とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 第百三十六話
                              
                                
	 
  考えてみれば、八神はやてとは高町に次いで縁の深い関係である。 
 
ちょっとした喧嘩で高町の家を飛び出してしまい、当てもなくぶらついていた時に車椅子の少女と出会った時から始まった。 
 
後から聞いた話だが、一人っきりの家に堪えられなくなり、あいつも所在なくぶらついていたそうだ。車椅子でウロウロするな。 
 
 
高町なのはと同年齢の少女。年齢差はあるが、あいつとの関係は対等だった。 
 
 
「おかえり、良介」 
 
「おう、ただいま」 
 
 
 わざわざ出迎えてくれた少女は車椅子ではなく、杖をついて歩いている。貫禄ある木の杖は、彼女が生成したデバイスの一種らしい。 
 
魔法少女の杖だと年相応に笑っていたが、魔法のスティックなんて今時古い気がする。本人なりに気に入っているらしい。 
 
以前からリハビリを続けているとは聞いていたが、順調に回復しているらしい。車椅子も既に卒業していた。 
 
 
彼女の健啖ぶりにミヤは大いに喜んでいたが、はやては斜めに見やっている。 
 
 
「おかえり、ミヤ。随分長い間、留守にしとったな」 
 
「うっ、連絡せず申し訳なく思っておりますぅ……」 
 
「なんで敬語やの。そういうところは良介に似てきたね」 
 
 
 恐縮しきっているミヤの頬をはやてが杖でつつくと、ミヤは困りきった顔でペコペコ頭を下げている。 
 
ミヤが恐縮するのも分かる。今のはやては半年前と違って、家主としての貫禄があった。 
 
八神はやてには俺が以前湖の町で行っていた何でも屋の家業を任せていたが、すっかり女社長として切り盛りしているらしい。 
 
 
実際はボランティアに近しい活動だが、評判が非常に良くて家業にも精が出ているようだ。 
 
 
「というかお前が実際に仕事していたのって、せいぜい数ヶ月だろう。 
今でははやてが顔役なんだから、お前のことなんて年寄り連中は覚えてないと思うぞ」 
 
「ぐっ、帰って早々辛辣だな」 
 
「ほいほい異世界や異星に行く子分に釘を差しているだけだよ」 
 
 
 季節は冬から春へと移り変わり、鉄槌の騎士ヴィータも春服に着替えていた。 
 
聖地では同行してくれて白旗の活動に頑張ってくれた少女は、この海鳴でも引き続きボランティア活動してくれているらしい。 
 
力仕事も平気でこなす少女騎士の評判は高く、海鳴の住人には日々礼を言われてお菓子や食事を振る舞ってくれるようだ。 
 
 
今日は守護獣ザフィーラも同行しているが、こちらは特に変わりなく、視線で帰還の挨拶をしてくれている。 
 
 
「シグナムとシャマルからも連絡がないし…… 
うちの子達、意外と仕事人間が多いのかもしれへんね。 
 
あ、考えてみればヴィータとザフィーラからもあんまり連絡なかったね」 
 
「い、いや、決してはやてと忘れてた訳じゃなくて!?  
こ、このバカが色々トラブル起こすから目が離せなくて」 
 
「も、申し訳ない。シグナムとシャマルを信じてたがゆえのことで」 
 
「あはは、ええよええよ。言うてみたかっただけやから」 
 
 
 一応フォローしておくと、ミヤ達が揃いも揃って連絡できなかった理由は距離にある。 
 
それこそ国外であっても連絡を取る手段は今の世の中いくらでもあるが、流石に異世界や異星だと限られてしまう。 
 
電話は当然のように通じないし、手紙だって届ける手段はない。どうしたって人伝になってしまうので、頻度は落ちてしまうのだ。 
 
 
はやても分かっているので、騎士たちの動揺を楽しんでいるだけである。 
 
 
「これ、うちの職場で貰ったコンサートのチケットだ。ご家族でどうぞだって」 
 
「おー、わざわざありがとうね。なのちゃんの家の人も呼ばれているそうやね」 
 
「そうそう、俺が今やっているのもその家の人の護衛だよ」 
 
「今世間を騒がせている悪党共が狙っているそうじゃねえか。はやても行くんだし、他人事じゃねえ。 
アタシらでよければ力を貸すぜ」 
 
「シグナムやシャマルが居ない分まで、我らが力になろう。 
主だけではなく、主の友人達も来るのであれば尚更だ」 
 
 
 阿吽の呼吸で、ヴィータとザフィーラが真剣な顔で申し出てくれた。 
 
昔は本当に疎まれていたし、協力を申し込んでも渋々だった。照れ隠しで断られたことだってあった。 
 
だがもうすぐこの関係も一年になるとあって、二人は何の躊躇なく一緒に戦うと言ってくれている。 
 
 
はやても誇らしげな顔で、家族達を見やっていた――俺もまた素直に頷いた。 
 
 
「当日のコンサートは護衛対象が優先になる。 
誤解を恐れずに言うが、はやてがいるVIP席が襲われても状況次第では俺が迎撃に行けない可能性もある」 
 
「うん、分かってる。何の誤解もあれへんよ 。
わたしにかまわず、良介が守るべき人の側に居てあげて。 
 
正義とか悪とかじゃなく、いつも自分のやりたいようにやる人がわたしの家族なんやから」 
 
「変な気を使わなくていいから、お前がてめえの仕事に集中しろ。 
ミヤ、この馬鹿を頼んだぞ。ヤバそうなら遠慮せず、アタシを呼べ。 
 
こいつも一年経って強くはなってるんだが、何だかんだギリギリだからな」 
 
「はいです、リョウスケのことは任せてください」 
 
「頼んだぞ。主はやてやご友人達は我々に任せておけ」 
 
 
 協力をわざわざ頼む必要もなく、お互いにやるべきこと、やりたいことを言い合う。 
 
ユーリ達とは違った意味で、家族と呼べる関係。 
 
 
むしろ戦友に近いのかもしれない。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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