を守ってみせる。
この事件に――悪人は俺だけだからな。
倒す人間がいないのだから、後は救い上げれば済む話だ。
那美の寝顔をそっと撫でて、俺は俯いていた顔を上げる。
「……隠れる必要ねえだろ、もう」
「……ううっ、べ、別に隠れて泣いてないです。
良介が那美さんに優しくて、ちょっと嬉しいだけですよー!」
つくづく、嘘のつけない妖精さんである。
相変わらず病室付属の棚の中に隠れて、涙に崩れた幼い顔を出した。
蒼銀色の髪をなびかせて、黒いドレスの少女が宙を舞う。
「時空管理局とも喧嘩せずに話し合えたみたいですね。
とてもいい顔してますよ、今のリョウスケ」
「お前こそ随分さっぱりした顔してるじゃねえか。
はやてときちんと和解出来たようだな」
お互い隠し事も無くなって、ようやくスッキリ出来た。
はやてへの負い目や関係者への揉め事も解消されて、前に進む態勢も整った。
ミヤは俺を見て安心した顔をして、もそもそとポケットの中に入った。
……狭苦しいと思うんだが、気に入っているのだろうか?
「それじゃあ行きますよ、リョウスケ!
フェイトさんとプレシアさん、アリシアさんを助ける為にゴーゴーです!」
「……いつも元気だよな、お前って」
あれほどプレシアに酷い目に合わされても、まだ救う気力は健在らしい。
俺より余程他人を助けるのに向いている気がする。
こういう奴と融合してるから、俺も妙にやる気が出ているのだろうか。
「合体はいいのかよ。一応はやてにオッケー貰ったけど」
「はやてちゃんに許可を頂いたのなら、ミヤは何の問題もありませんよ。
御姉様にも、貴方をきちんと御世話するように御願いされています」
「へえ、彼女が俺を?」
「はい! "主に危険が及べば、容赦するな"と。
御姉様は貴方を大事に思っているから、あえて厳しくされているんですよ」
「――いや、普通に厳しいだけだと思うな僕……」
獅子身中の虫は退治するべきかもしれない。
嫌なお目付け役に顔を引き攣らせながらも、同行は認めた。
クロノ達への、こいつの紹介も考えているのでバッチリ。
ユーノ先生とも事前に相談済みだ――かなり嫌がられたけど。
小さなポケットの妖精とじゃれ合っていると、俺の足元に小さな影が割り込んでくる。
「おっ、久遠。お前那美の病室にずっといたのか。
フィリスに見つかったら怒ら――
あれ、何か咥えてるのか……?」
子狐の口元には――白木の鞘。
久遠は一度だけ鳴いて、俺の足元にそっと置いた。
俺は恐る恐る拾い上げて、ゆっくりと……解き放った。
――陽光を反射して光る刀身。
恭也があの夜手にした小太刀より短い、短刀。
逆手から持ち替えると、刀は俺の手に吸い付くように馴染んだ。
久遠は黙って俺を見上げている。
「これ……もしかして、那美の刀か?」
「くぅん」
手入れが行き届いた刀は、雪景色のように白く美しかった。
学生が気軽に買える代物では断じてない、恐らく実家か親類縁者より譲られた品だろう。
そんな大事な刀を何故俺に渡したのか――聞くまでもなかった。
俺は短刀を鞘に仕舞い、胸に抱いて瞳を閉じる。
「俺と一緒に――戦ってくれるか、那美」
"……はい、良介さん"
そして――決戦の日を、迎えた。
<第六十九へ続く>
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