ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 21 "I hope your day is special"






Action10 -派手-








 思いがけず長い時間、カイとメイアは作戦会議に詰めている。単純な戦略会議だけではなく、もしかすると込み入った話を行っているのかもしれない。

規律に厳しい副長のブザムも一緒に作戦会議室に籠もっているのは、予想外の収穫だった。おかげでサプライズパーティの準備は滞り無く進められている。

会場の準備はほとんど完成しており、料理や飾り付けの下準備も程なくして完成。ここまで何の問題もなく進められたのは、今まで初めてと言い切れるだろう。


そもそもの話、メイアの誕生日サプライズパーティは一度たりとも行われた事がない。それだけに、クルー総員が揃ってパーティの参加を表明している。


当然当日は仕事なんて絶対にしたくない為、席を外しても職務に影響がないように励んでいる。交代要員のローテーションも完璧、誰からも不満がないように心がけている。

勿論メイアが疑念を抱かないようにパーティの準備と同時に、ニル・ヴァーナの改装も必死で行っている。修繕はほぼ完了、改装工事も皆汗水流して頑張っている。


母艦の運用管理も順調――ここまで好調だと逆に不安となるのが、人間というものだ。


「救助システムのテスト準備もオッケー、資材物資の点検も問題ない。後は何か問題とかないかな、ドクター」

「確認した、全て問題ない」


 カイとメイア、二人のリーダー格と呼べる人間が不在の今、カイの代わりにドゥエロが、メイアの代わりにパルフェが作戦監督代理を務めている。

もう一人の男であるバートも異星人チームを引き連れて、広いニル・ヴァーナを走り回って肉体労働に明け暮れている。

子供達の明るさにクルー達も元気付けられており、サプライズパーティを盛り上げようとする気配は高まるばかりだ。全てが順調に進んでいる。


なのに、不安が消えない。何か肝心な事を見落としている気がするのだが、何なのか分からない。


「こういう時に閃けるカイは貴重な人材だよね。アイツ、結構勘が働くから」

「同感だ。常に熟考するタイプの我々とは違い、彼は時に思い切った行動が行える」


 決して、自分達を卑下しているのではない。常に考えることは非常に大切であり、何でもかんでも思いつきで動けばいいというものではない。

単純なタイプの違いなだけであって、優劣はなかった。カイだって間違えるし、ドゥエロ達だって常に正しい訳ではない。

だからこそお互いに話し合うことは必要としているし、理解する努力はいつも忘れていない。短い期間で友情を育めた経緯はその点にあった。

だからこそ今、共に行動出来ない事がほんの少し歯痒い。彼もまた、大切な役割を務めてくれているのだが。


「私は直感に頼むのが苦手な性質だが、君は必ずしもそうではないだろう。時に自分の考えに従って、論理を超えて動ける」

「うーん、褒めてくれているのだと思うから素直にお礼は言っておくけど、今この時は思いつけないのが悔しいかな」


 ドゥエロは順調だと半ば確信しているが、パルフェの意見が少々異なっている。危機感というほどではないが、何か見落としている気がしてならない。

サプライズパーティの重要性は、当然だが本人には知られない事。この点でいつも企画を断念しているが、今回はカイが完璧にメイアの注意を引きつけてくれている。

カイから何の連絡もない以上、メイアは間違いなく気付いていないだろう。何の予兆もなければ、メイアは自分の誕生日など気に留めない。

その点についてはむしろ、ドゥエロが気に留めてしまう。


「考えてみれば、聡明な彼女が自分の誕生日を忘れているというのは妙だな。自分で気付かないのか?」

「可能性は無きにしもあらず、だけど――メイアって何か、いつも余裕が無いからね。自分の生まれた日を祝福なんてしたりしないんじゃないかな」


 メイアは、常に自分に厳しい。厳しさは分かりづらい優しさというが、自分に向けられているのであれば単なる鞭にすぎない。

メイアは毎日自分を律しており、心が緩むのを極端に恐れている節がある。自分の生まれた日を祝える気分にはならないだろう。

憂鬱になるのであれば、いっそのこと思い出さない方がいい。そうした自己防衛が、記憶の引き出しを閉ざしているのかも知れなかった。


パルフェの経験則に対して、ドゥエロは疑問の声を投げかける。


「君の言いたいことは分かる、私もそれなりに彼女に目を配っていたつもりだ。だからこそ、私なりに懸念をしている」

「というと?」

「カイだ。彼と出会ってから半年以上経過して、驚くほど良好な関係を築けている。そんな彼が傍にいるのであれば、彼女の心にも余裕が生まれるのではないか」

「あっ、そうかもしれない!?」


 ――ドゥエロのこの指摘、実に的を射ているのだが、この時ばかりは予想外の事態で懸念は杞憂となっていた。


今この瞬間メイアとカイはエズラの相談に乗っていて、カルーアの育児に関する問題で悩み苦しんでいる。カイがいても心に余裕なんて無かった。

エズラには不幸な話だが、ある意味これも幸運といえるのかもしれない。カイと共にいて心に余裕が生まれれば、案外誕生日を自分から思い出していたかもしれないのだ。


エズラの相談を受ける事で、メイアは自分の誕生日など思い出す余地もなかったのだ。


「心配だったのは、そこなのかもしれないね。自分で思い出してしまうのは一番きついよね、サプライズする側だと」

「しかも、この問題ばかりは我々はどうすることも出来ない。記憶への干渉など出来ないのだから」

「ドクターなら出来そうなところが怖いけど、まあそうだね。どうしよっかな、変に干渉すると藪蛇になっちゃうし」


 メイアが自分で誕生日を思い出せば、当然サプライズパーティにも結び付くだろう。何しろ毎年、クルー全員から企まれているのだから。

警戒されれば終わりだ。カイがどれほど注意を引きつけてくれても、即座に妨害工作されるだろう。変に隠し立てている分、余計に怒り出すかもしれない。

それだけなら毎年のことだが、今年はカイ達も協力している。下手をすると、男達への印象も悪くするかも知れなかった。


故郷が近付いている今になって、男女の関係を悪化させたくない。


『ドゥエロくーん、頼まれていた仕事は全部終わったよ。あー、疲れた』

『ちょっともしもーし、ユメへの料理はちゃ〜んとできているんでしょうね!』


 二人して悩んでいると、悩みなど無さそうなメンバーから通信が入った。疲れた顔をしているバートの背後から、ユメが怖い顔をして乗り出している。

バーネットに約束させた料理の報酬が余程気に入ったのか、人間には非協力的なユメが精力的に働いている。立体映像の彼女はシステムを介して、各部署の補佐を行っているのだ。

肉体的労働は勿論大変だが、事務的な作業もまた職務の一環だ。しかもこうしたデスクワークはルーチン化しているとはいえ、面倒極まりない。素早く出来るユメは、各部署から褒め称えられていた。


バートとユメの弛んだ顔を見ていたら、何だか気が楽になったのかもしれない。パルフェは自然な笑顔で応対した。


「お疲れ様。大丈夫だよ、ユメちゃん。バーネットからもパーティ料理が出来たと、さっき連絡が入ったから」

『やった、出来たんだ! うふふふ、ユメはグルメだからね、美味しそうな料理じゃないと許さないわよ!』


 悪態はつきながらも、ウキウキした顔でユメは言った。


『戦闘が始まっても、絶対に料理は死守しなさいよ。ユメの料理なんだから!』

「――えっ」

「待て、今何と言った」



『もうすぐ戦うんでしょう、アンタ達。あのポンコツ共、ますたぁーの作戦を真似して、この近くのガス星雲に隠れているわよ』


 ――その一言で、パルフェの心を覆っていた不安の正体がハッキリした。


心配していて当然である、いつだって邪魔されたのだから。不安に思っていて当然である、完全に滅ぼしたのではないのだから。

この船を、クルー達を、メイアをいつも脅かしていたのは人間ではない。


人間が創り出した、悪鬼である。


「何でそれを先に言わないの!?」

『えっ、気付いてなかったの!?』

「バート、すぐに操舵席へ戻れ。今、敵に邪魔をされたら終わりだ!」

『えええっ!? 僕、もうヘトヘトなんだけど!』


 サプライズパーティ会場の準備が整ってきているのが、逆に仇となる。もしもニル・ヴァーナが揺るがせられたら、何もかも滅茶苦茶になってしまう。

下手に準備が進んでしまっている分、やり直しが出来ない。改装工事まで一緒に進めていたのだ、攻撃なんてされたら艦内が悲惨な状態になる。

ニル・ヴァーナがボロボロになったら、誕生日パーティどころの話ではない。サプライズが成功しても、何を言っているんだとメイアに拒絶されるだろう。


いまだかつてない困難なミッション――無傷での戦争を、強いられる。
 






















<to be continued>







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