Ground over 第四章 インペリアル・ラース その4 今後
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さて、どのように説明をすればいいものか。
対面しているのは仲間でもなければ、人間でもない。
竜神族を名乗るフェイト。
端整な顔立ちにそぐわず単純馬鹿そうだが、油断も出来ない。
横目で葵を見ると、すました顔でコーヒーを飲んでいた。
事情説明は俺に任せるという事か。
頭の中で理屈を組み立ながら、俺は男に尋ねる。
「知りたいって事は現場を見ていたんだな?」
「ふ、隠そうとしても無駄だ。我が眼で一部始終見ていたぞ。
ありがたく思え、わははははは」
……元々尊敬も何もしてないって。
全てをさらけ出すのは簡単だが、科学について根掘り葉掘り聞かれるのは間違いない。
こいつが術の壮大さを語ったように、科学の偉大さを語りたい気持ちは大いにある。
所詮術なんて科学には勝てないとも思ってる。
ただ―――情報を無闇に与えると面倒事が増えそうだった。
この町は数日の内におさらばする。
これ以上の足止めはごめんだった。
「……以前、盗賊退治で手に入れた結晶石を使った。
術には詳しくないが、結晶石の威力は知っていたからな。
雲を吹き飛ばすのに利用出来ると考えた」
嘘じゃない。
本当に利用したのだから……
「俺様を嘗めているのか!そんなもの、見れば分かる。
俺様が聞きたいのは、結晶石を空へ飛ばした仕掛けだ。
あのような道具は見た事がない」
……やはり聞きたいのはそっちか。
どうすれば穏便にこの場を収められるかをよく考える。
はぐらかせば執拗に聞いてくる。
密接に言っても執拗に聞いてくる。
どうしたものか―――
「ふ………あんたはそれでいいのか」
「む、どういう意味だ?」
訝しげな顔をして尋ね返すフェイトに、同様の疑問を持って見つめる俺。
今まで黙っていた葵がここへきて本領を発揮する。
「我が友がここであっさり教えるのは簡単だ。だが、しかし!
仮にも竜神たる者が、人間如きの秘密を気になると・・・・・・?」
「ぐ、き、貴様・・・・・・!」
葛藤でも芽生えたのか、フェイトは苦々しい顔をする。
「力とは突き詰める事。
どうしても知りたくば・・・・・・己が努力で掴むがいい。
もっとも、友の力は偉大なる叡智にして、世界すら揺るがす。
知るには相応の覚悟は必要と言っておこう、ふっふっふ」
・・・・・・お前もある意味で世界を揺るがしそうだよ。
どんな根拠で、どれほどの自信があって言っているのか知らないが、葵は自信満々だった。
「ぐう・・・・・・」
フェイトもフェイトで難しい顔をして、俺を一瞥する。
おいおい、真に受けるなよこんなハッタリ。
このまま流れに身を任せると、泥沼どころか底なし沼にはまりそうだった。
俺はコーヒーを胃に流し込んで立ち上がる。
「ま、そういう訳だ。あんたもあんまり気にしない方がいい。
事件そのものは解決したし、俺達は数日中には船に乗って出て行くから。
話、ありがとうな」
「こら、貴様!話はまだ終わっ――――」
フェイトが何か叫んでいたが無視。
これ以上関わるとまずそうだ。
葵に退出を促して、俺は代金を払って店を出た。
「何でお前はそう余計な事を言うかな」
「全部本心だぞ、友よ」
「本心だから困るんだ、お前の場合」
話し込んでしまったせいか、外へ出ると外は完全に真っ暗だった。
街灯が照らし出すランプの光に導かれるように、俺達は市長の家へと歩いていく。
「それにしても―――
カスミ殿から聞いてはいたが、人類以外の種族もこの世界には住んでいるのだな」
「・・・・・・この世界へ来た時、いきなりモンスターに襲われたからな。
驚かずにはすんだよ」
フェイトと名乗った男の容貌を思い出す。
姿形は鍛えられた成人男性にしか見えないが、金色に光る瞳と二本の角が人間ではない事を教えてくれる。
術にも詳しいところを見ると、高レベルの術を操れるのかもしれない。
竜神族―――
絶対的な自信と自負を持つ、人類を超越した種族。
「人間に良い感情を持っていないようだったな」
「どの程度なのかは分からないけど、仮にも竜神を名乗ってるからな。
常識を超えた力とかあるんじゃないか」
関わりたくないタイプだったし。
心の中でそう呟いて、投げやりになりつつ言った。
「事件には関わっていないようだな、彼は」
「やり方に嫌悪してたからな。
犯人は別口にいるんだろう、あいつの話が嘘じゃないなら」
多分―――本当だろう。
俺達に嘘をつく理由などなかったのだから。
「町長殿には話すのか、友よ」
「うーん・・・・・・安心している街の人々を不安にさせたくはない。
かといって、皆に黙っているってのも怖いからな」
雨は止んで、街は安心を取り戻した。
先行きに不安を感じる事もなく、復興に力を注いでいる。
フェイトが教えてくれた話は、皆の元気を削ぐ事になってしまう。
人為的な災害―――
その恐怖に、人々を陥れる真似は出来ない。
「・・・・・・しかし、犯人はどうするつもりだ友よ。
吾輩としては野放しにするのは気が進まないが」
「手掛かりがなさすぎる。俺達の出来る領分を越えてるぜ。
後はお偉いさんの仕事だ。
冒険者との繋がりを持つカスミと、町長さんだけに話をしておこう」
この世界には役人や冒険者はいる。
人知を超えた自然現象ならともかく、犯人がいるんならその人達が探し出すだろう。
俺達の出来る事は終わったんだ。
「あの竜神ではないが、我々はこの世界――――この国の常識が圧倒的に欠けている。
もう少し詳しく知る必要があるな」
「・・・・・・だな」
例えば、日本では何かあれば警察を頼る。
だがこの世界で何かあれば―――ー何に頼っていいのかが分からない。
次の街で落ち着いた時、本格的に情報集めを行おう。
術について、冒険者について、この国について―――
厄介事が起きた時、誰を信用していいかも分からないのでは身の危険だ。
俺達には頼れる存在が何もないのだから。
「情報さえ掴んでおけば、もしかしたら犯人だって分かるかも―――」
『・・・その心配はありませんわ』
夜の闇にまぎれるように―――
『この街にはもう用はありませんから。くすくす・・・』
―――冷たい笑い声が響き渡った。
<その5に続く>
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