ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 16 "Sleeping Beauty"






Action15 −必死−







 惑星のテラフォーミングを行うにあたり、三つの重要な段階がある。この三つこそが高いハードルであり、失敗の原因でもあった。

一つ目はカイ機とジュラ機の融合、"ヴァンドレッド・ジュラ"の誕生。テラフォーミング対象を、ペークシス・エネルギーで覆う役目。

二つ目は蒼いペークシスと紅いペークシスの並行起動、"ヴァンドレッド"の起動。コーティングしたエネルギーの出力限界を、突破する。

三つ目はペークシス・プラグマとニル・ヴァーナのリンク、人と結晶体との交流。意思を届けて、ペークシスの協力を得る。


この三つを行う事で、人類初のテラフォーミングが完了する。度重なる実験による検証で、実現性は見えてきた。


失敗ばかりだったが、観測はきちんと行なっている。実験データの分析結果からも、環境改善の可能性は確かに見えている。

しかしながらデータはあくまでデータでしかなく、結局のところ途中でしかない。過程が良くとも、結果が出せなければ意味が無い。

単なる科学の実験であれば、失敗も重要な過程だ。最後まで失敗に終わっても、失敗したという結果が次なる段階へと導き出せる。


このテラフォーミングでは、そうもいかない。失敗すれば待つのは惑星の滅びと、仲間の死なのだ。


『どうして勝手に分離するのよ!? 実験を始めたばかりでしょう!』

「俺は何もしてねえよ! お前の意思じゃないのか!?」

『最初から失敗するなんて、最低! 反省しなさいよ!』

「待てよ。お前の方に原因があるかもしれねえだろう!?」


 数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの、実験の失敗。今日に至っては、ジュラ機とカイ機の融合にすら失敗した。

合体は連続して続けていたのだが、実験開始した瞬間分離してしまったのである。両者が作為を感じるのも無理はない。

性質が悪いのは、どちらにも見に覚えがない事だ。二人共真剣にやっているからこそ、原因が分からない。


『ジュラは一生懸命やっているわ! バーネットの生命がかかっているのよ!?』

「俺だってあいつの事を心配している!」

『嘘よ、だったら、失敗なんてしない!』

「俺があいつを見殺しにするつもりだというのか!?」


 ジュラもカイも、半年間の旅を通じて心を通じ合える仲となった。自分の背中を安心して預けられる、パートナー。

タラーク・メジェールの常識や偏見を捨てて、一個人としてお互いを尊重している。普通の男女として、接せられるようになった。

ここまで二人が言い争うのも何時以来か。本人達も覚えておらず、頭の中が茹で上がっていて顧みる余裕もない。


ただ薄汚く、相手の失態を責めるだけだった。


『ジュラ達海賊は、あんたにとっては敵でしょう!? 内心、死んでもいいと思ってるんじゃないの!』

「てめえ、俺の気も知らないでよくもそんな事が言えるな!」


 久しぶりに、本当に久しぶりに地球以外の相手に心の底からカイは怒りを感じた。通信越しでなければ、殴っていたかもしれない。

海賊が仲間であるという矛盾、仲間を罰している不明な正義。そのくせ、見ず知らずの惑星の人間達は必死で救おうとしている。

心の中ではもう、整理がついている。略奪を続けるつもりならば、容赦はしない。仲間であろうと、絶対に止める。

その決意に、嘘偽りはない。だからこそ、カイは苦しみ続けている。仲間と戦うかもしれない未来に、怯えていた。


『いいかげんにしろよ、お前ら!!』


 罵詈雑言を止めたのは、バート・ガルサス。実験失敗の原因の一つである、男。自覚しているだけに、彼自身も辛い。

飛び交う罵声が全て自分を責めているようで、聞き苦しかった。耳を防いでも聞こえて、反論すら出来ない。

制止をかけたのは、見かねての事ではない。これ以上聞くのは辛かったから、自己防衛からの悲鳴。


『僕らがこんな調子じゃ、あの惑星の人達を助けられない……シャーリーだって、救えない……』

『あんた、バーネットの事はどうでもいいというの!』

『いい加減にしろと言っているだろう、てめえは!』


 何が正しいのか、何が間違えているのか、誰にも分からなかった。決意は固めても、誰も何も割り切れていない。

実験成功を願う気持ちも、人を救う熱意も、仲間を守る覚悟も、全て揃っている。失敗する要素がまるで見えてこない。

彼らは、善人だった。彼らは、優しかった。彼らは、成長していた。だからこそ、彼らは他の何かのせいには出来なかった。


ペークシス・プラグマ、地球、蛮型、ドレッド、ニル・ヴァーナ――そちらを一切責め立てず、自分達を傷つけている。


あるいは、考えたくなかったのかもしれない。自分達が原因でなければ、テラフォーミングは絶対に成功しない。

他の何かに原因があるのならば、自分達ではどうにもできない。自分達では救えない、それを認めてしまう事になるから。


『……実験を、再開するわよ』

『また失敗しなければいいけどな』

『やめろよ、カイ!? そんな事を言ってたら、何にも出来ないだろう!』


 頭が冷えれば、頭と心に浮かぶのは反省と後悔ばかり。気持ちを冷やしてしまうと、彼らは自分を責めてしまう。

鬱憤晴らしの八つ当たりの次は、自傷行為。そして実験再開と、失敗。悪循環が、延々と繰り返されていくだけ。


けれども、立ち止まる訳にもいかない。失敗すれば死ぬのは自分ではなく、他人なのだから。















 そして、失敗した。















『確かに、思い上がっていたのかもしれないね』


 傷を負えば、人は痛みを感じる。痛みを罰だと耐えても、血が流れれば力も尽きる。三人は、とうとう倒れてしまった。

罵り合って仲間を傷付けて、自問自答して自分を傷付けて、残ったのは大量のデータと痛みだけ。実験は、一度も成功しなかった。


『それが出来りゃあ、とっくにメジェールの問題も解決しているからね』


 ガスコーニュからの、労りの言葉。実験を指揮していたパルフェも、成果を見届けたガスコーニュも彼らを責めなかった。

見難く罵り合う彼らを止めはせず、力尽きるのを見計らって諦めに似た言葉を投げかける。三人には、その言葉が何よりも堪えた。

実験は、中止。テラフォーミングの夢は、パルフェ自身が終わらせた。失敗ばかりのデータが、結果を出してしまった。


この星は、救えない。惑星の人達を――バーネットを見殺しにすると、決めてしまった。


三人は、反対した。反対するだけだった。成功出来なかった以上、どれほど心意気を語っても無駄でしかない。

中止を宣告したパルフェは泣いていた。眼鏡の奥で涙を隠しても、三人には気付けてしまう。それ以上、何も言えなかった。


失敗したのだ。任務を果たせなかった者にしなければいけないのは反論ではなく、責任を取る事だった。


『……シャーリーに、会いに行ってくる……』

『病院まで一緒に、行くわ……バーネットに、話さないと……』

『……俺は――』


 上陸許可を得て、二人は惑星へ降りて――カイは、ニル・ヴァーナに留まった。一歩も、動けなかった。

格納庫にSP蛮型を納めて、その場に座り込む。誰もいない格納庫に突っ伏し、一人になってようやく涙が滲み出た。

見殺しにした。救えなかった。少年の矜持はズタズタだった。


「……俺は……見捨てた……見捨てたんだ……!」


 自分達の為に他人を切り捨てる略奪行為を否定しながら、自分もまた他人を見捨ててしまった。

救いたいという気持ちはある。けれど、手段がない。成功する当てもない。これ以上ないほど、無力だった。


「……パイロットだと粋がっても、所詮傷つけるしか出来ねえじゃねえか!」


 カイがこれまで多くの人達を救えたのは、敵に勝つ事による行為だったからだ。戦いに勝てれば、誰かを守れる。

言い換えるのならば、カイは戦いでしか人を救っていない。パイロットである以上、パイロット以外の事が出来ない。

努力はしてきた。戦闘以外でも言葉を重ね、心を向けて他人と交流してきた。それはそれで素晴らしい事だが、人を救う事にはならない。

病で苦しむ人達を言葉で慰めても、気休めにしかならない。戦う手段を持っていても、病魔には絶対に勝てない。


力では、救えないのだ――



「! 警報――敵襲か!?」



 独りぼっちの格納庫に響き渡る、アラーム。今ではお馴染みとなってしまった、敵の襲来。無人兵器達の、刈り取り。

立ち上がろうとして、崩れ落ちる。足腰が、立たない。腕に、力が入らない。心に、気力が沸かない。

戦わなければいけない――今、他人を見捨ててきたばかりなのに?

敵が襲おうとしているのは、病に侵された惑星。自分が今見捨ててきた、星の住民。


どの面下げて、守りに行くのだ――


カイは、戦うのをやめた。





























<to be continued>







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