Ground over 第四章 インペリアル・ラース その2 遭遇
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閉鎖されていた港。
無事復旧されたと聞いて行ってみれば、想像より小規模だった。
波止場とまではいかないが、港という単語が持つイメージよりは小さい。
船も早く出港出来るように、船乗りさんと現場の人々が作業に掛かってくれるそうだ。
見学が居ては迷惑だろうと、葵と二人で来た俺はひとまずひきあげる事にした。
その帰り道、
「もうすぐこの街ともお別れだ。少し名残惜しくもあるな」
「そうか?俺は早く河を渡りたい」
「ふむ、さすがは友だ。冒険への意欲に燃えているな」
「俺はさっさと帰りたいの!」
腕組みして、重々しく頷くな。
街の依頼は達成し、街はどんどん復興していく。
その経過の先が見れないのは確かに少し気になるが、それはもう完全に深入りしすぎだ。
後はこの街の問題だし、俺達は俺達で自分の問題を解決しないといけない。
「今や、我々は立派な冒険者だ。知っているか、友よ?
この街での一件で、多くの冒険者や傭兵達に我々の名が広まっているのだぞ」
「・・・広めたのはお前だろ?」
「当然だ。名を馳せて、共に駆け上がっていこうではないか」
罪悪感の欠片もなく、むしろ堂々と自慢するこいつがむかつく。
今更噂を止めるのは無理なのはわかっているが、頭が痛い。
分かってるのか、こいつは・・・
「あのなあ、お前。
もし噂が広まって、今回以上に厄介な仕事を押し付けられたらどうするんだ?」
噂は善悪関係なく、大きな事件であるほど広まりは早い。
周りの連中からすれば、この事件は俺達が不思議な力を使って街を救った事になっている。
その力は天候さえ変えられる。
くわえて水神の巫女が仲間にいるとなれば、話題性は充分過ぎる。
断れる依頼ならいいのだが、今回のように俺達の旅に支障が出れば無視は出来ない。
依頼人だって善人ばかりとは限らない。
俺達の「力」を利用しようとする連中だって出てくるかもしれない。
どっちにしても、旅が余計に難航するだけだ。
俺が指摘すると、葵は何の躊躇いもなく言い放った。
「何を言う。友の力があれば何の問題も無い」
「結局、最後は俺か!?」
頼むから誰かこいつを何とかしてくれ。
頭痛がする思いで、俺達は夕暮れに染まった道を歩いていく。
氷室さんを一人留守番のままだし、早く帰らないと―――
『くっくっく・・・』
・・・?
「お前な、葵。街中で突然無気味に笑うな」
「待て、友。今のは我輩ではないぞ」
葵じゃない?
でも今の声、やけに近くで―――
「ふふふ・・・あっはっはっはっはっは!」
笑い声が辺りに響く。
悩みも何も無い、清々しさすら感じられる。
・・・ようするに、近所迷惑な馬鹿笑いだった。
「じゃあお前の友達とかじゃないのか?」
同類の匂いがするぞ、この声。
「何を言うかと思えば―――。
我が真なる友は二つの世界を通じて、天城京介只一人だ」
「・・・素直に俺以外友達がいないと言え」
俺だって腐れ縁の延長だ。
まさか異世界まで一緒になるとは思わなかったけど。
神様ってのが本当にいるなら、こいつ一人だけ飛ばしてもらいたかった。
俺は投げやりに溜息を吐いて、周りを見る。
この馬鹿じゃないとすると・・・・
「む、あの男ではないか?友よ」
「ん―――?」
茜色に染まった街。
道脇に設置された一本の街灯の下で、そいつは立っていた。
曇り空のような灰色の髪。
痩せぎすな風貌が鋭い刃をイメージさせる。
黒マントが背の高さに似合っているが、腰元の帯剣と冷たさの宿る表情が一般人と一線を画している。
遠目からでもはっきり分かる金色の瞳が、寒気を誘う。
冷徹な貴公子、それが第一印象だった。
特に印象的なのは――――頭の上の角。
「ふふふふ、あははははははっ!!」
・・・そして、この意味不明な笑いだった。
「はっはっは、あっはっはっはっは―――おい、そこ!
何気なく通り過ぎていくんじゃない!」
・・・はあ。
心の底から溜息を吐き、俺は足を止める。
葵は初めから興味はあったようだが、俺に付き合ってくれる辺り付き合いの長さがうかがえる。
「お前に用らしいぞ、葵」
「おっと、そうだったか。それは失礼な事をした。
随分楽しそうだったので声をかけずに置いたのだが」
変な所で礼儀正しい奴である。
何にせよ、俺の指摘を疑わずに葵は振り返る。
「我輩に何か用か?」
「ふふ・・・見たぞ、見たぞ、見たぞぉぉぉ!!
貴様らだな、呪いを解き祓ったのは」
『呪い?』
俺と葵が同時に尋ねる。
心当たりなんて全く無い。
―――のだが、男は俺達の態度がお気に召さなかったらしい。
突然怒り出した。
「とぼけるとはいい度胸だ!俺様を相手に誤魔化しは通じんぞ。
結晶石を媒体にエナジーの解放を行っていたではないか」
結晶石?―――そうか、あの杖か!
雨雲を吹き飛ばした一連の事情を知っているようだ。
見たとか言ってるから、広場にいた連中に紛れていたのだろう。
―――ちょっと待って。
「おい、あんた。呪いとか言ったよな?
それって街を包んでいた雨雲の事か」
「ふん、今更何を言う。
知っていたからこそ、あのような手段に出たのだろう。
力任せだったが、愚かな人間にしてはなかなかだったと誉めてやろう」
男の言葉が本当だとすると、あの雨は自然現象じゃなかった事になる。
そうなると―――
「水神の仕業だったって言うのか・・・」
考えが口に出た俺に、男は表情を険しくする。
「貴様・・・我が誇り高き竜神族を侮辱する気か!
世界を支配する我が一族があのような真似をするものか!!」
「へ・・・?」
こ、こいつ、今何て言った・・・?
いい感じに激昂している男を、俺はまじまじと見つめた。
<その3に続く>
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