とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 第百四十二話
                              
                                
	 
  御神美沙都と、高町美由希の関係。この二人の人間関係は始まってもいないと言える。 
 
美由希が幼い頃一族に悲劇が勃発し、母親は子を置いて復讐へと走った。美由希には母親はいるが父親はいない、復讐へ駆り立てられる動機となりえる。 
 
親と子は別々の道を歩み、交差することもなかった。そしてそのまま今へと至っている。関係性の改善どころの話ではない。 
 
 
師匠と桃子の関係改善以前に、師匠と美由希はそもそも改善の改善は望んでいないだろう。どうしろというのか。 
 
 
「仲介はもういいだろう、後は二人でゆっくり話してくれ」 
 
「あら、気を使わなくてもいいのに」 
 
「今日はむしろ気を使いすぎた」 
 
 
 退席を促すと、桃子は苦笑交じりにそう言ってくる。退席は方便なのは、本人もわかっている。 
 
まあどうせ恭也や美由希には用もあったし、これから会いに行くことにした。ずいぶん長く話してしまった分、学校も放課後の時間になっている。 
 
登下校は基本寄り道はしない真面目な二人だし、ディードの指導もしてくれているから、今ごろ家に戻っているだろう。 
 
 
何を話したらいいか、まだいかんともし難いが、少し本人と話してみることにする。 
 
 
「世話になったな、良介。この恩は忘れない」 
 
「こちらとしては少しは恩返しできてよかったですよ」 
 
 
 師匠は殊勝に頭を下げてきたので、俺は慌てて本心を述べる。恩返しでもなければ、こんな面倒なことはしなかったからな。 
 
これで全て円満に解決とはいかないだろうし、お互いに抱えている思いはあるだろうけど、会話も出来なかったら溝も埋まらなかったからな。 
 
全てを取り戻すことは出来ないけど、未来まで失われたままではあまりにも可哀想だ。せめて救いがあればと、思う。 
 
 
そういう意味では美由希も同じなのだろうが、あいつの場合根も深いからな。対話が成り立たない可能性もある。 
 
 
「今度は家族でケーキでも食べに来るよ」 
 
「その時はファミリーパーティね。楽しみにしているわ」 
 
 
 ファミリーパーティか、俺には絶対縁のない催しだと思っていた。 
 
一つの家庭だけではなく、仲の良いご近所同士が集まって家族でパーティを開催する。 
 
ホームドラマの定番だが、ホームドラマの世界に縁が無かった俺には、テレビの向こう側の光景でしかなかった。 
 
 
美由希や師匠も自分達には縁がないと、今でも思っているだろう。母と子には戻れないだろうか。 
 
 
 
 
 
  
 
  
 
 
 久しぶりに高町家へ行ったところ、まず高町なのはは塾で留守にしていた。 
 
他所の世界では魔法少女なんてしていたが、ジュエルシード事件が解決したらあいつは普通の小学生に戻った。 
 
空を飛んだり、魔法を使ったりという経験をしたものの、ジュエルシード事件はとにかく悲惨で大変だったせいか、あまり未練を残さなかったらしい。 
 
あの事件、俺が介入したせいでひたすらややこしくなったからな。法術で怨霊だったアリサを結晶化による実体化させたせいで、プレシアが死者蘇生だと発狂しやがったしな。 
 
 
塾について以前聞いたことがある。 
 
 
『塾なんて行ってたんだ、お前』 
 
『今年前半に色々事件が起きたことで、勉強が手につかず…… 
ついにクラスの平均以下になってしまいまして』 
 
『うわ……まあ俺も巻き込んで悪かったから、あまり強くはいけないけど』 
 
『さすがにおかーさんにも怒られて、小学生の本分を全うしようかと』 
 
『今では小学生でも塾へ行くのか、すごい時代になったものだ』 
 
『期間講習があるんですよ、成績が落ちた子向けの短期講習ですね。 
学力を上げる事は勿論なんですけど、まず勉強のやり方を教えてくれるんです』 
 
『なるほど、急に成績が落ちたんだからやり方を変えないといけないもんな』 
 
 
 塾なんてのは金払って勉強させるイメージしかなかったんだが、今では勉強のやり方を教える講習もあるのか。 
 
勉強なんて基本的に自己努力なんだけど、努力の仕方を間違えていると成績も伸びないしな。 
 
そういえば過去の日本では、剣を教える塾なんてのもあったらしい。道場も似たようなものだが、俺もそういうところに通うのが一番良かったかもしれない。 
 
 
まあこの街に来て最初にやったのが道場破りなんだけどな。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 レンこと鳳蓮飛も留守だった。なのはの話では最近帰ってくるのが遅いらしい。 
 
さりとて遊び回っているのではなく、家事全般以外は自己鍛錬に邁進しているようだ。 
 
単純に強くなるだけではなく、友達を増やしたり、大人達に挨拶したりと、自分を磨く努力を行っているとの事だった。 
 
 
困難な心臓手術を超えて、あいつは自分の人生をやり直そうとしていた――こんな会話をした記憶がある。 
 
 
『クロノさんも大変みたいやから、少しでもお手伝いできればええなと思ってる』 
 
『元々ジュエルシード事件で誘拐の被害を受けた時、管理局員と被害者としての接点から始まったんだよな』 
 
『最初はあんたに頼んで、お礼の手紙を送った貰った時からやね。こ゜縁もあってお付き合いさせてもらってる』 
 
『俺の手紙から文通、そして友人関係か。実に健全と言うか、真面目な関係だな』 
 
 
 古き懐かしき日本といった関係性に、俺はむしろ感心してしまった。 
 
ハイカラな関係と言うべきか、男女関係と言うよりむしろ学生さんのお付き合いといった感じか。 
 
色恋なんて無粋、学生同士であれば模範であるべきといえそうな二人の関係。真面目でなければこうはならないだろう。 
 
 
愛人だの内縁の妻だのぬかしている、俺の周りの女共に聞かせてやりたい。 
 
 
『事件の操作とか手伝っているのか、もしかして』 
 
『何を言うてるの。クロノさんの邪魔になるだけやん、うちのような一般人がのこのこ顔を出したら。 
この世界に派遣されたと聞いて、少しでも力になろうと、この街のことを案内したりしてるんや。 
 
後はこの世界というと大袈裟かもしれんけど、文化や価値観、この国ならではの風土なんかを伝えたりしてる』 
 
『お前、そんなのに詳しかったっけ』 
 
『何を言うねん、といいたいところやけど、あんたの言う通りうちも詳しい訳では無ない。 
だから図書館とかにいって一緒に勉強したり、調べたりして、身につけていってるんよ。 
 
現地民のうちがいれば入れる公共施設もあるしね』 
 
『なるほど、お前ら本当に理想的な関係なんだな』 
 
 
 クロノ達も管理外世界へ左遷されたのは流石に初めてだろうし、特権も奪われていると現地での活動は難しい。 
 
俺も協力はしているが忙しくもあるし、彼らと一緒に活動できる時間も限られている。 
 
 
そうした俺に代わって、レンがあくまでも学生の範囲内で時間の許す限り、積極的に協力しているというわけだ。 
 
 
『クロノさん、あんたのことをよう話してるよ。あんまり心配させたらあかんで』 
 
『余計なお世話といいたいところだが、何度も助けられているしな。肝に銘じておくよ』 
 
 
 レンとクロノとの関係、管理局員と現地人として理想的とも言える。 
 
真面目な者同士、気性もあうのだろう。 
 
 
世界を超えた関係というのは、童話よりも映画的な夢を感じさせる。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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