ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 19 "Potentially Fatal Situation"






LastAction −遺影−








 地球母艦の打破と略奪作戦は、大成功に終わった。地場が荒れ狂うガス星雲に母艦を引き込み、無人兵器の戦力を大幅に低下。しかる後母艦内部へ突入、ウイルスを注入して強制停止させる。

作戦途中に多くの予想外と事故が起きたが、仲間達の可能な限りの努力で軌道修正。最終フェーズでは幸運にも恵まれ、スーパーヴァンドレッドという超兵器にまで進化を遂げられた。

怪我人は多数出たが、重傷者は無し。事故によりカイ達は深手を負ったのだが、人機合体によって怪我は回復。他のパイロット達も全員無事に帰還した。


そして何より、今回の死傷者もゼロだった。



「まったく……たまげた坊や達だよ」



 此処は、マグノ・ビバンの自室。母艦との戦闘を終えて、作戦は終了。全機撤収後ガス星雲を離脱、タラーク・メジェールへの針路上よりやや離れた宙域に停泊している。

作戦終了後も警戒態勢は維持しているが、交代要員を除いて前線で戦った者達全員は休息中。祝勝パーティも行われたようだが、壮絶な疲労によるテンションの高さで全員はしゃいだ後に倒れた。

子供達の大はしゃぎぶりに目を細めていたマグノ達だったが、そのまま彼らと雑魚寝はせず自室へ戻っている。


静かな時間――激しい戦いの後ほど、夜の時間は不思議なほど落ち着いている。


「ガスコーニュや坊やは危なかったようだけど、簡単に死ぬようなタマじゃないさね。
久しぶりに褒めてやりたかったけど、年寄りの出番じゃなかったようだね……ふふ」


 何とか帰還したカイ達を出迎えた時の、バートの喜びようは半端じゃなかった。生存を信じていても心配だったのだろう、カイに抱き着いて大盛り上がりだった。

病の星から来たシャーリーも我が事のように喜び、ミッションから連れて来たツバサも憎まれ口を叩いてはいたが涙ぐんでいた。無事を喜べる家族の存在は、希少である。

母艦の略奪やスーパーヴァンドレッドの誕生すら、仲間の無事に比べれば瑣末。生きてさえいれば万々歳、全くその通りだった。


老人の褒め言葉なんて、若者達の祝杯の前には霞んでしまう。


「どうやら、あんた達の後輩はなかなかしぶといようだよ。お前さん達の後塵を拝しちゃあいるけど、後を追う気はないらしい。
せいぜい、のんびり見届けてやっておくれ」


 マグノ・ビバン、艦長のプライベートルームには一つの秘密がある。彼女は海賊団旗揚げ以来の仲間達、死んでいった者達の写真を並べている。

今でこそタラーク・メジェール両国家に恐れられる大海賊となっているが、旗揚げした当時は難民ばかりのハグレ者集団。ならず者の集まりでしかなかった。

そもそも故郷に見捨てられた漂流者達、生きる力もなければ戦う能力もない。武器も粗末、船もお粗末、規則も何もあったものではなかった。

長老世代と呼ばれるマグノがいたからこそ支配権争いこそなかったが、組織として纒まらず随分苦労をした。失敗なんて数えきれない。


そして海賊の失敗はそのまま、死に直結する――何につけても余裕が無い、命を拾う余力もなかった。


彼らとて死にたかった訳でも、犠牲を望んだのでもない。仲間のために死んだ者もいれば、仲間のせいで死んだ者もいる。死ぬのが嫌で、泣き叫んだ者達も少なくない。

反省も、後悔も、山ほどある。けれど決して、マグノは悲しみに沈まない。お頭が落ち込んでいては、士気に関わる。海賊はビビらせてなんぼ、怯えていては務まらない。

さりとて完全には切り捨てられず、こうして写真を並べている。遺影ではあるが、決して位牌ではない。


彼らは生きていた、その証である。


「最初はどうなることかと思ったけどね……案外世の中ってのは、捨てたもんじゃないかもしれないね。

正義も悪もあったもんじゃないけれど――正義のヒーローってのは、いるもんらしいよ」


 そして、この写真の数は増えていない。ニル・ヴァーナ、この艦に乗船する者達は全員生きている。過酷な旅に苛烈な戦いを強いられても尚、懸命に生き延びている。

過去の経験からしても、これは奇跡的だ。都合の良い夢でも見ているようだ。あれほどの戦いがあった後の夜でも、こうして笑っていられる。

――そういえばこの写真を見ていても、辛くは無くなっている。


「胸を痛めずに生きていけるってのは、幸福なのかもしれないね。もっとも、胃の痛い連中ではあるけどね」


 旅が始まった同時、男女共同生活を訴えた時の夜は胸が痛かった。先の見えない心痛、山積みの問題を抱えた鈍痛など、あらゆる痛みに胸を締め付けられた。

今更プレッシャーを感じる可愛げのある年齢でもないというのに、苦しんだのを覚えている。この写真が今後どれほど増えるのか、考えただけでも胸が苦しくなる。

実際、マグノは死人が出るのを覚悟していた。当時刈り取りの全貌も敵の正体も分からなかったが、得体の知れない不安は確かにあった。長年の勘が危機を訴えていたのかもしれない。


だが結果として、杞憂に終わっている。仲間達は死なず、むしろ成長まで遂げた。それも全部、共に生きている男達のおかげだ。


カイ・ピュアウインド、バート・ガルサス、ドゥエロ・マクファイル。どの子も扱いは難しいが、皆優しくて逞しい、熱い連中だ。

彼らの力強さに、どれほど支えられただろう。彼らの強さに、どれほど救われただろう。彼らの成長に、どれほど胸焦がれただろう。


本当に――彼らは代えのきかない、拾い物だった。


「悪いな、皆。アタシもそろそろお陀仏かと思ってたけど、どうやらまだまだしぶとく生きていけそうだ。
今後はどうやら、男共の面倒まで見ていかなければいけないようだからね。おちおち、死んでられないよ」


 男女が別れる故郷へ戻っても、もはやこの絆は途切れないだろう。男と女が当たり前に生きていける世界は、見え始めて来ている。

古き次代は廃れ、悪しき慣習は無くなり、新しい時代が訪れる。その先まで自分が生きていけるか分からないが、見守ることくらいは出来るだろう。


不安なんて、もはや何もない。胸の痛みはいつしか、温かさに変わっていた――


『おーい、ばあさん。起きてるか?』

『非常識極まりないぞ、カイ。明日にするべきだ』

『でも、ドゥエロ君。今回僕達は大活躍したんだから、今の内に手柄を訴えるべきだよ!』

「たく、騒がしいね……何なんだい?」


 噂をすれば影、遺影ではなく本人達が揃っている。男三人、疲労が蓄積されているというのに元気なものだった。

ここまで図々しいと、もう怒る気もしない。真夜中に該当する時間だというのに、眠気も覚めてしまう。

思わず、口元が緩んでしまうほどに。


『あのさ、いい加減俺らに新しい部屋をくれよ。地球の母艦に壊された監房が、未だに工事中のままなんだぞ。
今回倒した母艦じゃねえぞ、以前倒した母艦だ。あれからもう、何ヶ月過ぎてると思ってるんだ』

『違うぞ、カイ。工事中ではない、整備中だ。修理中の事故で水道管が破裂して、今整備をしている』

『そのせいで工事中の僕達の部屋、見事に水浸しなんだよね……シャーリーが風邪引くよ、あんな部屋じゃ』


「いいじゃないか。男三人、雑魚寝で上等だよ」


『何ヶ月も雑魚寝生活なの、俺達は! 女共の部屋にもお邪魔したりしてるけど、あいつら夜中まで喋りやがるから寝れやしねえ』

『なかなか興味深い会話ではないか。女性の生活模様が伺える』

『なーんか近頃妙に優しいから、逆に不安なんだよね……いい子達なのは分かってるんだけど、親しくされると落ち着かないというか』

「おやおや、あの子達と一緒に寝ているのかい。確かにそいつは、大問題だよ。考えないといけないね」


 ――これだ。戦いが終わっても、すぐに彼らは新しい問題を持ってくる。こんな調子でいつ、穏やかに死ねるというのか。

胸は傷まなくても、頭が痛くなる日々は続く。いつまでか、いつまでもか、結局は自分達次第。未来なんてどうなるか、分かったものではない。



写真に並ぶ顔ぶれは、今も静かに見守っている。

























<END>







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