とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 第百四十七話
                              
                                
	
  
 チャリティコンサートの世界ツアー、日本公演の日程が発表。チケットは即座に完売し、世界中のファンが日本へと押し寄せる。 
 
人々の熱狂が怒涛のように日々を押し流し、連日続いたテロの不安や恐怖を一気に吹き飛ばした。クリステラソングスクールの歌声に皆が期待している。 
 
流れていく日々は慌ただしくも、平和だった。事件はまるで起こらず、誰かが襲われることもない。護衛任務は忙しくも暇という矛盾が生まれていた。 
 
 
――コンサート開催が、目前に迫ってきていた。 
 
 
「お父さん、行ってきます」 
 
「おう、気を付けてな」 
 
 
 ティオレ御婦人がまず日本へ来日、今度は極秘ではなく堂々と関係者を連れて訪れている。 
 
滞在先は発表されていないが、その真なる目的は補給だった。厳密に言うと、治療ではない。 
 
ユーリの生命操作能力によるエネルギー補給が日々行われ、ティオレ御婦人は見違えるように元気になっていった。 
 
 
重ねて言うが、治療ではない。彼女は不治の病に冒されていて、いわゆる寿命だった。 
 
 
「お父さんこそ気を付けてくださいね。何かあったら、すぐに駆けつけます。ね、ナハト」 
 
「おー!」 
 
 
 ユーリが行っているのは病によって失われる体力や精神力を、活性化させているのである。 
 
病は気から、という言葉が日本にあるが、ユーリが行っているのは正に気力で病を克服させているのだ。 
 
そうなると海外へ戻って鬱々と籠もっているより、堂々と日本に来日してエネルギー補給した方がいい。 
 
 
それにティオレ御婦人達は知らないが、ユーリ一人いるだけでテロリストなんぞ殲滅できる。あの子一人で鉄壁のガードになっていた。 
  
「あんたの娘、物凄くあのお祖母さんに可愛がられているわよ。 
みるみる元気になって、可愛い服やアクセサリーをてんこ盛りに集めて、ファッションショーさせられているもの」 
 
「ナハトヴァールが最近よく一緒なのもそれが理由か」 
 
「あの子は色気より食い気ね。 
ホテルのルームサービスだけではなく、有名店のお菓子やフルーツをモリモリ注文してご馳走されているわよ」 
 
「くっ、金持ちの道楽扱いされている!」 
 
 
 イリスは呆れた様子で物語る。なるほど、だからこいつ最近一緒に行かなくなったんだな。 
 
イリスも生意気な性格だが、容姿は美少女そのもの。ティオレ御婦人は可愛い子大好きなので、イリスも余裕で対象に当てはまる。 
 
最初はユーリといっしょに治療を行い、介添をしていたが、イリスの補助がないくらい元気になってきているのだろう。 
 
 
寿命はいずれ来るとはいえ、元気になればそれに越したことはない。 
 
 
「お父様」 
 
「どうした、イクス」 
 
「マスターは暗にユーリと一緒に行動しなくても大丈夫なので、かまってほしいと言っています」 
 
「ちょっと、勝手な妄想はやめてくれる!?」 
 
「私も今日はお父様とご一緒させて下さい」 
 
「ええい、何であんたは平気な顔して言えるのよ!?」 
 
 
 養父相手に悪態をつく養女と、養父相手に自分の気持ちを伝える養女。イリスとイクスヴェリアは主従であり、うちの一家では姉妹だった。 
 
年齢不明でどっちがどうともいえないのだが、かつて冥王とまで言われたイクスヴェリアはイリスに対して姉のように接している。 
 
イクスもマスターのように振る舞っている様子こそないが、いつもイクスとと一緒に行動している。 
 
 
イクスヴェリアを撫ででやると、冥王の責務から開放された少女は目を細める。 
 
 
「チャリティコンサートとかいう偽善に満ちた音楽祭も、もうすぐこの街で開催されるんでしょう」 
 
「俺の前では別にいいけど、コンサート会場で偽善がどうとかいうなよ」 
 
「はいはい、空気悪くするつもりはないわよ」 
 
「相変わらず口が悪いな」 
 
「そりゃあ血は繋がってないけど、あんたの娘だし。どうせあんただってそう思ってるんでしょう」 
 
「うっ……」 
 
 
 イリスほど露骨ではないが、確かにチャリティには全然興味がない。ティオレ御婦人の話を聞いた今でも。 
 
昔は口に出して馬鹿にしていたかもしれないが、今は少なくとも応援くらいはしている。夢を叶えてほしいとも思う。 
 
ただ自分から金を出したり、ボランティア活動するほど感化はされていない。傍観者の距離感で応援するくらいだ。 
 
 
そういった捻くれた心境が、自分と似ているのだとイリスは言っているのだろう。現実的なイクスヴェリアも目を伏せる程度だ。 
 
 
「あの恋愛脳なお姉さん、歌が完成したようね」 
 
「うむ、リハーサルや練習も行っているようだからな」 
 
 
 フィアッセはティオレ御婦人の過去を聞いてから何かに感化されたのか、彼女から与えられた課題に集中している。 
 
お陰でというのも変だが、テロ事件の不安や恐怖、人々の熱狂などといった周囲の雑音も聞こえず、自分の世界に入っている。 
 
護衛からすれば屋内での作曲活動はとてもありがたく、危険も少ない為仕事もやりやすい。 
 
 
日本のコンサート開催まで後数日、何事もなく本番を迎えられそうだ――その本番が、一番危険なのだが。 
 
 
「それでお父様、今日のご予定は?」 
 
「接待」 
 
「えっ……」 
 
 
「うちの最大のスポンサーである夜の一族の連中が、来日する。その接待役を押し付けられた」 
 
 
 ある意味ではティオレ御婦人よりも影響力が大きく、知名度も高い有名人。 
 
世界中で幅を利かせる夜の一族の姫君達が、ついに日本へ来日する。 
 
フィアッセの護衛任務についているので断ったのに、あいつらを俺を訪ねに来るらしい。 
 
 
コンサートに参加するヴァイオラも含め、夜の一族の女達が集う――悪夢だった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
  | 
	
  
 
 
 
  小説を読んでいただいてありがとうございました。 
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。 
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  [ NEXT ] 
[ BACK ] 
[ INDEX ]  | 
Powered by FormMailer.