Ground over 第三章 -水神の巫女様- その18 評判
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決戦の日―――朝焼けを拝む事は叶わなかった。
薄暗い窓の外を見れば、変わらず降り続ける雨・雨・雨―――
でも、それも―――今日で終わりだ。
「・・・にしても、こいつ等は・・・・」
乱れきった室内。
町長さんにあてがわれた俺の部屋は、設計図と材料ですっかり散らかっている。
作成する上で不備を補い、改良に改良を重ねた結果だ。
すっかり完徹してしまったが、気分はいい。
さっきまで完成の余韻に浸っていたのだが、気がついたら馬鹿コンビ二人が寝ていた。
言わずと知れた葵とキキョウである。
「・・・世話になった部屋だからな。
片付けはこいつらにやらせよう」
数日間だけだが、まぎれもなく俺の部屋だった。
俺は白いカーテンを開けて、窓の外を見る。
おなじみの町並みだが、それもこの朝で見納めだ。
「・・・京介さん」
「うおっ!?」
慌てて振り返ると、氷室さんがドア影からこちらを見ていた。
び、びっくりした・・・
「あ、ご、ごめん。
えーと・・・・そっちの準備は?」
「・・・カスミさんが皆さんにお伝えに。
京介さんが仰られた準備は整いました・・・」
「分かった、ありがとう、こいつら起こしてすぐ行くよ」
「・・・はい」
そのまま氷室さんは部屋を出て行く。
この世界へ来て数日になるが、寡黙な彼女に不安や混乱は見えない。
俺や葵はともかくとしても、何か落ち着きすぎている気がするんだが―――
変にパニクられても困るが、少し気になった。
―――今は目の前に集中しよう。
って事で、
「起きろ、お前ら!さっさとやる事やるぞ!」
「むう・・・朝から元気がいいな、友よ」
「・・・はいれふぅ・・・」
二人を強引に起こし、俺は顔を洗いに部屋を出た。
ロケットは完成―――
杖を固定して、動力源との接続も完璧にしている。
俺達は朝御飯も取らずに前準備を徹底し、今日この日を迎えた。
空はまだ日が昇ってばかりで光は弱く、雨雲が遮っていて夜のように暗い。
街灯なんて当然ある訳無いので、ランプを大量に用意してもらった。
場所は町の中心部にある広場。
例の召還失敗の場で縁起は悪いが、近隣に迷惑をかけない広い場所はここしかない。
そもそもこの町は全体的に広くはなく、徒歩でも一日あれば路地裏まで把握出来るほどだ。
概算では雨雲を吹き飛ばす威力を発生する杖を使用するので、ロケット真下に何の影響もないとは言えない。
万が一を考えて、やっぱりある程度の広さは確保したかった。
問題の雨は今日に限って豪雨。
普段より勢いが激しく、視界すら遮られてしまう。
まるで抗う俺たちへの最後の抵抗とばかりに―――
こんな悪条件ではロケットが点火せず、失墜する危険性があった。
その為―――
「・・・・カーテンをお借りしました。裁縫は私が・・・・」
「ばっちり。助かったよ・・・・
器用なんだね、氷室さんって」
真っ白なカーテンをシート代わりに、大きく広げる。
まず広場の中心にロケットを固定し、そのすぐ上にシートをひく。
ロケットの全長はメートル強―――
大人四人で四方を持ってもらって、天井のようにその上を覆ってもらう。
その役目は町の住民さんに協力してもらう手筈になっている。
点火役は俺で、キキョウには肝心の杖の発動を任せている。
「・・・・飛べそうか?雨がかなりきついけど」
上を見上げれば、容赦なく顔面に水滴が押し寄せる。
呼吸も満足に出来ず、俺はぶはっと下を向いて息を吐いた。
こんな雨風の中こいつが飛んだら、紙屑のように吹き飛ぶんじゃないか?
「大丈夫ですぅ!頑張ります!」
「・・・いや、気合だけじゃどうしようもないぞ現実は」
「お役目はきちんと果たしますぅ!
京介様にお任せされた初めての大役なのですからぁー」
本当に心の底から、やる気と元気で一杯のキキョウ。
感動的な台詞だが、生憎と俺は現実しか見れない。
小柄な身体と羽では先ず間違いなく煽られる風だ。
うーん・・・・・
「いいではないか、友よ」
「葵・・・?」
考え込む俺に、葵は力強く頷く。
「彼女しか出来ない役目だ。
もうこの町は天候が回復する見込みはないだろう。
条件が悪いのは今日も明日も変わりはない。後は本人の気力だ」
「・・・・・」
―――正論だ。
空を飛ぶ手段を持っているのはキキョウだけ。
今日はとびきりだが、明日以降もこの雨風が続くかもしれない。
少なくとも雨だけは絶対に止まないのだ。
「・・・・不都合があればすぐに言え。
杖を発動させられるのはお前しかいないからな」
釘をさしておくと、キキョウは飛び上がって喜んだ。
・・・ちょっと頼りにするとこれだ。
そうこうしている内に―――
「京介さーん、皆さんをお連れしましたっ!!」
町長さんを先頭に町民の人たちが広場に・・・・って!?
「な、何だ、この人数は!?」
あっという間に広場を埋め尽くす人、人、人・・・・・
呆然とする俺を尻目に、広場はロケットを円にして人で埋め尽くされた。
はっきり言って――――前回の召還時の軽く三倍はいる。
大雨で全身がずぶ濡れになるのもかまわないとばかりに、人々の熱気で満たされる。
「ちょ、ちょっと何ですか町長さん!?
この町、こんな人いましたっけ・・・!?」
ギャラリーがいるのは分かっていたが、圧倒的じゃないか!?
慌てて先導する町長さんに駆け寄って聞いてみると、
「どこかで噂が広まったようなんですよ。
この町のみならず、近隣の村々の人々まで集まってきまして・・・」
「いや、だって今日の事教えたの昨日の夕方だった筈ですよ・・・?」
「・・・それが、その・・・・・
前の広場での出来事がどうも外に漏れてしまったようで―――
水神の巫女様を人目拝みしたいと、ここ数日続々と―――」
何ぃぃぃぃぃぃぃっ!?
しかし考えてみれば無理もない。
妖精はそもそもその存在すら珍しいという。
そんな妖精を引き連れた面々が街中で召還術を行って、別の意味で成功してしまった。
そして、すっかり忘れていたのだが―――氷室さんはこの町を救う巫女の扱いをされていたんだっけ?
・・・・騒ぎにならない方がおかしかった。
「で、でも、そんな騒ぎになるなら、俺の耳に噂くらい・・・
―――!?」
部屋にこもって考え事や作業とかしてたから、人の動きが見えないのは確かにありえる。
でも、俺の耳に噂が来ないのはおかしい。
そう――――誰かが口止めでもしないかぎり。
俺はゆっくりと振り返って、葵を見る。
じっと見る―――
「・・・・ふ・・・・」
葵はにこやかに笑って、
「伝説の第二幕、はじまりだな友よ」
「お前かぁぁぁぁぁっ!!」
えらい事になってしまった―――
<第四章 水神の巫女様 その19に続く>
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