とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章  村のロメオとジュリエット 百十七話
                              
                                
『良介、忙しいところすまないな』
 
 「お疲れ様です。師匠も忙しそうですね」
 
 
 上海で起きた政治家暗殺事件。国際的テロ事件が起きた後だったこともあり、世界でも大きく報道された。
 
 チャイニーズマフィアの仕業であると判明して、御神美沙都は真っ先に上海へ飛んで状況を確認しに行った。
 
 あるいは暗殺事件を起こした犯人、もしくはマフィアの残党を追ったのかもしれないが、彼女は憎悪に駆られても狂気には走らなかった。
 
 
 状況を把握した彼女は深追いはやめて、事件の立て直しを図った。
 
 
 『雇い主より情報共有を受けて真っ先に飛んだが、既に手遅れだった』
 
 「師匠がいれば絶対に防げたでしょうしね……あ、別に嫌味や皮肉ではないですよ」
 
 『それは分かっている。ただ悲劇を防げなかったのは、不甲斐ない限りだ。そちらの様子はどうだ』
 
 『やはり上海でおきた事件を少し不安に思っているようです。
 師匠の言う通り隠し事せずに話しましたが、よかったんですかね』
 
 『お前の話を聞く限り、ティオレ婦人の娘は聡明で感受性が高い。お前が口にせずとも、言葉や態度で察するだろう。
 下手に隠し立てするよりも話した方が、逆に安心することもある。護衛対象に信頼されるのも仕事の内だぞ』
 
 「それは分かっているんですが、あいつが聡明かどうかは怪しいところですよ」
 
 
 上海での要人暗殺事件は、当の本人が脅迫状を送られていたことが起因だった。
 
 テロリズムに反する公演を影響力の高い要人が行おうとしている。マフィア達にとっては更なる逆風となる為、脅迫して止めようとした。
 
 この流れはクリステラ一家に起きている状況と似ているというか、ほぼ同じだった。脅迫に屈しないところまで似通っている。
 
 
 だからこそ最悪の結末を思い浮かべるのは必然であり、今現在も脅迫されているフィアッセへのメンタルケアは必須だった。
 
 
 「師匠はこの事件をどう見ています?」
 
 『日本で起きている一連の事件とその結果、それに対するアンチテーゼに近しいな。
 張氏に起きた悲劇は、否が応にもクリステラへの悲劇に連想してしまう。その効果を期待した動きであることに間違いない。
 勿論張氏の脅迫と殺害は上海に置ける支配と影響力を取り戻す効果を期待しての行動ではある。
 
 ただどちらが主目的だったのか――張氏か、クリステラか。断定はできないな』
 
 
 ――案外日本で立て続けに失敗しているから、趣向を変えて地元で事を起こしたのかもしれない。
 
 今回狙われた人物は俺には何の関係もないし、守る義務も義理もないから、例え頼まれたって守ろうとはしなかっただろう。
 
 俺とは無関係な人間が殺されても悲しくも何ともないが、その結果フィアッセ達に波紋を広げてしまっている。
 
 
 手出しできなかったし、するつもりもないが、悪どい連中である。
 
 
 「土地勘がないので的はずれな質問ならすいませんが、上海なら師匠が今所属する国際警防隊が関われなかったんですか。
 それとも実際は警備に関わっていたけどやられたとか」
 
 『そうか、お前には警防隊の概要は話していたが、所属する面々の事は説明してなかったな。
 詳しい素性は明かせないが、連中は中国最強――いや、東洋圏最強の名をほしいままにする警察機構だ。
 
 徹底した実力主義の為に、元その筋の腕利きも多い。マフィアであろうとも恐れるような連中ではない』
 
 「そこまでの組織なのですか……師匠が所属するだけありますね」
 
 
 その筋の腕利き――だからロシアンマフィアのディアーナが、国際警防隊とコネを作れたのか。
 
 世界会議で父であるロシアンマフィアのボスを追い落として、新しいボスに君臨したディアーナ。最強の暗殺者である妹のクリスチーナと、裏社会を根底から覆した。
 
 表社会では貿易路を開拓して莫大な富を築き、裏社会ではクリスチーナを連れて悪党達を薙ぎ払っていった。当時彼女と契約していた御神美沙都が、そのコネを受けて国際警防隊に協力する事となった。
 
 
 独力で復讐するのは止めて、真っ当なやり方でチャイニーズマフィアの龍を倒すと決めたのだ。
 
 
 『香港の警防隊は殺し屋くずれや軍人くずれの巣窟と言われている。
 事実間違ってはいないのだが、表社会で幅を利かせるにはどうしても評判が悪くなってしまう。
 
 今回の件も国際警防隊は申し出たのだが、張氏から断れてしまったんだ』
 
 「ええ……命あっての物種だと思うんですが」
 
 『それはお前が私を通して国際警防隊を判断しているからだ。
 まあそれはそれで私を慕ってくれている証拠だから、悪い気分ではないが……いずれにしても国際警防隊は今回の件に関われなかった。
 
 私も遅ればせながら現地へ向かったが、結局事が起きた後でしか介入できなかった』
 
 
 師匠としても悔しかっただろうし、国際警防隊としても悲劇が起こるのを分かっていて防げなかったのは痛恨の極みだろう。
 
 硝煙くさい連中に守られたら、公園に来ているお客様が帰ってしまうとでも思ったのだろうか。
 
 政治家は面子も大事な商売なのは分かっているが、マフィアに狙われているのであれば、あらゆるツテを使って防ぐべきだろうに。
 
 
 師匠は電話の向こうで声を改める。
 
 
 『国際警防隊も此度の件の目的、そして次へ続く影響を見据えている。
 今回の件で少なくとも中国、そして東洋圏に続くテロ撲滅の流れに対して歯止めがかかったのは事実だ。
 半年前におきたドイツの地での要人事件、そして日本で起きた爆破テロ。チャイニーズマフィアが起こした事件とその末路により、テロ防止と撲滅に向けて加速していた。
 
 国際警防隊としてもこの流れに便乗して打って出る好機だったからこそ、流れを止めたくないと考えている』
 
 「今こそ評判を正す良い機会でしょうしね」
 
 『ああ、否定はしない。
 だからこそ連中にとっては本丸であるチャリティーコンサートは何としても成功させ、クリステラを守りたいと考えている。
 だが当要件でさえ煙たがられている国際警防隊が、クリステラのチャリティーコンサートへ介入するのは困難だろう。
 
 そこでお前に頼みたいことがある』
 
 「えっ、ちょっと待ってください。まさか、俺に口利きしてほしいとか言わないですよね」
 
 『お前、自分にそんな影響力があると思っているのか』
 
 「ははは、そうですよね」
 
 
 『私はそう思っている。だからお前から是非私を紹介してほしい』
 
 「ちょっと師匠!?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 <続く>
 
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