とらいあんぐるハート3 To a you side 第十三楽章 村のロメオとジュリエット 百十五話
海鳴に家族全員揃ったが、だからといって護衛の仕事に全員を関わらせるつもりはなかった。
元々は帰参組である俺やディアーチェ達だけで対応するつもりだったし、ユーリ達はあくまでチャリティーコンサートに招待されて呼んだのだ。
本人達は俺の仕事を手伝いたいと積極的に手を上げてくれたが、こいつらも聖地やエルトリア日々自分たちの仕事に邁進していたのだ。
こういう機会に休ませてやりたかった。
「ヴィヴィオは海鳴、というか天の国(地球)に来るのは初めてだったな。折角だから観光してこいよ」
「えっ、でもパパはお仕事なのに……」
「親が仕事しているから手伝うってのは良い子ではあるけど、子供らしくはないぞ」
ヴィヴィオがおずおずと申し訳無さそうに口を出すが、俺は敢えて一刀両断した。
今の言葉はヴィヴィオに直接言ったが、同時に他の子供達にも周知する意味で声を出している。
ヴィヴィオ達は自立心が高く、手間がかからない良い子達だ。こんな社会経験もないガキの俺が子育てなんて出来ているのも、こいつらだからこそだ。
とは言え、子供らしさを失うのもよくないと思う。俺は悪い意味で子供らしくはなかったので、だからこそこいつらには子供らしく育ってほしい。
「ミヤ。お前も久しぶりの里帰りなんだから、挨拶がてらこいつらを案内してやってくれ」
「うっ、はやてちゃんはミヤの事なにか言ってましたか……?」
「人助けに忙しい子やねーとか言って苦笑いしてたぞ」
「うう、帰りづらいからヴィヴィオちゃん達と一緒のほうがいいかも……」
聖地での覇権をかけた戦争で街は荒れてしまい、当時俺と一緒に同行していたミヤはボランティアで残ることとなった。
当時(半ば無理やり)仲良くなったアギトに俺のデバイス役を任せ、ミヤは聖地の復興に励んでいた。
その事自体はすごく立派ではあるが、やる気を出すと夢中になってしまうのがこいつの悪い癖でもある。全量の塊のようなデバイスだからな。
おかげで全くといっていいほど海鳴に帰らなくなってしまい、本来の主である八神はやてを心配させてしまっていた。
「お前達も言わば仕事帰り、海鳴に来たばかりで疲れているだろう。しばらくは観光でもしてのんびり過ごせ。
この街を知るのはこれからの事を考えると悪くない」
「うん、そうだよね。ここはパパの世界だもんね、ヴィヴィオも色々見てみたい!」
「ナハトヴァールやレヴィも久しぶりだろうしな、お小遣いもやるから一緒に遊んでこい。
こっちはユーリとイリスがいるから心配しなくていいぞ」
「ちょっと待って」
そのままスムーズに予定完了となるかと思いきや、イリスが睥睨して声を上げる。ちっ、流されればいいのに。
大いに不服そうな顔をして、イリスは腕を組んで俺を睨みつけてきた。
「アタシ、この街初めてなんだけど」
「嘘つけ、お前が起こした事件の前後からユーリを尾行していたとか言ってたじゃねえか」
「ちょ、直接見てたわけじゃないからノーカンよ。大体ちょっかいかけた訳じゃないからいいでしょう。
そこのチビっ子がずっとユーリの背中に乗っかって邪魔してたんだから!」
「うう、あの事件以後は全然ナハトはわたしにおんぶしてくれない……」
「おー?」
イリスが忌々しそうにナハトヴァールを見やるが、本人はキョトンとした顔を見せるだけ。呑気な末っ子にユーリは溜息をついていた。
一時期――今にして思うとイリス事件前後――はいつもユーリにくっついていたナハトヴァールだったが、事件解決後はまた一人で遊び回るようになってしまった。
日頃ベッタリなのは流石にユーリとしても暑苦しかったのだが、突然離れられるとそれはそれで寂しいのか、逆にユーリがナハトヴァールに構うようになってしまった。
洗脳でユーリを憎んでいたイリスから守っていたのかどうか、本人の真意は定かではないが。
「それで、この子達は観光で遊びたい放題で、なんでアタシはあんたと仕事なのよ」
「お前とは養子縁組した関係だが、ある種親と子のように近しい面もあると思ってる」
「な、何よ急に……」
「ナハトヴァール達と一緒に観光へ行ってもいいけど、お前が暴れっ子達の面倒を見ることになるぞ」
「仕事するわ」
「そらみろ」
俺の指摘も余裕で想像がついたのか、イリスはゲンナリした顔で白旗を上げる。イリスはあくまで更生が目的で家族となったのであって、家族愛に目覚めたわけではない。
別にナハトヴァール達が嫌いという訳ではないが、街中を駆け回りそうな子供達の相手をするほど大人でもないのだ。
俺だって自分の子供じゃなければ、面倒くさいと思ってしまう。親として一緒に観光するべきかもしれないが、そこは申し訳ないがマフィアに狙われているので気軽に出歩けない。
マフィア達だってこいつらが俺の子供だなんて、想像もつかないだろう。
「ディアーチェ、申し訳ないですが父の補佐をしたいので今日は代わってください」
「むっ、父の補佐であれば我が務める――と言いたいところだが、何やら考えがあるようだ。
仕方ない、今日は家族サービスしてやるか。我もこの街で生活していて地理にも詳しくなってきている。
レヴィ、我々が子供達を案内するぞ」
「オッケー、何か食べに行こう!」
シュテルが名乗り出て、ディアーチェが思案げに承諾する。今回ばかりはシュテルの我儘だけではないと察したようだ。
実はこの分担はシュテルが事前に申し出てきた話だった。俺の事情を汲み取って、家族内で班編成を行うようにしたのだ。
ユーリとイリス、シュテルを連れて俺は仕事。ミヤが案内役として、ディアーチェとレヴィが子供達を案内する。
ディードは決戦に向けて剣の修業を続け、オットーが全体的なサポートを行ってくれる手筈となった。
「――それで? このメンツを集めたのには理由があるんでしょう」
「やはり気づいていましたか」
「子供には聞かせられない話なんでしょう。
ユーリも子供みたいなものだけど残してるってことは、この子の力を借りたいのかしら」
「えっ、そうなんですかお父さん!?」
イリスとシュテルの話を聞いてユーリは目を見開いて、俺を見やる。こういう素直な反応をするから事前に伝えられなかった。
ティオレ・クリステラの病状。寿命ともいうべき身体的な衰えと、病気による衰弱。フィリス達医療団も手を尽くしているが、完治は望めない。
俺の方も奇跡まで望んで完治させようと考えている訳じゃない。俺は神様ではないのだ、人の生死まで干渉できない。
だがせめて、彼女の最後の願いは叶えてやりたかった。
「段取りは取り付ける、お前の力を貸してくれ」
「じ、事情はわかりませんけど……わたしでよければ頑張ります!」
今も娘に隠してまで高級ホテルでふせっている、ティオレ御婦人。
ユーリの生命操作能力で改善が見込めるのか分からないが、出来ることは全てしてあげたかった。
この世界にはない概念である魔法を使うのはまずいかもしれないが、これくらいのズルは神様も許してくれるだろう。
<続く>
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