ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 20 "My Home Is Your Home"






Action17 −迷霧−








 天然温泉施設の男性の湯、明るく賑やかに語り合う女性の湯とは違って、ここはとても静かで風流な雰囲気に満たされていた。

何しろこの男性の湯が使用されるのは、広いニル・ヴァーナ艦内でも男三人だけ。それでいて女性側と同規模の温泉施設である。

ある意味で女性側が権利を主張するのも無理はない。何しろこれほど立派な温泉施設を男三人で使用するのだ、贅沢だと思われても仕方がない。

ただ女性達は、一つだけ忘れている。例外的に男性の湯を使用できる、女性が存在するのである。


男と女の区別がされない、子供達である。


「ふっふっふ、立派なもんだろう。アタシとこいつが作り上げた温泉なんだぜ!」

「二人で頑張って、やっと完成したもんね。でもいいのかな、お仕事中に入って」

「いいんだよ、シャーリー。毎日一生懸命頑張って、こんな立派な温泉を作り上げたんだ。おにーちゃんは誇らしいよ」

「だからといって、俺まで無理やり連れてくるなよ。頭からつま先まで、温泉浸しになったってのに。
ミスティの奴もパイウェイに連れて行かれたみたいだけど、医者が許可していいのか」

「ミスティはパイウェイ本人が同行しているし、君には私が同行している。何があっても問題ない」


 温泉チーフとサブチーフ歓待という贅沢な身分で、カイ達男三人は男性の湯で温泉を堪能していた。


ミスティと同じくベットで休んでいた時バートがお見舞いにきて、ディータと同じく温泉に誘うという空気の読めなさを発揮。

のぼせて気絶したばかりのカイは当然断ったのだが、ドクターストップをかけるべき医者が大いに乗り気で許可を出してしまう始末。

両脇を固められたカイはみなしごよろしく運ばれて、渋々温泉にまた浸かる羽目になってしまった。

もっとも今回は対決ではないので、温泉の温度も徐々に上がったりはしない。


「へぇ〜、温泉ってのも気持ちがいいね。何かぽかぽかしてくる」

「成分は同質なので、反応が高まっているのでしょう。マスターも堪能されているようで何よりです」


「……君達って、一応温泉に浸かれるんだ。どういう原理なんだろう」

「俺もよく分からん、と言ったら何故か二人に怒られてしまった。理不尽だ」

「――ペークシスの結晶が溶けている、という時点で私は薄々察したのだが……まあ、無粋な仮説はやめておこう」


 ツバサとシャーリーにソラとユメが頼んで、男湯の岩風呂にはペークシスの結晶体が一部積まれている。その傍らで二人も浸かっていた。

その原理を得意げにユメが思わせぶりに説明したのだが、首を傾げるカイに泣き出してしまう始末。一緒にお風呂に入るまで口を利かなかった。

ともあれ、基本的にカイが大好きな二人。背中こそ流せないが、一緒に温泉に入れて大いに喜んでいた。

保護者が温泉を堪能してくれて、ツバサやシャーリーも悪い気はしない。


「へへん、今まで世話になりっぱなしだったけど、もうアタシは一人前に仕事しているぜ」

「わたしも一生懸命頑張ってるから心配しないでね、おにーちゃん」

「うう、こんなに立派になって……僕は嬉しいけど、何だか寂しくもあるよ」

「一方、兄貴分は仕事が辛くて転職に出てしまう始末」

「君だって、転職しようとしていたじゃないか!」

「不毛な争いは止めたまえ、君達」

「医者を辞めようとしていたお前が一番酷いからな、言っておくけど!?」

「あれは流石に僕も弁護できないよ、ドゥエロ君!?」


 三人がこうして休暇を取って男性の湯に入りに来たのは、旧交を温めあうだけではない。この温泉施設を見たかったのだ。


今時分達が浸かっているこの湯船は元々、元監房だった場所である。思い出はもう振り返った後だが、新しくなった場所を見届けたかった。

当然だが、昔の面影は影も形もない。この温泉施設が元々監房だった事なんて、昔を知る人間でさえも疑ってしまうだろう。

カイ達もこうして温泉に浸かっていても、過去と昔が繋がらない。壊されて新しく生まれ変わった実感が沸かなかった。

ほのかに漂う湯煙を見上げながら、ドゥエロは呟いた。


「君が男性代表で温泉対決に挑んだのは――この場所を、守りたかったからか?」

「……どうだろうな……正直、そこまでの思い入れがあった訳でもないしな」

「何だよ、そこで頷いてくれれば感動したってのに」

「そこまでの美談でもねえからな、あの勝負は」


 けれどドゥエロに指摘されて、カイも自分の心の内を探る。そんな気持ちも何処かにはあったのかもしれないと、思いを馳せて。

女性側と同じく、男性側も女達も嫌悪も恐怖もない。元々は監房だった場所だ、女性に入られても抵抗なんてない。

ただやはり思い出深い場所となると、感じ方も違うのかもしれない。上等な場所ではないのに、タラークを故郷と思うのと同じだろう。


住めば都――思い入れがあるのであれば、そこは自分の居場所といえるのかもしれない。


「ま、いつまでも未練たらしく縋りついても仕方ねえからな。俺らはむしろ、新しい自分の居場所を模索するべきだろう」

「今のところは、あの母艦に引越しかな。僕はあまり気が進まないけど」

「元監房だった場所でも住めたのだ、元敵の船であっても我々なら住めるさ」


 男達の部屋が壊されて温泉施設となり、カイ達は正式に撤退となった。男女決戦は引き分けとはいえ、女性陣も同情されている。

だからこそ、新天地を求める人員も増えた。ニル・ヴァーナ艦内の大掃除が終わり、次なる任務に出る。


「あのでっけえ船か……あそこにも温泉を作りたいんだけどな。ペークシスってのを削って持っていこうかな」

「ペークシスの結晶にお湯を注いでも、温泉になるとは限らんぞ」

「その光景を想像すると、なんかちょっと笑えるよね」


 カイ達の笑い話にソラはともかく、ソラは少し嫌そうな顔をしていた。あまり結晶体を削ったりしてもらいたくはないようだ。

地球の母艦――先の大戦で拿捕した、敵の主力戦艦。カイ達の移住先だが、現状はまだ未確定である。

ウイルスを仕込んで船を停止させたが、敵の保有する無人兵器も丸ごと残ったままだ。慎重に取り扱う必要はある。

現状、空調は確保しているので空気は問題ないが、住むとなると別の話。問題は多い。


「俺らはしばらく向こうに住むけど、お前らはどうする?」

「うーん、アタシは仕事があるしな……一応、私物は持ち込んでおく。他の女、入れたりするなよ」

「どういう心配をしてるんだ、お前は」

「シャーリー、おにーちゃんはいつでも待っているからね! 寂しくなったら帰って来るんだよ!」

「お、おにーちゃん、泣かないで……きっとお家に帰るから!」


「ふふ、家族か――なるほど、なかなかいいものだな。どうだ君達、私と家族にならないか?」

「いやでーす」

「申し訳ありませんが、ご遠慮させていただきます」



 いよいよ地球の一端に触れる、大いなる調査任務が行われる。

鬼が出るか、蛇が出るか――誰にも、分からない。























<to be continued>







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