ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 12 -Collapse- <前編>






Action4 −共有−






ブザム・A・カレッサは、近年稀に見る忙しさに追われていた。

艦内一つ一つの部署と連絡を取り合い、現状の確認と今後の指示を提示。

連絡間はブリッジとの連携を取り、針路の安否と艦外の広範囲索敵。

強靭な精神力で緊張感を維持しているが、内心の焦りまでは消し様がない。


今――副長の任に就いた組織の現状は、最悪だった。


(やはり半数に及ぶチーフの欠落は大きい……)


 午後行われる幹部会議で配布される報告書の内容を確認する。

艦内保全と警備を務める警備チーフが事件の詳細を記述、先刻ブザムに提出した書類である。


会議の議題は、カイ・ピュアウインドを筆頭とした男達の反乱――


問題事項の整理と原因の究明、至急必要とされる今後の対策。

この旅路に平穏は容易く訪れないと理解しながらも、今回の騒動を事前に防止出来なかった事実は痛い。

マグノ海賊団頭目マグノ・ビバンと、警備チーフが提出した内容に目を通す――


事件の首謀者は、ヴァンガードパイロット――カイ・ピュアウインド。


この少年が起こしたディータへの傷害事件から始まった。

突如クルーへの暴行に走った少年を調査した結果、一クルーの協力を経て密航者の存在を発見。

犯人の暗部が明るみに出るに従い、内々に抱いていたクルーの不満と不信が頂点に。

急遽取り押さえ監禁に成功するも原因不明の事故で艦が激震、隙を見て犯人は脱獄。

幹部数人と幾人にも及ぶクルーを人質に取り、救助船を奪って艦を脱出。

逃走阻止を図ったドレッドチームを相手に徹底抗戦に望み、チームの半数に大打撃。

並々ならぬ負傷を与えたが逃走を許し、その後行方は不明。

艦内に取り残された捕虜二人の捕縛に成功、現在首謀者の行方と此度の目的を尋問。

密航者の調査も継続中――



報告書内容を吟味して、深々と嘆息する。



発生した事件の経過を端的に記述しているが、マグノ海賊団・・・・・・に一方的な内容だった。

男側の言い分は、何一つ記載されていない。

報告書の内容がクルー全員に公の場で晒されれば、カイ達は情状酌量の余地も消え失せる。

和解など以ての外、男たち三人の処刑を求める声で埋まるだろう。

異性への穿った見識は今に始まった事ではないが、ブザムにはこの報告書は頭痛の種でしかない。


(……皆の大半の認識だろうな、これは)


 自分は悪くない、相手が悪い――


自分を特別だと認識する思考は、多かれ少なかれ誰でも持っている。

健康的とまでは言わないにせよ、正常な人間の分類には入るだろう。

男に明確な敵対意識を持つのは、メジェール人としてはむしろ正しい。


問題は――危機意識の欠如。


部下達が抱く自分への過大評価が、現状認識の阻害となってしまっている。

目先の感情に振り回されて、目的を完全に見失っていた。

男女共同生活の本来の目的は、故郷への帰還と刈り取りの警告にある。

故郷を脅かす未知の敵が存在する事を伝え、撃退可能な相手なら手を貸す。

目的はあくまで物資供給に必要なタラーク・メジェールと言う獲物を横取りされない為であり、マグノ海賊団を存続させる事。

自分達が正義の味方ではない、叶わぬ相手なら見捨てて組織の安全を第一に行動するまで。

その為にアジトへ残して来た仲間達と合流するべく、危険な旅の道連れに男を選んだ。


パイロット、操舵手、医者――そして、ヴァンドレッド。


共に宇宙の果てへ放り出された彼らへの情けだけではない。

危険な旅を乗り越える為の必要な人材として、マグノが選んだ。

他の誰でもない、マグノ海賊団頭目が自分達だけでは旅の完遂が不可能だと判断したのだ。

そんな彼らを追い出す事は、旅の前提を否定する事になってしまう。

強いて言えば、お頭の判断への疑惑に繋がる。


(カイさえ処分すれば解決する――そう思っているのだろうが……)


 男三人を処分し、密航者を捕縛すれば、確かに表面上事件は解決する。

紆余曲折あるだろうが、あるべき形に収まるのは間違いない。


しかし、それは――本当に形だけだ。


全体に亀裂が走った、歪みに満ちた形。

元の鞘には決して戻らない。

少なくとも半年前――カイ達を知らないあの頃に戻る事は不可能だ。


離反したメンバーの存在が、如実に証明してくれている。


報告書ではカイが人質を取ったと記されているが、あの少年はそんな卑劣な真似はしない。

本当に人質を取ったのなら、何故待ち構えていたドレッドチームと戦う必要がある?

何故我々への明確な敵意と、海賊の生業への否定の意思を示した?

戦闘行為など、火に油を注ぐだけだ。

カイは未熟な男だが、馬鹿ではない。

自分の取った行為が後程、どれほどの亀裂を生むか知っていた筈だ。

人質を盾に逃走経路を確保し、身の安全を保障させればいい。

その程度の頭が回らないカイではない。

タラーク母艦襲撃時、カイは奇想天外な手段でクルーの自由を奪い、停戦交渉を自分に求めたのだから。

報告書は何から何まで、自分の知るカイとはかけ離れていた。

ブザムは客観的視点と半年間見つめ続けたカイ個人の評価より、報告書の虚偽を分析する。



ディータへの傷害――偶発的な事故。

カイ本人は一番驚愕し、苦悩した筈だ。


密航者の存在――身元は、恐らくアンパトス。

男と女が共存する星で療養の為長期滞在した時、知り合ったのだろう。

カイ本人の望みか、少女の切なる願いか――結果として、少女は他の人の目を盗んで船に乗り込んだ。

いずれにせよマグノ海賊団への裏切りに繋がる理由ではない。

密航者を含めてキツイ叱責や処分は確かに必要だが、処刑は重過ぎる。


監禁後の脱走――問答無用で殺されると判断したのなら、止むを得ない判断とも言える。

カイは普段軽薄な態度を取るが、責任感は強い。

事態の解決を見ず、ディータの記憶障害を放置したまま大人しく死ぬ男ではない。

解決策を考える時間を稼ぐ為、逃走して再起を図る――そんな所だろう。


警備員達は死にもの狂いでカイの行方を追っているが、彼は恐らく自分から帰ってくる。

仲間を連れて。

己が起こした事件の解決を望むべく。


理解は出来るのだが――それでも、多少の怒りを覚える。


(間に立つ我々の苦労を考えてくれ、カイ……)


 一方的な加担が出来ない我が身を顧みて、深い溜息を吐く。

いっそ報告書通りの顛末ならば、何の問題もなかった。

"悪"を排除すればいいのだから。



(悪、か……タラーク・メジェール、刈り取り、我々海賊に男達。

誰が――何が正しく、間違えているのか。

道筋の無いこの旅はそれを見定めるべく、始まったのかもしれない……)



 立ち塞がったこの男女問題も試練と考えるべきか――

逃走した少年のような思考に、ブザムは苦笑する。

やるべき事は多い。

操舵手の居ないニル・ヴァーナ、医者の居ない医療、パイロットが消えたヴァンドレッド。

停止したペークシス、仲間達の亀裂、暗躍するクルー達、離反した者達の安否。


いずれ来る――刈り取りへの対応。


(まずは報告書の書き直しだな……)


 誰かに頼めば改竄されるのは必至なので、自分の手で修正する必要があった。

要らぬ苦労とは思わない。

同じく対応に追われるお頭の気苦労を拭う為にも、重責を背負う義務が自分にはある。


(カイだけではない。我々も今、真価を問われている――)


 マグノ海賊団副長、ブザム・A・カレッサ。


奮い立つ彼女の元に届いた、緊急連絡――


監房へ収容した男達が何をしたのか・・・・・・を聞き、彼女は再び悩める時間を過ごす羽目になる。














































<to be continued>







小説を読んでいただいてありがとうございました。
感想やご意見などを頂けるととても嬉しいです。
メールアドレスをお書き下されば、必ずお返事したいと思います。

お名前をお願いします  

e-mail

HomePage






読んだ作品の総合評価
A(とてもよかった)
B(よかった)
C(ふつう)
D(あまりよくなかった)
E(よくなかった)
F(わからない)


よろしければ感想をお願いします



その他、メッセージがあればぜひ!


     










[ NEXT ]
[ BACK ]
[ INDEX ]