Ground over 第三章 -水神の巫女様- その17 徹底
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作業は延々と続けた。
休憩を取るのも惜しんで、必死で製作を進めていく。
タイムリミットが分からない分、焦燥はどうしても積もっていく。
先に河が氾濫してしまえば、俺達の負けとなる。
町は河の底に飲み込まれ、俺達も藻屑となってしまうだろう。
仮に逃げ切れたとしても、大勢の人間が被害にあってしまう。
この世界を認めていないとはいえ、他人事では片付けられなかった。
「友よ、ここはこれでいいのか?」
「京介様、京介様!材料が届きましたですぅー」
葵とキキョウを助っ人に、作業は一日がかりで続けられた。
設計者の俺が総指揮を取り、アドバイスや指示を行う。
葵とキキョウは俺の描いた設計図を元に、簡単な部分の製作を進めて行った。
葵は驚異的な集中力と器用さを持っており、作業のペースは速い。
変な所で人外っぷりを発揮する男なのだ。
逆にキキョウが不器用で難儀させられたが、その分伝達係をこなしてフォロー。
工具や材料が足りなくなれば、カスミと氷室さんに言伝を頼んだ。
「・・・・分かりました・・・・」
「他に足りないものはないな?では、行って来る」
幸い材料は思っていたより購入が簡単で、ほぼ理想通りに集める事が出来た。
強い雨風の中、何の文句もいわず揃えてくれる二人に感謝したい。
二人の苦労に報いる為にも、早く完成させよう。
俺は室内に閉じこもって、製作を滞りなく進める。
淡々と工程が完了していく中―――カスミより報告があった。
手の空いた二人が、河や町の様子を見に行ってくれたのだ。
「・・・土木作業が行われているが、付け焼き刃だな。
堤防が破綻すれば、河の勢いに飲まれて飛ばされるだけだ」
「・・・皆さんが疲弊しきっていました」
―――当然だろう。
長雨が止まらずで、何の打開策も立てる事は出来ない。
抵抗はしているが、自然の脅威には到底勝てない。
希望は腐食され、絶望だけが心を支配していく・・・・・
その苦痛は耐え難いものだと思う。
額に流れる汗を拭って、俺は考え込む。
ロケットの製作は大幅片がついた。
このままだと、今夜には完成するだろう。
うまくいくかどうかは分からないにしても、もう後は実行するだけだ。
となれば―――
「・・・氷室さん、カスミ。町長さんに伝えてくれ。
この雨を止める手立てがある。明日の朝には解決するって」
「話してしまうのか!?しかし、もし失敗すれば―――!」
「・・・分かってる」
カスミの心配は分かる。
俺達は既に一度失敗している。
召還術の失敗はキキョウのせいだが、承認したのは俺だ。
あの時は町の人々も大勢来ていたし、失敗する様子を一部始終見られている。
今度もし失敗すれば、人々に反感を買う羽目になる。
下手をすれば町から追い出されるか、その責任を問われる事になってしまう。
本質的な面から言うと、失敗を幾度重ねても俺達の責任にはならない。
あくまでこの問題は町の問題であり、引き受けたとはいえ他人事には違いない。
でも、人間そう簡単に割り切る事は出来ない。
毎日の局地的な雨により人々は疲弊し、精神的にも追い詰められている。
苦しめている犯人は雨だが、まさか雨に責任を追求なんて出来ない。
となると、そのやり場のない怒りの対象は―――多分俺達に向けられる。
理不尽だが、人間なんてそんなもんだ。
賢い生き方が出来る人間なんて少ない。
そんな状況下での失敗は、彼らの格好の理由となるだろう。
冒険者として生きて来たカスミは、俺以上にその事を理解している。
だからこその心配であり、不安なのだろう。
この依頼にしても、そもそもの旅にしても、カスミはただ好意で同行してくれているだけだ。
決して必要でもなければ、必然でもない。
こんな形で巻き込まれるのは、彼女が一番不本意に違いない。
「大丈夫だ、カスミ殿」
葵が進み出る。
「友はやると決めたらやる男だ。この試みは必ずや成功する。
安心して、町の人々に伝えてほしい。
我々がこの町に青空を送り届ける、と―――」
―――こ、この野郎は・・・・・
作戦指揮の俺より堂々と宣言しやがった。
表情一つを取っても、大真面目な発言なのが分かる。
自分達が悲劇的な展開には陥らないと、内心確信しているのだろう。
物語じゃあるまいし、そんな簡単にうまくいくとは―――
「・・・・なるほど、分かった」
分かった!?何が!?
「町長に詳細を伝えておこう。
彼から町の人々に説明した方が早い。すぐに行動に掛かる。
作戦決行はいつになりそうだ?」
「え?あ、明日の朝にはやれると思うけど・・・・・
ちょっと待―――」
「了解した。巴さん、行こう」
氷室さんが頷くと、そのまま連れ立って二人は出て行った。
静止する間も無く―――
残された俺は呆然と見送り、葵をジロっと睨む。
「む、どうした友よ。そんなに熱い眼差しを向けて」
「・・・いや、何かもうどうでもいいや」
悪気も何もない顔をされると、責める気もなくなる。
・・・葵の言葉も間違えてはいない。
どうせこの作戦が失敗すれば、事実上打つ手はなくなる。
そうなれば、どっちみち責任問題に発展するんだ。
どちらも同じならば、人々を少しでも安心させた方がいい。
「よし、続けるぞ。お前ら手伝え」
「了解だ!」
「頑張りますぅー!!」
失敗は許されない。
それは当たり前なのだから―――
そして夜半過ぎ―――
「よし、問題なし!完成だ!!」
「やったな、友よ!!」
「ばんざーいですぅ!!」
あほのように喜び合う三人。
食事も満足に取らずに作業に掛かり、作業は完成した。
小型ロケットなので本当なら半日作業だが、肝心の点検が大変だった。
何しろ、雨の中上空まで飛んでもらわないといけない。
改善と補強に何度も何度も努め、計算上上手くいくようにした。
パソコンが一台でもあれば完璧なのだが、無い物ねだりしても仕方がない。
「後は飛ばすだけだな。
・・・疲れた、ほんっとに・・・・」
何しろミスの許されない作業だ。
徹底的に改良を重ねて、自分の満足の行く出来栄えに仕上げた。
これで失敗したら――――もう俺に出来ることは何もない。
「・・・これが、そうなのか・・・・?」
「わぁ・・・すっごくかっこいいですぅー」
この世界の住人達は素直に感嘆の声を上げる。
大きさとしては一メートル弱で、幅は足回り程度。
アルミ等の貴金属を使いたかったが、そんなのある訳ないのであり合わせで代用。
耐久性が最後の最後まで課題だったのだが、持てる技術の全てを使った。
「後は・・・飛ばすだけだ」
雨という強敵を相手に、俺達は戦わなければ行けない。
勝つか、負けるか―――
その行方は、明日の朝日が教えてくれそうだった。
<第四章 水神の巫女様 その18に続く>
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