VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 13 "Road where we live"






Action24 −激突−






 地球母艦破壊作戦。数時間前に立案してこの度実行に移された戦略だが、その結果に至るまでには半年を要した。

事の始まりはタラーク最新鋭の軍艦イカヅチの襲撃、三人の男と百五十名女が故郷から遠く離れた宇宙の彼方に飛ばされた。

彼らは生きる為に手を結び、仮初の同盟を結んだ。親密な接触を拒んだ、利益だけの関係。温もりを求めず、強敵があってこそ成立する。


故郷を救うべく旅だった、男女――困難極まりない旅は幾度となく彼らを疲弊させ、争いの絶えぬ毎日を送ってきた。


敵として互いを認識している、両者。警戒と疑惑を孕んだ疑心に、温かな想いなど入る余地もなかった。在りはしない――筈だった。

必死で手を差し伸べようとする、者がいなければ。

タラークの男とメジェールの女――そして、地球より捨てられた存在。

タラーク・メジェールの常識を失われた記憶と共に置き去りにした少年は、誰これかまわず助けた。

英雄である事を望んだ男。けれど英雄の器には遠く及ばず、自分も他人も傷つけた未成熟な存在。

汗を流し、血を吐き、涙を流して、過ちを正すべく努力した。

そんな彼に共感した者がいた、そんな彼を否定した者がいた。男と女の関係は複雑に絡み合い、解かれ、そして最後には千切れてしまう。


彼らは結局、事此処に至るまで気づかなかった――互いを利用するのが前提の関係ならば、切れる筈がないのだということを。


敵は今でも健在、故郷は今だ遠い。スキルだけを求めていれば、彼らの関係はまだ続いていただろう。

結局男女問わず、彼らは人間であった。人間でしかなかった。人間であるがゆえに――能力以上の、何かを望んでしまった。

お互いに人間である以上、限界はある。多種多様の人間がいる以上、過ぎた願いの全てなど叶えられはしない。

仮初の同盟はたった半年で不成立となり、関係は消滅した。

物語には相応しくない、役者達。少年も男も女も全員間違えて、舞台を台無しにした。

本体用意されていたエンディングには、辿り着けなかった。

それでも――彼らが共有した時間は、確かなもので。過ごしてきた半年間に、嘘はない。過ちだらけの日々が、この結果へと導いたのだ。

終わらせる為ではなく、もう一度物語を始める為に。男と女は命をかけて舞台に上がる。


「――捉えた」


 照準サイトに映し出される敵影に、カイは不敵の笑みを浮かべる。

メラナスの星を蹂躙しようとした地球母艦、憎き敵にようやく辿り着いた。

遠距離兵器ホフヌングの臨界突破で甚大な損傷を与えられたが、今も尚健在。

マグノ海賊団とメラナス艦隊の同盟軍を敗北に追いやった。

時空間を吹き飛ばした捨て身の攻撃でも倒せていなかった事実に、カイは歯噛みする。

自分だけの責任と無駄に気負うつもりはないが、あまりの屈辱に心が震える。

刈り取りという名の略奪、その象徴ともいえる母艦。アレこそ、カイ・ピュアウインドの真の敵だった。

今度こそ必ず倒す――怒りに震える肩に、温かい手が置かれた。


「後は頼む」


 我に返って振り向くと、青い髪の女性が真剣な眼差しで見つめている。少年と同じく傷つきながらも、その美貌に一切の翳りはない。

機動に特化したヴァンドレッド・メイアの超加速でディータ機を連れて惑星外まで退避、それがメイア・ギズボーンの役割だった。

恒星化した惑星が放った超高温のエネルギーも蒼い炎となって、ヴァンドレッド・メイアを追走している。

常識を超える加速が強烈なベクトルを生み、エネルギーの流れを作り出している――それもまた、次のシークエンスへの布石だった。

最終段階――地球母艦との激突まで、彼女は死力を尽くして導いたのだ。


「――必ず戻れ、カイ・ピュアウインド」

「おう!」


 同じく想いを託した、ジュラ・ベーシル・エルデンの綺麗な笑顔を思い出す。

心から信頼しているからこそ、自分の役目を終えて舞台を後にする。

メイアの真摯な想いを感じて、カイは溜飲を下げた。憎しみに囚われていた自分を、恥じる。

命懸けで綱渡りしてきたのは、自分だけではない。この作戦も、これまでの闘いも全て、彼女達と一緒に乗り越えてきた。

誰かが諦めていたら、ここまで辿り着けなかった。誰かが手を抜いていたら、仲間も自分も死んでいた。

必死に努力したから、死なずに済んだ。手を取り合ったから、死なせずに済んだ。


必要だと思ってくれているからこそ、メイアはカイの無事を願った。


応えないようでは、男ではない。カイは一切の躊躇もなく、彼女に返答する。必ず帰ると告げるように、一言で。

向けられた少年の顔は重い疲労と酷い負傷で、血の気を失っている。戦いの連続による酷使で、身体が弱りに弱っている。


カイの命のともし火が、消えようとしている――これ以上無茶を重ねれば、命を落とすだろう。


少年の瞳に、迷いはない。悲壮な想いはなく、完全なる勝利を目指す確たる決意に燃えていた。

一度はカミカゼセットを抱えて殉死しようとしたからこそ分かる。最後の最後まで、生きる為に足掻こうとしていると。

そんなカイを怪我を理由に制止は出来なかった。託すと決めた以上、何も言わず任せる――それこそが、彼への信頼の証だろう。


「ディータ、第四シークエンスだ!」

『了解!』


 通信越しに聞こえたディータの声に、メイアは目を見張る。これほど戦意に満ちたディータの声を、彼女は聞いた事はなかった。

最後を任せて歯痒い気持ちで戦場を去ろうとする、メイアやジュラの気持ちが分かっているように。

自分の役目は必ず果たすと、ディータはその一言で告げていた。

涙腺が緩みそうになった不覚に、メイアは苦笑する。部下の成長に涙して喜ぶなんて、まったく自分らしくない。


メイアは今度こそ安心して、分離した。今のディータになら、任せられる――自信を持って、部下を見送った。

















 ――深淵なる宇宙の闇を貫く、青い閃光。目を奪われる美しい光から、雄々しい巨人が誕生した。

ペークシス・プラグマの奇跡が生みだした、決戦兵器。仲間を守るために決死で挑んだ少女の名を冠した、ヴァンドレッド。

燃え上がる惑星を背に、禍々しき死の兵器と光り輝く生の兵器が激突する。


「行くぞ!」

「はい!」


 ヴァンドレッド・ディータのコックピットで再会した、少年と少女。

お互いの無事を喜び合う事もなく、ただ前だけを見つめて戦いに挑む。

無粋な会話など、必要はない。確認し合わなくとも、意思は通じ合っている。

死線を潜り抜けた二人は立派な戦士、勝利を手にするために戦いに臨む。


ヴァンドレッド・ディータの主力兵器――二対のペークシス・キャノンが、主の命に従って背より分離する。


分離した二対のキャノン砲は、放射された光で結ばれて一つに。ペークシスのエネルギーが具現化された、光の槍へと形成された。

男と女の合体により生み出された人型兵器は槍を構えて、巨大母艦と対峙する。


(喪われた過去――俺はお前と、決別する)


 祖先の星地球の偉大な科学者のクローンとして十代の状態で生み出された、カイ。生まれた直後に出来の悪さが露呈して、廃棄された。

捨てるついでと時空流移実験の材料にされて、そのままタラークへ不時着。

ズタボロになって路地裏に倒れていたところを拾われて、新しい人生が始まった。

記憶は喪われたのではない。最初から、何もなかったのだ。

夢で見ていた思い出も、結局はクローニング元の博士の細胞が呼び覚ました幻の過去にすぎない。

地球はカイにとって故郷とも呼べない事もないが、愛着など微塵も沸くはずがない。


全てを理解しながらも――地球母艦の前に立つカイに、憎悪はなかった。


(俺は稀代の天才ではなく、宇宙一のヒーローとなる。
これが俺の――カイ・ピュアウインドの、意思だ!)


 追いかけてきた過去に向けて、光の槍を向ける。戦意を感じ取ったのか、母艦もまた主砲を放つ準備に入る。

母艦が生みだした無人兵器の大群は消滅、建造する時間は与えない。今度こそ文字通り、一対一。正当な勝負。

いや――今度は地球が、追い詰められる番だった。


「「いけぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!」」


 男と女の意思を乗せて、ペークシスの光を宿した槍が投げ放たれた。

決戦兵器が全力で振りかぶった光の槍は恐るべき威力と加速を持って、母艦へと急接近する。

そこへ放たれる、地球母艦の主砲。遠距離兵器ホフヌングのエネルギーをも相殺した火力は、宇宙を火に染め上げる。

ペークシス・キャノン砲の最大主力が籠められた槍の威力は、生半可ではない。そして地球母艦は――並みの敵では、断じてない。

火力に特化したヴァンドレッド・ディータの攻撃力は凄まじいが、無人兵器を打倒出来ても母艦には届かない。

その事実に、人間の想いなど関係ない。


だからこそ彼らは、自分達の想いに――物理的な火力・・・・・・を、加えたのである。


放たれた光の槍を追走する、惑星より放たれた蒼いフレア。主砲と槍が激突したその瞬間、星のエネルギーが上乗せされた。

男と女が築き上げた半年間は、全てこの時の為に。刹那の瞬間を勝利する為に、彼らは死力を尽くした。


そう、この時、この瞬間――彼らは、地球を超えたのである。


星の光を纏った槍は地球の火力を蹂躙して、遂に地球母艦のど真ん中に突き刺さる。

どれほどの規模の戦力でも微動だにしなかった堅い装甲も簡単に突き破って、槍は地球母艦を串刺しに。

手前から奥底まで、全てを食らい尽くす。

その直後に惑星からのエネルギーが、被弾。星を燃やす程の火力が母艦内を暴れまわり、火の海に変える。


――大爆発。徹底的な殲滅、欠片も残さずに全てを焼き払う。


全ては、この時の為に生かされる。彼らの時間、過ごした日々――そして初めて味わった、苦い敗北の経験も。

男は決して、忘れない。女を泣かせた事を。

女は決して、忘れない。男を死なせかけた事を。





彼らは決して、忘れない――徹底的に倒さない限り、母艦はまた再生する事を。





『マスター、確認しました。来ます!』

『あんなヤツ――やっちゃえ、ますたぁー!』


 カイ・ピュアウインド、ドゥエロ・マクファイル、バート・ガルサス。そして、150名の海賊達。

その誰もが、勝利に浮かれてはいない。壊滅的ダメージを与えたのに、厳しい眼差しで見つめている。


炎の海から、悠然と姿を現した――燃え上がる、刈り取り母艦を。


悪夢のような現実。惑星を燃やす火力を費やしても、全てを焼き尽くすには至らない。

ホフヌングの臨界突破で大穴を開け、星の炎で芯まで焦がしても、母艦は再生を始める。

脅威の科学技術は、不屈の生命すら生み出す。人の努力を嘲笑うように、徐々に形を取り戻している。

逆に、カイ達は全てを使い果たした。人も、物資も、機体も、ヴァンドレッドも、ペークシスも――何もかも。

戦う力なんて、残されてはいない。ありえない奇跡を信じるには、彼らはあまりに酷い現実を見せられ続けてしまった。


「マグノ婆さん、ブザム。悪い、俺は――ここまでだ」

『……頑張ったよ、お前さんは。本当に、よくやってくれた』

『お前がどれほど力を尽くしたか、我々が知っている。恥じ入る事は何も無い』


 操縦席よりカイが見下ろすと、ディータは黙って頷いてくれた。

そのままゆっくりと……彼は倒れた。


真っ赤に染まる操縦席、血に濡れた操縦桿――戦えていたのが不思議なほどの、重傷。


ディータは涙を必死で堪える。ここで泣くのは、カイに対する侮辱だった。

顔を上げる。たとえどんな結果になろうとも、必ず見届けなければならない。

もっとも、既に……勝負の結果は見えていた。


「宇宙人さん――ディータ達の、勝ちだよ」


 ペークシス・キャノンと星のエネルギー、それでもまだ足りない。男と女、二度の敗北が教えてくれた。

希望(ホフヌング)が失われ、海賊としての誇りを失った。男女の関係も、何もかも、完全に破壞された。

彼らに残されているものは、たった一つ。奪われる事の無かった、人間としての大切な臓器。


――生命。















『こちらメラナス惑星、反地球艦隊。母艦殲滅作戦に加えて頂いたこと、感謝する。
これより作戦の指揮下に入り、攻撃を開始する』













「……援軍があるのは、何も……お前らだけ、じゃないぜ……」


 再生中の母艦の背後より現れたのは、無傷・・の増援艦隊。カイとマグノ海賊団が撤退させたメラナス軍の、増援である。

一時故郷へ避難はさせたが、同盟そのものは解消されていない。

故郷の守りに当初はつかせたのだが、戦力不足を考慮して連絡を取ったのである。

先にガス惑星から脱出した、ニルヴァーナ――マグノとブザムによって。作戦決行中の急ぎの連絡、これもまた綱渡りの賭けだった。

危険極まりない作戦への援軍要請を、彼らは快く応じた。地球の恐ろしさを知る彼らが、一人たりとも逃げなかったのである。


人間は愚かな存在だ。何度も過ちを繰り返す。


けれど――過ちを正す心を持っている。間違った事を反省して、正す事のできる力を持っている!

カイがメラナスの人達を守り抜いたからこそ、この結末がありえた。


人と人を結ぶ絆の力は、母艦の再生力よりも強い。


「……あばよ、俺の過去……」

『全鑑、攻撃開始!!』


 壊滅的損傷を被った母艦に、集中放火が浴びせられた。

レーザーの豪雨を浴びて沈みゆく船を、少年は真っ赤な涙を流して見送った。






























<to be continued>







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