ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」
Chapter 20 "My Home Is Your Home"
Action19 −自動−
地球の主力である母艦は、超技術の産物。タラーク・メジェール両国より遥かに進んだ科学技術と知識の結晶であり、あらゆる兵器技術が積み込まれている。科学者にとっては垂涎モノであった。
目的は人間の刈り取りであり、臓器の収集という狂気。血に濡れた技術であろうと、真の科学者は萎縮などしない。
どれほど平和な技術であろうと、扱う人間次第で殺戮兵器に変貌する事を知っているからだ。
カイの提案した作戦の成功で、地球母艦の略奪に成功したマグノ海賊団。海賊の戦闘技術を支える科学者達はこぞって化学分析チームへの参加に手を挙げて、危険な兵器の船に乗り込んできた。
レジチームからはガスコーニュとバーネット、機関チームからはパルフェとソラ、整備チームからはアイが部下を連れて出向してきた。
「あの小僧、専属エンジニアである儂を置いていくとはいい度胸をしておる。あやつの蛮型を誰が整備してやっていると思っておるんじゃ！」
「申し訳ありません。マスターに代わり、私が謝罪いたします」
「うむ、よく出来た従者じゃ。そなたに免じて許そう」
「何だかカイが羨ましいなー、ソラちゃんにここまで尽くされて」
母艦内はウイルスにより沈静化しているが、絶対の安全は確保されていない。
そんな敵船の中でも悠々と着物を着た少女アイが、幻想の少女ソラを連れて艦内を闊歩している。
堂々たる二人に苦笑気味のパルフェだが、彼女もいつもの愛用メガネとツナギ姿。見慣れない大きなリュックを背負っているが、中身は機械工具の山。
ようするに三人揃って、敵船に恐怖など感じていない。ソラはともかくとして、残りの二人は自分の命よりも趣味と義務を優先している。
子供のような三人を引率している責任者が、ガスコーニュであった。部下のバーネットを連れて、周囲を警戒している。
「やれやれ、改めて見るとだだっ広い船だね。よく迷子にならずに済んだもんだ」
「むしろよく命拾いしたものだと、今でも不思議な気持ちがする」
戦闘中偽ニル・ヴァーナにデリ機ごと投げ飛ばされてしまい、カイとメイアのヴァンドレッド・メイアに激突。あわや大惨事となるところだった、二人。
助かったのは互いを思い遣ったゆえの必然と、幸運に助けられた偶然の結果にすぎない。その後の経過も酷く、本当に危うく命を拾ったのだ。
艦内は既に収まっているが、今でも二人はあの時の激戦を容易に思い浮かべることが出来る。
ソラもあの時救出に駆けつけたメンバーの一人だが、特に変わらず堂々としたものだった。
「聞いたぞ、ガスコーニュよ。スーパーヴァンドレッドなる超兵器を完成させたそうじゃな」
「耳聡いね、お前さんは。まだ試運転も出来ていないので、極秘事項みたいなもんなのに」
「ふふん、誤魔化しても無駄じゃ。母艦との戦闘で半壊したカイのSP蛮型が自己改良されて戻ってきたんじゃ、素人でも気づくわ」
「えっ、そうなの！？」
人機合体スーパーヴァンドレッドは、ガスコーニュとバーネットが搭乗するデリ機もパーツとなっている。彼女も蛮型が自己修復されたのは知っていた。
同じく半ば大破していたデリ機も修復したのだ、その現象は理解していたが改良までには至っていなかった。自分で整備したのでよく分かる。
デリ機は修繕されて、SP蛮型は改良されている。双方の違いに、バーネットは目を剥いた。
同じくガスコーニュも驚いた顔を浮かべるが、彼女の場合興味の方が強い。
「へえ、そいつは驚いたね……ちなみにどれほどの改良がされていたんだい？」
「大気圏突入が行える」
「タラークのヴァンガードって、元々陸上戦用でしょう。カイがそう言ってたけど」
「そうではない。以前のあやつの機体はあくまで宇宙戦も可能となっていたに過ぎんが、今度の改良では大気圏に突入して惑星への単独着陸が行える。
状況にもよるじゃろうが、先のガス惑星内でも恐らく機能を落とさずに戦えるであろうよ」
「環境適応されているの、凄いじゃない！？」
アイの説明にガスコーニュが唸りを漏らし、バーネットが感嘆の声を上げる。
何しろマグノ海賊団はこれまで、環境の違いに幾度も苦しめられた経緯がある。
砂の惑星に水の惑星、恒星での死闘に病の惑星、ミッションにガス星雲。宇宙戦可能とはいえ、宇宙の何処でも戦える訳ではないのだ。
ところが今回の改良によって、カイのSP蛮型は環境適応型の機体へと進化した。この進化により、今度あらゆる不利な環境でも自由自在に戦える。
「メイアやジュラ、ディータの機体も同様であろう。この改良により、この先の戦いにもようやく目処が立った」
「この先……？」
「カイがラバットと同盟を組み、ミッションのボスと情報取引を行って判明じゃろう――我が故郷の前に、"磁気嵐"が立ち塞がっておるる」
「あっ！？」
磁気嵐といえばガス惑星の磁気を想像するが、同列に見るのは間違いである。ガス星雲と磁気嵐では、性質の悪さが段違いなのだ。
ガス星雲はあくまで宇宙塵や星間ガスなどから成るガスによる地場の発生に過ぎないが、磁気嵐は磁気の暴走である。磁場の密度や乱れ具合はまるで異なる。
マグノ海賊団も母艦戦を除いて、次なる脅威の舞台は此処であると断言していた。この環境を、無人兵器である敵が利用しない筈はないと。
確かに何の事前情報もなければ、襲撃を仕掛けられて大混乱に陥っていただろう。
しかしながら、磁気嵐の情報はラバットやリズより精度の高いデータまで貰い受けている。
現在優秀なブリッジクルーがデータ分析と環境状態を行っており、安全ルートと戦闘可能空域を探索している。マグノやブザムも当然作戦を練っている。
加えてカイ達の機体が戦闘可能というのであれば、早期の突破も決して不可能ではない。
思いがけない朗報に早くも、パルフェ達の表情が明るくなった。
「この母艦内の安全が確保されれば、非戦闘員や他のドレッドちゃん達をこの艦に格納していた方がいいかもしれないね」
「わざわざ敵さんと戦う必要なんて無いんだ。連中から奪ったこの母艦に隠れて、強行突破するのも痛快だね」
「痛快というか、趣味が悪いというか……相手にされない敵が、可哀想になってきたわ」
全搭乗員と機体を母艦に格納して、堂々と磁気嵐の中を駆け抜ける。敵が襲いかかってきても、この巨大な母艦は破壊できないだろう。
無人兵器は強力だが、母艦の構造は頑強かつ堅牢。補給なき籠城戦は愚策の一言だが、籠城する城そのものが動くとなると敵にとっては悪夢そのものだ。
ドカドカミサイルやレーザーを撃ちまくってもビクともしない母艦に、蝿のように追い払われる――
その光景を想像して、バーネットを筆頭に女性陣が笑い声を上げた。今までやられてきた分、本当に痛快であった。
「やれやれ、悪趣味な策をよく考えつくもんじゃ」
「ニヤニヤ笑って言っても説得力がないわよ、アイ。お頭や副長に進言しましょう、ガスコさん」
「気が早いよ、バーネット。それにはまず、やっこさんの船を動かせるようにしなきゃいけない」
磁気嵐への目処こそ立ったが、大前提としてこの母艦を自由自在に動かせるようにならなければならない。今はウイルスで沈黙しているだけだ。
全システムの停止は敵の無力化を意味するが、同時に母艦の運用を不可能にしている。かといってウイルスを除去すれば、母艦が再び敵となってしまう。
再稼働させなければならないが、システムを味方につけなければいけない。この超技術を、"懐柔"しなければならないのだ。
敵を、味方にする――略奪を繰り返してきたマグノ海賊団には、難しい仕事である。
「無人兵器については儂が面倒を見るが、システムとなると専門外じゃ。任せてもよいのか、パルフェ」
「ふふん、うちにはソラちゃんという期待の大新人ちゃんがいるんだよ！」
「お任せください。必ず、マスターに服従させてみせます」
「……"カイに服従"ってのが、ちょっと怖いんだけど」
「……アタシらも逐一確認した方がよさそうだね」
こうして集まった、母艦の分析チーム。今回の作戦内容、"母艦の懐柔"。敵目標は、沈黙したシステム。失敗すれば、母艦が復活してしまう。
敵となれば脅威の復活、味方になれば敵への脅威に早変わり。大博打が今こそ始められようとしていた。
意気揚々と到着した女性チームを前に、白衣を着た男性が迎える。
「よく来てくれた。他の者達は出払っているため、私が君達の案内役を務めさせておらう」
「よろしくね、ドクター。頼りにしているから！」
「ふっ、任せておけ」
「出払っているってあのバカ達、今何しているの？」
やる気を漲らせるパルフェ達を他所に、不吉な予感から訊ねるバーネット。カイにバート、そのどちらも単独行動させてはらない注意人物である。
バーネットの想像を見えるかのように、ドゥエロが怪しい笑みを浮かべる。
「カイは私と同じく、他の派遣隊を迎えに行った。バートは――"引率"だ」
「は……？」
＜to be continued＞
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