とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 百十八話
エリス・マクガーレンから、ティオレ御婦人が来日されるとの連絡が入った。
クリステラソングスクール主催によりチャリティーコンサート、世界ツアーの始まりである日本での公演が近付きつつあるこの日。
観光シーズンでもないのに日本を訪れる外国人が増加し、ちょっとした社会現象にまで発展しつつある。国際都市化した海鳴は注目を集め、お祭り騒ぎとなっている。
ティオレ御婦人の来日は、その情報だけで大いなる価値があるだろう。護衛として雇われているとは言え、一般人の俺に平気で漏らしてもいいのか。
『情報漏洩の心配は貴方に限ってありえないでしょう。その点は信頼しています』
「うーむ、まあ誰かに話す程暇でもないけど」
『ティオレ婦人も貴方との面会を希望されています。
滞在先のホテルは事前にお伝えいたしますが、貴方が御承諾頂けるのであれば車を回します』
「ありがとう、むしろこちらからお願いしたいくらいだ。例の件についても交渉したい」
『香港国際警防隊の件ですね。貴方からの願いであれば先方としても無碍には出来ませんが、政治的配慮が必要となります』
「クリステラソングスクールの警備を担当するあんたとしても、やはり面白くはないか」
『私個人の意見や感情は、雇い主の意向とは関係ありません。上海で起きた事件についても私のみならず、アルバート議員も強く懸念しています。
地盤を固められてしまった以上、こちらとしても手を打っておきたいところではありました。
そう協議していた最中貴方より提案されて、むしろ驚いたくらいです。思い切った手段ですが、貴方だからこその手でもある』
頼もしいですと告げられて、通信越しの俺はへの字口になってしまう。そこまで考えて提案した訳でもなんでもないからだ。
御神美沙都師匠より先日頼まれて、今回のチャリティコンサートとクリステラ一家の警備を申し出た香港国際警防隊の意向。
同じ国の間であればともかく、異国間での防衛となると政治的な配慮が必要となる。特に香港国際警防隊はその特性上、実力はあれど評判はあまり高くはない。
お互いに認識の齟齬や高い垣根があって飛び越えられなかった間を、俺が橋渡しした結果となった。
『いずれにしても対面で話し合う必要がありますのでよろしくお願いします』
「ああ、分かった。フィアッセは今回連れていけないが、護衛を置いておくので心配は無用だ」
『わかりました、頼りにしています』
「……」
『なにか?』
「いやなんか、そこまで信用していていいのかと思って」
『私と貴方の立場の違いを機にされているのであれば、むしろ初対面での対応を謝罪いたします。
今となっては私の方が貴方のことを頼りにさせていただいています』
「いや、あんたがいるおかげでこっちはフィアッセに集中できている。こっちこそ頼りにしている」
『ありがとうございます、お互いこれからも連携していきましょう。
職務の最中ではありますが、いずれ食事にでもご一緒させてください』
そう言って、エリスからの通信は終わった。うーむ、若くしてマクガーレンセキュリティ会社を継いだ女性から食事に誘われてしまった。
海外でも有名な警備会社を継いだ才媛からの誘いとあっては、男なら誰でも浮き足立ちそうである。
だがあいにくと社会人としての信頼関係構築だとわかりきっているので、俺の心は平静そのものだった。俺も大人になったものである。
それに口実としてはちょうどよかったので、俺は当日フィアッセに理由付けた。
「エリスと日本に来てるから、打ち合わせに行ってくる。ディアーチェが護衛してくれるから大人しくしていろよ」
「えっ、それって二人っきりで!? 浮気だよ!」
「俺とエリスの関係をお前は想像できるのか」
「……全く想像できないね」
マンションの一室で話を聞いたフィアッセは色めきだって立ち上がるが、直ぐに気を取り直した。ほれみろ。
すぐに色恋沙汰にしたがるが、いい加減一年くらいの付き合いになってくると、俺という人間の事を分かるようになる。
相手が美人であろうとも、浮ついた態度を取るような人間ではないことは分かっているだろう。二人きりになったからといって、どうなるとも思えなかったのだ。
フィアッセも難しい顔をしており、今日はオフだったアイリーンは話を聞いて笑ってる。
「でもフィアッセのことは置いておくにしても、リョウって女の子とかに興味ないの? そっちのケはない事は分かるんだけど」
「俺の知る女はどいつもこいつも一癖も二癖もあるやつばかりで、容姿とかよりもそっちが気になって心が動かない」
「うーん、これは深刻な女性不審だね。合コンとかセッティングしてあげよっか? アイドルとか可愛いどころ連れてくよ」
「ちょっとアイリーン、私がいる前で誘わないでほしいな」
「チッチッチ、これはフィアッセのためでもあるんだよ」
「えっ、どういう事?」
「リョウが女の子の良さを知ったらさ、身近にいる可愛い子にも目を向けてくれるかもしれないってことよ。
フィアッセも頑張ってるみたいだけどさ、リョウって恋愛とかそれ以前の問題じゃない?」
「うーん、そうかな……そうかも」
「どういう意味だ、てめえら」
俺の女性関係にはうるさいフィアッセまで、アイリーンの提案に神妙な顔をしている。まるで俺が男として欠陥があるみたいじゃないか。
俺も思春期の男、十代真っ盛りの若造である。女にだって興味あるし、性欲だってある。
ただそれ以上に腹黒い女とかが多いせいで、下手に手出ししようものなら逆に食われてしまいかねない怖さがある。
別に言い訳にするつもりはないが、子供までいるしな。恋愛なんぞにうつつを抜かすヒマがない。
「アタシの知り合い、日本人でも可愛い子いっぱいいるよ。"ゆうひ"も寮を出てフリーだって言ってたしね」
「へえ、さすがは世界の歌姫。日本の芸能人にも知り合いが多いのか」
「えっ、"椎名ゆうひ"って聞いてピンとこない? 最近特に話題になってる子だよ」
「最近日本にいなかった俺に聞かれても困る」
なるほど、フィアッセの護衛を務める以上、ある程度であっても芸能関係も知っておく必要はあるか。
フィアッセはテレビに出るタイプの歌姫ではないにしろ、チャリティコンサートに出演すれば世界的にも有名になるだろう。
世界ツアーについていくつもりはないが、日本での活動をフィアッセが行う上で関係者を洗い出す必要があるのは確かだ。
合コンとまではいかないにしろ、顔合わせくらいはしておきたいところではある。
「まあ紹介してくれるなら、会ってもいいよ」
「えっ、本当に? 社交辞令とかじゃなくて」
「フィアッセやあんたの人間関係を知っておくのは大事な事ではあるからな」
「何だ、びっくりした。そっちの事ね……でもまあ、キッカケが大事だもんね。うんうん、リョウの好みの子を連れてくるね。
アタシに任せて、フィー。必ずリョウを女の子に興味をもたせるからね」
「うん、うん……? それでいい、のかな……でもたしかにこのままだと発展しないし、うーん……」
フィアッセがしきりに首を傾げる中、アイリーンがウキウキで何やら電話し始める。
抜け出すいい機会なのでディアーチェに後は任せて、俺はティオレ御婦人やエリスのいるホテルへ向かう事にした。
ユーリやイリスを同行させて、いよいよ彼女の治療に当たる。
<続く>
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