とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 第百二十話



「病は気から」という言葉がある。

寿命による衰弱に加えて、度重なる脅迫と圧力による心労。心身共に疲弊して、起き上がる気力もなかった肉体。

病気は気持ちの持ち方によって良くなったり、悪くなったりすることを意味する諺。?心と体の健康は直結しており、心の持ち方次第で免疫力は大きく変化する。


言い換えると肉体に気力が戻れば、心の健康も取り戻せる。逆も然りである。


「ありがとう、天使のようなお嬢ちゃん。こんなに気持ちの良い目覚めは何時ぶりかしら」

「ティオレさん、体調はいかがですか」

「もう元気そのものよ、?今からでもすぐに世界ツアーへ行けそうだわ。うふふ、少しはしたないけど何だかお腹も空いてきたわね」

「すごい、こんな劇的に改善されるなんて……」


 「病は気から」は昔ながらの言葉ではあるが近年、科学的にも正しいと証明されている。

日々忙しくて休めない状態で気を張り詰めていると、周囲で病気が蔓延していても不思議とうつらないのに、緊張がほどけた瞬間に風邪をひいて倒れてしまう。

うつ状態になると神経の緊張が高まり、心拍数や血圧は増加して、不整脈や心筋梗塞がおこりやすくなるらしい。


フィリスはカウンセラーの技術や知識もあるので、ティオレ御婦人の状態を正確に診断できていた。


「ま、まだ無理はしないでくださいね。
ちょ、超能力で免疫力等を高め、身体的機能を向上させた状態なので、無理をすると反動が来ます」

「低下していた免疫機能も正常に戻しておいたけど、言い換えるとあくまで正常にしただけの状態だからね。
病気自体が治ったわけじゃなく、病気と戦える身体に整えただけ。

この子の言う通り無茶したら、疲弊してまた病気に負けてしまうから注意して」


 ユーリやイリスの能力は地球の言葉では表現出来ない為、地球人に説明できる範囲で超能力と説明している。フィアッセやフィリスの存在あってこそ証明できる言葉だった。

ただユーリは元々素直な良い子である為、嘘を付くのは徹底的に慣れていない。嘘を言えない性格なのもあって、舌でも噛みそうな感じで説明していた。

説明に苦慮するユーリの様子を見て呆れた顔をしたイリスが、幼稚園児でも伝わりそうな表現で補足してくれていた。


おかげで俺のような頭の悪い人間でも、頭に浸透する事が出来た。


「改めて紹介します。この子がユーリ、隣りに座っている子がイリスです。二人共、俺の養女です。
ユーリは見ての通り少し特別な力と出自こそありますが、実に良い子なのでうちの子にしました。

そっちのイリスは実に悪い子なので、うちの子にしました」

「ちょっと格差が酷くない!? グレる要因になるわよ」

「お前は元々グレているようなものだろう」

「ふふふ、なるほど。本当に素敵な子達なのね」


 一人ずつ紹介するとユーリは顔を真っ赤にしつつ微笑み、イリスは顔を真っ赤にして俺を睨みつける。対象的な二人を見て、ティオレ御婦人は上品に微笑んで二人の頭を撫でる。

紹介を終えて俺達は一旦退室して、医療チームによる診断が行われることになった。つい先程まで起き上がれなかった患者が元気一杯になったのだから、当たり前である。

健康になればそれでいいというものではない。改善されたのであればそれはそれで理由を探し、健康を維持するのも医者の務めだ。後はプロに任せるのが一番だろう。


控えの部屋には移ったが、賓客として丁寧に饗されることとなった。


「まさかあれほど改善されるなんて、本当に驚きました……私からも改めてお礼を述べさせてください」

「いや、礼を言うのはむしろこっちだ。超能力で改善するなんて真似を黙認してくれて助かった。
誰が聞いたって胡散臭い話だからな」

「確かに警備という視点だけではなく、常識的に考えても到底受け入れられない話ではありますが……
貴方が荒唐無稽な提案を持ちかけるような人間とは思いませんでしたから。

そもそもの話、この手の話はまず金銭と言った要求を先にするはずですからね」


 不治の病や癌に手を伸ばしてくる民間療法という名の詐欺行為は、この日本だけでも数え切れないほどある。

何ら根拠のない行為を医療として紹介して、生命を治す大小として高額な金銭や要求を行う詐欺。

俺のような非人道的な人間から見ても非道極まりない、卑劣な犯罪。ティオレ御婦人のような著名人であればカモ同然だろう。


超能力だの魔法だのといって持ちかければ、当然疑って然るべき事である。警備する側からすれば絶対に受け入れられない提案だろう。


「親切心や道場で気休め紛いの行為を行う人間とは思えませんでしたし、私や先生方が見守っていれば大丈夫だと考えていました。
しかしながらこうして実際に目の当たりにすると、本当に奇跡のように思えてきます。先生方が逆に心配になって急遽診断を行うのも無理はありません。

貴方がたからすれば疑われているようで不本意に思われるかもしれませんが、ご容赦ください」

「そ、そんな、頭を上げてください……わたしはお医者さんではありませんし、疑うのは仕方がないことだと思います」

「不審に思われるのは癪だけど、元々の目的はあくまであの人を元気にすることだからね。
一応言っておくけど完治したわけじゃなくて、あくまで延命の延長に過ぎないわよ。

こう言っては何だけど今の病気を治したって、寿命なんだから老衰するだけよ」


 エリスが頭を下げて感謝を述べるのを見てユーリはひたすら恐縮しているが、イリスは面白くもなさそうに現実を告げるのみ。

身も蓋もない話で聞く人が聞けば不躾に思われるかもしれないが、イリスは言い方こそ悪いが間違ったことは言っていない。

身体機能を正常に戻して免疫機能を高めた所で、根本的に限界が来ているのであれば根治は見込めない。生命は必ず終わりが来るのだから。


ユーリやイリスが出来るのは先延ばしであり、苦しまないように命が終わるまで癒やすだけだ。


「それでも医療チームが手を尽くしても改善が見込めそうになかった状態でしたから、充分過ぎるほどです。
特に最近海外で起きた事件により、ティオレ婦人は気を病んでおられましたから」

「無茶苦茶する連中だな……身体を持ち直しても、コンサートが開催できるかどうか。
あんたからしても今の情勢を顧みると、チャリティーコンサートの開催には不安視しているんじゃないか」

「スポンサーの意向であれば是非はありませんが、情勢を見れば確かに危ぶまれるところではあります。
ただティオレ婦人もこうして持ち直したのであれば、再び気運を高められることでしょう。

後は不安要素を少しでも取り除き、情勢を見据えて行動していくしかありませんね」


 ……師匠の顔が思い浮かぶ。日本で開催されるチャリティーコンサートに、自分達も協力したいという要望。

橋渡しをお願いされてエリスには少し話してはいたが、今あらためて提案するチャンスではないだろうか。

ティオレ御婦人が回復されたこのタイミングであれば、ユーリやイリスへの感謝も相まって俺の提案を受け入れてくれるかもしれない。


鬼のように強い師匠が護衛に加わってくれれば、相手がチャイニーズマフィアであろうとも戦える筈――


「父上!」

「――!?」


 シュテルの警告が俺の思考を打ち消して――

物音と共に、ティオレ御婦人のいる部屋から悲鳴が聞こえた。














<続く>








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