とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百四十四話
剣術道場へ向かうと、美由希とディードが稽古を行っているのが見える。
「世話になっているな」
「ああ、美由希も妹弟子が出来て喜んでいる。
お前とは違って生真面目な妹弟子が可愛くて仕方がないらしい」
「ほっとけ」
美由希の兄であり、最近恋人同士となった高町恭也が道場で坐禅を組んでいた。
弟子同士の稽古は実践さながらであり、怪我が出ても厭わないほどの苛烈さと恐ろしさがあった。
だからこそ恭也も見取り稽古を行いながら、きちんと監督してくれているのだろう。
剣士としても見ごたえのある稽古ぶりに、俺も恭也の隣に座って観戦する。
「決着が近いらしいな」
「分かるのか」
「これでも師範代であり、あの子達を指導しているからな。
ディードが今稽古と言うよりも、仕上げにかかっているのは分かる。
出来れば基礎を仕上げたかったところだが、時間が足りなかったのが悔やまれる」
「お前はよくやってくれたさ」
恭也も学校では3年生にして、小太刀二刀御神流の師範代。今年卒業となる彼の進路は既に決めていて、弟子達の育成に勤しんでいる。大したものだ。
フィアッセの事件と師匠との関係を通じて、恭也の父が事件の渦中で命を落としたと聞いてはいる。
この男についてこれまであまり過去や現代、そして未来を聞いたことはなかった。この一年間、ずっと自分自身の事で精一杯だったからだ。
師匠の御神美沙都と、高町美由希。その関係性を変えていくのであれば直接的ではなく、まずこの男を通じて知っていくべきかもしれない。
「恭也はこの先も剣に関わっていくつもりなのか」
「急な話だな」
「そうでもないだろう。皆この一年を通じて、自分を見つめ直している」
「確かに」
今まで自分自身のことで精一杯だったが、世界は決して自分中心に回っているのではない。
俺が一年間を懸命に生きていく間、他の者達も同じ時間を過ごしている。そして成功と失敗、挫折と達成を繰り返している。
俺と関係を持ったからとは言い切れないにしても、高町家の者たちにとってもこの一年間は激動であったのではないだろうか。
自分自身を見つめ直すのであれば、当然過去も関わってくる。
「俺の父はボディーガードをしていた。
人の命を守る立派な仕事ではあるが、同時に危険でもあった。人に勧められるかどうか、と聞かれると複雑だな。
父を誇りたい気持ちは大いにあるが、母を思うとどうしても胸を張れなくなる」
「どうあれ、大切な人を失っているからな」
「俺はずっと父が死んでからその背中を追って、剣の鍛錬を続けてきた。
父に憧れていたというのもあるが、命をかけてまで走り続けた父の人生と、剣の意味を知りたかった。
その過程で義妹の美由希も俺と同じ様に剣術を学び、今では剣士と呼べるだけの腕前になりつつある」
父の背中を追っていく内に、自分もまた誰かにその背中を追われるようになったという。
人生はまだ途中であり、父親の背中には追いつけていない。それなのに、誰かが自分の後を追ってきている。
間に立たされた恭也を思うと、確かに複雑だ。自分の剣の意味を理解していないのに、誰かが意味と価値を知ろうとしているのだから。
恭也はその時、俺を初めて見つめた。
「お前も同じだろう」
「俺が?」
「あの子ディードは、お前の背中を追っている。
今も汗を流し、血を流し、傷付いてまで懸命に追い続けているあの子はいつも胸を張っている。
修行の最中、いつも言っていたよ。お父様の剣を継ぐのは私だけ、生まれてきてよかったと」
「……」
「美由希も嬉しそうだった。憧れる人を一緒に追う剣士がいてくれて、励まされている。
今後自分の人生がどうなっていくか、まだまだ考えていなければならないが――
俺はお前が剣を振るい続ける限り、剣を捨てることは決してないと思う」
姉弟子と妹弟子、そして兄弟子と父親。
美由希とディードが切磋琢磨し、恭也と俺は自分の県を追求し続ける。
誰かが同じ道を歩む限り、決して孤独ではないのだと。
<続く>
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