VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action25 −協和−






 完全勝利。微塵の狂いも無い、完璧な結果でカイ達は勝利を飾る事が出来た。

難攻不落を誇っていた母艦は陥落、メラナス艦隊の集中攻撃を浴びて一欠片も残らずに灰燼と化した。

誰もが全力を尽くしたからこそ、ありえた結果。妥協しなかったからこそ、ありえた勝利。


功績は誰か一人のものではない。この戦いにおいては男も女も勝者であり、全員が英雄だった。


「お医者さん、お願い!? 宇宙人さんを、助けて!」

『分かっている、絶対に死なせたりはしない。君はすぐに彼をニルヴァーナへ帰還させてくれ』


 そしてその全員が認めた少年が、生命の危機に瀕していた。精根尽きており、大量の出血と疲労困憊で呼吸がか細い。

連戦に次ぐ連戦――盾となって仲間達を庇い、剣としてて敵を切り裂いた。多くの悩みと迷いを抱えながらも、膝をついたりはせずに。

全てをやり終えたと実感して、彼はやっと休む事が出来た。血に濡れながらも、その寝顔はとても満足気だった。


『マグノ・ビバン殿。此度の戦い、我々に地球打倒の重要な機会を与えて下さった事に心から感謝しております。
そして多くの同胞を――我らの惑星を救って下さった恩を、是非返したい。
宜しければ、我々の星へ来て頂けませんか? 物資の提供並びに負傷者の救助も含め、貴方達の助けになればと。是非』

「……願っても無い申し出だ。こちらからもお願いするよ」


 男女関係崩壊から数日、休む暇も無い地球との死闘は今後の旅に支障をきたす重大な痛手を与えていた。

復活したとはいえニル・ヴァーナは半壊、物資は底をつき、設備は消耗。一度は停止寸前になったシステムは、多くの不具合を抱えている。

マグノ海賊団主力兵器ドレッドは全機破損、その半分は乗船不能。全エネルギーを使用したヴァンドレッドも、これ以上の負荷は危険。


そして何より、男と女――人間が、使い物にならなくなっている。身体も精神も、限界にまで追い込まれていた。


全力で挑まなければ、母艦は倒せない。屈辱の敗戦と、過ちを犯した反省が、彼ら全員を本気にさせた。

惜しみなく全てを投入して、捨て身の覚悟で挑んだ。次に負ければ死ぬと心を戒めて、祖先の星地球へ宣戦布告したのだ。

クルー達はおろか、お頭のマグノや副長のブザムでさえも疲労の色が漕い。これ以上の旅は、もはや不可能だった。





――こうして、彼らは惑星メラナスへ滞在する事になった。





負傷者はほぼ全員、重傷者は二名。タラークの少年カイ・ピュアウインドと、メラナスの少女セラン。

第三世代の最エリートであるドゥエロ・マクファイルの腕と、メジェールの最新医療技術でかろうじて命は取り留めた。


そして、死傷者は――0名。


奇跡の数字、けれど神が与えたものではない。人間が努力をして、死守した結果であった。

男と女、そして異星人。性別や国を超えて手を取り合い、協力して生き残る事に成功した。その勝利こそが、何よりも勝る真実。

男はゴミではない。女は鬼ではない。自分達だけが――全てではない。

互いに協力しあえば、どれほど深い絶望に襲われても戦うことは出来る。強大な敵が相手でも、打倒する事が出来る。

誰かに教わったのではなく、自分で知った現実を、彼らは受け入れた。

戦いを終えた後の安らかな時間が、受け入れるだけの猶予を与えてくれた。



男と女の関係は今ここに、新たなスタートを切る事になった。
















 夢も見ずにグッスりと眠り、その日の朝は本当に穏やかに迎える事が出来た。


「……ん〜〜、もう朝か。柔らかい布団にもすっかり慣れてしまったな」


 窮屈な監房生活でも、何ヶ月もすれば適応出来るものらしい。固いベットで安眠していた半年間を思い出して、少年は苦笑する。

布団から起き上がって、深呼吸。全身を大きく伸ばすと、包帯とガーゼがやや引き攣るが痛みらしい痛みは感じなかった。

傷も随分塞がって顔色も良く、日常生活に支障が出ない程に回復していた。


「目覚めたか、カイ。身体の具合はどうだ?」

「ようやく退屈な入院生活も終われそうだ。この通り、痛みも無い」

「ふむ、もう包帯も必要はなさそうだな。一通りの診断を行って問題なければ、退院の許可を出そう」


 カイ・ピュアウインド――生死の境をさ迷った少年は今、メラナスの医療施設で療養していた。

地球母艦との死闘で重傷を負ったカイはニル・ヴァーナ帰還後緊急手術、危険な状態だったが強い精神力で何とか持ち堪えられた。

命の危機は脱しても、今度は精神が限界に達した。ベットの上で何日も意識は戻らず、目覚める兆しも無い状態。

代わるがわるクルー達がカイの病室を訪ねては、必死で呼びかける日々。怪我人を鞭する者など、一人もいない。


カイを好敵手と認識しているエステチーフや、嫌いという態度を貫くブリッジクルーの少女さえも。


特にセルティックはカイが眠っている間だけ素顔を見せる徹底ぶりで、様子を見守るアマローネ達を苦笑させた。

そんな微笑ましいエピソードもあり、カイは身体や精神の危機を乗り越えて何とか目覚める事が出来た。

その後は養生の日々。ベットから出る事も許さず、ドゥエロは厳しく医療管理を行う。カイの傷はそれほど深い。

寡黙な親友の真心を正確に理解して、カイも大人しくベットに眠って今まで回復を図っていた。


その間――ドゥエロから、外の様子を聞いていた。


水の星アンパトスでもそうだったが、カイは結局他所の惑星で殆ど遊び回る事が出来なかった。どちらも大怪我が原因で。

この事実に、マグノ海賊団幹部達――ブザムやメイアでも、いたく彼を同情した。

そんな彼女達マグノ海賊総員はメラナスの惑星へ滞在、ニル・ヴァーナや各部署の修繕作業を開始する。

最初の週こそ動く事も出来ない状態だったが、故郷を追い出されても海賊として立ち上がった彼女達は逞しかった。

心身共に傷を追いながらも自分のやるべき事を忘れず、一人また一人と現場に復帰。

メラナスの人達にも支援を受け、驚異的な速度で復旧に務めたという。


――とはいえ、船の被害は甚大。全てが元通りという訳にはいかなかった。


「俺達の部屋は結局、瓦礫に埋れたままか。部屋の中の荷物も全部おじゃんか」

「男性用の衣服や身の回りの品は、船内にまだ残されてはいる。元はタラークの軍船だったので、今後の生活には困らない」


 時間を戻す事は、出来ない。あの時の平和は破壞された。他ならぬ、自分達の手によって。

強大な敵を倒す為に手を組んでも、全てを忘れてやり直す事は出来ない。人間だからこそ、都合よく忘れられない。


そして、新しい変化もある。タラーク・メジェールとは異なる存在、メラナスの人達だ。


アンパトスの人達以上に、マグノ海賊団を彼らは盛大に歓迎した。支援も協力も惜しまず、恩人として敬ったのだ。

彼らの星もまた度重なる地球の侵攻で大きな傷を追っていたが、脅威は去ってようやく立て直す時期に入った。

地球が認める肌の美しさに、メジェール生まれの女性達が羨望し、比較的早く打ち解ける事に成功。

男女関係なく住まう人達の文化に触れて、改めて故郷の教えに疑問を抱くようになった。


「医療技術もなかなかのものだ。女性の出産に関して、私も御教授して頂いた。こうして、本も読んでいる」

「赤ちゃんの出産……? ああ、お袋さんのお腹も膨らんできているもんな」


 手垢のついた本を見せて貰って、カイの口元も緩む。新しい命の誕生こそ、平和の何よりの象徴だ。

女性に対しての知識はまだまだ心許ないが、敵愾心はもう微塵も無かった。

ドゥエロやバートもその後は女性達と和解して、少しずつだが共存は出来ているらしい。

母艦との戦いで負傷したクルー達もメディカルマシーンだけに頼らず、ドゥエロの診断を受けている。


「バートもあの戦いで傷は負ったが、すぐに復帰した。多くのクルー達に声をかけられて、元気に働いている」

「……それ、労働力として利用されてないか?」

「本人が満足ならば、それでいいのだろう。仲良くしているのは本当だ」


 軽い声援一つで大張り切りしている姿が容易に想像出来て、二人揃って笑い声を上げる。

何とも現金な男だが、その性格の明るさにドゥエロもカイも救われた。二人にはない魅力を、彼は確実に持っている。

メラナスの人達とも積極的に交流しているらしく、得意な弁舌を振るっているようだ。

喧嘩一つも無い、異星での生活。刈り取りの襲撃も無く、傷も癒えてきている。


「君が心配していたセランも、無事に回復した。後遺症も無く、日常に戻れる」

「……そうか。良かった、本当に……ラバットのおっさんは?」

「行方不明だ。その後の連絡も無い。心配は無用だろう」


 地球に情報を売っていた商人、ラバット。取引による協力関係は無事締結して、その後は行方も知れない。

敵か味方か今でも分からない、謎の存在。言えるのは、一番真実に近い位置にいるという事。

詳しい話を聞きたかったが、彼はもういない。連絡を取り合う仲でも無く、カイも別れ際は敵を押し付けて放置した。

分かっているのは、絶対に生きているという事。カイもドゥエロの意見に同感だった。

今後旅を続ければ、また会う機会が訪れるかもしれない。その時味方となるかどうかは、別にして。


「ニル・ヴァーナも先日、ペークシス・プラグマの再点検が終わった。問題なく機動しているらしい。
船の復旧も済み、システムのメンテナンスも完了したようだ」

「俺の退院をわざわざ待っていてくれたのか。皆には足止めさせてしまったな」

「君が一番働いたのだ。休む時間を長く与えられるのは当然だ。無理をさせるようなら、私が止めていた」


 ドクターストップの権限は、海賊よりも強いらしい。頼もしい友人に、カイは肩の力が自然に抜けた。

メラナスの生活環境は悪くなく、休暇を取るには申し分ない。長旅の疲労もあり、居心地の良い場所でゆっくりしたい気持ちもある。

ただ、時間的猶予がある事を忘れてはならない。地球は、タラーク・メジェールも刈り取りの目標に入れている。

母艦を撃破して大戦力を削る事に成功はしたが、危機が去ったとは言い難い。

戦いはまだまだ続く。本当の意味で平和を迎えるには、刈り取りを完全に阻止しなければならない。


その為には――


「ありがとう、ドゥエロ。でも、俺はもう大丈夫だ。これでまた、戦える」

「……本当に、やるつもりなのか?」



「ああ。俺は――マグノ海賊団と、決着をつける」






























<to be continued>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けると、とても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。


<*のみ必須項目です>

名前(HN)

メールアドレス

HomePage

*読んで頂いた作品

*総合評価

A(とてもよかった)B(よかった) C(ふつう)D(あまりよくなかった) E(よくなかった)F(わからない)

よろしければ感想をお願いします










[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]

Powered by FormMailer.