ヴァンドレッド the second stage連載「Eternal Advance」




Chapter 16 "Sleeping Beauty"






Action14 −災厄−







 ミスティ・コーンウェル、彼女には故郷というものがない。両親も、友達も、親しくしていた人は全員この世にはいない。

帰る場所もなく、待っている人もいない。覚悟はしていたし、悲しみはあれど後悔はない。望郷の念も、心の中にしまい込んでいる。

病に苦しんでいるこの星を見て、彼女は思う。優しい過去に消え去るのと、厳しい現在に苦しむのとでは、どちらが辛いのだろうか?


故郷があっても、汚染されているのならば無い方がいい。そう思わせてしまう地球の非道が、ミスティには許せなかった。


現地で取材を始めて数日――出来る限り多くの人と会って、無理を押して話を聞かせてもらった。

ドクターにも許可を貰って、救命の現場にも積極的に立ち合った。汗や血で自分が汚れようとかまわず、現場を見続けた。

直接人の生死に向き合い、想像を絶する苦痛を生で感じ取る。自身に直接関与しなくとも、心は苦痛でネジ曲がりそうだった。

目の前で人が死んでいく。死者は大地で眠りにもつけずに、地球に回収されてしまう。こんな非道が、何故許される?


「……絶対に、無駄にはしないから。皆の苦しみや悲しみは、必ず私が伝える!」


 メッセンジャーとしての新しい役目、自分の使命を見出した少女。過酷な仕事でも、ミスティの心は決して折れない。

誰もが皆、取材に協力的ではなかった。快く取材を許可してくれたのは極少数、大抵は申し込んだ時点で嫌な顔をされる。

意地悪では決してない。むしろ、断れて当然だ。身内の死に様を赤の他人に取材されて、気分が良かろうはずもない。


取材を断られるのはまだマシな方で、時には八つ当たりまでされて、罵声や暴力まで浴びせられた。


ミスティはまだ、イベントクルーになったばかりの新人。見習いで突撃取材はハードルが高く、交渉は困難。

本人にとっては崇高な使命でも、当事者から見れば野次馬に等しい。今日も散々怒られた。


そして、部下の失態は上司の責任となる。ミスティはこの日、イベントクルーのチーフに直接呼び出された。


「現地からクレームが来たの。副長を通じて、私に連絡が届いたわ」

「……申し訳ありませんでした……」

「何言ってるの、ここで諦めたら駄目よ!? 私が責任取ってあげるからガンガン取材を申し込みなさい!」

「ええっ!? そ、それでいいんですか!?」


 怒られるとばかり思っていたのに、むしろ反省した事を叱られる有様。変わった職場だと、ミスティは改めて思った。

マグノ海賊団入りは保留、客人扱いでは気が引けて、ミスティは自分の成すべき事を実現すべくイベントクルーに入った。

見習いではあるが明確な目標を持ち、行動に移している彼女をチーフは高く評価している。

失敗もまた経験、恐れずに挑戦する事が大事なのだと、チーフは教えている。


「現地で撮影した写真や現場の声を持ち歩くのは、控えた方がいいわね。
見習い期間の評価材料にするから、私に提出。編集しておいてあげるわ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「それと、今度から一人で行動しない事。先輩を一人つけてあげるから、その子と行動しなさい」

「で、でも、現場は――」

「あんたが苦労しているのは知ってる。でもね、クレームが出たのは重く受け止めないといけない。
監視するつもりはないけど、体裁は整えないといけないの。取材する時は、責任者と一緒に。いいわね?」

「……はい、すいません」


 海賊であれど組織、職場内まで無法では成り立たない。特に今は救命活動中、現地との連携は不可欠なのだ。

マグノ海賊団は救命する立場、言わば恩を売る側なのだが、無礼千万を繰り返していては、病原菌と同じ厄介者となってしまう。

責任者を連れて、自覚ある行動を取らなければならない。その上で消極的にならず、行動に出ていく。


チーフに諭されて、ミスティはこの仕事の難しさを痛感した。


「落ち込まないの。新人の頃はね、誰でもいっぱい失敗するのよ。
アタシだって何百回お頭や副長に叱られたか――」

「そ、それは失敗しすぎじゃ……?」

「ゲリライベント企画して、あやうく船を沈めそうになったこともあったわね。始末書で許されたのが奇跡だわ、本当」

「……聞きたくないな、その武勇伝……」


 この部署を志願して良かったのか、ミスティは自問自答する。志望動機がハッキリしていた分、悩まなかったのが逆に痛い。

チーフは尊敬できる人だが、破天荒でもある。責任感を持たされた後もあって、自由気ままぶりに驚かされてしまった。

ミスティは仕事の報告も含め、ここ数日間の取材状況を詳しく説明する。


「ドクターが率いる救命チームが熱心に活動していますが、現地では人も物資も慢性的に不足しています。
救われた人も多くいますが、今も尚大勢の人が苦しんでいます。隔離病棟にも人が増えて、手狭になっているようです」

「外の環境が悪いから、身体だけ治してもまた悪くなってしまうのね。根本的に改善しないと、悪循環か……
何か楽しいイベントを企画して、皆に元気になってもらおうか!」

「悪くはない、と思いますけど――」

「何? ハッキリ言ってくれていいわよ」

「冷やかしになってしまうかもしれません。チャリティーイベントは、未来に希望が持てるからこそ成立します。
私達のような外の立場の人間がイベントを実施しても、どうしても限界があるのではないでしょうか?」


 貧困地域や紛争地域の救済、そして災害や事故等の犠牲者に対する支援活動――チャリティーイベント。

救済を目的としたこの活動は志こそ尊いが、自己満足として受け止められてしまう事もある。

病に侵されたこの星では日々死者が出ており、多くの人が今も苦しんでいる。イベントの内容次第では、現地との摩擦が生じる。

人々が求めている本当の"救済"は、精神的なものでは決して無い。病を改善できる何かだ。


「ミスティの言うことも間違えては――ううん、正しいと思う。私達では、病を治す事は出来ないもの」

「はい、ですから私はせめてこの現実を多くの人に伝えようと思っています」

「うん、立派。出来る事をする。その為にドクターや救命チームも一生懸命頑張ってるし、カイも今必死で戦ってる」

「カイ? あいつ、まだやっているのですか!?」


 惑星のテラフォーミング、諦めていないことは容易に分かる。先日のエレベーターでの出来事で、カイについて少しは理解出来た。

それでも不眠不休で取り組んでいると聞かされて、驚かずにはいられない。対抗心がわき上がるのを、押さえきれない。

絶対に、負けたくはなかった。あいつが諦めていないのならば、自分も絶対に諦めてはやらない。


「カイが一生懸命頑張ってるのはね、バーネットの事があるのだと思う」

「バーネットさん?」

「ミスティはまだ知らないのね――レジクルーの一人が救命活動に出て、病に倒れたの。アタシもさっき聞かされたのだけれど」

「そ、そんな!?」


 ついに、自分達の間にも病人が出てしまった。ミスティは現地で取材している分、病についても他人事ではなかった。

息が詰まる思い、自分達もまた特別ではない。この先もまだまだ、辛いことが続く。関わっていけばいくほどに。


「見舞いに行きたかったけど、面会拒絶なの。空気感染する危険もあるから、隔離されているわ」

「隔離――汚染されたんですね」


 自分の足で取材を行なっていたからこそ、ミスティの理解も早かった。ゆえに、辛い。

軽い病であれば適切な処理で治るが、肺が汚染されて生き残った患者は今のところいない。皆、死んでしまった。

この星には、綺麗な空気がない。医療機器もない。肺を洗い流すには、新鮮な環境が必要なのだ。


「ミスティ、チャリティーイベントを行うわよ」

「えっ、でも――」

「言ったでしょう、自分の出来る事をやる。アタシはイベントクルーよ、この方法でしか皆を元気には出来ない。
見せかけの希望でも、単なる夢でもいいのよ。嫌な事や辛い事を今だけは忘れて、楽しんでもらいたいの。

偽善だろうが、自己満足だろうが、自分の企画したイベントで皆が笑顔になってくれるのならそれでいいわ」


 恐らく、当初から考えてはいたのだろう。頭の中でさまざまな案を出し、企画書も大量に作ったのに違いない。

実行に移すキッカケとなったのはバーネットの病気、行動に出れたのはミスティの話を聞いて。

一人が動き出した事により、他の人も動き出す。その連携もまた、仲間であることの証なのだろう。


「それに、理想を現実にしてくれる人がいるでしょう」

「――!?」

「これも聞いた話だけど、実験が上手くいっていないそうよ。彼、色々と悩んでいるみたいなの。
ここは一つ、ヒロインが元気づけに行ってあげたら?」

「……それも、イベントですか?」

「分かってるじゃないー!」


 チーフに明るく背中を押されて、ミスティは元気よく駆け出していく。

悩める少年を、優しく励ましにいくのではない。



――蹴っ飛ばしてやるのだ。





























<to be continued>







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