ＶＡＮＤＲＥＡＤ連載「Eternal Advance」
Chapter 6 -Promise-
Action11 −結束−
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艦内全てが静まり返る。
追い討ちを掛けて来る敵も、自分達に訪れつつある命の存亡も遠くの世界の出来事のように霞む。
マグノ海賊団全ての女性達が一人の男の言に耳を傾けて、心の内を困惑に彩られていた。
彼女達が今まで出会った男には、彼女達が今まで出会った人間にはこれほどの言葉を堂々と言えた者など一人としていない。
現状を再認識すれば、嫌が応にも理解できるからだ。
自分達の戦力は半分以下に低下し、敵戦力は初戦以上に強大化している。
散々苦しめられている鳥型はそのほとんどが健在で、チームワークが乱れて集団戦法が通じないチーム編成では到底太刀打ちはできない。
頼りにしている上司達は苦難に頭を悩めており、何も出来ずに対処不能状態。
自分達は自分達で現状況を改善出来る手は皆無で、じわりと差し迫る脅威に震えるしか出来ない。
信頼を寄せているメイアは死の淵にあり、医者であるドゥエロにも改善の手立ては失われている。
そこへカイが断言した空前絶後にして、理解不能な盟約。
自分達を守るために、メイアを救うために、敵である筈の存在を救うために、カイは言い切った。
艦内放送で全領域に言葉を発し、皆に聞かせた以上はもう後戻りは出来ないだろう。
皆は共通して考える。
どうして敵であるメイアにああまでして呼びかけたのだと、救おうとするのだと。
カイにはメイアを助けようとする理由などない。
メイアはカイを嫌い、なじり、認めず、否定して来た筈だ。
カイがメイアに恩があるというのなら話は別かもしれないが、カイには恩立てする義理もない。
むしろメイア自身は認めてはいなかったが、カイは常にメイアを助けて来た。
砂の罠が仕掛けられていた惑星では、カイは無謀に特攻してきたメイアの尻拭いまでしたのだ。
カイにとってはメイアは敵であり、それ以上に自分に負担ばかり掛けている反した存在の筈なのだ。
そのメイアは死に逝く状態にあるというのなら、カイにはむしろ願ったり叶ったりだろう。
メイアがいなくなれば、カイの存在を否定する海賊達の筆頭たる女性が消えるという事になる。
少なくとも居心地が悪くなる事は今まで以上にはならないだろう。
百害あって一利もない、それが全員が暗黙の了解で認識しているカイとメイアへの共通した思いだと思っていた。
自分達にしてもそうだ。
カイは仲間を、自分達を何度も助けてくれた。
その事実は確かに海賊達の間である。
だが所詮カイは男であり、敵であり、不利益を招く災いの生物としての認識が女性達の心の根底にこびり付いている。
カイが戦闘中負傷しても、チーム編成から外されても反対意見が出なかった理由はそこにあった。
タラーク・メジェールという国民的思想が両者の間にある以上、分かり合えるのは不可能なのだ。
共に行動するのはお頭が決めたから、助け合わなければいけないのは目的を優先するから。
自己暗示とも取れる強制的な気持ちの押し付けで、その心得を前提に旅の同行として自分達クルーの仲間入りを渋々認めたのである。
カイを、ドゥエロを、バートを捕虜扱いしているのは自分達と一緒にしたくないという差別化を図ったからだ。
言い換えれば海賊達は男三人を蔑視し、仮の仲間としても扱わなかった。
カイ達にしてみればいい迷惑であり、今後も一緒に行動使用とは思えない程の冷遇だったであろう。
それでも一緒にこれまで行動できたのは、女性達と同じ共通の目標があってこそである。
目的意識がなければカイ達は海賊達と馴れ合おうとは思わないだろうし、海賊達もまたカイ達にそんな期待は持っていない。
故郷に辿り着いて危機を救えば、即お別れの仮初めの関係。
ドゥエロが、バートが、メイアが、マグノが、ブザムが、ガスコーニュが、ディータが、ジュラが、バーネットが、
そしてニル・ヴァーナ全ての人間がそう信じて疑わなかったであろう。
両雄のその全ての関係を、カイは今根幹から叩き潰したのである。
全員が全員自分達の行っていた作業の手を止めて、思考すら止めて目の前のモニターに映っているカイを見つめる。
カイは肩と額に激しい裂傷を負ってはいたが、メイアに語りかけていた表情はどこまでも鮮烈だった。
まるで自分の発している言葉そのものが大切であり、意味を持っているように一つ一つ語りかけたのである。
全てを言い終えて、自分の相棒のコックピット内にいるカイはふっと息を吐いてぼんやりと上を見上げた。
メイアに対する気持ちや決意した事を伝え終えて、心の中が透明になっている。
言ってしまったという気持ちはあるものの、それは後悔ではなかった。
思えば主格納庫で言い争って、メイアを突き飛ばしてしまったあの頃から気まずくなってしまっていた。
どっちつかずのあやふやな関係、いつもはっきりしていないと気が済まない自分にとっては心苦しい期間だったように思える。
今ようやくメイアを助けたいという自分の本音を明らかに出来た事で、気恥ずかしさはあるが心地は良かった。
はっきり断言してしまったのだ、もう後は自分なりに進めばそれでいい。
カイはフッと笑って、改めてモニターを見やる。
それぞれ全部署に通信回線は開かれており、それぞれのスタッフが全員が全員映し出されてカイを見ている。
カイは一人一人を見つめ、最後にブリッジ内の中心であるマグノを見て言った。
『ばあさん、俺に考えがある』
マグノは中央モニターにアップで映し出されているカイをじっと見やり、表情を潜めて問いただした。
「お前、まさか死ぬ覚悟かい？」
俺も命懸けで頑張る、だからメイアも命がけで頑張れ。
カイの言葉が本当なら、カイがこれからやろうとしている事は文字通り自分の生命を燃やして挑もうとしているという事になる。
自分の命を賭ける、簡単なようでひどく難しい行動。
カイが出来るか否かは、マグノはもうはっきりと分かっている。
自分の大切なクルー達を逃がして、死ぬ危険しか残されていない惑星に残った男なのだから。
マグノの問いに傍らのブザムは厳しい表情でカイを見つめ、アマローネ達は固唾を飲んで見守っている。
カイも真剣な表情でマグノと見つめ合っていたが、やがてにっと笑って言い切った。
『おいおい、ばあさん。俺の話をちゃんと聞いてたのかよ。
言っただろう？俺はあいつを幸せにするって。
ちゃんと生き延びてヒーローにならないと、あいつが回復したら約束を破る事になるだろう』
メイアが必ず戻ってくると信じて疑わないカイの言葉。
確証もなければ、状況が改善された訳でもないのに、カイはメイアが生きて戻ってくると確信している。
きっと、この船にいる誰よりも――
マグノは改めてカイを見つめ、目尻の皺を深くする。
「考えがあると言ったね。この状況をどうにか出来るってのかい」
『当然。俺にかかれば、あんな雑魚共一瞬よ。
年寄りは黙ってヒーローの活躍を見守っとけ』
自信たっぷりに言うカイに、マグノはカイが決して強がりやハッタリを言っている訳ではないのだと知る。
バートのように自身の身の安全や利益を得るためとしては、カイはあまりに純粋な表情だったからだ。
マグノは黙って小さく頷いて、カイを改めて見つめる。
「ここで敵さんを倒したら、今日はお前さんが一番のお手柄だよ」
『そんときゃ御馳走でも振舞ってもらうとするか。もう腹が減って仕方がねえよ』
「ふふ、何か食べたいものでもあるかい？リクエストには答えるよ」
マグノなりの茶目っ気に、カイは気を良くした様子で少し悩む。
少し考えて、ふと自分を見つめる数々の視線に気がついて意地悪そうに口元を緩めて言う。
『そうだな・・・アマローネやベルヴェデールの作った飯が食いたいな』
「えっ！？」
「ちょ、ちょっと！？」
いきなり名指しされた二人はどう反応していいか分からずにいるが、カイは構わずに言う。
『かなりはらぺこだから、十人前は作るように。
あ！どうせだから、青髪の分も一緒で』
「何を勝手な事を言ってるのよ！」
ベルヴェデールはモニター越しに指を突きつけて、カイに怒鳴りかける。
『何だ、けち臭い奴だな。
人様がこれから頑張ろうって時に、ちょっとは元気付けてやろうっていう気にはならないのか』
「十分元気じゃないの！どこからそんな元気が沸いてくるのよ・・・・・・」
『聞いたかよ、アマローネ。この鬼のような台詞。
お前からも何とか言ってやってくれ』
「作らされるあたしとしては、ベルと同意見なんだけど」
『うう、人情の欠片もない奴らだ・・・・・』
カイはがっくり肩を落として、涙ぐむ真似をしている。
いつものカイ。
ベルヴェデールは何故か励まされたような気持ちになり、少しして神妙な顔で話し掛ける。
「・・・・カイ」
『ん？作る気になったのか』
「・・・・メイアに言った事、本当？」
『・・・・・・・・・・・』
ベルヴェデールの表情には疑いよりも、どちらかと言えば信じたいという気持ちが見えている。
メイアを幸せにする、自分達を助ける。
カイの言葉はインパクトはあったが、それ以上に感情の乱れが胸に詰まっている。
アマローネもそれは同じなのか、カイに縋るような視線を送る。
「あんたを・・・・信じていいのよね？」
アマローネの言葉はメイアに対する、そしてマグノ海賊団全員に対する最後通告である。
ここで否定するか、肯定するかどうかで、カイへの心の向きようは劇的に変わるだろう。
もし否定すれば、今まで通りの関係が継続される。
冷遇処置こそ続くが、裏切っても誰も傷つく事はなくタラークの人間としていられるだろう。
マグノ海賊団がもし敵ににやられてカイが逃げたとしても、誰もカイを責められない。
もし肯定すれば、今までの関係はことごとく変わっていくだろう。
カイが約束を守れば信頼度は変化を遂げて、カイという存在への認知も向上する。
それは同時に、カイは二度とメイア達を裏切ってはいけない事にもなる。
少なくとも安易な言葉を並べる者に、宇宙一の英雄などとても務まらない。
アマローネも、ベルヴェデールも、今度という今度は切実だった。
何度も助けられ、何度も救われて、カイがどういう人間かわかって来た以上、今まで通りの対立した関係にはなれそうになかったからだ。
関係を改善していくには、カイの自分達への気持ちを知りたい。
二人の視線に、艦内全員の視線の的となりながらも、カイは少しも悩む事はなく言った。
『男に二言はねえよ。青髪やお前らを死なせるつもりはない。
だからよ・・・・・・・』
カイはそう言って、二人を交互に見つめて言った。
『前も言ったろ、そんな面すんなって。
俺を信じて、お前らは俺の活躍をしっかり観戦しとけ』
カイの言葉にベルヴェデールは俯いて肩を震わせ、アマローネは笑って頷いた。
どんな状況下に置かれても、それでもカイは決して後ろ向きにはならない。
その前向きな姿勢を信じてみるつもりになった。
先程まで恐怖と不安に気を落としていた二人が元気になって、様子を見守っていたエズラは目元に浮かんだ涙を拭った。
「カイちゃん・・・・本当にありがとう」
『へ？
いやまだお礼を言われる事はまだやってないぞ、おふくろさん』
対応に困っているカイにくすっと笑って、それでもエズラは言った。
「・・・・・・そうね。
でも、ありがとう・・・・」
『う、うーん・・・・・・・』
カイにしてみれば、お礼を言いたいのは自分の方だった。
子供に対する貴重な意見を聞かせてくれたからこそ、メイアに伝える事が出来たのだ。
少しずつ和やかになってくる雰囲気に苦笑して、ブザムは前に一歩立った。
「状況は刻一刻と悪化している。本当に打開出来るのか」
今でも思いつかない反撃の手立てを、目の前のカイは既に思い浮かんでいるというのだ。
どのような策なのか思いもつかない分、不安もまたある。
ブザムは徹底した現実主義のため、希望的観測に身を浸らせるような真似は出来なかった。
『俺に任せろって。作戦の指揮は俺が取る。パイロット達全員を集めてくれ。
それと後は・・・・・おい、家来！』
「家来じゃないピョロよ！失礼な奴だピョロ！』
マグノの傍で黙って大人しくしていたピョロが、怒ったように猛然と抗議する。
『うるせえ！お前、どうせ暇だろう。
ドゥエロの所に行って治療のサポートをしに行け。お前でも何か助けになるだろう』
「ピョ、ピョロは怪我の治療なんてできないピョロ〜」
『いいから行け！ぶっ壊すぞ、てめえ！！』
カイはモニターにドアップでいきり立つと、ピョロは慌ててブリッジから出て行った。
最近は行動を共にする機会は減ったが、カイとピョロの関係はまだまだ続いているようだ。
カイは一つ息を吐いてブリッジから目を離して、医療室への回線を大きく広げる。
『ドゥエロ、青髪は・・・・・』
通信モニターからのカイの表情は心配げに映っている。
診療台に寝かされたままのメイアはただじっと眠っており、乾いた涙の跡が頬に名残として残っていた。
ドゥエロはそんなメイアを一瞥して口を開いた。
「君の言葉は彼女に届いたはずだ。
後は我々が必ず何とかする。私も約束しよう」
ドゥエロはそんなカイに珍しく優しい微笑みで対処した。
『我々？ってパルフェ！？何でお前・・・・』
意外な人物登場に驚いているカイに、ドゥエロの後ろにいたパルフェはひょこりと顔を出す。
「メイアを助けるために呼ばれたの。
・・・・・・・へへ・・・・」
『な、何だよ、その笑みは？』
「ふ〜ん、カイがね・・・・・・」
にやにやしているパルフェに、カイは顔を赤くする。
別にからかわれている訳ではないのだが、妙な居心地の悪さを感じたのだろう。
『と、とにかく！何でパルフェがいるのか知らねえが、青髪の事を頼む。
この船は俺が守るからよ』
「分かっている。容態に変化があれば、すぐにでも連絡しよう」
『・・・・いや、いい』
「ほう？」
カイの意外な返答に興味を示して問い返すと、カイははっきり断言した。
『俺はあいつらを倒してからそっちに行くよ。でないと、約束を守った事にはならないからな。
んじゃあな！』
通信回線は遮断され、カイの映像は消失する。
ドゥエロはしばらく残像を目で追って、改めてメイアの様子を見やった。
心拍数・脳波・呼吸数共に弱りきっている。
身体的ダメージは励ましの言葉の一つや二つで回復などしない。
現状でメイアに助かる可能性が限りなくゼロなのは変わりはなく、今も危篤状態なのは同じだ。
だがカイの言葉に涙したメイアを見て、ドゥエロはその少ない可能性に賭けてみる気になった。
元々分が悪い賭けなのだ。
カイも命をかけて活路を開こうとしている以上、メイアにもそのチャンスを与えてやらなければ意味がない。
その橋渡しこそが自分であり、パイウェイであり、パルフェなのだ。
ドゥエロは白衣を着なおして、助手二人に言った。
「治療を続けよう。私とパイウェイで破片の除去にあたる。
パルフェ、パルスを頼む」
「いいの？メイアの具合から考えて、助かる可能性は低いよ。
死なせる危険性だってある」
パルフェの探るような声に、ドゥエロは力強く言った。
「彼女は必ず乗り越えられる。今から戦うのは彼女一人ではないからな」
ドゥエロが何を示して、何を語っているのかを知り、パルフェも笑って頷いた。
パイウェイもハラハラしていた様子が消えて、小さな身体に活力を入れて支度を整える。
メイアに訪れている厳しい現実に、やり場のない歯がゆさを感じていた三人。
それが今では嘘のように晴れ渡った気持ちで、目の前の困難な壁に挑もうとしている。
ドゥエロ、パルフェ、パイウェイ。
自分達だけが勝率の少ない戦いを行っているのではないと知り、ようやく三人には前が見えてきたのだ。
共に決意を背負って戦う者がいる事への頼もしさを知り、ドゥエロ達はカイの戦いの行く末に希望があるように感じていた。
副長ブザムとお頭マグノの命令を受けて、ドレッドチームは再集結する。
チームを率いるリーダーは現在集中治療中であり、引き続き補佐役としてジュラが選ばれた。
ジュラの助手にバーネットが立候補し、ニル・ヴァーナから出撃した全てのドレッドが前面に並ぶ。
現在総数は最高チーム数の約四分の三。
無傷でいる者は皆無に等しく、大怪我を押して無理に戦いに望んでいる者も少なからずいた。
それでも半数以下に落ち込んだ筈の戦力が再びこうして戦場へ狩り出して来れたのは、パイロット達が自分から志願した結果である。
メイアが退陣し、ジュラが落ち込んでしまい、ブザム達が対応出来ずにいて、悩み苦しんだ戦士達。
自分達で頑張らなければいけない事は分かっている。
でも、先行きの見えない暗闇の道標では命を落とすだけなのだ。
ドレッドを駆るパイロットには常に二つの生命を背負っている。
自分の命と他人の命。
戦う事で自分の居場所を守り、守る事で仲間の居場所を確立するのである。
目の前の敵に全力を持って戦い、勝利する事は言ってみれば当たり前としなければいけないのだ。
パイロットは勝利を条件としなければならず、その覚悟の大きさは半端ではない。
敵が強大であればあるほど、自分が追い込まれれば追い込まれる程、覚悟は重荷に変換される。
その重さは現在においてはパイロット達を飲み込み、マグノやブザムでは払えない程に大きくなっていた。
一時は総員退避にまで及んだチームがここまで復活できたのは、マグノ達の命令だからではない。
マグノやブザムには並々ならぬ信頼と尊厳を向けているが、今回の戦いにおいては二人への依存度は低下している。
海賊団を支える戦場の女神達はこの場にいるのは、自分達の先頭にいる一人の男の告白を聞いてこそである。
全機を前にして、男は自分が繰り出している蛮型の回線を開いてパイロット達一人一人の前に顔を出した。
『今から作戦内容を皆に伝える。この作戦はお前らの力を借りないと出来ない。
その事を前提に、俺の説明を聞いてくれ』
カイは怪我の治療もせずに出撃しているが、何の苦痛も感じていない様子で朗々と伝える。
自分が閃いた敵を倒す策の全てを。
包み隠さずに説明を終えた後、パイロット達より湧き出したのは驚愕の叫びだった。
『本気で言っているの！？』
『うまくいく訳がないじゃない！』
『そうよ！それに・・・・・』
次々と疑問や困惑の声が降りかかって来る。
彼女達がカイにこうして問いかけるのは当然であった。
カイが立案した敵を倒す作戦はそれほどまでに奇想天外で、常識を無視したやり方だったからだ。
周囲のドレッドチームの喧騒を静めたのは、パイロット達の現リーダーだった。
『皆、落ち着いて！』
先程とは雲泥の差の落ち着いた声に、パイロット達は一様に口を閉ざした。
皆が静まった頃を見計らって、ジュラは通信を繋げて来たカイに切れ長の目で見つめる。
『・・・本気で言っているの？』
『当然』
『もし作戦が失敗したら、真っ先に死ぬのはあんたなのよ』
ジュラの指摘に、パイロット達は顔を強張らせる。
そう、皆が一番に驚愕していた理由に作戦の危険度の高さがカイに集中している所にあったのだ。
この作戦が失敗する事イコールカイの死なのである。
カイはそれが分かっていながら、全員に作戦を説明した事になる。
ジュラが周りが言い難かった事をあえて指摘する事で、カイが何故この作戦を申し出たのかの真意を代表して促したのだ。
『皆、聞いてくれ』
切り詰めた空気に静まり返る中、カイは目を閉じて言葉を口にする。
『お前らが俺を嫌っているのは知っている。
この旅が始まって、俺が共に戦っている事に一番迷惑していたのはお前らだろう』
カイはいつも自分が思うままに戦い、自分が勝利する事で喜びを得ている。
言い換えれば周りがどう思おうが知った事ではなく、何機撃破されようと全く関係はなかった。
『俺はこういうやり方しか出来ないし、今までずっと自分を貫いて来た。
これからも、多分そうしていくと思う』
夢がある限り、叶えたい思いがある限り、カイは決して止まらない。
その先に危険が待ち構えていようと、絶望が総出で襲って来ようと、立ち向かおうと決意したのだから。
『だけど・・・・・』
カイは瞳を開いて、再び全員を見渡した。
『この戦いは別だ。
俺はあいつのために、青髪のために戦おうと思ってる』
カイは手に持っていた血に濡れたあるものを全員に見せた。
皆が身を乗り出してそれを見つめ、目を見開いて呆然とした顔をする。
カイの大きな手の平に乗っていたのは、メイアのいつも着けていた髪飾りだった。
『あいつと約束した。俺は勝つと。
お前らを守ると、皆を助けるのだと誓った。
あいつは俺の言う事なんて聞いていないかもしれない、どうでもいい事かもしれない。
でも、それでも俺はあいつと約束したんだ』
カイは髪飾りを握り、そして自分の腕につけた。
大きさ的に半端で宙ぶらりんではあるが、それなりに様になっている。
『男に二言はない。俺は必ず約束を守る。
俺が勝てば、絶対にあいつは帰ってくると信じてる』
自分勝手な気持ちの押し付けに過ぎないかもしれない。
カイはメイアより返答は何もされてはいないのだから。
『皆・・・・・・・・・・・』
一つ深呼吸をし、カイはパイロット達全員をしっかりと見て言った。
『俺に命を預けてくれねえか？』
沈黙が周囲を覆い尽くす。
カイはこう言っているのだ。
敵である、タラークの薄汚い男である自分に、誇り高きドレッドパイロット達全員の命を背負わせてほしいと。
お互いの顔を見つめ、パイロット達は一人一人どう答えればいいのか悩む。
今まで男に憎しみや怒りの感情をぶつけられた事はあっても、頼られた事は一度としてない。
突然の申し出に返答に思い悩んでいると、意外な所から返事が出てくる。
『ふう・・・・
ここはあんたに託すしかないか』
『バーネット！？』
周囲がざわめく中で、バーネットは勝気な笑顔を崩さずにカイに言いのけた。
『言っておくけどね、あんたを全面的に信用した訳じゃないわよ。
この前助けてもらった借りを返したいだけなんだから』
そっけなく言うバーネットに、カイはそれでも嬉しそうにする。
『・・・・・へ、口が減らない奴だな』
『それはあんたも同じでしょう』
『金髪！？』
先の先まで大喧嘩をして別れた相手。
カイがバツが悪そうにしているのを見て満足したのか、ジュラはいつもの余裕を取り戻したように髪をかき上げる。
『いい？メイアを助けたいって言うから、ジュラは渋々協力してやるんだからね！
もしこれで失敗したら、あんたに全部責任とってもらうから』
『あっ！？きったねえ、この野郎！？
ちゃっかり責任を押し付けやがったな！！』
『ふふ、何の事よ。ジュラ、そんな難しい事は分からないわ』
『とぼけやがって！くっそ、さっき褒めて損した。
お前なんかやっぱりただの役立たずだ、役立たず！！』
カイとジュラが言い争いを始めたのを見て、パイロット達は改めて今まで立ち込めていた陰鬱な雰囲気が消えていくのを感じた。
誰よりも落ち込んでいたジュラが顔色を良くして、普段のペースを取り戻している。
言葉づかいや一人称が元に戻っているのが何よりの証拠だ。
バーネットもバーネットで危機的な状況であるにも関わらず、カイに全権を移行する事に反対していない。
むしろうまくいく事を確信している素振りすら感じられる。
ジュラやバーネットは有能ではあるが、扱いが難しい事でも有名な二人だ。
その二人の中心にカイがいる。
パイロット達は少し躊躇う様子を見せていたが、やがて口々にカイに呼びかけていった。
『しょうがないわね・・・』
『一度だけ信じてみよっか？』
『駄目で元々よ』
『メイアを助けるためって気持ちに嘘はなさそうだし・・・・』
皆は今までメイアを何度も助けて、自分達の大切な人を救ってきたカイを信じる気持ちになったのである。
一人一人が輪を結び、個が全となってまとまりを見せる。
メイアが取り仕切っていた時にはない新しい繋がり。
カイは皆が賛同してくれた事に訳もなく涙が出そうになるのを堪えて、ぐっと拳を握って耐える。
そして表情を引き締めた後に、カイは大きな声で叫ぶ。
『行くぞ、お前ら！！』
『ラジャー！！』
男と女、本当の意味でのチームが今をもって結束された。
＜Action12に続く＞
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