とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 第百二十六話
                              
                                
	 
 ホテルで起きた要人テロ脅迫事件。死傷者を出さず防げたが、上海に続き日本でも要人が襲われたとなれば世界も黙ってはいない。 
 
ティオレ御婦人は毅然とした態度でチャリティーコンサートの開催を宣言し、アルバート議員を筆頭とした政治家達は逆風が吹き始めていたテロ撲滅の流れを押し返すべく奔走する。 
 
ホテルでの騒動は全てを極秘することは出来ないが、事件そのものはあらゆる効果を生んで波及が広がっていくだろう。もはや俺のような小僧が出る幕はなかった。 
 
 
セキュリティもエリスが立て直したこともあり、油断はできないがティオレ御婦人の安否は守られるだろう。 
 
 
「ティオレ御婦人の様子はどうだ」 
 
「貴方がたにより心身が回復された事と、今日起きた事件も相まって、取り乱した様子もなく対処されています。 
貴方がたにも改めてお礼を述べたかったそうですが、慌ただしい場ではそれも叶いません。 
 
また是非機会を改めて、ご挨拶とお礼の場を用意させてください」 
 
「いや、まあそこまで言われる程でもないが……雇われている身だしな」 
 
 
 国際警備会社を率いるエリスが居なければ、契約こそ結ばれても結局護衛ゴッコでしかなかっただろう。 
 
人そのものを守れたとしても、事件として発展すれば守らなければならないのがそれだけでは済まない。社会的立場や環境、名声や名誉も傷つけることがあってはならない。 
 
そういった政治的方面は、社会的立場がなければ守れない。地球上では俺は単なる一日本人で、大人にもなっていない子供でしかない。今まで一人ぶらついて生きていたのだから、そんなものはありはしない。 
 
 
謙遜するつもりは別にないが、エリスのほうがよほど立派に守っている。俺は首を振った。 
 
 
「……私は今日、あのテロリスト達を前に力を振るうことすら叶わなかった。 
脅迫に屈することもなく堂々と立ち向かった貴方に対し、傍観することしか出来なかった自分が歯がゆいです」 
 
「あの場には大勢の怪我人が居て、護衛対象も命を狙われていた。迂闊な行動や判断ができなかったのは無理もない。 
それに本当に危険が迫れば、あんただって動けていた筈だ」 
 
「しかし、貴方は御婦人を護るべく行動を――」 
 
 
「いや、あんたがいたからだよ」 
 
「えっ……?」 
 
 
「俺はあくまで男達にハッタリきかせていただけだが、あんたはあの場にいた全員を護るべく最善を尽くそうとしていた。 
他の人達を守ってくれていたから、俺はあいつらに集中することが出来たんだ。 
 
今日誰も死ななかったのは、あんたが守ってくれたからだ。こちらこそ頼りにしている」 
 
 
 落ち込みかけていたエリスの肩を叩いて事実を告げると、彼女は俺を見つめ返して顔を赤くしている。こんな事、シラフで言わせないでほしい。 
 
俺は別に英雄でも勇者でも、ましてや物語の主人公でもないんだ。テロリストを相手に立ち向かえるのは、ハリウッドスターくらいである。 
 
俺がテロリスト達相手にハッタリかませられたのは、エリスやユーリ達が他の人達を守ってくれていたからだ。絶対傷つけられない保証があるから戦えたのである。 
 
映画風にいうなら台本があって成立する場面であって、ユーリ達がいなかったら俺だってビビって震えていただけだろう。 
 
 
考えてみればドイツで起きた要人テロ襲撃も、ローゼ達を頼っていたので基本俺は何にも出来ていないな。 
  
「あの、今更と思われるかも知れませんが」 
 
「? ああ」 
 
「貴方のことを名前で呼ぶ事を許してもらえませんか」 
 
「?? 前から適度に呼んでなかったっけ」 
 
「女性が男性に申し込むのとでは意味が違います」 
 
「??? う、うん、別にいいけど……というか、俺こそ無断で名前を呼んでいるしな」 
 
 
 外国人ってむしろ日本人より気安く他人の名前を呼んでいる気がするんだが、俺の一方的な思い込みというか偏見なのだろうか。 
 
いずれにしても嬉しそうではあるし、別に断る理由もないので承諾して握手を交わす。彼女の手は冷たいが柔らかく、人を守り続けている手をしていた。 
 
事件現場は彼女に任せて、俺達は一旦引き上げる事にした。ユーリやイリスの力もあって、ティオレ御婦人は生命力を取り戻せた。元気になっただけでも大きな前進だろう。 
 
 
エリスとの話し合いを追えて、俺は改めて師匠の元へ戻る。話を聞いていた師匠は、何故か睨みつけている。 
 
 
「お前、あの女性とは親密な関係なのか」 
 
「いやいや、今回の事件を通じて知り合った仕事仲間です。あんな美人と親しくなれるはずがないでしょう」 
 
「……」 
 
 
 エリスと俺が親密な関係になっている? 確かに仲間意識があるけど、あんなエリートばりばりの才女がどう転んだって俺になびくはずがない。 
 
彼女はほぼ絶対、フィアッセの護衛を名乗る俺の素性を調べ尽くしているだろう。エリスが調べなくたって、アルバート議員やティオレ御婦人が娘の周りをうろつく男を探らないはずがない。 
 
残念ながら俺個人に特別な背景や素性なんぞないので、ちょっと調べたら孤児院を脱走した浮浪者だとすぐに分かるはずだ。誰が好き好んで、こんな異国の男と親しくなろうというのか。 
 
 
御神美沙都師匠は考え込んだ様子で、俺を見やる。 
 
 
「お前の言いたいことは分かるし、お前という男のことも分かっている。しかし、気になることがある」 
 
「気になること?」 
 
「他人の事情にあまり踏み込まないお前が、美由希の事になるとあれこれ世話を焼こうとしている節がある。 
私としてはありがたい話ではあるのだが、あの子のことを考えると複雑でもある。 
 
お前、まさかとは思うが美由希とは――」 
 
「エリスよりありえないですから!?」 
 
 
 ちょっと待て、違うんだ。確かに美由希の事でお節介焼いている自覚がある。 
 
師匠と美由希を繋げようといろいろ画策したし、相談に乗ったりと自分でもどうかとしているほどに動き回っている。 
  
だがそれはあくまで美由希ではなく―― 
  
「私としてはお前であれば、とも思うのだが、お前は女のことになると……」 
 
「ちょっと師匠、誤解ですって!?」 
 
 
 目の前の女性のことを考えて行動しているんだ。 
 
面と向かってそういえない俺は、誤解しまくる師匠をなだめるのに必死だった。 
 
 
師匠も人の親か……というかそんなに気にしているなら、それこそ会いに行くべきだろうに。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<続く> 
 
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