Ground over 第三章 -水神の巫女様- その16 配分
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部屋から出て客間に向かうと、全員既に揃っていた。
この異常事態解決に繋がる足掛かりを見つけた事もあって、皆顔色が良い。
毎朝挨拶する町長の姿が見えないので尋ねると、
「河の様子を見に行った。心配なのだろう」
淡々と述べるカスミ。
河が奔流しかけているのだから、気にするのは当然だ。
どうにもならないと分かっていても、ただ悲劇を甘受する事は出来ないのだろう。
その点は俺も同じだ。
「朝食も先に食したそうだ。友に詫びていたぞ」
「俺が遅かったんだから、別に謝る必要は無いのに・・・
生真面目だな、あの人も」
責任感が強いのはもう分かり尽くしているが、あんまり崇められると俺も困る。
まだ向こうでの生活観が抜けきっていないのだ。
敬われた事の無い俺には、町長の期待や信頼はきつい。
・・・・裏切るつもりは無いが。
「とにかく朝飯食おう、朝飯。その後で具体的に行動を開始だ。
設計図は昨日徹夜して描き上げたから」
久しぶりに徹夜したが、意外と身体は覚えているもんだ。
睡眠時間は乏しいが眠気もそんなに無く、活力に満ちている。
葵はおおっと顔を上げて、
「さすがは友だ。我輩が認めただけある。
この世界でロケットを作れるとは」
「大袈裟に拍手なんかするな!?
第一、まだ本当に完成するかどうかも分からないんだぞ。
小型とはいえ、紙飛行機とは訳が違うんだからな」
耐圧も心配だし、推進力も考えないといけない。
こんな雨の中発射出来るかどうかも思いっきり不安だ。
本当は晴れの日にやりたいが、その晴れの日を迎える為のロケットだ。
厳しい悪条件の中、間違いの許されない事をやらなければいけない。
「・・・ろけっと?
昨日も言っていたが、そのろけっとなるものはどういった―――」
「あー、説明して分かってもらえるか不安なので端的に言うよ。
空を飛ぶ乗り物だ」
カスミが目を丸くする。
そういえばこの世界に空を飛ぶ乗り物とかあるのだろうか?
疑問をそのまま口にすると、
「翼を持つ生き物を利用するのが一般的だ。
龍族や天使はともかく、人間は空は飛べないからな。
風の属性を持つ術にもあるらしいが、私は詳しくないので分からない」
との事だった。
俺は葵の口を強引に塞ぎながら、相槌をうってこの話題を終わらせる。
・・・ああ、認めるよ。こんな質問ふった俺が浅はかだった。
龍だの何だの言われて、葵がじっとしてられる筈も無い。
でも、今はそれどころじゃない。
どうせ、二度と会う事はない連中だ。
聞かなかった、存在しないと頭で認識して、本題に話を戻す。
「すごいですぅ!羽が生えている乗り物なのですかぁ!?」
・・・・こっちはこっちでニュアンスが違うし。
大はしゃぎしている妖精を、むんずと掴んで落ち着かせる。
「見れば一瞬で分かるから、お前はちょっと黙ってろ。
とりあえず基本的な設計や製作は俺がやる。
葵とキキョウは俺の助っ人、カスミと氷室さんで材料集めにかかってくれ」
こっちの世界にはない材料もあるだろう。
その辺は氷室さんが教えてくれたり、もしかしたら融通だって利かせてくれるかもしれない。
悲観的になる事は無い。
案外、こっちにしかない物で応用が利くかも知れないんだ。
女性二人にその説明をすると、二人は快諾してくれた。
葵とキキョウは・・・・今更言うまでも無い。
「製作に遅れて河が溢れました、じゃ笑えないからな。
完成まで根を詰めよう」
大規模な製作内容じゃない。
ようするに杖一つ担いで、上空まで飛んでくれればいいんだ。
頑張れば一日で充分終わる。
「それじゃあ今日も一日頑張りましょう、ですぅー!」
気の抜ける挨拶で、長雨への俺達の必死の抵抗が始まった―――
「燃料はバイクのガソリンを使うか・・・・
まだ温存しておきたかったが」
朝飯を食べ終えて、目まぐるしい一日をスタートさせた俺達。
カスミと氷室さんには早速買い物に出てもらい、葵と俺は部屋で作業工程を計画していく。
「飛ばす場所は決めているのか、友よ」
「広い場所がいいな・・・・障害物があると飛ばせない。
それに雨はどうしようもないとして、強風の心配もある」
ただでさえ雨というハンディがある。
これ以上条件を悪化させたくはない。
「例の広場はどうだ、友よ?
あそこなら広い場所を確保できる」
「お、いいな。あそこなら問題ない」
氷室さんを召還してしまったあの広場―――
縁起でもない場所だが、いちいち気にしていても仕方ない。
俺達は一つ一つ問題を消化していく。
「キキョウ、あの杖って自由自在に操れるのか?
俺達全員素人なんだが」
全域に広がる雨雲を吹き飛ばすのは、物凄いエネルギーが必要だ。
そのエネルギーのある杖にしても、ただ力を振るえばいいというものではない。
例えばロケットを発射する時に力が噴出してしまえば、広場が吹き飛んでしまう。
上昇する途中で暴発したら、ただの花火だ。
上空の雨雲―――出来れば巨大な雨雲の中央くらいで爆発するのがベスト。
その為には、杖を自由自在に操る必要がある。
あの盗賊の親玉は使用出来ていたが、俺達も可能なんだろうか?
無理なら、正直成功する可能性は薄い。
一回でもミスれば、使用不能で二度と使い物にはならない。
「大丈夫ですぅー、あの杖の力はどなたでも使用出来ますぅ。
術が使えない人には重宝されているアイテムなんですよぉ」
「そっか・・・・でも空の上で爆発させないと駄目なんだ。
あの杖って手に持ってないと無理なんじゃないのか?」
俺の世界の一般常識だが、御伽噺とかにある魔法使いって常に杖を持っていた。
あの親玉も手に持って使ってたみたいだからな・・・・
さすがに人が乗れるロケットの製作は、俺では無理だし時間も無い。
俺の問いに、キキョウは少し考え込んで答えた。
「じゃ、じゃあ私が魔力を撃ち込みますぅ!」
「お前が?」
「はいですぅー!
私がお空の上で待機して、ろけっとさんに魔力を撃ちこみますからぁ」
なるほど、上空でエネルギーを注入する手筈か。
エナジーとはちょっと言いたくないので言わない。
この世界に関して、俺はまだ明確に認めた訳ではない。
とりあえず、キキョウに任せれば大丈夫なようだ。
ただ気になるのは―――
「分かった、お前に任せる。
ただお前、魔力を撃ち込んだらとっとと逃げろよ」
「え?」
「杖が爆発したら、上空に居るお前まで巻き込まれるだろう?
ちっぽけなお前じゃ、紙屑のように飛ばされるぞ。
そうなる前に避難しとけ」
こんなんでも死なれたら後味が悪い。
それは、俺をこんな訳分からん世界に巻き込んだ張本人でもだ。
一応忠告しておいてやると、キキョウは目をウルウルさせる。
「うう、京介様の優しさが身に染みますぅ・・・・」
「何言ってんだ、お前は!?」
「うむ、友は死んだ金魚を河に流してやるほど繊細な心の持ち主だ」
「お前も過去話を持ち出すな!?」
このメンバー、人選間違えたかも・・・・・
氷室さんとカスミの方がよっぽど頼りになったような気がする。
まあでも・・・・今はやるしかない。
「材料が来る前に、出来る範囲で作業に取り掛かろう。
今夜中に・・・・片をつける」
拳を握り締めて、俺は設計図を広げた。
<第四章 水神の巫女様 その17に続く>
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