とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 第百三十四話
                              
                                
	 
  チャリティーコンサートのチケットを確認すると、海鳴スーパーアリーナのコンサート会場が記されていた。 
 
海外でも有名なクリステラソングクスールの歌姫達が総出演する、世界的規模のコンサート。日本で開催されるのはいいとして、正直海鳴で開催される事には疑問を持っていた。 
 
海鳴は自然豊かなで広大な土地こそ持っているが、世間的に見れば田舎である。テレビを賑わせている歌姫達が華やかに歌うコンサート会場なんぞ、そもそも建設している意味がない。 
 
 
そう思っていたのだがこの一年、俺がいない間に余裕で新設されていた――ちょっと待て。 
 
 
『海鳴が国際化しているのは分かっているが、スーパーアリーナなんぞ建設するのに工期とか足りないんじゃないのか』 
 
『あたしもプロではないからハッキリとは言い切れないけど、費用と人員、そして機材と物資が揃っていれば可能らしいわよ。 
経済的な働きかけがこの一年、湯水のごとく行われていて、猛烈な発展を遂げているもの』 
 
『国際都市と言うより、城塞都市化しているような気がする』 
 
『言い当て妙ね。 
まあ流石にドーム級ではないけど、趣旨はあくまでチャリティーコンサートなんだからそこまで豪華にする必要もないんでしょうね』 
 
『それでも万単位のファンが入れるんだから、庶民の俺からすればビッグ極まりないんだが…… 
エリス達も今頃警備体制で大いに悩んでいるんだろうな』 
 
『他人事みたいに言っているけど、エリスさんや議員さんからは何か言われているの?』 
 
『フィアッセの護衛と面倒を引き続きお願いされている。今それが出来るのは世界で俺一人とか、おべんちゃらされている』 
 
『別にお世辞言っているつもりはないと思うわよ、相手は。 
本当に今の状況でフィアッセさんを安心させられるのは、あんたくらいでしょう』 
 
『当の本人は作曲へ夢中になっているけどな』 
 
 
 コンサートの主演の一人であるフィアッセ・クリステラは、おふくろさんの課題である作曲に集中している。 
 
作曲するならスタジオでも借りればいいと思うのだが、親父さんやおふくろさんの支援もあってマンションの一室に機材が揃えられている。 
 
 
パソコンがあれば自宅でも作曲は出来るらしい、すごい世の中になったものだ。 
 
 
『お前に頼みたいことがある』 
 
『聞きましょう』 
 
『俺も剣の練習ができる環境がほしい』 
 
『あんた……一年も経ってからやっとそのお願いをするなんて、剣士としての自覚がないのね』 
 
『やかましいわ。一般人は土地も金もないから発想が沸かないんだよ』 
 
 
 フィアッセが音楽の環境を整えているのを見て、俺も不意に自分の環境を顧みてしまった。 
 
剣は新調したし、今でも日々練習は行っている。基本的に師匠より学んだ知識を活かすことと、ユーリやアミティエ達より強くしてもらった新しい身体を活かすことに邁進している。 
 
ナノマシンのお陰で身体は活性化しているが、肝心の才能が枯渇しているので、今のところまだ活かせていない。 
 
 
宇宙ロケット顔負けのエンジンを積んでいても、肝心のボディがボロ車では性能もまるで発揮できない。 
 
 
『環境を整えるのはいいけど、あたし達そもそも自分の家を持っていないでしょう。 
すっかり異世界や異星の出張生活になってしまっているけど、元々ははやてや忍さんの家でお世話になっていたんだから』 
 
『エルトリアとかにも行ったりして、全然落ち着かなかったからな……』 
 
『ユーリ達だけではなく、イリスやイクスヴェリアも養女に迎えて大所帯になったからね。 
生活が落ち着いたら、あたし達も本格的に拠点を整えましょうか』 
 
『自分の家か……一年前までは想像もつかないな』 
 
 
『ふふ、あたしとあんたが初めて出会ったのが廃墟だったわね。 
あんたあの時、高町の家を出て住む所がなくて来たんだもんね』 
 
『そういえばあの時から家なき子だった……』 
 
 
 俺一人なら何処でも生活できるが、アリサをメイドとして雇い、シュテル達が家族となって、ついにイリスやイクスヴェリアを養女に迎えた。 
 
子供達全員を連れて、流浪生活を送るわけにはいかない。基本的に自立心が強く、生活能力が豊かな子供達で、わざわざ苦労させるのは忍びない。 
 
今まではやてや忍の厚意で生活していたし、彼女達も自分達との生活を気に入ってくれているようだが、イリスやイクスヴェリアまで追加となればそろそろ考えないといけなかった。 
 
 
フィアッセのスタジオ生活から、とんだ話になってしまったものだ。 
 
 
『ご家族へのチケットとして、クリステラ一家に招待されたんでしょう。忍さん達は誘ったの?』 
 
『聞いてくれよ。忍の奴、ゲーム以外に音楽の趣味があったみたいで、アイリーンの大ファンなんだってよ』 
 
『いや、気付いてなかったのはあんたくらいで、忍さんは元々結構音楽を聞くわよ。 
邦楽より洋楽みたいだけど、趣味は良くてあたしも聞かせてもらったことがあるわ』 
 
『そうだったのか……あんなゲーミング女に、そんな高等な趣味があったなんて』 
 
『だったらコンサートのSSS席とか死ぬほど喜ぶんじゃないの?』 
 
『それがあいつ、夜の一族の特権を利用してやがった。 
ヴァイオラ達に前から働きかけていて、ちゃっかりコンサートのチケットをゲットしてやがったんだよ』 
 
『そういえば忍さん、そっちのルートがあるもんね…… 
あんた知らないかもしれないけど忍さん、海外のカレンさん達と愛人同盟みたいな感じですごく仲がいいのよ。 
 
コンサートのチケットも当然のように根回したんでしょうね』 
 
『なんて奴らだ……あ、ということは?』 
 
『勿論彼女達、日本に来るわよ。 
忍さんはともかくとして、他の人達の目的は歌よりもまずあんたでしょう』 
 
『ロシアンマフィアとかいるんですけど……』 
 
『チャイニーズマフィアが日本を襲来しているんだから今更でしょう。 
でもそういう意味ではいいテコ入れになりそうですね』 
 
『テコ入れ……?』 
 
『チャイニーズマフィアが日本に来ている理由は主にあんたとフィアッセさん、そしてコンサートを潰す事。 
けどそれ以外にアジア圏の一つとして重要な位置を占めている日本の裏社会に勢力を作り出す意味合いもあると思うわ。 
日本の裏社会にも顔役はいるだろうけど、龍ほどのマフィア組織相手に張り合えるほどじゃない』 
 
『! ボスが名乗る男が来ていたのも、そうした目的もあるのか』 
 
『そこへロシアンマフィアのボスと、裏社会が恐れる暗殺者が来るんでしょう。 
多分あの二人、良介が何度も襲われてキレまくってるから、日本の裏社会にメチャクチャ介入するわよ』 
 
『それでテコ入れか……』 
 
 
 カレン達からは最近連絡があって、ようやく夜の一族側の揉め事も収束したようだ。 
 
反対派連中は見事粛清され、勢力を拡大し続けるカレン達を排除する動きも鎮圧したようだ。 
 
 
裏でどんなヤバいことがあったのか想像したくもないが、晴れやかに日本へ来るアイツラが怖い。 
 
 
『それよりあんた、今どきおべんちゃらって使わないわよ』 
 
『マジかよ、日本終わってるな』 
 
『あんたの日本語がアップデートされてないだけ』 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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