とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百四十八話
出かける前にフィアッセの状況を聞いたが、作曲中で自室に籠もっているらしい。同居人のアイリーンも今日は休暇で、手伝っているようだ。
護衛対象が仕事中だから放りだしていい道理はないので、現場にはレヴィが残る事となった。作曲に興味があるらしく、気さくで明るいレヴィはアイリーンにも好かれている。
オットーはコンサート会場へ出向いている。当日あそこが主戦場になるのは間違いなく、今の内にあらゆる観点から防衛体制を敷くらしい。家事万能なディアーチェはそんな皆を支えるべく、買い物へ出ている。
イリスとイクスヴェリアを同行者として、俺はフィアッセの許可を得て出かけていった。
「それでは出発いたします。
本日は合同チームとなりますが、警備体制に影響はありませんのでご心配なく」
「合同……?」
「ありがたくも本日までの実績を評価頂けて、予算と人員を拡充していただける事となりました。
本日ご来日されるのにあわせて、選りすぐりのメンバーが到着いたします」
夜の一族が雇った警護チーム隊長である御剣いづみ自ら運転手として、高級車が駆り出されている。いつもとは違って、実用と絢爛を兼ねた車だった。
同号チームと聞いて一瞬怪訝となってしまったが、夜の一族の姫君達が揃って来日するのだ。雇い主達が来るのであれば、向こうだって警護チームを揃えてくるだろう。
御剣いづみの事は彼女達からも評価を聞かれていたので、俺はありのままを伝えている。彼女が警備チーム長で何の不満や問題もないどころか、大いに助けられている。
チャイニーズマフィアに狙われているのに、日本で悠々と生きていられるのは間違いなく彼女のおかげだった。
「メンバーは増えますが、あなたの私生活を脅かすことはありません。
契約も更新されて引き続き私があなたの警備を担当することになっています」
「それはとても助かる。こちらこそあんたさえ良ければ、引き続きよろしくお願いする」
「問題ありません。この国は私の祖国でもありますし、あなたの事情が特殊なのも今では理解できています。
この仕事に何の不満もありませんので、私にお任せ下さい」
特に隠し立てする必要もないのか、それとも信頼関係が少しは築けたのか、彼女の出身は北海道旭川であることを教えてくれた。
彼女はボーイッシュで凛々しい外見だが、女らしい一面も時折覗かせる女性だった。若くして独り立ちしており、海外でも活躍していたところを夜の一族にスカウトされた。
聞いた話では蔡雅御剣流という流派を体得しており、国家認定資格を有した忍者であるらしい。忍者なんてテレビや英語でしか見たことがないが、現代でも実在しているのだから驚きだった。
俺の護衛として警備チームと強力や連携をしている妹さんに、以前聞いたことがあった。
『いづみ警備長さんと最近一緒に訓練しているらしいね』
『はい、実戦的で非常に勉強になります』
『国家認定資格を有した忍者ってどれほどのもんなの?』
『幻想的な表現となりますが、超人的な運動神経の持ち主です』
『い、妹さんがそこまでいうほどのものか……』
妹さんこと月村すずかは夜の一族の始祖の血を継いだ存在、超越的な能力を持った神がかりな少女だった。
妹さんは人を馬鹿にしたりしないが、逆に褒めたりもしない。そんな彼女が御剣いずみのことを絶賛していた。
あまり他人のことをあれこれ聞くものではないが、剣士として興味はあった。
『どれほどの身体能力があるか、気になるな』
『100m11秒を切るそうです。実際一緒に鍛錬していて実感しています』
この世界に生きるほとんどの人たちが縁の無い、100m11秒台という世界に唖然とする。
日本では1000人に一人居れば良いぐらいのタイムであり、日本陸上界トップレベルである。俺だって神速でも使わない限り厳しい。
男子と比較すると、女性の11秒台は男子の10秒台前半に匹敵する。その11秒のラインを切っているのだから、健脚なんてものではない。
妹さんが彼女ほどの年齢になれば出来そうだけど。
『胡桃3個を握りつぶしたこともあるようです』
『胡桃って男でも一個潰すのに握力70以上は必要だったはずなんだが……』
胡桃は小さいが非常に固く、割るのに道具もそうだがコツだっている。
胡桃3個も握りつぶせるのであれば、人間の頭くらい割りそうな気がする。頭蓋骨は半端なく硬いので大袈裟な言い方ではあるが。
忍者の資格は正式には総合諜報・戦技資格というらしく、男でも取得するのに相当な鍛錬が必要らしい。
男女差別的な言い方ではあるが、少なくとも御剣いづみ隊長は実力者だった。
「それに貴女のおかげで、懐かしい戦友に会えそうなんです」
話は戻って、御剣いづみが運転しながらそう話しかけてくる。
「戦友……? 同僚のくノ一とか」
「似て非なるものです。彼女は香港国際警防隊の人間なのですよ」
「香港国際警防隊――なるほど、師匠がアルバート議員やティオレ御婦人と繋がりを持つようになった影響か」
「今回のコンサートは敵も本気でしょうから。第6小隊が応援として派遣されると伺っています。
詳しくは――いえ貴方であれば問題はないでしょうが、また別途お話させて頂きます」
まあプロの世界の極秘情報をおいそれと話すわけにはいかないからな。事情はよくわかっているので承諾した。
香港警防所属ということは、師匠の同僚になるのかな。あの人、職場のことはあまり話さないけど、知り合いとか出来たのだろうか。
香港国際警防隊であれば実力者であることには違いない。そういった人が派遣され、それが御剣いづみの戦友であるというのだから、縁というのは面白い。
まあ俺の縁はたいていろくでもないんだがな……夜の一族の姫君を出迎えに行くがてら、御剣いづみの話を聞かせてもらえた。
<続く>
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