とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百四十三話
城島晶は、学校から帰っていなかった。
以前事情を聞いたところ、学校帰りに空手道場へ寄って鍛錬を重ねているらしい。
この一年間高町家では色々とあったが、唯一問題なく過ごすことが出来たのはこの晶かもしれない。
こいつはある意味高町なのはよりもガキンチョな思考をしているので、ちょっと面白い話をするとすぐにのってくる。以前もこんな近況を聞いていた。
『ねえねえ、良介さん。俺、前からずっと思ってたんすけど』
『何が?』
『俺って良介さんのお手伝いしている部下っていうか、子分みたいなもんじゃないすか。
で、俺達はもう立派な家族ですし、そうなると俺は弟分みたいな感じかなって』
『お前はそろそろ自分の性別を自覚した方がいい』
ニシシと笑ってつきまとってくる城島晶は男勝りではあるが、余裕で女の子である。
空手をやっていて同世代の男を寄せ付けない強さがあるが、料理と掃除の達人で家事も見事にこなす女性面もある。
ただ男勝りな行動を繰り返しており、本人も気質として気に入っているらしい。女ん子らしい服装や仕草を特に嫌がる。
素材は抜群なので女の子らしくすればさぞモテるだろうが、本人が嫌であれば別にそれでいい。自分の好きなように生きるのが一番だからな。
『だから今後良介さんのこと、アニキとよんでいいっすか』
『前はボスとか社長とか言ってたくせに』
『あはは、何でも屋ってカッコいいじゃないですか。
だからそう呼んでいたんですけど、最近うちの家に遊びに来ているギンガちゃん達が良介さんの事すげえ尊敬していまして!
リョウ兄とか兄さんとか呼んでたので、俺もそう呼びたいと思うようになったんすよ』
『そういやお前がアイツラの面倒、よく見てくれているだってな。
美味しいおやつを作ってくれると入ってたぞ、ありがとよ』
『えへへ、どういたしましてっすよ』
ジュエルシード事件後の捜査とスカリエッティ博士の離反で、戦闘機人を製造する工場や研究所は軒並み捜査の手が入った。
その際に製造中だった戦闘機人の女の子達が保護され、クイントやメガーヌの遺伝子が流用されたスバル達がそれぞれ引き取られた。
デリケートな存在なので、クイントやメガーヌ捜査官が左遷されたのを機に、地球へ戦闘機人の少女達が移住してきた形である。
で、その頃高町の家庭問題で桃子が落ち込んでいたので、そのカウセリングの一環として高町家・ナカジマ家・アルピーノ家の近所付き合いを推奨させていたのである。
『で、どうっすか』
『まあ別に好きに呼んでくれてもいいよ』
『おお、正直嫌がられるかと思ってたっすよ!』
『昔はそういうのは嫌がってたけど、もう今更すぎる。他の連中も俺のこと、好き放題呼んでいるしな』
この一年で人間関係が劇的に広がったせいで、俺も立場や立ち位置が目まぐるしく変化して、それに応じて皆が俺を好き勝手に呼ぶようになってしまった。
隊長だの愛人だの色々言われると、アニキ程度呼ばれたところでなんとも思わない。感覚がもう麻痺しつつあった。
何でも屋は八神はやてが正式に引き継いで経営してくれているが、城島晶はご近所付き合いの一環としてやってくれている。
その結果としてナカジマ家やアルピーノ家も日本に馴染むようになり、高町家も交流が広がりつつあった。
『アニキはフィアッセさんの護衛をしているんスよね。どうです、アクション映画ばりの活躍とかしてるんじゃないっすか』
『どんな活躍だよ』
『ほらほら、凶悪なマフィアに拳銃とか撃ちまくられるシーンすよ。
悲鳴を上げルフィアッセさん、テーブルの下に逃がす良介さん、打ち合いの最中飛び出して剣でバッタバッタと斬っていく。
銃弾と剣戟乱れる中、追い詰められたマフィアが爆弾を投げる! ウオーこえー!』
『その時点で俺とフィアッセ、大ピンチなんだけど』
『そこはほら、アニキがフィアッセさんをさっと抱き上げて、高層ビルの窓を割って逃げるんすよ!』
『……高さによるけど、高層ビルから飛び降りたら普通に死ぬぞ』
こういうアクションが大好きな女の子だが、自分も護衛に入りたいという無茶は言わない。
憧れはあくまで自分の中にとどめており、他人に迷惑をかけてまで大人の世界に飛び込むような真似はしない。
こういう模範があるからこそ、普段暴れまわっていてもみんな咎めないし、高町の家の台所を任されている。
だからこそ、俺もこいつを妹分と言うか弟分のように扱っている。
『連絡手段は後で渡しておくから、コンサートの時は高町家の連中のことは頼む。
ギンガ達もチケットを取ったらしいから、人数多くて悪いけど面倒見てやってくれ』
当日は流石にフィアッセのことに集中したいからな。外を気に掛ける余裕は一切なくなる。
戦力は揃えているが、相手はチャイニーズマフィアであり、武装テロ組織。
連中も主力を投入してくるだろうから、一切の妥協はできない。
俺の家族がいるとわかれば、容赦なく狙ってくるだろう。アイツラ、俺に逆恨みして恨み骨髄だしな。
『了解っす。アニキの事はどうします、絶対聞かれますよ』
『ガキのくせに勘がいいから、変に誤魔化すと探しまくるだろうからな。コンサートの警備だと言っておいてくれ。
皆を守っているといえば、アイツラだって無茶はしないさ』
『なるほど、任せてくださいよ。当日何かあったらいつでも連絡くださいね。
俺、何でも手伝いますから』
『おう、頼りにはしている』
俺が声を投げかけると、城島晶は嬉しそうに笑う。まるで少女のように。
レンの心臓手術の件を解決してからというもの、俺を兄貴分のように慕ってきていた。
特別なことは特にしていないのだが、それでも本人達にとっては感謝のつもりなのだろう。
好意はありがたく受け取ることにした――これもまた、心の変化なのかもしれない。
<続く>
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