とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百二十二話
「……あんたは一体」
手に持っているのはスライサーのような大剣ではなく、太刀。
大陸の伝統芸である鋭き刃を手にして、男は毅然と立っている。
スライサーはこの男をボスと呼んでいた。
「まさか、本人が直接出向いてきたとでもいうのか。御婦人から離れろ!」
「控えろ、小娘。対等の口が叩けるとでも思っているのか」
「っ……」
「俺の相棒に舐めた口を叩くな」
エリスから銃口を向けられて、ボスはエリスに剣気を向ける。切り裂かれそうな空気にエリスは息を呑んだ瞬間、俺が前に出た。
確かに恐ろしくはあるが、怯む程ではない。大したことがないのではない、少なくとも実力は折り紙付きだろう。正体も想像がついた。
だが生憎と、俺は御神美沙都という剣士と出会っている。復讐に燃えていた当時の彼女は恐ろしいなどというものではなかった。
誰も皆凍りつく中で、俺達は対峙する。俺はスライサーを一瞥する。
「仕方がなかったとはいえ、そいつから俺のことがバレたのか」
「日本に居ることは分かっていたが、人物像を聞いてハッキリした。噂とは当てにならんな。
写真や映像ではどこにでもいる平和ボケしたガキにしか見えなかったが、なかなかどうして堂々としたものじゃないか。
世界中で暴れまわった"サムライ"と、あるいは同一人物だったか。この俺を前に立ち塞がるその胆力は褒めてやる」
……まさか俺が異世界や宇宙で暴れ回っ、修羅場を潜っていたなんて、夢にも思わないだろうなこいつ。
ずっと日本で平和に過ごしていたら、確かにこの男を前にして震え上がっていただろう。経験が生きているのだが、それはそれで複雑である。
戦えば勝ち目はないが、それはあくまで単独の話。シュテルは少なくとも襲撃自体は呼んでいて、自分自身やユーリ達を俺と同行させている。
一種即発の中で、男はティオレ御婦人を見やる。
「要求を端的に述べよう、コンサートを中止しろ」
「それは、出来ません」
「この場にいる全員を殺すことが出来る。二度言わせるな」
「っ……」
要求を伝えた男にティオレ御婦人は反射的に断るが、鋭い目を向けられて言葉を失ってしまう。
彼女の信念は強く、寿命も迫っているのもあってコンサート開催は文字通り悲願だった。そのままの意味で命がかかっている。
しかし、その悲願に他人の命まで乗せられたら話は別だった。他人を犠牲にしてまで夢を叶えたいかどうか問われれば、彼女だって何も言えなくなる。
だからこそ、その重荷を代わりに背負うのが護衛というものだろう。
「ティオレ御婦人、心配は無用です」
「えっ……?」
「貴方がたを護ることが、我々の仕事です。こんな男達に手出しなんてさせませんよ」
「吠えるな、小僧。殺されたいのか」
「やってみろよ」
虚仮威しではない。俺が威勢の良いことを敢えて言ったその瞬間、刃が文字通り飛んできた。
剣閃という表現は決して誇張でもなんでもない。刃が煌めいた途端、目の前で甲高い音が木霊した。
凄まじい太刀筋と感じたのは、既に斬られた後だった。万が一にでも無防備に立っていたら、絶命していただろう。
恐るべき太刀ではあったが、ユーリのガードは突破できない。
「超能力か。異能を盾に粋がるとは呆れたものだ」
「なんとでもいえ。俺はどうとも思わない」
「……」
「見逃してやるから、さっさと出てけ」
場が硬直する。一見すると状況は優勢に見えるが、実は結構ヤバい。
男達の実力は超一流、他人を平気で殺せる精神性。こっちは世界を破壊する力さえ持っているが、他人を殺せない精神性。
ユーリ達の力は強大であり、殺し合いになれば部屋どころかホテルまで巻き込んでしまう。
規模がデカすぎて、逆に本気を出せない。
「……」
「……」
実を言うとこっちは守れるだけで戦えなかったりする。
向こうに本気になられるとまずいのだが、下手に出ればつけ上がらせて犠牲者が出る。
睨み合っていると――電話が、鳴った。着信名を見て、すぐに通話をオンにする。
「チャイニーズマフィア"龍"、お前らの大好きな"サムライ"からだ」
『龍!? そこにいるのか』
「なっ!?」
『……状況は理解した、震えて待っていろ』
チャイニーズマフィアのボス、そして日本へ来日した御神美沙都。
舞台に、全ての役者が揃った。
「まあ、いいだろう。今日のところは目的を果たした」
「目的……?」
「サムライと歌姫。取るべき首を御照覧あれ、だ!」
男が不敵に笑って顎をしゃくると、スライサーが大剣を振るう。
病的なまでに剣同士での戦いを求める男に一瞬その場にいた誰もが警戒した瞬間、彼の大剣による一撃が文字通り火を吹いた。
ユーリの防御魔法は鉄壁ではあるが、残念ながら建築物にまで及んでいない。
凄まじい轟音が鳴り響いて、ホテルの鉄壁が炸裂してしまう。爆風が一瞬その場を満たし――晴れた時には、誰も居なくなっていた。
『良介、お前達は無事なのか!?』
「ええ、師匠の声を聞いて撤退しました。有名人ですね」
『場所を教えてくれ、すぐに合流する。いいか、くれぐれも奴らを追おうとするんじゃないぞ』
――釘を差されてしまった、俺の性格を見抜いている。実際、衝動的に追いそうになってしまったからな。
実際問題、奴らを退けることは出来たが勝ったとは言い難い。連中は少なくと目的を果たして去っただけなのだから。
師匠のお陰で均衡は崩れたが、あの場で睨み合い続けていたら戦争に発展していたかもしれない。
ユーリ達がいれば何とかなりそうだが、危険ではあるからな。
それにしても"ボス"か……まさか、とは思うが。
<続く>
|
小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。
[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ] |
Powered by FormMailer.