とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 第百四十一話
                              
                                
	 
 捨てられた子は新しい母親の元で大切に育てられたが、過去は決して消えない。 
 
 
長年のわだかまりがこれで消えるとは思わないが、少なくとも大きな歩み寄りにはなっただろう。 
 
家族に関する問題も解決した訳ではない。そもそもこの問題の中心にいるのは美由希であって、その本人はこの場に居ない。 
 
美由希はガキの頃に親に置き去りにされたのだから、親にどんな事情があろうとも、自分を捨てたと思っているだろう。 
 
 
思い込みだと言いたいのだが、師匠の思いはどうあれ行動の結果は置き去りになっているのだから、どうしようもない。 
 
 
「なるほど、良介が海外で何を来ていたのか分かりました。 
危ないことはしてほしくはなかったけれど、深入りせざるを得ない複雑な事情があったのね。 
 
利き腕を怪我していたと聞いたけど、本当にもう大丈夫なの?」 
 
「ああ、元々本来の目的は腕の治療だったからな。 
日本では完治が難しい怪我だったんだけど、知人の紹介で海外へ行って治療を受けた。 
海外にいる知人が主要各国でも有名な家人で、権力闘争に巻き込まれてしまったんだ。 
 
嘘偽りなく言うと大変だったんだけど、そこで助けてもらったのが師匠だったんだ」 
 
 
 治療というのが夜の一族の血液を接種という吸血鬼めいた話なんだけど、治療自体は本当なので嘘はいっていない。 
 
というか本当、妹さんこと月村すずかとファリンの件があったとはいえ、元々俺は腕を治しに行ったんだ。なのになんであんなに苦労しないといけなかったんだろう。 
 
まあ結果として今では良好な関係になって、命も守ってもらっているんだけど、そもそもあいつらとかかわらなければ命も狙われなかったのだから、なんだか腑に落ちない。 
 
 
桃子はコーヒーを飲んで、ジト目で見てくる。 
 
 
「それで愛人を作ったということね」 
 
「だから違うっつーに」 
 
「フィアッセはどうするのよ。良介ならあの子を任せられると思ってたのに」 
 
「一応言っておくけど愛人の件はなくたって、あんな奴恋人に選ばないからな」 
 
「ええ、何が不満なのよ。美人で明るくて、気の良い女の子よ。 
家族としての欲目を抜きにしても、フィアッセはとても素敵な女性だと思うわ。 
 
日本人か外国人かどうかなんて、良介は気にもしないでしょう」 
 
 
 うむ、何しろ自分の子供達が日本人ではないからな。 
 
海鳴は日本の街だが、出会った人達は日本人ばかりではない。むしろこの一年を通して、俺の知り合いは外国人のほうが多い。 
 
本来なら言語や文化の壁にまずぶつかるのだが、それこそフィアッセ達の協力もあって交流することが出来ている。 
 
 
だからあまり人種による偏見や差別、そして何より区別もない。 
 
 
「別に日本人かどうかなんて拘りはないけど、そもそも美人でも好みじゃない。 
身近にいるからあいつの良し悪しも知っているし、欠点には目を瞑ってもあまりピンとこないな」 
 
 
 桃子が出してくれたお菓子を食べつつ、正直なところを話す。 
 
フィアッセの気持ちはともかくとして、正直あんまり女にうつつを抜かす気は出ない。 
 
性欲は人並み以上にはあると思いけど、個性的な女が周りにいすぎていて、女に深入りするのが怖くなってきているのかもしれない。 
 
 
どいつもこいつも面倒くさい連中ばかりだからな。 
 
 
「桃子さん、私から少し立ち入った話を伺いたいのですが」 
 
「何かしら」 
 
「決して深入りするつもりはないことを前提にお聞きしますと―― 
良介と美由希の関係が、気になっています」 
 
「ああ、確かに男の子と女の子だものね」 
 
「……あの、これは決して自分が親だからと言うつもりはなく」 
 
「そんなに恐縮しないでください。 
海外に愛人を作っているのであれば、尚の事気にかけるのはよく分かります」 
 
「おい」 
 
「ふふふ、それで結論から申し上げると、美由希とはあくまで家族であり友人です。 
美由希は恭也と交際を始めたので、その心配は無用です」 
 
「そうですか、あの子は恭也君と……」 
 
「……やはり気になるかしら」 
 
「いえ、あの子が選んだ男性ですし、貴方のご家族である恭也君であれば心配はいらないでしょう。 
子供の頃に会ったきりではありますが、きっと美由希を幸せにしてくれる男らしい子になってくれていると思っています」 
 
 
 師匠は恭也との関係もあるので、美由希とは別に関係がややこしい。 
 
師匠は事前に把握しているはずだが、やはり今の親である桃子から直接聞くと感慨も違ってくるのだろう。 
 
恭也がいれば美由希は大丈夫だろうし、この先の人生もきっと自分の足で歩いていける。 
 
 
ならば自分がかかわらなくても心配ない、そういう帰結になるのも分かる気がする。 
 
 
「しかし、そうなりますと別の心配が出てきますね」 
 
「あ、分かります?」 
 
「ええ、美由希や恭也君が大丈夫とあれば、残る心配の種はこの男です」 
 
「この一年で子供や家族まで出来ているのに、本人は少しも落ち着かないんですよ。 
この気持ちを理解してくれる人がいてありがたいわ」 
 
「分かります。貴方にとってこの子が子供であれば、私にとっては弟子です。 
特に剣の師として目をかけている以上、責任は生じる。 
 
危ない真似をさせないといい切れないのが心苦しいですが、少なくとも全力を尽くしてこの子は守ります」 
 
「ありがとう、よろしくおねがいしますね」 
 
 
 あれ、なんか想定していたのとは全然別の流れで話がまとまっているぞ。 
 
まさか俺をダシにして、二人の結束が結ばれるとは思わなかった。こいつら、俺のことをなんだと思っているんだ。 
 
 
一応仲介役としては成功したんだろうけど、腑に落ちない。 
 
 
「こちら、私の連絡先となります。 
親としてなどと口が避けても言えませんが、せめてあの子の親である貴方の力にならせてください。 
 
何かお困りのことがあれば、すぐお電話ください。これまでの、そしてこれからの養育費についてもご相談させてください」 
 
「……やはりあの子には」 
 
 
「会いません、あの子の親は貴方です。 
改めてこれまでのこと、本当に申し訳ありません。そして、ありがとうございました」 
 
 
 こうして話は終わった、仲介役もこれで終わったと言えるのだが―― 
 
高町桃子は困った顔で、俺を横目で見つめる。 
 
その顔は、何とか力になってほしいという願いが込められていた。 
 
 
ええ……流石に美由希はキツイんじゃないか。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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