VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 6 -Promise-






Action12 −回帰−




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マグノの一存によってカイに第一種警戒態勢における全権が受諾され、カイの指揮の元フォーメーションの再編成が行われた。

仮にも捕虜でありメジェールの女性達の最大の敵であるタラークの男に権限を与えるなど、異例の事態である。

思い切った決断を下したマグノに対して、ブザムは流石に反論した。

仮に自分達を苦しめている敵を倒したところで、カイが前線のリーダーとしてチームを率いたとあっては後々の怨恨になると。

男に自分たちの運命を委ねたという事実は、男という種族に潔癖な拒絶反応を示すクルー達の間で反発が生まれるかもしれない。

そうなれば、故郷へ帰参する為に共同戦線を張らなければいけない現状において大いなる災いを招いてしまう。

ブザムの危惧はもっともであり、少なくともメジェール人としては当たり前の反応であると言えた。

反対の意を含んだ正論を申し出たブザムに、マグノは権利を与える代わりの条件を提示した。


『カイの作戦をドレッドチームのパイロット達が賛同する事』


 マグノとブザム、二人の間で交わされた約束であり、カイはおろかクルー達にも内緒の極秘事項だった。

歴戦を戦い抜いてきた戦場の乙女達に、男が信頼を得る事は難しい。

逆を言えば、見事心を掴んだその時にはメイア以上の信頼を備えた新しいリーダーが誕生する事になる。

信頼を得るために必要な人間という括りの中には、当然の如くリーダー補佐であるジュラや気難しい個性を備えたバーネットもいる。

チームを形成するパイロットの一人一人だって、主眼的な見解や独自の性格を持った女性達ばかりである。

そんな彼女達がカイの言う事に従うかどうかは、土壇場の賭けに等しかった。

ましてや驚異的な能力を誇る敵艦隊を壊滅させる作戦内容にしても、マグノやブザムはカイから話してもらっていないのだ。

薄氷の如き危うい立場だったが、カイは自信満々で戦いに望んでいる。

メイアが大怪我を負って治療中であった時の差し迫った様子はもう微塵もなかった。

カイにどういう心境の変化があったのかブザムにも分からないが、カイがメイアを、自分の部下達を守ると言ってくれたのだ。

聞いていたブザムも戸惑いこそあったが、本当の意味でカイを頼もしく思えた。

マグノに異議を申し出たのも、カイが現状のハードルをクリアー出来るのではないかという期待の裏返しでもある。

時間は刻々と過ぎていき、カイはパイロット達と戦い前のミーティング。

メイアの治療に専念するドゥエロ達も最後の賭けに挑み、ブリッジクルー達も表情が引き締めっていた。

あやふやな希望ではなく、微かではあるが光明が見えてきたのだ。

カイに励まされたアマローネやベルヴェデールも血色が良くなって、きびきびと自分の仕事に戻っている。

ブザムは活力を取り戻したクルー達を頼もしそうに見つめ、自分が控えている主の顔を拝んだ。


「クルー達も気力が回復したようです。各所属班も仕事に復帰しています」


 それぞれの部署からの再活動の報告を聞かせると、マグノは静かに笑みをたたえた。


「目の前が明るくなれば、落ち込んでいても立ち直れるもんさ」


 人間はちょっとした事で自分の人生を狂わせたり、些細な出来事で救われる時もある。

良くも悪くも本質が単純であるのかもしれないが、それを人間は逞しさとも呼ぶ。


「カイの言葉が余程利いたのでしょう。本当に大した男です。
反目していたメイアへ気遣いの言葉を送り、皆には励ましの言葉をかけた。
カイがああ言わなければ、皆は立ち直れなかったのかもしれません」


 今までにしても、カイはクルー達を何度も危険から守ってはきた。

自分のためだとカイは言っているが、その実危険な目に晒されて来たのは紛れもなく本人だった。

問題なのは偏見が根付いている海賊団の女性達には理解されずに、カイもまた理解してもらおうと思わなかった事である。

結果として両雄の距離は縮まらず、カイのでしゃばりとして処理されて終わってきた。

本当の意味で認識が変わってきたのは、罠が仕掛けられてきた惑星からカイが身を張ってメイア達を逃がした事だろう。

明らかに仲間を助けるためとしか思えない行動に、クルー達がカイへの不信が疑念に変わった。

タラーク軍が誇るイカヅチをマグノ海賊団が襲撃した時からの諍い。

今回のカイの言葉は本当の意味で何もかもに決着をつけたと言える。

性別や価値観にとらわれずカイがメイアに生きて欲しいのだと断言し、皆を守るのだと明言した。

後はクルー達が、パイロット達がカイの姿勢にどう対応するかである。

もうすぐ編成されるフォーメーションによって、その答えが明らかとなるだろう。

カイがパイロット達と何を話しているか分からず、マグノとブザムはただじっと待つのみであった。

二人はしばらくの間画期的に活動するクルー達の様子を見守ってきたが、マグノはそっと口を開く。


「それにしても、メイアの心に最初に踏み込んだのがあの坊やとは・・・・
ふふ、何となくそうなるんじゃないかとは思っていたけどね」


 カイのメイアへの約束が嬉しいのか、マグノは皺を深くして表情を優しくさせている。

傍らのブザムは独り言であろうお頭の言葉に疑問を感じて、横から口添えをする。


「メイアを最初に救ったのはお頭であると聞いていますが?」


 元々メイアを海賊に入団させたのは、他ならぬマグノだった。

マグノは少々驚いたようにブザムを見つめ、やがて納得したように顔を綻ばせる。


「BCにはメイアと最初に出会った時の事を詳しくは話してなかったね」

「はい。心情面については先ほど伺ったばかりなのですが・・・・」


 マグノが最初にメイアと出会った時、自らの犯した過ちに心を閉ざしていた話はブザムも聞かされて知っている。

では。実際にどこでどのような状態であったのか?

メイアがどうして当時海賊頭目をしていたマグノと出会えたのか?

当時の具体的な話を聞かされておらず、やや遅れて入団したブザムには知りようのない話だった。

マグノは好奇心と探究心を秘めたブザムの目を見据え、メイアと自分の出会い話を聞かせていく。


「あの当時、アタシはメジェールの現状を知るためにお忍びで降りてね・・・」

 マグノはブザムにとつとつと話を聞かせた。












 マスコミと国民達から追われ、父親が行方不明となって母親が死を迎えたメイア。

国の保護下に置かれたものの状況は何も解決せず、一人孤独となったメイアに対して世間は容赦なく責め抜いた。

人々に愛された時の輝かしさはなく、周りにあるのは恨みと嘲りを含んだ悪意剥き出しの罵詈雑言。

友人も一人残らずいなくなり、たった唯一の味方だった両親も消えてしまった。

メイアは孤独から精神は疲弊し、何もかもが嫌になっていった。

身をやつして、煙草・酒・薬物に飲まれる毎日。

刹那的な快楽を求めて歓楽街へ足を運び、同族の女性に身体を許したり、同じくやさぐれた人間達と遊び歩いたりした。

当然そのような者達に仲間意識を持つ事も、持たれる事もなく、一人である事に変わりはなかった。

どれほど目の前の楽しさに全てを忘れても、結局最後は一人になり寂しさが襲い掛かってくる。

一瞬の快楽に身をやつしたところで、その反動でより一層の辛さが訪れるのでは意味がない。

やがてメイアは一人で寝る事も怖くなってしまい、自分の部屋を飛び出して、行きずりの相手と揉め合った。

何でもよかった、ただ一人にはなりたくはなかった。

孤独の寂しさから逃れたくて殴り合いを始めてしまい、メイアはずたぼろにされて近くのゴミ捨て場に放り込まれた。

その姿はあまりにも哀れで、服も髪も何もかもが薄汚れてしまっている。

ぼんやりと天を仰ぎ見たまま黙り込むメイアは自分の朽ち果てた姿を省みて、涙が滲むのを抑えられなかった。


『もう嫌だ・・・・誰か・・・いっそ私を・・・・』

『・・・随分と甘ったれて育ったもんだね』


 ゴミ捨て場で座り込むメイアを上から覗き込む一人の老婆。

護衛を引き連れたその老人こそが当時のマグノだった。


『自分の生き死にまで人に頼ろうってんだろう?
どうせ死ぬ気なら、アタシが死に場所を用意してやってもいいよ』


 身も心もぼろぼろになったメイアに対して、マグノは嘲笑う。

それでも瞳に生気が戻らないままのメイアに、自分の手に持っていた物をマグノはメイアに投げた。

メイアは何もかもがどうでもいい表情で受け取って、自分の手の平を開く。

渡された物は数年経った今のメイアも欠かさずに保有している装備リングガンであり、海賊の証でもあった。

 















 凄惨な出会いを果たした当時からの様子を、マグノはこう言う。


「あの子はそれこそ死ぬ気で仕事を覚えていった。もともと素質があったんだろうね。
すぐにドレッドの扱いを覚えて・・・・・・」 


 マグノがメイアをクルーの中でも特別視する理由はここにある。

人生が変わるほどの辛い経験をした者はそれこそクルー全員と呼べるほどいる。

真っ当な生き方が出来るほど幸せな人生を送れているのなら、わざわざ海賊になる理由はどこにもないからだ。

ただ、メイアに関しては話は別である。

マグノ海賊団員の大半が故郷を追われたのに対して、メイアは全てから追われたのである。

世間からという生易しいものではない。

友人から、近所から、住民から、町から、国民から、国から、何もかもにメイアは迫害を受けてきた。

通常なら自殺してもおかしくはない状況だが、メイアには死ぬ勇気はなかった。

生きているのは言ってみれば奇跡であり、状況に流されたまま死ぬ事も出来ないでいたメイアの弱さでもある。

だからこそ、メイアは強さを求めたのだ。

自分で全てを為せる力を、過ちを犯しても立ち止まらない前向きを。

そして悲しい事や辛い事も惑わされない強靭さを。

より一層の完璧さを求めている渇望こそが、海賊時代のメイアを支えてきたとも言える。

過去を乗り越えようとしていると言えば立派に聞こえる。

ひたむきにがんばって責任を果たそうとしているメイアの姿に頼もしさを感じている者は多いだろう。

でも人生経験を積んでいるマグノから見れば、物哀しい過去に引きずられている様にしか見えないのだ。

何故なら強さを求める動機は原点へ収束すれば過去からなのである。

どんなに強さを手に入れても、乗り越えた事には決してならないだろう。

事実、メイアは他人との積極を極端に避けてきている。

大切な人間が出来ると弱くなるというのがメイアの言だが・・・・・

マグノは知らず知らずの内に握り締めていた数珠を振って、尼僧のように祈る。


「メイア、死ぬんじゃないよ。あんたはまだ元を取ってないんだからね!」


 生きてほしい、それがマグノのメイアへの想いの全てだった。

幼い頃に幸せを失って、過酷な人生を余儀なくされてきたメイア。

苦しむままに死んでいっては、メイアは不幸としかいえない人生で終わってしまう。

マグノはそうならぬように祈るしか出来なかった。

自分はメイアを本当の意味で幸せには出来ないと知っているから。

思えば、その役目を担える者を自分は探していたのかもしれない。

そして今日、今ここで・・・・・

マグノの探し物は見つけられたのかもしれない――


『ばあさん、準備は出来たぜ』


 メイアの過去も知らず、マグノの葛藤も知らない目の前の男。

何も知らずに、何も知ろうともせずに。

カイはモニター越しにただ勝気な表情を浮かべていた。















 ジュラ達の合意を得て、カイはいよいよ本格的な作戦指導に取り掛かった。

対する敵側は先とは違う組織的な行動を見せ始めたカイ達を警戒したのか、取り囲んでいた母船を離れて距離を取る。

無論逃げるつもりはなく、あくまで殲滅の為の一時的な様子見にすぎない。

もしカイ達パイロットが本格的に攻撃に掛かれば、数百機のキューブ型を初めとする鳥型を主力とした艦隊が牙を向くだろう。

正面から戦い合えば、チームワークが回復したとはいえ戦力ダウンしているドレッドチームでは勝ち目はほぼ皆無である。

代わりのリーダーを任されたジュラが精神的に追い詰められるまでに至っていたのも無理はない。

マグノヤブザムが頭を抱え、ガスコーニュがやジュラが思い悩み、大半のクルー達が苦しみぬいている戦況。

見事覆してみせるというカイの言葉は、場合が場合であったら追いつめられて気が狂ったと勘違いされかねないだろう。


『宇宙人さん・・・大丈夫かな?』

「てめえ、俺が信じられねえのか」

『ううん、そんな事はないけど・・・・・』


 弱々しく拒絶しながらも、通信モニターに映し出されているディータの表情には不安の色が出ている。

カイはディータの様子に肩を落としながらも、今から行われる作戦のメンバーの配置を一つ一つしっかりと監督していた。

何しろ百五十名を超える人員の命が掛かっているのである。

マグノが自分に任せてくれたのも、この戦いに勝利できるという言葉を信じてくれたからだ、

カイは男として、何が何でも誓いは果たすつもりでいる。


「お前もぼんやりしていないで、作戦行動に備えて移動しろよ」

『ディータはいいの。宇宙人さんと一緒に戦うから』

「お前の出番は後だろう。さっき説明した事、理解しているのか?」


 苛立ちに心配を隠して、カイはディータをジロリと睨んだ。

ディータは一瞬怯んだが、それでも強気になって言い返した。


『宇宙人さんは皆を助けるために頑張るんだよね? ディータだって気持ちは同じだよ。皆を、リーダーを助けたいって思うもん』

「それは周りの連中だって同じだろうが。お前一人が思い込んでいる訳じゃない。
一人気負って危ない橋を渡らんでもいいだろう」

『それだったら宇宙人さんだって同じだよ!
悪い宇宙人さんを近づけるために的になるなんて・・・・』


 新しく創案されたフォーメーションは至って単純で、防御重視と呼べる消極的な編成だった。

まず母船を中心にして、カイ機が船の前面中央に立つ。

ジュラ達ドレッドチームはカイを主軸として、楕円形を描いたラインのように四方に並んで距離を置いて広がっていた。

ドレッドチームはは先程のジュラの指示によって全面をシールドでコーティング、周波数を変動させて確立した防御を行える。

長時間こそ続かないが、ドレッドが張れるシールドの効果も並ではない。

ニル・ヴァーナも敵の放火を食らってシールド効果は衰えているが、まだ少しはもつ筈である。

問題はたった一機、カイの乗る蛮型だった。

敵の最終目的は母船を破壊する事。

戦闘が再開されれば、ニル・ヴァーナのシールド前面に立っているカイ機が集中豪雨を食らう事になるのは目に見えている。

シールドを張る機能がない蛮型では防御も出来ずにダメージを食らい続ける事になるのだ。

ディータの心配は怪我をしているカイがこれ以上の負傷を負う事を懸念しているのである。

「別にそれだけが目的じゃねえよ。作戦の最終段階は俺が全員の中央にいなければいけないんだ。
俺にとってはここがベストポジションなんだよ」

『ディータも一緒に戦うよ!』

「意味がない行動を取るな。お前も金髪達と同じように船から離れて位置につけ」

『どうして!?今、ディータと宇宙人さんが合体すれば・・・・・・』

「駄目だ」


 ディータが言おうとしている言葉の続きを察して、カイはぴしゃりと遮った。


「忘れた訳じゃないだろう?俺とお前は合体が出来ない」


 味方同士が混戦していた時、危機を乗り越えるためにカイ機とディータ機は合体するべく交差した。

結果として一瞬ヴァンドレッド・ディータが誕生しかけたのだが、その直後何故か分離したのだ。

冷静になって頭も冷えたのでその後いろいろと検討したのだが、どうしても理由が分からなかった。

カイが考えている内に思い当たる。

自分が何故ディータやメイアと合体出来るのか?

当たり前のように思えてきた合体という現象がそもそも何ゆえに行えるのか、その原因を知らない事に・・・・・


『でも、もう一度試せば出来るかも・・・!?』


 突如分離した時の出来事が余程衝撃的だったのか、頑なにやり直しを迫ろうとするディータ。

確かに敵が現在様子見に入っている今なら合体が行えるか試せるチャンスだ。

ディータの意見は至極もっともであり、個人的感情を除いても効率的だろう。

だが――


「曖昧な要素に最初から頼るのはやめよう、赤髪」

『宇宙人さん・・・・・でも、でも・・・・・』


 カイが頭を振って否定するのをディータが納得がいかないかのように見つめると、カイは穏やかに続きを話す。


「お前の言う事はもっともだ。さっき合体出来なかったから、今回も出来ないというのは極論だ。
今この瞬間試したら成功するかもしれない。
だけど、あえて合体は最後の最後にとっておく」

『どうして最後にするの?』


 目をぱちぱちさせるディータに、カイは無造作に腕を振る。


「あいつは、青髪は今必死で戦っている。俺もまた、必死で戦う事を誓った。
お前だって気持ちは同じだろう」


 手首から下の利き腕の部分、力なくぶら下がっている高価なデザインをしている髪飾りが揺れた。

メイアへの繋がりがそこにあるように。


「その気持ちは他のドレッドパイロットの面子だって同じだ。
こうやって協力してくれているのも、あいつらだってメイアを助けたいと思ってるからなんだ。
俺はその気持ちを汲んでやりたいと思ってる。
何故なら・・・・・」


 ディータはその瞬間涙ぐみ、頬を桜色に染めて、心を潤ませる。

カイがあまりにも強く、雄大な心遣いをこめた表情でこう言ったからだ。


「これは俺達全員の戦いだからだ」


 誰か一人でも欠かす事は出来ない。

最後の最後まで戦い合うのだと決めた。

だからこそ、約束は約束となりえるのだから。















だからこそ、帰ってくるのだと信じられるから――


























<Action13に続く>

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