ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 20 "My Home Is Your Home"






Action18 −行脚−








 先日の刈り取り母艦で地球から奪い取った、母艦。ミスティ・コーンウェルが持ち込んだウイルスによって、母艦全システムが停止してほぼ無血開城となった形である。

無人兵器に降伏という概念が無い為、地球の主戦力である母艦を奪い取れたのは奇跡的な成果であった。単純に破壊するよりも難しい挑戦に、見事成功したのだ。

ミスティに託した冥王星の無念も、これで少しは晴れたであろう。作戦成功時、強引に参戦したミスティも思わず涙ぐんでしまったという。


その彼女を連れてカイ達はニル・ヴァーナを離れ、奪取した地球母艦へと乗船する――住むために。


「着替え等の手荷物はこの前持ち込んだけど、どうせならあっちから家具類とかも運び込みたいな」

「我々が元いた監房と、似たような環境に思えるのだが」

「ドゥエロ君には悪いけど、今回ばかりは僕はカイに賛成。ちょっと殺風景すぎるよ、此処」


 ニル・ヴァーナの融合元であるタラークの軍艦とメジェールの海賊船はどちらも戦闘用の鑑だが、長期航海も行えるようにクルー用の生活空間である居住区が用意されていた。

対して地球の主戦力である母艦は無人兵器運用の為、人間であるクルー自体が必要としていない。人っ子一人乗船しない為、生活空間そのものが存在しないのだ。

惑星規模に匹敵する巨大な空間を保有する母艦だが、その全ては無人兵器を運用するべく使用されている。人間が生活するスペースが一切なかった。


ただ兵器といえど空気がなければ、自律行動も行えない。人間ではなく、あくまで機械用に空調が利いている事だけが不幸中の幸いだった。


「まさかアンタ達みたいなむさ苦しい男達から、インテリアの要望が来るとは思わなかったわ」

「別にそんな小洒落た物まで望んではいねえけど、壁と天井だけでは寂しすぎるだろう」

「広さ独り占めって喜んでたけど、いざ一人で寝るとなると発狂しそうだわ」


 溜息混じりのカイの愚痴に、口喧嘩が絶えないミスティもこの時ばかりは同調した。異星人である彼女もニル・ヴァーナに部屋がなく、母艦に住まいを構えに来ていた。

問答無用の広さにミスティも最初こそはしゃいでいたのだが、さすがに何もなければ荒野にいるのと変わらない。ウンザリもする。

常に前向きな彼女もさすがにしょげてしまい、こうして男達の部屋に遊びに来てしまっている。


「だったらミスティも、僕達と同じ部屋に住めばいいのに」

「うむ、君ならば私も歓迎だ」


「……好意で言ってくれているのは分かるけど、アンタ達は思春期の女の子の敏感さというものを知るべきだわ」


 同じ年頃の男三人と女の子一人が、同じ部屋で同衾。タラークやメジェールの偏った性別蔑視に関係なく、女性であれば誰でも抵抗を覚えるだろう。

ましてミスティは男女が共に生きてきた環境で育った女の子、思わず顔を引き攣らせてしまって当然だった。そもそも着替えさえ出来ない。

本来であれば張り倒すのだが、ミスティもバート達の事をそろそろ理解し始めている。女の子一人の生活を純粋に心配してくれているのだと、分かるのだ。


だからといって、容認出来るものでもないのだが。


「でもマジである程度近くで集まって生活した方がいいと思うぞ、少なくとも最初は」

「何でよ。一応言っておくけど温泉勝負は引き分けなんだから、あんたにへりくだるつもりはないわよ」

「ちげえよ、あほか。少なくともこの母艦の調査が終わるまでは、いざ何かあれば協力して動ける距離にいた方がいいと言っているんだよ。
新型だったデカブツは俺達が倒したけど、大量の無人兵器や母艦のセキュリティ自体はまだ無傷で残っているんだぞ」



 散々苦戦させられたデカブツこと偽ニル・ヴァーナは、人機合体スーパーヴァンドレッドが倒した。あれほどの機体、再構成するのは少なくともこの母艦では無理だろう。

事実ガス星雲内で追い詰められていても、偽ニル・ヴァーナは一隻しか出撃していなかった。偽ヴァンドレッドは、ある程度の個体数を揃えていたというのに。

母艦はウイルスに感染していた為、偽ニル・ヴァーナが破壊された状況も恐らく地球側に伝わっていない。母艦が奪われたとあっては、地球も役立たずだと破棄する可能性は大きい。


実のところ偽ニル・ヴァーナには大苦戦させられたのだが、苦戦した事実が伝わなければ地球側も母艦が奪われた失点して目を向けられない。


そして残されたのは、母艦と無人兵器のみ。奪い取れたのは功績だが、奪い取った後の運用までにはまだ至っていない。調査もこれから行われる。

ウイルスによって戦意こそ奪われているが、兵器であることに変わりはない。再び動き出せば、人間であるカイ達を真っ先に狙うだろう。


その光景を想像してしまい、ミスティも思わず身震いしてしまう。


「何かのはずみで動き出したら、お前一人じゃ対処出来ないだろう。せめて悲鳴が聞こえる所にいろ」

「嫌なこと言わないでよ、もうちょっといい方があるでしょう」

「だが、カイの言う通りだ」

「僕だって逃げ足には自信があるよ。君一人くらいなら背負って逃げられるさ!」


「頼りになるんだかならないんだか、ふふ……でもありがとう、そうするわ」


 無人兵器の危険を骨の髄まで理解しているカイも、自分の愛機であるSP蛮型を運び込んでいる。蛮型は本来陸上戦用の人型兵器、母艦内でも十分に戦闘が行える。

ニル・ヴァーナでは格納庫にしか保管出来なかったが、この母艦は広大なスペースが有る上に兵器工場や保管庫が数多くある。

カイ達が住む部屋の近くに蛮型一つ分格納できるスペースは余裕で確保出来て、何かあればすぐに出撃できるように準備はされている。


ウイルスによって全システムは完全に停止してはいるのだが、念の為の用心は欠かさない。


「地球の連中も、今のところはまだ攻めてこないしね。おかげでこうして、僕も休めているんだけど」

「なんせ敵さんは母艦を一機破壊された上に、もう一機まで奪われちまったからな。
ピョロが傍受した地球側の通信によると、敵さんの戦力は母艦が五機。計算上は残り三機だけど、一機こっちが奪っているから最悪巻き込みで破壊出来る。

となれば残り二機、単純な戦力で見れば半減以下だ」


 故郷へ急ぐ旅の途中だったマグノ海賊団が長期滞在を決めた、最たる理由。急ぐ必要はなくなったという、皆の善戦の結果がこうして浮き彫りとなった。

残り三機でも十分タラークとメジェールを蹂躙できる戦力だが、そもそも両惑星に最も近接していた母艦が今カイ達が滞在している艦である。

一番接近していた母艦をこうして奪われてしまい、地球が両惑星に接近するまでの時間的猶予が出来た。


この成果は、非常に大きい。


「地球も状況は理解できるだろう。一国の軍隊であれば、再編成を余儀なくされる事態だ。状況の立て直しに加えて、組織編成の見直しも必要とされる。
母艦級の戦力追加は難しいにしても、敵側は無人兵器を量産出来る。我々に対抗すべく、軍備増強を図るだろう――通常は」

「通常……?」


「地球は我々を臓器――言わば、生贄と認識している。古今東西、そういった差別意識は自身ではなかなか覆せない。
まして君の故郷冥王星が伝えてくれた情報によれば、地球の環境も相当逼迫している。我々が想像するよりもずっと、余裕が無いかもしれない。

立て直しが必要なこの状況に置かれても、無理に作戦を行使するかもしれない」


「……なるほど、あの地球ならば常識は通じなさそうだもんね」

「いずれにしても、今日明日攻めて来れる状態ではない。今は、我々も休息の時だ」


 母艦という戦力の増強、スーパーヴァンドレッドという戦力の拡大、マグノ海賊団再編成という戦直の見直し、ニル・ヴァーナ改装という戦力の修繕。

そのどれも成し遂げることが出来れば、マグノ海賊団は国家一軍どころではない戦力を確保出来る事となる、地球の母艦という、最大戦力まで追加して。


急げば回れ、この休息の時間こそ今後戦う上で必要な戦略なのだ。


「休暇と言っても、明日からまた忙しくなるけどな。青髪が連れる調査隊が派遣されるらしいしな」

「お姉様がわざわざ自ら来て下さるのよ、泣いて喜ぶべきでしょう!」

「シャーリーもお友達を連れて、遊びに来るらしいからね。うふふ、楽しみだなー」

「無人兵器とシステム分析に、パルフェ達もシステムチェックに来るようだ。私も手伝うつもりでいる」


 母艦の調査と観光、そして分析。人類を恐怖に陥れた母艦が今、隅から隅まで調べ尽くされようとしている。

人の臓器を奪い、人を破壊しようとしていた船が、人の為に役立つのだ。かつての用途を考えれば、これ以上の皮肉はないだろう。


これもまた、人類からの報復であった。























<to be continued>







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