とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百二十一話
『父上、お耳を拝借』
『何だよ、小声で』
『早速ですが、父上が一番愛するこの愛娘がお役に立ってみせましょう。
これまでの事情をお聞きした上で、次の敵の動きがある程度予想できます』
『……お前、何気にヴィヴィオ達に対抗心を燃やしていたのか』
フィアッセに俺の家族を紹介した後、シュテルに袖を引っ張られて耳打ちされた。
当時俺は敵の動きについて一応色々考えてはいたのだが、結局コンサート会場を襲うという最終目標しか見出だせなかった。
しかしシュテルが想定していたのは、チャイニーズマフィアの動向だった。
『まず父がいるこの国での活動は一時的に控えるでしょう』
『俺やフィアッセを狙うのを諦めてくれるのであれば、それに越したことはないが』
『残念ながらその可能性は低いですが、少なくとも優先順位は変えるでしょうね』
『俺達ではなく、海外にいるフィアッセのご両親を狙うとか』
『正確に申し上げると父上が述べられた目標を狙うべく、力を蓄えるでしょう。
狙いやすい相手は別にいます』
『別……?』
『彼らの縄張りです。チャイニーズマフィアは元々アジア圏で幅を利かせていた組織でしょう。
ヨーロッパ大陸への組織拡大を狙って幾つか策を練って暗躍していたようですが、父上のご活躍によりご破産。
それどころか父上が懇意とする方々の反撃にあって、勢力を削られる羽目になってしまった。
海外での活動が困難となったのであれば、まず足場を固め直す所から始めるでしょうね』
シュテルが俺の知能指数に合わせて、選挙に負けたので地元での活動を優先するという分かりやすい例えで言ってくれた。納得である。
俺はこの話を聞いた時は組織再編程度に考えていたのだが、蓋を開けてみれば上海で暗殺事件が発生してひっくり返ってしまった。
いい加減自分も一般人と言い張るのは難しいとは思いつつも、平和慣れしている日本での常識はまだまだ定着しているようだった。
まさかシュテルの言っていたことが、ここまで凄惨な一手だとは想像できなかった。
『彼らの戦略が実ったとすると、次に行うのは脅迫ですね』
『また脅迫状でも送ってくるのか、懲りない奴らだな』
『いえ――もっと直接脅してくるでしょう。
彼らはマフィアであり、そしてテロリスト。主義主張に拘る悪党達です。
次は暴力で訴えてくるでしょう』
「父上!」
「――!?」
シュテルの警告が俺の思考を打ち消して――物音と共に、ティオレ御婦人のいる部屋から悲鳴が聞こえた。
当たり前の話だが、診療中とはいえ護衛対象を無防備で放置する筈がない。俺達は確かに別室に控えていたが、警備員は常駐させている。
悲鳴が聞こえたのとほぼ同時にエリスと視線を交え、頷き合って俺達は控室から飛び出した。
エリス・マクガーレンは駆け抜けながら、2挺の拳銃を同時に引き抜いた。
「申し訳ない、貴方達を直接巻き込むつもりはなかった」
「雇用契約を結んだ時点でゴッコ遊びではなくなっている、協力しよう」
「頼りにしています」
俺達はそのままティオレ御婦人のいる部屋へ、飛び込んだ――
「良介さん!」
「これは……」
――眼の前に広がっている光景は、想像通りであった。
豪奢で清潔なホテルの部屋、床に転がっている警備員達、部屋の片隅で震えている医療チーム。
部屋の中央に立っているティオレ御婦人、彼女の前で両手を広げて庇う姿勢を見せているフィリス。
そんな彼ら全員を覆う、光の膜――魔力光。
「――HGS患者が保有する超能力。
光をエネルギーとして取り込むというが、これほど見事に具現化出来るとは素晴らしいな」
ミッドチルダの防御魔法には高町なのは達がよく使うシールドやバリアタイプ以外に、フィールドタイプがある。
各個人を防御するだけではなく、空間そのものを包み込む防御。空間を掌握しておけば、空間内にいる全ての存在を防御することが出来る。
それだけ聞けば有効範囲が広くて便利に聞こえるが、シールドやバリアタイプとは比べ物にならないほどの魔力量が必要となる。少なくとも平均的な魔導師では運用できない。
だがシュテルが事前に察知してさえいれば、ユーリ・エーベルヴァインが余裕で長時間構築することが出来る。その本人は俺の後ろに隠れて、目の前の襲撃現場に縮こまっているが。
「"ボス"、あの日本人がサムライだよ」
「ほう……はるばる日本まで足を運んだ甲斐はあったな」
魔法を超能力と誤認している男達。要人を襲撃したのにも関わらず、まるでスイートルームの主であるかのように振る舞っている。
二人の男、その中の一人には見覚えがある。"スライサー"と称される凄腕の剣士、エリスが揃えた凄腕の警備員達を倒したのはこいつだろう。戦闘機人ディードを敗北寸前に追い詰めた剣士。
テロ事件を起こした主犯達は今も逃走中のはずだが、いつの間にか舞い戻っていたのか。諦める筈がないと思ってはいたが、予想以上にふてぶてしい奴だった。
そしてもう一人――白いコートを着た、男。
「会いたかったぞ、サムライ。
まさかこんな小僧一人にここまで奔走させられるとはついぞ思わなかった。
憎しみも通り越せばいっそ情すら湧いてくるというものよ」
初対面で御神美沙都から感じた異質な気と同等の雰囲気を感じさせる男。
ただ見つめられるだけで冷や汗が自然と流れてくる。
暴力などという生易しいものではない。目の前に立っているだけで、死を感じさせる。
御神美沙都師匠と同格の存在。
「……あんたは一体」
手に持っているのはスライサーのような大剣ではなく、太刀。
大陸の伝統芸である鋭き刃を手にして、男は毅然と立っている。
スライサーはこの男をボスと呼んでいた。
<続く>
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