ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 17 "The rule of a battlefield"






Action13 −気位−







「ラバット……!?」


 血風吹き荒れる地下闘技場、戦乱渦巻く場外乱闘。戦意と殺意が渦巻く人間達の戦場に、涼しげな顔をした死の商人が姿を現した。

風変わりな衣装を着た、ガタイのいい眼帯の男。男に付き従うのは、大柄な雌のオラウータン。何とも場違いでありながら、一人と一匹は何者も恐れず堂々としている。

警戒と殺意を向ける群衆の中でただ一人、喜びさえ混じえた明るい表情を浮かべる少年が呼びかけた。


血に飢えた男達に睨まれても平気な顔をしていた商人だったが、声をかけた少年を一瞥するなり目を剥いた。


「まさかとは思ったが、お前……本当に、生き残ってやがったのか」

「地獄の閻魔様は、ヒーローがお嫌いらしいぜ。叩き出されてしまったよ」

「けっ、ぬかしやがる。しぶといガキだぜ」


 商人ラバットとパイロットのカイ、二人は二度に渡って面識があった。いみじくも二人の出逢いもミッションであり、その時はお世辞にも友好的とは言えない関係だった。

生きる世界の違う二人は主義主張も異なり、ぶつかり合い、衝突もした。もっとも人生の経験値に差があり、カイがほぼ一方的に振り回されてばかりだったが。

本来ならば仲が悪くて当然ではあるのだが、カイはラバットに恩があった。良縁ではなくとも、義理人情を欠かせたりはしない。

場外乱闘の真っ只中であるにも関わらず、カイはラバットに手を振った。


「頼んでいた仕事、ちゃんとやり遂げてくれたんだな。あんたのおかげでセランも助かったよ、本当にありがとう」


 二度目の出逢いは戦場、地球母艦との死闘。カイ一人での全く勝ち目のない戦いで、カイは最後の突撃をかける前にラバットに傷付いた少女を託した。

言葉少なく別れもまるで惜しまなかったが、せめて笑い合って二人はそのまま別離についた。たったそれだけの関係、友情も利益も何も生まない人間関係。

簡単に切れそうな縁であるのに、こうして二人は三度目の再会を果たす。ラバットは、誠意ある少年の礼にも適当に返した。


「運が良かったな。あの時お前が連れてたのが女じゃなくて野郎だったら、放り出していたぜ」

「その手の価値観はタラーク育ちの俺にはピンと来ないが、一応礼だけは言っておきたかった」

「あれは単なる気まぐれだ。本来、金にならん仕事は引き受けねえんだからよ」

「はは、だろうな」


 愛想の悪いラバットの返答にも、カイは笑って返した。敵側に近い男ではあるのだが、どうにも憎めない。三度目にこうして出会って、カイはますます気持ちを良くする。

好意で擦り寄れば煙たがれ、協力を求めれば利用される。狡猾にして不遜な男、信頼など出来ないのだが心を通わさなくとも関係は持てる。ラバットも、多弁であった。


とはいえ此処は戦場、再会を懐かしめる状況ではない。お喋りをする時間も、与えられなかった。


観客達はカイやマグノ海賊団よりも、ラバット一人を警戒している。周囲が男に対して見つめる目は、狼の襲来に身構える羊によく似ている。

彼らは彼が狼であることを、よく知っている。半年間女性達と人間関係で争ったカイは、人の感情の機微には敏感になっていた。

ひとまずミッションの少女を守るように背に隠し、カイは改めてラバットに目を向けた。


「どうやらこいつら、あんたを知っているようだな。随分嫌われているみたいじゃねえか」

「おいおい、人聞き悪い事を言うなよ。俺はこいつらの"あしながおじさん"だぜ」

「"あしながおじさん"……?」

「――そうか。このミッションに人が集まり、今も物資が在るのは、お前が売り出している為だな」

「ご明察、相変わらず鋭いねーちゃんだ」


 ブザムの推察とラバットの肯定で、カイはようやく彼がこのミッションに来た理由を悟った。ラバットは商人、情報から物資まで金になるものは何でも売り出している。

中継基地ミッションには今も、大勢の人間が住んでいる。閉鎖的な環境で今も食生活を送れているのは、彼が物資を定期的に持ち運んで来たからだ。

納得がいくのと同時に、苦笑も浮かんでしまう。ボランティアなどではない、毎日の食事にも困っている人間の足元を見て高値で売り飛ばしているのだ。


彼らが金を持っているとは思えないので、このミッションにある金目の物を"合法的に"奪っているのだろう。抜け目の無い、男だった。


「こいつらの、あんたに対する態度を見る限り、よほどアコギな商売をしているようだな」

「飯の面倒を見てやってるんだ、むしろ感謝してもらいたいくらいなんだがな」


 中継基地ミッションはタラークの吹き溜まりと同じ、カイはそんな印象を持っている。環境が一向に改善されないのは、この男に他人の面倒を見る器量がないからだ。

お得意様であっても、お客様は神様だと頭を下げたりはしない。肥え太らせず、痩せ細らせず、適度に物資を売り払ってじわじわと金目の物を巻き上げている。


極悪非道ではないが、こんな商売をしていれば恨まれるのは当然だろう。半分は、自業自得でもあるのだが。


「地下闘技場なんて、趣味の悪い娯楽を提供したのもあんたか」

「おいおい、お前は俺を何だと思ってやがるんだ……? 人間同士戦い合わせるのなら、賭け事の一つや二つもついでも仕込むさ。ただ見世物にするなんて勿体無え」

「単に否定するかと思えば、あんたって男は――たくっ」


 血で血を争う殺し合いも、ラバットにとってはお子ちゃまのお遊び程度でしかないらしい。男の悪辣さに、観客達は一層目を怒らせて睨みつける。

ラバットも抜かりはない。いつの間にか抜いていた銃を手の中で弄びながら、闘技場内を見渡した。


「ふふん……にしても、久しぶりに寄ってみれば随分面白そうな事をしてやがる。

――くだらねえ小細工してねえでもっと楽しませろよ、パッチ」

「ちっ……!」


 観客席に居たメイア達やブザムも、パッチとスイッチの存在に目を向ける。彼と揉め合っていた、カイやミッションの少女にも。

闘技場では、リズが血を流して倒れていた。完全なる決着、なのに戦いはまだ終わっていない。場外にまで及んで、騒ぎが拡大している。

ミスティは早速カメラを取り出して、闘技場で行われる不正を激写。もはや暴き立てても意味は無いが、真実を追い求めるのも彼女の仕事であった。


もっとも、のんきにしていられる状況でもない――たった今、ラバットは自分がカイ達の味方ではない事を公言したのだ。


不正を指摘したのも自分が楽しめないからであって、乱闘騒ぎまでは否定していない。戦場に現れた商人は、単なる観客でしかなかった。

存在感だけは際立っている分、タチが悪い。疎ましく思っていても、誰も手出しできない。ボスであるかのように、振舞っている。


絶体絶命な、状況。メイア達とも離れているカイは特にピンチで、ミッションの少女もいるので逃げられない。パッチもラバットより、邪魔立てしたカイを怒っている。


「自分は高みの見物かよ、いいご身分だな」

「羨ましいだろう? 世の中、金を持っているもの勝ちだ」


 せせら笑う。その顔を見て、さすがにカイもカチンとくる。ほんの数ヶ月前は翻弄されるままだったが、その後数々のいざこざをこなして人生の経験値はカイもついている。

あの男は商売人、情で訴えても鼻で笑うだけ。セランの時は出世払いで引き受けてくれたが、きまぐれだと断言している。命の危機はあの時と同じだが、二度はない。


"海賊"のやり方を見ろ――メイアに諭され、ブザムの一連のやり取りを見て、彼女達のやり方を学んだ。人間同士の奪い合いは、無人兵器のように単純ではない。


略奪は間違えていると、言うだけならば簡単だ。説教なんて誰にでも出来る。肝心の相手が言う事を聞かないのならば、言葉なんて無力なのだ。

綺麗事では片付けられないのが、人の世であり人の欲。事を成したいのであれば、己が汚れる事も躊躇ってはならない。ブザム自らが、戦場へ出たように。


カイは以前メイアに貰った通信機を、取り出した。


「折角来たんだ、おっさんも祭りに参加しろよ。今、最高に盛り上がっているんだからよ」

「遠慮しておくぜ。ボコられるお前を、酒の肴にでもするわ」

「……つまり、力を貸す気はないと?」

「当然だろう。俺に、何のメリットがある」


「あんたの宇宙船が、傷一つなく無事に返ってくる」


「! てめえ……!?」


 通信機をひけらかせて、今度はカイがにやりと笑う。ラバットは常に逃げ道を用意しておく傾向があることを、カイは二度の邂逅を通じて分かっている。

彼の連れはウータン一人、となれば宇宙船には誰もおらず停泊したまま。カイは外のニル・ヴァーナに仲間を大勢残しており、連絡もすぐに取れる。

宇宙船には当然セキュリティが仕掛けられているだろうが、マグノ海賊団はプロの略奪者。セキュリティの解除なんて朝飯前だった。


「恩を仇で返すつもりか、お前」

「恩は必ず返す。でもそれは、俺は生きていることが前提だ。たとえ恩人でも、あんたが相手ならば心は痛まない。

お互い、一蓮托生でいこうじゃないか。俺が稼がせてやるよ」


「……海賊でもねえくせに、同盟を持ちかける気か」


 ラバットも冗談はやめて、カイをじっと見やる。危機的状況であるのに、堂々としたやり取り。死をも恐れず立ち向かうのは前からだが、肝が座ってきている。

今の交渉はまだまだ稚拙ではあるが、青臭い理想論を吐き出すだけの以前とは違ってきている。単に薄汚くなってはおらず、視野も心も広くなっていた。


ブザムやメイア達が不敵に笑っているのを見て、ラバットは呆れたように笑う。カイは、敵であるこいつらに学んだのだ。全く、可愛げのない。


「分かったよ、この場は手を組んでやる。まあどのみち、お前の力が必要になるだろうからな」

「なんだと……?」


 まるで予言であるかのように告げるラバットに、セキュリティの警報が呼応する。中継基地ミッション全域に鳴り響く、非常警報――気を失っていたリズが、意識を取り戻す。

ラバットとは違い、明らかに敵意のある来訪者の登場。その正体に心当たりがあるカイは、ラバットを睨みつけた。全ては、企てられていた。


地球の無人兵器、刈り取りの襲来――ラバットは最初から、カイ達に力を借りるつもりだった。敢えて自分から言い出さなかったことで、カイにまた貸しを作ったのだ。


後少し状況を見定めていれば、立場は逆転していた。少年はまだまだ、大人には及ばない。




























<to be continued>







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