Ground over 第四章 インペリアル・ラース その1 旅先




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 晴天を迎えたあの日から、早一ヶ月。

ラエリヤの町の危機を救った俺達だが、また旅立ちには至っていない。

のんびりしてられる旅ではないのは分かっている。

元の世界へ戻る―――

早く戻りたい気持ちは薄れておらず、過ぎ行く日々に焦りが込み上げて来る。

とはいえ―――俺達は先には進めない。

目的地への王都へ向かうには、立ち塞がる巨大な河を渡る必要がある。

自然の脅威は俺達が取り除き、心配していた異常気象は起きる気配はない。

この一ヶ月天気は良好で、暗雲が立ち込める気配もない。

晴天が続くとそれはそれで怖いが、時には曇り空となったりで正常に気候を迎えている。

天気の心配はもうないと断言出来るが―――肝心の港が復旧していない。


「時間が掛かるのは仕方ない。
何しろ、この町の人々も半分は諦めていたからな」


 と、カスミの言い分である。

長い間立ち入り禁止で放置されていた上に、堤防が一部決壊。

早急に工事が行われているものの、なかなか完了しない。

船も船できちんとした整備が必要で、さすがに俺達が手出し出来る問題ではなかった。


「友よ、ここは一つ工事機器の製作で助力しようではないか!」

「さすがに専門外だよ!」


 突貫工事は連日徹夜で行われている。

街の人々が俺達に厚く感謝してくれて、何人もの人達が協力してくれている。

それに街の人々にとっても、開港は活性化への大切な一歩なのだ。

頑張らない訳にはいかないだろう。

そんな彼らに、俺はごり押しも出来ない。


「京介様、私もがんばりますねぇ!」


 ・・・石一つ運ぶのに苦労する妖精が、何故か工事現場の人々に人気があるらしい。

毎日早朝から張り切って出かけていくあいつには、俺も溜め息しか出ない。

とにかく―――俺達はこのラエリアの町でまだ滞在を続けている。

葵とキキョウは工事現場の手伝い。

カスミは何でも冒険者同士のコネがあるらしく、今度の旅の為の情報収集にあたってくれている。

工事に時間が掛かると知り、十日ほど前からこの街を離れていた。

で、





「さっき説明した『トランスレーター』が、今つけて貰っている腕輪。
大きさは変えられるから、指輪にしてもいいと思う。
でこの『ビジョン』で連絡を取り合ったり、このようにいろいろな情報を見せる事が出来るらしい。
盗賊団もこれを利用して倒したんだ。
この世界の金の単位は金・銀・銅。一種の貨幣だね」

「・・・単位は・・数価なのですね。
私・・・今までカード払いでして・・・」

「と、とりあえず一つずつ覚えていこう」


 俺と氷室さんは、この世界の一般常識の勉強をしていた。

必要最低限でも覚えておかないと、この世界では生きていけない。

カスミにばかり頼るのも癪だ。

この一ヶ月、二人で勉強を続けている。

葵は別。

あいつはどの世界のどんな常識でも、自分を貫くある意味ですごい奴だから。


「俺達は今、この大陸『セイロン』の西に位置する『フレーバーティ』っていう国に居るんだ。
向かっているのは国の王都。術者を支援・管理する協会に召還術を使える奴を見つける。
冒険者の案内所も各地にある。
王都には大規模な協会や冒険者支部もあるらしいけど、その辺は俺も分からない」

「・・・市役所や郵便局のようなものですね」

「おお、うまい事を言うね」


 市が管理しているか、街が管理しているか―――

俺達の世界の形式で当てはめると、案外分かりやすい。

ラエリアの町にはなかったが、これから向かう先で案内所や協会の支部だってあるだろう。

案外、旅の途中で召還術を使える人間に出会えるかもしれない。

逆にいえば―――王都に行っても見つからないかもしれない。

結局は運次第だろう。

でもこの世界の何処かにはいるんだ、探すしかない。

葵のプレイした知識にも、冒険者ギルドや魔法協会といった設定があったらしい。

・・・つくづく、ファンタジーな世界だと思い知らされる。

俺達は勉強しながら、自分の置かれた現実を認識する。

少し現状を整理してみよう。










今俺達は大陸セイロンの西、フレーバーティにいる。

現在地はラエリア、向かう先は王都(名前を知らないので、後で聞こう)

目的は元の世界への帰還、召還の術者を探す事。

メンバーは俺、カスミ、葵、キキョウ、氷室さん。

装備品は俺が爆裂弾・催涙弾・煙幕弾・照明弾に、バイクに工具・作業用機材。

葵が漫画雑誌・CD、デジカメ・ビデオカメラ、使い捨てカメラ・CDデッキ、お札に鏡、オセロに将棋に麻雀。

氷室さん・キキョウはほぼ手ぶら。

カスミは装備品一式に剣、冒険に必要な品々(詳細は後で聞こう)

お金は金貨数十枚(ルーチャア村での報酬)、俺達の世界の手持ちの金(役立たず)










 ・・・手持ち品の半分以上は不必要な気がする。

それに、まだまだ知らない事が多過ぎる。

この国の現状や大陸そのものについて。

金の具体的な単位や価値、日常用品や装備品の数々について。

冒険者や傭兵、術者について。

冒険者案内所や協会の規模、その人々について。

情報が多ければ多いほど、選択肢だって増えてくる。

どうやら・・・学ばなければいけない事事はまだまだ沢山あるようだ。





河の対岸沿いにある町『セージ』





 カスミの話では協会や冒険者案内所、そして市場もある大きな街らしい。

旅を続けるなら薬も買っておきたいし、何より食料や水・キャンプ用品がまるでない。

その町で腰を落ち着けて、情報収集や買い物をした方がいいだろう。

旅の展望について考えていると、


「友よ!」

「なんだ、いきなり!?」


 すっかりお世話になってしまった町長さんの家。

居間で氷室さんと勉強している所へ、葵が戻ってくるなり明るい顔を見せる。


「港が無事開通出来た。順調に行けば、三日後に船が出せるらしい。
手続きを行うので、町長が港に来て欲しいそうだ」


 葵がそんな吉報をもたらしてくれた。










 

























<その2に続く>

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