とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百二十七話



 事件が起きたホテルを出て、俺と師匠は別行動をすることになった。シュテル達は各方面への報告と助力を行ってくれている。

テロリストに襲われたティオレ御婦人は厳重警戒の元、医療チームに診断と治療が行われている。ユーリやイリスの能力で完治こそ出来なくても、健康は取り戻せている。

事件を起こしたテロリストは逃走したが、標的をもう一人のフィアッセに変える可能性はゼロではない。シルバーレイやディアーチェ達が不審に思われない程度に、護衛してくれている。


肝心のフィアッセは俺が不在だと勘繰るかも知れない為、逆説的ではあるが事件が起きた為確認に出向いていると伝えておいた。まあ嘘ではないしね。


「行きたい所がある、付き合ってくれ」

「分かりました」


 どうやって調達したのか地下駐車場に車があり、御神美沙都師匠本人は運転席へ滑り込む。運転できる事自体については今更驚かない。

最近高級車や警備車にばかり乗っていたせいか、普通の乗用車が何だか新鮮に感じられた。防弾しようかどうかは敢えて聞かないことにする。

師匠がいれば何の心配もないとは言え、妹さんを通じて警備チームには連絡を入れてある。テロリスト達に狙われている以上、無防備に行動はできないからな。


夜の一族が資金と人材まで投入して俺を守ってくれているのだ。義理を欠かせてはいけない。


「一応聞きますけど、高町の家には向かっていないんですよね」

「その点については後で話し合うとして、まあ無関係ではないな」


 おっ、珍しい。完全に否定しなかったぞ。勿論、俺の説得が通じたなんぞとは欠片も思っていない。

本来他人の事情には口出ししないし、家庭問題においてはむしろ関わりたくない部類だ。何より本人が関わってほしくなさそうだからな。

俺本人も別に家庭問題を解決しようなんぞとおこがましく考えていない。ただ師匠には本当に世話になったし、美由希や恭也には世話になっている。


お節介程度なら焼いても別にいいだろう。本当に嫌なら無理強いはしないしな。


「……この一年で裏社会の勢力図も激変した。
夜の一族の台頭と勢力拡大、表社会からも波及しているテロ撲滅の流れで、古く悪しき社会は崩壊している。

私も"サムライ"として随分血刀を振るったが、結果としてお前がテロリスト達に狙われる一因になってしまった。すまないと思っている」

「いや、海外で俺がやったことですでにブラックリスト入りしているでしょう。今更ですよ」


 裏社会で"サムライ"が恐れられているのは、俺がドイツの地でテロ事件を解決したからではない。師匠がテロ組織とチャイニーズマフィアを斬り続けたからだ。

凶悪なテロ組織の強敵達を剣一本で倒し続けた実力は本物であり、その復讐心は脅威だった。一片の情もなく、師匠は報復を行い続けた。

俺は別に自分の名前を使われたからといって、自分がマフィア達に狙われる原因になったとは思っていない。むしろ師匠が気にしていたことに驚いた。


安心してください、師匠。俺はこの一年の半分は異世界や宇宙へ行ってたので、狙われている自覚は全くありませんでしたハハハ。といったら殴られそうだからやめておく。


「だが、もうすぐだ。
ターゲットであるクリステラ夫妻の元へ入り、国際警備保障や香港警防との連携も叶う。万全の体制で迎え撃てるだろう。
危険を犯してまで脅迫と宣戦布告までしてきたのだ、敵も全力を尽くしてコンサートを潰しに来る。

この機を逃さず殲滅すれば、今度こそ奴らに復讐できる」


 感情を表に出さないように努力しているが、ハンドルを持つ手は固い。絶好の機会が目の前に広がっているのだ、当然だろう。

師匠の言葉はやはり危うさこそあるが、初対面に比べればやはり落ち着いている。いざ敵を目の前にすれば平静ではいられないかも知れないが、少なくとも今は冷静だ。

敵討ちか、まず間違いなく死人が出る。平和な国で生きてきた者からすれば、人殺しは忌避するべきだし、止めるべきなのだろうが――俺にそんな道徳や倫理はない。


剣を手にしている以上、何をどう言い訳しても人を斬ることに違いはないのだ。


「危険なのは承知しているが、死ぬつもりはない。あまり大した約束は出来ないが、少なくとも生き残るように努力する。
どうやらお前は未熟ながらに、私を案じてくれているようだからな。そのくらいの事は言っておこう」

「やはり何もかもお見通しですね」

「代わりと言っては何だが、これは約束――というよりも願いに近いな」

「何です?」


「出来ればお前に、人を殺してほしくはない」


「……」

「平和な日本で育ったお前に本来であればこのような事を言う必要はないのだが、お前は渦中にいる。
クリステラ夫妻や警備の者達もお前に危険な真似はさせるつもりはないようだし、私もこうして日本へ来た以上は決してお前に危険な真似はさせない。

だがすまないが、私は復讐を行わなければならない。いざとなればどちらを選ぶか、あまり自信はない」


 ――聖地で起きた戦争で、魔女と相対した瞬間を思い出した。

戦場で戦っていたディアーチェが危険だと判断したあの時、俺は敵と戦うよりもあの子を守るべく剣を手にした。

あの時確かに俺は目の前の敵を切るよりも、ディアーチェを護ることを選んだ。あの瞬間、俺は剣士である資格を失った。


シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ、ナハトヴァール。あの子達は血の繋がりはなく、単にあの子達が父と慕ってくるだけだ。本来、何の血縁もない。


押しかけのような形で一緒になり、家族生活をしていた。まだ十代の俺に親の自覚を持つのは難しかった。

でもあの瞬間、明確に俺は剣ではなく子供を選んだ。それはきっと致命的なまでに決裂した一瞬だっただろう。


二度と戻れない道を選んだのだ。


「大丈夫です、師匠。俺はもう選んでいる」

「良介……」

「フィアッセやティオレ婦人を護ることに専念しますし、敵を斬ることにこだわりません。
だから師匠は――」


 師匠はその瞬間が来ることを恐れ、そして復讐を選ぶであろうことを自覚している。

だから言った。


「誓いを果たしてください」

「……そんな事が言えるようになったのだな、お前は」


 師匠が車を走らせた先は、誓いを立てたというあの場所。

彼女を復讐へ走らせた、家族の墓場だった。














<続く>








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