とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百三十二話



面倒臭いやつだな、とは半分くらい思うけど、俺はフィアッセの親父さんやお袋さんから正式に護衛の契約を行っている。

護衛が対象から離れて行動している方が問題だ。代わりの人員を配置しているので体制に問題はないが、それとこれとは話は別である。

同じマンションに住んでいる形なので、フィアッセの部屋を訪れる。俺という人間が、まさか女の部屋を訪ねる日が来るなんて夢にも思っていなかった。


相手も特上の美女なのだが、恋愛脳なので食指もわかない。悪い奴ではないんだけどな。


「リョウスケ。ここのところ色々動き回ってるみたいだけど、何かあったの?」

「曖昧な言い方はやめろよ」

「騒ぎがあったと、ニュースでやってたよ。これって最近連日で報道されているテロ関係だよね」


 ちっ、女ならイケメン俳優出演のドラマとか映画とか見てキャーキャーしてろ。と、思う俺の感性も世間ズレしているかもしれない。

恋愛脳ではあるが、テロリストに狙われて危機感も感じているのだろう。クリステラ夫妻も脅迫されているのは明らかだしな。

コンサートが近づくにつれて、やはり緊張や不安だってあるはずだ。世界的に注目されているツアーだ、テロリスト関係を除いたって緊張くらいするだろう。


世界が注目する大舞台、男の俺だってそんな部隊でメインを張るとなれば緊張しまくるかもしれない。


「それと俺がなんで関係していると思うんだ、一般人だぞ」

「パパとママがリョウスケの事、すごく気に入ってる。
私としてはすごく嬉しいけど、それって言い換えるとリョウスケはパパやママに気に入られる何かがあるって事だよね」

「お前がやたら褒めまくるからでもあるんじゃないか、それって」

「うっ……で、でも、やっぱり気になるよ。私に隠し事とかしてないよね?」

「えっ、しまくってるぞ。むしろ何故お前に赤裸々に話さないといけないんだ」


「ブーブー」

「歌姫がいい声でブーイングあげるな!?」


 フィアッセが可愛らしく、唇を尖らせている。察しが良いというよりも、今の状況に敏感になっているのかもしれない。

本来であればむしろ緊張と不安で倒れていても不思議ではない。マフィアに脅迫を受け、家族にまで被害が及んでいる。

フィアッセ本人はまだ知らないが、母親も不治の病に侵されているのだ。今は隠しているが、いずれ必ず明らかとなってしまう。


ユーリとイリスが元気にしてくれたが、完治した訳ではない。今の状況で知れば、爆発してしまうだろう。


「お前としてはどっちを知りたいんだ」

「どっち?」

「俺の状況と、親父さん達の状況」

「えっ、それって同じじゃ……」

「なるほど、そこから勘違いしているのか。
お前、俺とエリス達が結託して動いているかのように思い込んでいるが、違うぞ。
定時報告は確かにしているけど、あくまでもこの事態を主導しているのは親父さん達の方だ。

俺はあくまで日本に滞在するお前の面倒を見る為に雇われているだけだ」


 これは決して嘘ではない。確かに事件解決には貢献しているけど、それはあくまで犯人達が俺達を狙っているからだ。

今起きているテロ事件の解決と、主犯のチャイニーズマフィア殲滅に向けて積極的に手動しているのは、アルバート議員を筆頭とした主要各国の政治家達である。

俺本人も能動的ではなく、あくまで受動的に行動している。世界を平和にしたいか問われればノーだし、人々を守りたいか問われれば首を振る。面倒だからだ。


極端な話俺やフィアッセが安全になれば、後はお偉いさんに任せてしまいたい。後はお節介レベルで、師匠も出来れば穏やかに生きていってほしいとは思う。


「それで質問に戻るけど、お前はどっちを知りたいんだ」

「うーん、じゃあリョウスケかな。あ、でもちゃんと本当のことを教えてね!」

「分かった、分かった。じゃあ仕事のことになってしまうけど、話すぞ」


 面倒臭いやつだが、護衛の立場であれば仕方がない。この手の展開は指摘されていたから、アリサやシュテルにも意見は貰っている。

二人から注意を受けたのは、全て嘘で塗り固めないことだ。俺は平気で嘘をつくが、嘘を上手につける人間ではないと、アリサ達は分析していた。

嘘を付くには性格面以外に、頭の良さもある程度は必要となるらしい。そもそも真実ではない以上、どこかで破綻してしまうからだ。


適切な意見としては、話してもいい部分はすべて本当のことを言う事だ。


「上海で最近起きた事件のことを知っているか」

「う、うん、すごく偉い人が殺されたって、ニュースで……」

「能天気なお前でも薄々察していると思うが、あの事件は今俺達が狙っている犯人達の仕業だ。
フィリス達の誘拐も含めて、連中の計画は立て続けに失敗。組織の連中が次々と逮捕されて、焦った連中が勢力と影響力を取り戻すべく起こした。

それで昨今のテロ撲滅に逆風が吹きつつあったので、親父さん達が対策を練っている」

「それにリョウスケがどう関係しているの?」

「連中の主目的はチャリティーコンサートで、世界ツアーの始まりである日本公演を狙ってる。
お前がそれに参加するってんで、俺が駆り出されているのが今だ」


 フィアッセが話を聞いて不安そうな顔をする。当然だ、犯人達が着々と事を上手く進めているように聞こえるからだ。

話すべきかどうか考えたりもしたが、フィアッセはあいにくと俺と違って地頭は悪くない。外国人なのに、日本できちんと生活出来る能力があるしな。

一見関わりがないように見える事件でも、マフィアが関係していれば恐怖や不安は伝染する。こういった場合、不透明な方が不安に感じるだろう。


だったらむしろ断定して、対策を練っているといった方がいい。


「最近報道されているテロ未遂事件なども、親父さん達の努力による成果だ。だから日本での対策も進められている。
俺は雇われているとはいえ民間人だ。本来そこまで関われないんだが、俺自身も狙われているからな。親父さん達も配慮してくれている」

「うーん……話は分かるけど、だったらどうしてリョウスケがなんかコソコソ動いているの?」

「……お前、少しは親心を理解しろよ」

「えっ、どういう事!?」

「年頃の娘さんを抱えた親としては、異国の地で暮らす娘の生活とか気にするのは当然だろう。
とはいえお前だってもう自立している女性だ、自分の娘とはいえ直接聞き辛いじゃないか。

この際だから言うけど、そういうところをコッソリ聞かれているんだよ」

「な、なるほど……それはちょっと恥ずかしいけど、理由は分かったよ。
……えっ、でもなんで男性のリョウスケに聞いているの?」


 ――余計な事には鋭い奴である。

一瞬怯んでしまったが、悪い頭を必死で回転させて答える。


「俺だってお前の生活なんて言いたかないけど、仕方ないだろう。
安心しろ。お前の実生活なんて俺自身興味がないから、アリサとかにレポートでまとめてもらって伝えているよ。

俺の仕事はお前の護衛だから、安全面などは伝えているけどな」

「パパもママも私に聞いてくれればいいのにって思うけど、確かに親に言いづらいこともあるね……」

「俺がお前に内緒にしていた理由はプライベートが大きいけど、当然テロリスト関連もあるよ。
お前だって連日テロ対策会議の内容とか聞かされたくないだろう。ハッキリ言ってみんな真剣だし、緊張感でウンザリするぞ。

それでも赤裸々に伝えてほしいか?」

「……遠慮しておきます」

「ほれみろ」


 まあ俺もそこまで深く関わっていないけどな。親父さん達だって、素人にテロ対策会議なんかに参加させる筈がないからな。建設的な意見だって何一つ言えないしな。

考えてみれば聖地で起きた戦乱はもっと酷い状況だったが、なんだかんだ白旗のメンバーがフォローしてくれていたんだよな。

俺なんかトップだったのに責任取るだけで、他は大体知見者達に任せていたしな。部隊の運営だって、副隊長の彼女に全部任せっきりになってる。


そういう意味では役立たずなんだけど、現実はファンタジーではないのだ。素人がいきなり英雄になんぞなれない。


「それで今後のことなんだけど、日本公演に出演するのってお前を含めて女性ばかりだろう。
男の俺だとどうしてもサポートできない部分がある。

そういう意味ではエリスが適任なんだけど、あいつはクリステラ夫妻を担当するから難しい」

「私としてはリョウスケがいてくれればそれで安心だよ!」

「お前……極端な話更衣室とかトイレとかまで、俺だとカバーできないだろう」

「リョウスケはそういうことには興味がないから平気だよ」

「どういう理論で安心感を得ているんだお前!? それに他の出演者だっているだろう!
ということで、新しい人を迎え入れることになった。俺がお世話になっている剣の先生で、女性だ」

「えっ、もしかしてリョウスケの新しい女の人!? はんたーい、はんたーい!」

「だから歌姫のいい声で喚くな!?」


 ……とりあえず事情を話したら何とか納得して、安心したようだ。普段のアホなこいつに戻った。

実は師匠に関する説明は話しながら思いついたのだが、実際歌姫達が出揃うコンサートにはふさわしい護衛かもしれない。鬼のように強いしな。


ただ愛想のいい人ではないんだけど……それを言うのは贅沢か。














<続く>








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