ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action12 -怪事-








 幸運だったのは、会議室で悩み相談を行っていたブザムが丁度良いタイミングでメインブリッジへ戻って来てくれた事だ。まだカイ達と一緒だったら、連絡が取れなかった。

注意してくれたユメを連れてブリッジへ急行したパルフェ達は、副長に報告。報告を受けたブザムはお頭を急ぎ連絡を行い、ブリッジクルーにガス星雲の索敵を行わせた。

基本的に人間に非協力的なユメだが、サプライズ任務中であるカイの邪魔になるとあっては渋々協力するしかない。少女が指摘する座標位置は正確で、すぐに割り出すことが出来た。


進路先のガス星雲に潜んでいた刈り取り艦隊、マグノ海賊団を確実に標的とする規模戦力が揃えられている。


「ユメちゃんの言う通り、敵が潜んでいます。ガスーンの中に隠れていました」


「――故郷へ急ぐ我々はガス星雲を回避する針路を取っておりました」

「そこを狙い撃ちするつもりだったようですね……嬢ちゃん、お手柄だよ」

「ますたぁーの為であってアンタらの為じゃないもん、べーだ」

「何を言っているんだい、嬢ちゃん」

「……? 何よ」


「ナビゲートをする事が、お前さんの仕事だろう。よくやってくれてるよ、カイもきっと喜ぶよ」

「そ、そうかな……? うふふ、まあこれからも何かあったらナビゲートくらいしてあげる」


 口を尖らせながらも鼻歌を歌うユメを、この場に居る誰もが微笑ましく見守っている。態度も口も悪いのだが、良くも悪くも素直な娘だった。

身元不明の立体映像、意志のある悪夢の具現化。何者なのか不明だが、少なくともカイが味方でいる限りはこの子もまた敵対しない。

無邪気な悪意を持っているが、教育次第で幾らでも変われる。無邪気な善意で接するカルーアがいい変化を生んでくれている、将来が楽しみだった。


だからこそ、ここで殺される訳にはいかない。


「我々の針路を阻むのではなく、通過する過程で包囲する陣形を取るつもりのようです」

「母艦を略奪したカイの作戦を明らかに流用していますね」

「例の"スーパーヴァンドレッド"に関する情報はウイルスで遮断出来ても、感染以前については情報漏れを防ぎようがなかったからね」


 スーパーヴァンドレッド誕生についてはウイルス感染後だったので、ネットワークが破壊されて地球側に情報が漏れることはなかった。

だがウイルスに感染させるまでの作戦工程については、どうやろうと防ぎようがない。少なくとも母艦内部突入までは、確実に情報が渡っていたはずだ。

ガス星雲を利用したカイの作戦で悪戦苦闘させられた母艦は、作戦の詳細を分析したデータを地球へ送った。そして母艦を奪われた彼らは、作戦の流用を行った。


ある意味で分かりやすい敵ではあるのだが、実際にやられていたら苦戦は免れなかっただろう。


「敵は今も潜んだままで、こちらの動きには気付いておりません」


「進路変更すれば回避出来なくもないですが――」

「――目的地が知られている以上、いずれぶつかるだろうね」


 刈り取りを目的とする敵は常に敵愾心を剥き出しにしているが、マグノ海賊団側が積極的に戦う理由はない。殺される前に殲滅する、専守防衛が目的である。

地球がタラークとメジェールを目標としている以上殲滅すべきだが、何もマグノ海賊団だけで危険を犯して戦う必要が無い。彼らは道中で味方を増やしているのだから。

随分前の話となるが、故郷にも警告の知らせを送っている。返信は何もないが、無反応だから何もしていないとは限らない。故郷が脅かされる以上、対策を練るはずだ。


此処で戦うべきか、此処は回避して戦力を増強して殲滅すべきか――思案のしどころだった。


「アタシら海賊は常に先手を打ち、奇襲をかけて常勝を常としている。久しぶりに海賊らしく戦うというのも有りなんだけどね」

「特に刈り取りには、毎回我々が襲撃を受けておりました。敵を脅かす意味では悪くない戦術でしょう」


 この前の母艦略奪作戦では初めてイニシアチブを取れた形ではあるが、あの作戦も敵の蹴撃を受けた後の反攻作戦だった。

今回は敵が奇襲する作戦そのものを、こちらが見破っている状態。これ以上ないほど有利な状況にある、戦力不足を補えるかもしれない。

実に痛快な誘惑である。いつも奇襲を受けている側からすれば、毎日緊張感を孕んだ生活を強いられているのだ。半年も過ぎれば、一度くらいはやり返してやりたい。


安易とも取れるが、電光石火で行えば手応えがありそうな作戦ではあった。


「敵さんの戦力を至急分析しておくれ。特に過去の戦闘データにない新型がいないか、チェックするんだ」

「確認します――既存戦力のみ、新型はいません。偽ニル・ヴァーナも加わっておりません」

「新型はおろか、人型に変形するあの化物も居ないのか。ならば奇襲作戦も――」


「何言っているの、この無能オッパイ」

「きゃっ、何よいきなり!?」


 戦力分析を行っていたヴェルヴェデールの胸元を覗き込んで、険悪な顔をしたユメが吐き捨てる。少女の奇襲に、辣腕のブリッジクルーが仰け反った。

本来、ユメは彼女達には何の口出しもしない。遠慮しているのではない、協力する気は全く無いからだ。生きようが死のうがどうでもいい。

ただ今日この場では、マグノに褒められてやや機嫌が良かった。褒められた褒美とばかりに、つい口出ししたくなったのだ。


少女の余興が、マグノ海賊団を救ってくれた。


「この座標を丹念に調べてみなさい、一隻隠れているから」

「えっ!? この座標はちゃんと調べたわよ」

「バーカ、環境データを分析しても意味ないわよ。ペークシス反応だけで調べるのよ」

「ペークシスのみって――えっ!?」


 ――ペークシス反応解析で浮かび上がる、凶悪な構造の無人兵器。外部モニターにも、環境データ分析にも、全く映し出されていない幻の兵器。


新型どころの話ではない。データ座標にも映し出されない、ステルス兵器。肉眼で見ようと、レーダーで観測しようと、何一つ皆目見えない。

敵は、カイの作戦を流用している。そして流用する上で、作戦に相応しい兵器をわざわざ作り出した。奇襲に的確な、最新ステルス兵器を。


ペークシスの光で浮かび上がる"幽霊船"、ブリッジに居た誰もが戦慄させられる。


「一つだけ注意しておくわ、馬鹿共。ますたぁーは今パーティの作戦中で忙しいの、邪魔をするのは絶対に許さない。
今回の作戦は、あんた達だけでせいぜい頑張ってね。ますたぁーに、助けを求めたら駄目だよ。


もしも邪魔したら――この船のシステムを、ズタズタにしてやる」


 ――赤ん坊には見せられない、凶悪な笑みをユメは浮かべた。























<to be continued>







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