Ground over 第三章 -水神の巫女様- その15 立案
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目を覚ますと、もう昼過ぎだった―――
起きれば耳に嫌でも伝わってくる雨音にも、いい加減慣れてくる。
今更窓の外を見るまでもない。
俺はベットから起き上がり、着替えを済ませる。
考えてみれば着替えも少ない上に雨で洗濯物も乾かず、殆ど着替えていない。
こういう小さな面でも、長雨による被害はあるのだと思い知る。
些細な事でも、日常をただ平凡に生きる人間からすれば立派に迷惑だ。
「早く何とかしないとな・・・・」
『そもそも、俺達は勘違いしていた』
黙って聞いている面々―――
打開策もなく悩み続けていた仲間を前に、俺は説明を始めた。
『葵、依頼の内容は何だったか覚えているか?』
『無論だ』
力強く頷いて、葵は人差し指をびしっと立てて言った。
『降り続く雨を止める――
それが我らに与えられた使命だ』
葵の言葉に頷いて、
『そうなんだよ。俺達の役割は雨を止める事。
水神とか何とか、訳分からん奴の相手をする事じゃない』
町長さんから話を聞き、俺達は水神へのコンタクトを第一に考えた。
勘違いはそこにあった―――
結局その結果遠回りになり、打つ手もなく悩んでいたに過ぎない。
そこへカスミが口を出す。
『勘違いと言うが、この雨の原因は水神だ。
その怒りを静める為に、今まで努力を尽くしてきたのではないのか?』
カスミも正解。
町長さんだってそう言ってたし、この町の人間もそう信じている。
だけど――
『皆がそう言ってたからって、それが本当か分からないだろう。
話を聞いたって、あやふやな回答ばっかりだったじゃないか。
そもそもこの町の連中の誰も水神を確認してないんだぞ。
いるかどうかも分からないのに、なんでそいつが悪いって決め付けられるんだ?』
町に調査に出向いた時、俺達は水神について調べ回った。
人々噂から関連する書物まで調べたが、結局手掛かりらしき物は何も出てこなかった。
調査は失敗だったとがっかりしたが、今になって考えればそうとも言えないかもしれない。
『・・・では、京介さんはいないと考えてらっしゃるのですか?』
ちょこんと手を上げて、氷室さんが尋ねる。
『はっきりと断言出来ないけどな。
っというより、俺にとってはもうどっちでもいいんだ。
ようするに――』
俺は客室の窓へと近付き、外を覗き込む。
視線はそのまま宙へ仰ぎ、俺は言った。
『この雨さえ何とかすればいいんだ。
水神がどうとかは関係ない』
雨を止めて、船の出港を可能な状態にする。
そこまで持ち込めれば、後は町の問題だ。
俺達が携わる必要もなくなる。
『でもでもぉー、水神様のお怒りじゃないのなら雨はどうするんですかぁー?』
心配そうに、俺の耳元で小さな羽を揺らすキキョウ。
そう、問題はそこだ。
水神の仕業かどうかはどうでもいい。
俺達にとっての今回の仕事の最大の難関はそれだった。
『俺は気象の知識はないからよく分からないけどさ――』
そのまま窓に映る暗い空を指でちょんちょん指して、
『雨雲が無ければ、雨だって問答無用に止むだろう』
一同、静まり返る―――
見る顔見る顔目を見開かせて、俺の言葉の意味を吟味しているようだった。
一番立ち直りが早いのは、やっぱり葵だった。
『ま、まさか友・・・』
『ああ―――』
俺は頷いて、断言する。
『あの雨雲を消滅させる。
綺麗に全部吹き飛ばせば、自然に青空になるだろう』
雨なんて自然現象だ。
この世界じゃどうか知らんが、俺達にとっては間違いなくそう。
神様だの何だのが関われば太刀打ち出来ないように思えるが、それは無視する。
どうせ、不可能に近い無理難題だ。
子供のような理屈でも押し通すまでだ。
『お、お前は自分が何を言っているのか分かっているのか!?』
カスミはそのまま立ち上がり、俺を睨む。
俺は負ける事無く、見返した。
『言った通りだ。比喩でも何でもないぞ』
『空の上の雲を吹き飛ばすだと!?
膨大なエナジーを扱える大術者でもない限り、そんな事は不可能だ!
盗賊を相手にするのとは訳が違うんだぞ!』
・・・確かに、俺も初めはそう思った。
自然現象を相手に、ただの人間に出来る事は無いのだと。
だが―――
『膨大なエネジーがあればいいんだろう?』
『・・・な・・・に?』
言っている意味が掴めないとばかりに、俺を凝視するカスミ。
俺達の世界の常識では無理――
こっちの世界の常識でも無理――
なら、話は簡単だ。
二つを組み合わせればいい―――
『調べてみないと分からないけど、雨雲の範囲はそう広くないと思う。
せいぜいこの町とその周辺を覆っているだけ。
雨量が集中しているのは、この町だ。
ならこの町の中心から雲を吹き飛ばせば、この異常気象は終わる』
『だから、その雲を吹き飛ばす手段が―――!?』
『おいおい、忘れたのか?俺達にはあるだろう。
強力なエナジーが眠っている道具を』
カスミははっとした顔で、俺を見る。
俺は一つ頷いて、
『そう・・・・あの杖だよ』
胡散臭いあのエナジーとか言うのは森羅万象に存在するエネルギーだと聞く。
自然を形成し、命を育む力――
そのエネルギーは人にも扱え、この世界の根幹を担ってきたらしい。
本当かどうかはともかくとして、それ程の影響力があるのなら雨雲への効果も期待出来る。
絶句するカスミを尻目に、葵が挙手する。
『友には愚問かもしれないが、聞いておきたい。
杖を利用する事は分かった。
しかし空への距離を考えれば、充分な効力は得られるのだろうか?』
『その点も考えている。ただ、皆の協力が必要だ。
もう時間がない。
明日から準備に取り掛かりたい』
一同を見渡して、俺ははっきり宣言する。
「止めるぞ、雨を」
それは決意の誓い――
弱音を捨てた俺なりの証だった。
「問題は燃料と材料だな・・・・」
俺は室内のテーブルの上を見る。
木製の古びた机の上に置かれている一枚の大きな紙。
真っ白い紙に、昨日ほぼ徹夜で書き上げたモノ。
それは小型ロケットの設計図だった―――
<第四章 水神の巫女様 その16に続く>
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