ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 17 "The rule of a battlefield"






Action15 −掃討−







 戦うと決まれば、彼等の行動は早い。少しの行動の遅れが取り返しの付かない結果を生みかねない事は、今までの悪戦苦闘で経験している。カイ達は、腹を括った。

地球が放った刈り取り舞台は、全人類の敵。とはいえ、人類一致団結とまではいかない。簡単に割り切れないのもまた、人間であった。


その中で利益のみで結び付いた男達は何のしがらみもなく、今後について話し合う。


「どうせ、敵の情報も握っているんだろう? たまには、こっちにも提供しろよ」

「ちっ、仕方ねえな……『生体兵器』を知っているか、お前」

「生体……?」

「軍事目的に、動物等を使用する兵器の事だ。様々な動物の特性を活かして、動物を武器に相手を攻撃する」


 首を傾げるカイに、彼に合流したメイアが補足する。パイロットではあるが、カイは半年前まで一般人。軍事に関する知識にはまだまだ乏しい。

特にタラークでは動物を愛護する習慣もなく、人間以外の動物は種類も数も極めて少ない。宇宙を戦場としている為、軍用犬等の動物もあまり有効的ではないのだ。

船団国家であるメジェールも数こそ少ないが、ペットを飼う習慣は残されている。メイアは軍事知識も積極的に学んでおり、生体兵器について一通り知っている。


商売で宇宙を渡り歩くラバットは言わずもがな、である。


「その生体兵器が、このミッションを今襲っているのか? 動物なんぞけしかけてどうする」

「生体兵器と言っても、動物を単体で使うアニマルウェポンじゃねえ。地球の高度な科学が産み出した、化け物揃いよ。
お前らがこのミッションへの航路を辿って来たという事は、病人だらけの惑星も途中立ち寄ったんだろう?」


「! ま、まさか――病原菌を兵器に!?」


「察しがいいな、小僧。連中はな、ジェル状に構成された病原体をコンテナに詰めて来やがったのよ。無人兵器が直接送り届けて、ミッションに派手にばら撒く。
殺傷力の高さは折り紙つきだ。ジェルに取り付かれたら、皮膚に浸透して骨まで溶かされるぜ」


 カイは強い憤りを感じた。病の惑星は、カイにとって敗北したも同然の苦い経験がある。病気に侵された人々は治せたが、彼等の心までは癒せなかった。

病原菌を生体化した兵器、これは間違いなくあの病の星での実験を元に生み出されたのだろう。臓器の刈り取りと人体実験、非道極まりない結果この兵器が誕生した。

奇跡は、二度も起こせない。カイは深呼吸して冷静さを取り戻し、ラバットに聞き込んだ。


「病気に一度でも感染してしまえば、二度と治せない。"刈り取り"という目的に、この兵器は適していないぞ」

「おいおい、もう少し想像力を働かせろよ。臓器を刈り取った後の人間なんて不要だろう?」

「――殲滅が目的か」


 今度は、メイアが強く唇を噛んだ。故郷から逃げてこのミッションまで追われてしまった人達、彼らはこの生体兵器の実験台にされたのだ。

彼等は地球側にとって、不要な存在。臓器をわざわざ刈り取る必要もないのだ。殺すだけが目的であれば、病原菌ほど効果的なものはない。

病の惑星もカイ達がテラフォーミングを成し遂げなければ、遠くない未来あの惑星の人達は死に絶えていただろう。病気とは、それほどまでに恐ろしい。

救命チームを派遣したブザムも、その事実は嫌というほど思い知っている。


「コンテナより病原菌が放たれてしまえば、どれほどの時間でミッション内全域が感染範囲となる?」

「それについては心配いらねえ。ジェル状に固形化されているので、感染力は低下しちまっているのよ。兵器化されて、人間を襲うようにプログラミングされているがな。
直接接触しない限り問題はねえよ。ただし、取り付かれてしまうとアウトだ」

「兵器化された利点に合わせて、弱点も出来ちまった訳か」

「これが細菌兵器だったらイチコロだったがな」


 感染力の低下は、思わぬ朗報であった。ラバットの言う通り、もしも細菌をそのまま兵器とされていれば感染は免れなかったであろう。

実験途中であるというのであれば、ここで生体兵器を破壊して実験失敗とすればいい。彼等には学習能力がある、基本的に失敗すれば二度と同じ過ちはしない。

話を聞いて、カイは俄然やる気が出てきた。病の星での失敗は、今もカイの心に後悔として残ったままだったのだ。無念を晴らす為にも、実験は必ず阻止してみせる。

その為にも、ミッションの人達は全員助けなければならない。ブザム達も、考えは同じだった。


「此処で、一番安全な場所は?」

「あっ、え〜と……ちゅ、中央のメインコントロールかな」


「――放っておけばいいものを」


 ガスコーニュがパッチを問い詰めるのを見て、リズは舌打ちする。ミッションを仕切るボスだけあって、頭の回転は早い。すぐに、ブザム達の目的に気づいた。

出逢ったばかりの、しかも敵同士の関係。つい先程まで殺し合ったばかりなのに、あろう事か彼女達は自分達を助けようとしている。見返りも、要求せずに。

人の善意を簡単に信じられる性格ではない。信じる者が、馬鹿を見る。強い者だけが正義、弱肉強食の理念を持って彼女はボスまでのし上がったのだ。

そんな彼女が差し伸べられた手を払えずにいるのは、今ブザムに思い知らされた敗北と――ラバットの、存在。


「ガスコーニュとパルフェ、ミスティは住民の誘導。私とバーネットとジュラは、最後尾に付いて時間を稼ぐ」


 実は、今日が初めての敗北ではない。以前、リズはこのミッションに訪れたラバットと戦って負かされてしまっている。彼にも、トラップは通じなかった。

軟弱な男よりも強いと自負していたリズは、最初こそラバットに強い憎しみを覚えた。初めての敗北なだけに根が深く、殺意すら抱いていたのだ。


だが、ラバットという男を知り――今では、その強い感情は別ベクトルに向いてしまっている。


「カイとメイアはシャトルに戻り、外部の敵の掃討に当たれ」

「――くっ」


 外部の敵、つまりコンテナを積んだ無人兵器の破壊。パイロットに相応しい任務だが、カイの気持ちは複雑だった。

彼としては因縁のある生体兵器の破壊を行いたかった。自分の手で討つ事こそ、無念を晴らす何よりの手段となり得る。見過ごしたくはなかった。

反発を覚えない訳ではなかったが、カイは無理やり気持ちを飲み込んだ。ブザムの指示は正しい、生体兵器を相手に有効的な攻撃手段を自分は持っていない。


無念に瞼を震わせるカイを見て、メイアは肩を叩いた。


「外にはまだ、コンテナを積んでいる敵もいるだろう。第二次災害としない為に、我々で迅速に敵を叩こう」

「……ああ、分かっている」


 的確かつ思い遣りのあるメイアの意見に、カイは表情を和らげて頷いた。後悔に引き摺られていては、判断を見誤る。こういう時のメイアの見識は、いつも正しい。

ヴァンドレッド・メイアは加速に特化した合体兵器、一刻でも早い敵の打倒にはむいている。今回の任務に必要なのは火力ではなく、速度なのだから。

気持ちが切り替われば、カイの行動も早い。カイは、ラバットに目を向けた。


「ラバット、此処からシャトルまでの安全なルートを教えてくれ。どうせさっきもそのルートを通って、此処に来たんだろう」

「分かった、分かった。そのかわり、さっさと敵を仕留めてくれよ。商売の邪魔だからな」

「それが目的で手を組んだくせに白々しい……おっさんも、ちっとは戦えよな」


 同盟を組んだとはいえ、常に一緒に戦う必要はない。ラバットはブザム達と行動、カイとメイアのみ別行動で外の敵を叩くことになった。

ラバットからミッション内の詳しいルートを聞き、メイアが頭の中に叩きこむ。出来るだけ安全を重視している為か、かなり複雑な順路だがメイアはすぐに覚えた。


ところが、予想外の形で助け舟が入った。


「あたしも行くぞ」

「駄目」

「お前の意見なんぞ聞いてねえんだよ!」

「痛っ!? お前はどうしてすぐに手が出るんだ!?
だいたい俺について来て、何をしようってんだ。俺の機体は一人用だぞ」


 カイと一緒に行動していたミッションの少女が、颯爽と同行を申し出る。カイが断っても、脛を蹴り上げて強行する始末。我の強い少女だった。

危機に相対しているというのに、この在り様。無謀にも取れるが、別の側面から見れば勇気に見えなくもない。

実際、少女はこの危機到来をチャンスとも捉えていた。


「あたしなら、このミッションの裏道まで知り尽くしてる。安全にシャトルに行きたいのなら、案内してやるよ」

「今、ラバットに聞いたばかりだっつーに」

「と、途中で敵に会っちまったらどうするんだよ! お前みたいなクソ雑魚野郎、すぐに殺されちまうぞ」

「何でお前にそこまで見下されないといけないんだ!? おい青髪、お前から言ってやってくれ」


 可愛い顔をして歯を剥き出しにする少女に、メイアは思い悩んだ顔をする。任務を重視するなら当然ノーだが、少女の申し出は一考する価値はあった。

ラバットに教わったのは安全かつ最適なルート、だが何事にも予想外というのはある。生体兵器に万が一出くわせば、十分に戦える装備がないので苦戦は必至。

逃走しようにも、このミッションは網の目のように通路が入り組んでいる。迷いに迷って、外部の敵に脅かされていては冗談にもならない。

どのような予想外にも対処できるように、案内人は必要だ。少女の言い分も、理解は出来た。


「――本当に、このミッションを案内出来るのだな?」

「うん、あたしの庭だ」

「分かった、連れて行こう」


 カイとは打って変わって神妙に頷く少女を見て、メイアは決断した。我儘に見えるが、大人への対応は弁えている。考えていたよりも利発で、むしろ驚かされた。

どちらかといえば、カイと話している時だけ本来の子供らしさが出るのだろう。どちらの精神年齢が低いのか、考えるとなかなか面白い。

自分の味方をしてくれなかったことに落ち込むカイを、少女はゲラゲラ笑って馬鹿にしていた。


少女の無邪気な笑顔に、大人達は少しだけ癒されているのも知らずに。


「よし、行動開始だ」

「おう!」


 カイやマグノ海賊団にとっては雪辱戦、今度こそ失敗も後悔もしない。反省した彼らは、無類の強さを発揮する。全員が一丸となって、行動を開始した。

生体兵器との戦い――未曾有のバイオハザードとなるか否か、その真価が問われる。




























<to be continued>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします





[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]

Powered by FormMailer.