とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 百十六話
コンサート開催が発表されてからクリステラの名は世界中に轟き、チャリティーコンサートという名目はこの上ないほど光り輝いている。
善意に満ちたイベントは斜めに見られがちだが、ティオレという偉大な女性より発表された名目は信頼と慈愛に満たされており、拍手喝采を浴びた。
コンサートチケットは当然のように完売、最初の開催国である日本での公演は世界中から注目されている。チケットは完売されていても尚、人々は狂ったように求めている。
プレミアムな黄金チケットが当然のように主演の歌姫達から渡されると、不思議な気持ちになる。
「はいこれ、家族分のチケット。招待席だから人目も気にせず見れる席だよ」
「コンサート会場に招待席なんぞあるのか」
「あはは、リョウスケはコンサートとか見に行かないから分からないよね。
アリーナやドームクラスだと、バルコニーとかの1ブロックが招待専用になっているんだよ」
「海鳴にそんな大きな会場とかあったか」
「あ、リョウスケは留守だったから知らなかったか。都市開発の一環で最近大きな施設が出来たよ」
――日本で最初にクリステラソングコンサートが行われるのだから、当然開催場所である海鳴も大きな注目が集まっている。
この機を読んでいた訳じゃないだろうが、夜の一族が行っていた海鳴の国際都市化が実を結んだ形になっている。コンサート前後は世界中からファンの人々が押し寄せてくるだろう。
昔の地方都市であれば受け入れる容量がなかっただろうが、あいつらがやりたい放題やったせいで、皮肉にも国際的なチャリティーコンサートが開催できるようになっていた。
海鳴を運営する政治家達は急激な都市開発に当初住民から反発も出ていたが、今となっては大きな評価と指示を出している。
「アイリーンもこの時期になるとやっぱり気軽に買い物とかいけないみたいだね。今日も仕事は車で行っているよ」
「あの人は自由奔放すぎる」
「変な話だけど私は狙われている身だから自重し、こうして人前には出ていないから巻き込まれてないけどね。
練習スタジオとマンションの往復の日々だけど、リョウスケがいてくれるから安心」
「警備は他にもいるから、今の平穏が俺一人の功績という訳じゃないがな」
夜の一族の姫君達、カレン達についてはようやく秩序を取り戻しつつあるらしい。
世界会議で次なる長が決まり、カレン達後継者が一致団結して覇道に乗り出した半年間。表裏問わず、世界の勢力図が激変した。
各国の夜の一族が乗り出したおかげで勢力は拡大し、影響力が広がった反面、精力的な改革は反動も生んで反対勢力との激突に発展した。
しばらく連絡も取れていなかったが、最近ようやく制圧に成功したらしい。コンサートを機に、日本進出へ乗り出すようだ。
「怖がらせるつもりはないが、平和だからといって油断しないほうがいいぞ」
「う、うん、ニュースでもやっていたもんね……」
【党の次期総書記、張大人が公演中に暗殺】
上海で起きた政治家暗殺事件。日本で起きた爆破テロ事件後、世論がテロ撲滅の流れにあった延長で起きた痛ましき事件だった。
平和の流れに冷水を浴びせるかのような暗殺事件。国際的テロ事件が起きた後だったこともあり、世界でも大きく報道された。
死者は18名、負傷者にいたっては34名。パニックによる被害も大きく、恐ろしい事件が起きてしまった。
「……この事件、脅迫状が来ていたんだよね。公演の中止を訴えて」
「一般には公にされていないが、チャイニーズマフィアの仕業らしい。上海は奴らの本拠地で、影響力を取り戻すために事を起こしたそうだ。
殺された要人は有力な政治家で、日本での爆破テロ阻止を称賛してテロ撲滅を訴え、指示を訴えていたようだ。
この公演ってのもテロリズムへの明白なアンチテーゼを訴えるものだったらしい」
俺もすっかり頭でっかちになっていたが、チャリティーコンサートを潰す以外にも奴らが影響力を取り戻す手段はあったのだ。
日本での活動に失敗したのであれば、自分達の縄張りで活動するのはある種当然の帰結だったと言える。
これで失敗していたら目も当てられないことになっていたが、残念ながら奴らの目論見は成功してしまった。
この一件以後、堂々とテロ反対を訴える権力者達は鳴りを潜めてしまったのだ。
「こんな事を言うのは不謹慎かもしれないけど、私……
ううん、ママもパパもリョウスケがいてくれて本当に良かった」
「いや別に、俺がいるからってテロを必ずしも阻止できる訳じゃないからな」
「でもリョウスケは私を守ってくれているし、パパ達も爆破テロから救ってくれた。
今もこうしてコンサート開催に向けて動けているのは、リョウスケのおかげだよ。ありがとう」
「コンサートが終わってから言ってくれ」
フィアッセが手を熱く握って礼を言ってくれるが、俺は半ば肩を落としてそう言った。まだ終わってないしな。
殺された政治家だって呑気に構えていたわけじゃない。政治家は脅迫に屈さず、警備隊を独自に編成していた。
講演会のステージ周辺に警備員50名、会場全体ではなんと400人を超える人員を揃えていた。
当たり前だが全員プロ、少なくと誰一人俺のような素人より弱い人間なんていなかっただろう。
「さて、お前もそろそろ練習に行くんだろう。俺もちょっと電話してくる」
「うん、今日もよろしくね」
フィアッセが着替えに行っている間に、携帯電話を取り出す。
そもそもの話外国でおきた事件の詳細、しかも報道もされていない情報を俺が何故知っていたのか。
答えは単純である――この人が教えてくれたからだ。
『良介、忙しいところすまないな』
「お疲れ様です。師匠も忙しそうですね」
チャイニーズマフィア、テロ組織でもある龍に並々ならぬ憎悪を抱いている女性。
上海で起きた事件だって他人事ではいられず、何よりも先に情報を掴んで行動している。
御神美沙都がコンタクトを取ってくれた。
<続く>
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