ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 16 "Sleeping Beauty"






Action20 −自由−







 ナースであるパイウェイに連れられて、バートはシャーリーが入院している隔離施設へと向かう。

同施設内に同じ仲間のバーネットも入院しているのだが、彼は一度も足を運んでいない。どんな顔をすればいいのか、分からなかった。

友達に仲間、大切なものを二つも失う。彼女達が死んだ後には恐らく、自らに生まれつつあった誇りも失うだろう。

自分の失敗で、この惑星が死んでしまう。直視し難い現実であったが、同じ罪を背負ってくれる者もいる。


「……シャーリーには、パイから話すわ。バートだとどうせ、泣いちゃうでしょう」

「それは駄目だ! これは僕の失敗であり、僕の責任なんだ。僕の口から説明させてくれ」

「バートは操舵手、パイはナース。患者に責任があるのかどちらか、分かるでしょう?」


 パイウェイの儚い微笑に、バートは胸が潰れる思いだった。確かに在ったはずの希望は、一体何処へ行ってしまったのか?

この小さな看護婦は辛い経験を経て、急速に大人になろうとしている。バートはそれが良い成長とは、とても思えなかった。

海賊である以上、いつまでも子供では決していられない。早々に大人に成ることを、強いられるだろう。現実が、幼さを許さない。


大人になれば戦力になり、次世代を担う海賊となる。この子が奪う瞬間を想像するのは、バートには耐え難かった。


「ごめんな……何もかも、僕のせいだ」

「バートのせいじゃないよ。それは、絶対に違う。助けられなかったのが罪なら、パイだって同じだよ」

「……君は、悪くないよ……そんな訳があるものか!」

「ね? 言い合いになるだけ、もうやめよう」


 二人は自然に手を繋いで、病院と隔離施設を結ぶ渡り廊下を歩いて行く。口数も減り、やがて無言になった。

直に、口をつぐんでいられなくなる。テラフォーミング実験の失敗は、この惑星の死を意味する。シャーリーも、助からない。

このまま黙って惑星を出ていく選択肢を選べないのが彼らの美点であり、最大の不幸だった。心に、消えない傷が刻まれる。


シャーリーの部屋の前で固い顔で頷き合い、二人はシャーリーの見舞いに訪れる。



「あっ! おにーちゃん、おねーちゃん!?」



 二人が入室した瞬間、シャーリーは慌てて布団の中に何かを隠す。なかなかの早業だったが、タイミングが遅かった。

パイウェイはそれまでの暗い表情が一転、意地悪な顔を向ける。


「むむ、怪しい。怪しいケロ」

「な、何が?」

「シャーリー、今ベットの中に何を隠したんだケロ?」


 愛用のカエル人形は診察室の冷たい床に転がったまま。条件反射的に、いつもの口癖で喋ってしまったようだ。

怖いナースに詰め寄られて、シャーリーは困ったように笑う。微笑みで誤魔化そうとしているが、居心地は悪そうである。

このまま見ていても面白いが、シャーリーが可哀想だったのでバートが援護に回った。


「何だよ……水臭いじゃないかシャーリー、三人は仲良しじゃないか!」


 友達に隠し事はいけない、そう言われてシャーリーは降参する。秘密を暴かれたのに、少女は本当に嬉しそうだった。

友達だと言われてはしゃいでいる。その事実に彼女は喜び、彼らは悲しむ。隠し事をしているのは、二人も同じだというのに。

友達だから秘密はないなど、どの口が言うのか。直に来る彼女の死を、二人はまだ話していない。


「笑わないでよ、ほら!」


 シャーリーは頬を薄く染めて、布団をめくり上げる。少女の秘密を目の当たりにして、二人は言葉を失った。


「おにーちゃんと、おねーちゃんの人形。あまり上手じゃないから、恥ずかしかったの」


 タラークの軍服を着た青年と、看護服を着た少女の人形。この惑星の文化である人形を、二人に似せてシャーリーは作っていた。

供養が篭められている、人形。地球に亡骸を渡す代わりに、人形を作って墓に埋める。この惑星の、悲しき文化。

だが、この二人の人形は決して死を意味していない。むしろ、逆だった。


「シャーリー、本当にありがとう」

「実物通りの、いい男に仕上げてくれよ。楽しみにしているから!」


 この人形こそ二人がこの地に来た証であり、シャーリーと出逢った記念。大事な友達の為の、贈り物なのだ。

この惑星にとって人形は魂が宿る場所、この先別れが訪れても友の事は決して忘れない。シャーリーの想いが、一針一針に篭められている。

温かい想いが伝わってきて、バートもパイウェイも喜びと悲しみで涙が出そうだった。

こんなに優しい友達が、どうして死ななければならないのか。何故、死を告げなくてはいけないのか。


「ごめんなさい、まだ出来上がっていないの。必ず、二人にプレゼントするね……絶対に」


 何故――こんな小さな女の子に、死を覚悟させなければならないのか。


シャーリーは、己の死を予感していた。遠からず来るであろう死を、薄々かもしれないが悟っていた。

完成させるまでは絶対に生きると、必死で訴えている。死の恐怖を目的で誤魔化して、何とか立ち向かおうとしている。

必死に笑って、友達に心配させないようにしていた。死を告げようとしていたパイウェイは、何度も頷く。もう、何も言えない。

死ぬ事を受け入れている人間に、死を伝えても意味などない。己の無力に、彼女はナース帽を握り締める。

傍から伝わってくるパイウェイの悲しみに、バートも胸を痛めた。強い少女達、弱い自分。必死で、言葉を手繰り寄せる。

何か、言わなければならない。何でもいい、このまま何も言わずにはいられない。


「お礼に、シャーリーの願い事を叶えてあげるよ」

「本当!? で、でも……」


 喜びに顔を輝かせるが、すぐに光を失う。絶対に、その先は言わせない。

どうせ死ぬのだからと、自分の生を諦めさせたりはしない。


「ささ、このバートめに何なりと申し付けて下さいませ、シャーリー様」


 社交界の貴公子の面目躍如、タラークで散々学んだ礼儀を小洒落た仕草でこなす。バートなりの、上品な冗談だった。

パイウェイは戸惑った顔を見せるが、バートは笑ってウインクする。せめて、この時ばかりは明るく接したい。

シャーリーは少し悩む素振りを見せたが、やがて窓の外へと目を向ける。


「シャーリーね、あのドームのお屋根に登りたいの」


 シャーリーの病室の窓から見える景色は、真っ黒なドーム。子供のシャーリーから見れば、とても高い建物。

上から見れば寂れた施設でしかなくても、こうして下から見上げれば巨大に見える。空まで届きそうだった。

ベットに横たわったまま、シャーリーは夢見る瞳で窓の外を見る。


「一度でいいからお外に出て、あそこから遠くを見てみたかったの」

「……だから黙って、外に出たの?」

「あの時はおねーちゃんに迷惑かけて、本当にごめんなさい」


 パイウェイがシャーリーと初めて出逢った時、彼女は外にいた。無断で病院を抜けだして、外へと出て行っていたのだ。

偶然パイウェイに見つかって騒動もなく終わったが、少女なりに一世一代の大冒険だったのだろう。

シャーリーは生まれた時から身体が弱く、汚染された惑星内で歩き回る事も出来ない。外を、ただ見ているだけ。

脱走した時、少女は死を覚悟していた。自分の命と引き替えに、空を見ようとしたのだ。



「此処の窓から見えるお空は全部、灰色だから」



 その時――その瞬間、バートは空っぽになった。頭の中を巣食っていた後悔、心に詰まっていた反省、その全てが消え失せた。

カイ・ピュアウインドの温かい励まし、上司達の厳しい叱咤、友達の気遣い、少女達の想い。


万言に匹敵するご高説の数々が、少女の拙い願いの一言に敗北したのである。



「シャーリー、僕が連れていってあげる」

「えっ、ほ、本当に!」



 何を言うのだと、パイウェイが飛び上がる。無責任極まりない約束、実験は失敗したのにこれ以上希望を見せてどうする。

死を前にした患者に嘘をつく残酷さを、ナースであるパイウェイはよく知っている。

この惑星で何度も患者を嘘で元気づけて、死なせてしまったのだ。浅はかな自分の行為を思い出すだけでも、パイウェイは死にたくなる。

パイウェイは目を釣り上げて、バートに迫る。これ以上は、許せなかった。


「その代わり、苦しくても頑張って治療するんだ。いいね?」

「うん、分かった! おねーちゃんの言うこと聞いて、早く元気になる」


 パイウェイの足が止まる。恐る恐る振り返ると、シャーリーがニコニコ笑って自分を見つめていた。

信頼しきった眼差し、先程と違って生きる元気に満たされている。真実では絶対に与えられなかった、生の息吹。

パイウェイは、唇を噛み締める。元気にはなった、でもいずれ死ぬ。死んでしまうのだ……!

挨拶もそこそこに、パイウェイはバートを引っ張って病室を飛び出した。


「何であんな約束をするのよ! あの子はもう、助からないんだよ!!」


 シャーリーにはついに言えなかった真実を、バートに浴びせる。彼が交わした約束を、パイウェイは絶対に許せなかった。

希望を見せておいて、絶望を与えるなんて鬼の所業だ。断じて、少女の王子様がやるべき事ではない。

こんなのは優しさでも何でもない。時には残酷であっても、真実を告げなくてはならない。


怒りに震えるパイウェイの肩の上に、バートは手を置いた。


「シャーリーを頼む、パイウェイ。僕は、ニル・ヴァーナに戻る」

「他人に押し付けて、自分は逃げるの!?」

「違う。パイウェイ、僕はようやく自分のやるべき事が分かったんだ」


 バートの瞳は、澄み切っていた。頭の中も冴えている。雑念の全てが消えて、心の中は静寂に満たされている。

これ以上ないほどの集中力、地平線の彼方まで見渡せそうだった。


彼は、告げた。


「僕は、彼女に広い空を見せる。自分の翼に乗せて、大空へと飛び立つんだ」

「バート……」

「僕は操舵手だ、大空に船を飛ばして皆を運ぶのが仕事だ。
人類を救うとか、惑星を希望に満たすとか、そんなのはヒーローや神様に任せるよ。

僕は、シャーリーを空へと連れて行く!」


 彼は、人を救うのをやめた。投げ出したのではない、最初からやりたい事ではなかったのだ。

ペークシス・プラグマは、人の強い想いに反応する。バート・ガルサスの望みは、救世主ではない。

他人を救うことを義務としたその瞬間から、純粋なる願いでは無くなっていたのだ。


「僕の友達を助けてくれ、パイウェイ」


 誠心誠意心を込めて、バートは頭を下げる。人を救うのを止めた男の身勝手な、頼み。

不誠実極まりない申し出を、パイウェイは笑って承諾した。


「シャーリーはパイが絶対助ける。だから、邪魔なバートは早く行っちゃえばいいケロ!」


 どんな無理強いでも、友達ならば笑って許せる。友達だから、後の事は全て任せられる。

願いは共に同じであっても、やり方は違う。お互いに任せ合って、両者はそのまま別れた。


心の重しは全て取り去って、ニル・ヴァーナは今新しい翼を広げる。





























<to be continued>







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