Ground over 第四章 インペリアル・ラース その3 真相
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立ち話もなんなので、俺達は男を連れて喫茶店に立ち寄った。
テーブルが数席しかない小さなお店だが、密談をするにはもってこいだった。
男は渋ったが、奢ってやると言えばあっさりついて来た。
・・・・・・単純な男である。
とりあえず三人分のコーヒーを頼んで、俺は男へと向き直る。
「さっきの話を詳しく聞きたいんだけど―――ええと。
俺は天城京介。こっちは皆瀬葵。あんたは?」
「フェイト=ノイシュ様だ。
直に忘れられない名前となる。がっはっは」
はいはい、戯言はいいからね。
俺は適当に流して、早速質問を行った。
「まず肝心な点。
―――あんた、竜神族って言ったよなさっき。本当に?」
「貴様ー、我が種族を疑う気か!
この猛々しい角と光り輝く金の瞳が何よりの証拠ではないか!!」
ほう、角と金色の目が目印なのか。
心の中でチェックポイントをメモって、俺はまじまじと見つめた。
三角に尖がった角は黒光りしており、その存在を主張している。
街中を歩けば目立って仕方がないと思うが、男についての噂などは全く広まっていない。
最近この街へ来たのか、この世界では珍しくないのか―――
異世界から来た俺には判りかねないので、保留する。
「竜神の角と瞳―――なるほど、堂々たる証だな」
「ほう・・・そちらの男はなかなか理解があると見える」
男―――フェイトはにやりと笑う。
人間を見下しているくせに、お世辞には弱いのかこいつ。
・・・葵も葵で本気で感心しているような感じだけど。
「念押しするようで悪いけど、あの雨って本当に水神とか関係ないんだよな?」
そもそも、水神と竜神の区別も知らない。
フェイトは当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らす。
「当然だ。アレは呪いの類。
美的センスの欠片もない術式で胸くそが悪くなった」
吐き捨てるかのようにフェイトは言う。
水神の仕業ではない。
だけど、自然災害でもない―――
これが意味するところは大きい。
「では、あの雨は他の誰かの仕業だと?」
「術は術者の力量と性質に左右される。
高貴でハンサムな俺様とは正反対の術者、つまり小汚い人間の仕業だ」
何だかんだとヒトをこき下ろすな、こいつは。
葵の質問に、尊大に胸を張ってフェイトは断言する。
あの雨は人為的災害だった・・・・
衝撃的な事実だった。
街の人々を散々苦しめ、絶望に陥れたのが――――同じ人間。
別に英雄ぶる気はないが、それでも関係者の一人として腹は立つ。
「・・・あんた、犯人も知ってるのか?」
若干の期待を込めて尋ねるが、
「いいや、知らん。
不愉快はあるが、人間ごとき探すなんぞ面倒だ。
それにアレは一人では無理だ」
「無理・・・?」
フェイトは眉を寄せる。
「・・・なんだ、知らんのか?まあいい、特別に教えてやる」
えらくもったいぶり、フェイトは座り直す。
「コンティネル・エナジーは世界を支える力だ。
力の体系や構成を理解すれば、種族を問わず扱える。
分相応に人間にも扱えるが、当然使用者の器に左右される。
雨雲を長期間操り、あまつにさえ街全体を覆う力なんぞ人間一人に扱えるものか」
「なるほど・・・・
じゃあ犯人が人間だと断定出来る根拠は?
さっきのごたくは抜きにして」
「貴様、俺様の荘厳なる言葉をごたくだと!?」
「・・・お前、難しそうな言葉を適当に使ってるだろ」
単語の使い方がおかしいぞ。
トランスレーターが誤訳するこいつの言語って一体・・・・
俺のズバりな指摘に言葉を詰まらせて、
「だまれ、だまれ!小生意気な人間が!
・・・フン。呪いの質を把握すれば分かることだ。
長雨を降らせるだけで、人体や器物に何の影響もない。
こんな無意味な術式を組み立てるのは人間だけだ」
一理あるような、ないような―――
コンティネル・エナジーや術に関して、俺は素人だ。
下手に見解して、誤った認識を自分に刷り込んでしまうのはまずい。
俺が頭の中で整理していると、
「・・・お主の話を聞いていると、呪いは―――
いや、術とは沢山あるのだな」
「人間の浅はかな知識には到底及ばない、未知なる領域だという事だ。
ふふふ、わははははははは!」
店の中で笑うな!
見ろ、ウェイトレスさんが怯えているじゃないか。
コーヒーを持ってきてくれたウェイトレスさんに愛想笑いを浮かべて、この場をなだめる。
香り豊かなコーヒーを束の間楽しみながら、俺はフェイトの話を元に今回の事件についてを考える。
雨の正体は膨大な力を持った呪い(=術)だった。
呪いについての詳しい話は後で聞くとして、その呪いは人間の手で行われた。
強力な呪いは一個人では不可能、犯人像及び動機も不明だ。
以上の事実から推論を立ててみる。
まず犯人だが、一人ではないのなら協力者がいると考えるのが普通だ。
二・三人、もしくは十人以上。
それ以上の人数となると、この事件は組織レベルで行われたものとなる。
もう一つの可能性は―――道具。
事件解決に俺達が杖を利用したように、何らかの補助道具を使って単独で行った。
単独では力不足だと言うなら、別の力で補えばいいからだ。
次に街に雨を降らせた動機だが、一般的に考えると幾つか挙げられる。
街・もしくは街の人々への嫌がらせ―――愉快犯。
街、もしくは街の人々への怨恨―――復讐犯。
街、もしくは街の人々への力の行使・利用・実験―――実働犯。
愉快犯・複数犯なら単独の可能性が高い。
逆に実働犯だと複数の可能性がある。
・・・駄目だ、とても絞り込めない。
判断材料が少なすぎる上に、知識不足が痛い。
「友よ、彼の話が本当ならこの町は安全とはいえないな」
「いや―――」
安直かもしれないが、希望的観測で物を言ってみる。
「犯人の動機は知らないが、同じ事を繰り返すかどうかは怪しい。
何しろ、俺達がきっちり解決したからな。
頭の回る奴なら、二度目は時間と労力の無駄だと考えて諦めるさ」
別の手を考える可能性もあるけどな―――
心の中だけで呟いておく。
危険性を訴えれば、葵はこの街に残るとか言い出しそうだ。
正義感は悪くはないが、はっきり言ってキリがない。
犯人が二度と馬鹿な真似をしないように祈るしかない。
「ふむ・・・カスミ殿に相談しておくか」
「だな。あいつは人望あるし。
この街の防衛を頼める冒険者を見つけてくれるかもしれない」
「うむ。では帰ろうではな―――」
「ちょっと待て、貴様ら!
聞きたい事だけ聞いて、後はトンズラか!」
おっと、こいつを忘れてた。
いきり立つフェイトを適当になだめて、浮かしかけていた腰を下ろす。
「何か俺達に用があったんだっけ?」
わざわざ待ち伏せしてたみたいだしな。
このまま立ち去るのも悪いと思って尋ねるが―――
「今度は俺様の出番だ。
呪いを打ち破った貴様らの力の秘密について聞かせてもらうぞ。くっくっく・・・」
―――訂正。やっぱり帰ればよかった。
不穏な気配に、俺は嘆息した。
<その4に続く>
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