ヴァンドレッド


VANDREAD連載「Eternal Advance」




Chapter 11 -DEAD END-






Action51−地道−






  『君は冷静さを失っている』


 俄かに慌しくなったブリッジで、カイと艦長は真剣な顔を向き合っている。

カイは首を振る。


『冷静さを失っているのはあんたの方だ、艦長』

『ぬっ…』


 少年の態度に腹を立てないのは、大人の貫禄か。

艦長は取り乱さず、少年の真意を探る。

豊富な経験と豊かな知識を元に、少年の立てた案を検討しながら。


『我らに故郷を見捨てろと言うのかね』

『故郷を救う為に、一時的に避難するんだ。
貴方達が抜けた戦線は、俺が代わりに維持する』

『君一人でかね? 無謀だ』


 カイの命だけを思い遣った発言ではない。

自分達は一蓮托生。

完全勝利以外に、互いの命が助かる道はない。


『君の力が如何様なものか、私は計り知れん。
とはいえ、君が搭乗する人型兵器に現状望む戦力を有してはいないだろう』

『俺の機体を調査したのなら、俺の武器も調べた筈だ』

『――ペークシス・プラグマを使用したあの兵器かね?』


 カイは頷く。

セランが修繕・整備を行った蛮型九十九式は、タラーク最新鋭の人型兵器。

されど機体性能・武装・推進力共に地球人の無人兵器には程遠く、マグノ海賊団ドレッドチームにも歯が立たなかった。

カイの搭乗するその機体に積み込んでいるのが、遠距離兵器ホフヌング。

未知なる可能性を秘めた、世界で只一つの兵器だ。

艦長の表情は難色を示したまま。


『どれほどの力が内在しているのか判明していないが、かの母艦に対抗出来ると仮定しよう。
ならば尚の事、君一人が命を危険に晒す事はない。
我らと共に戦い、勝利に貢献して欲しい』

『…期待に添えなくて悪いが、あの兵器にそこまでの力はない。
出来るのは、足止め程度。
開発したおれ自身、使いこなせていない武器なんだ』


 実践使用したのは数回。

制御や利用方法を身につけつつあるが、如何せん経験値は少ない。

これほどの激戦に耐えうる力があるのかは、正直怪しい。

少なくとも、ヴァンドレッド代わりには到底ならないだろう。


『…繰り返すが、我らに故郷は見捨てられない。
皆この戦場へ出兵している理由は此処あるが、多くの者が志願兵だ。
彼らの意思を尊重したい。

君の人間性は評価している。

――が、いちかばちかに何万人の命は賭けられない。
確たる保証がない限り、我らは此処を死守する』


 カイは異星人、悪く言えば余所者だ。

通常口出し出来る権利はなく、ましてクルー全員とメラナスの命運は背負えない。

彼の戦術が理に適っているのならば話は別だが、提言する戦術は無謀極まりなかった。

だが、カイの顔に怯む気配はない。


『敵の狙いは植民船団建国の国民全員の臓器――

――以外にも、目的があるとすれば?』

『なに…!?』


 初耳だった。

少なくとも、臓器の刈り取り以外に目的を見出す事は自分達には出来ていない。

驚きの色を露にする艦長に、カイは指摘する。


『奴らは俺も狙っている。

――俺個人、もしくはペークシス・プラグマを使用したあの兵器を』

『ど、どういう意味かね?』


 カイはメイアが重傷を負った鳥型艦隊撃破以降の戦闘背景を話す。

自爆を狙ったピロシキ型はカイが出撃した途端、彼を追った。

これはニル・ヴァーナ撃沈を狙った敵が、一人でも生き残るのを恐れて追撃したと考えられなくもない。

しかし…後から考えてみれば、不可解な点がある。


――全機で追う必要があるのか?


たった一機の捕捉に、自分達の作戦全てを不意にしてまで執拗に追うとは考え難い。

彼らは無人兵器、プログラム化された行動以外は出来ない。


彼らのプログラムに優先順位が存在するならば――


――ニル・ヴァーナより、自分の存在及び自機の抹殺が上位となっている。


だが、これだけでは断定は出来ない。

推測でしかなく、案外逃走する機体の撃墜など容易いとプログロムが判断したのかもしれない。


そこでもう一つの確定材料となるのが、アンパトス戦――


ヴァンドレッドの性能実験を行ったあの時、敵は真っ先に合体した自分達を襲った。

こちらの主力、カイ機とドレッド三機に集中して。

尖兵のキューブ型ですら学習能力を有していて、火力で圧倒出来たが回避もされた。

そして、分離した瞬間の狙い撃ち。

敵は、自分を狙った――


『つまり、敵は君が合体の要だと学習しているという事か』

『敵は戦闘を重ねる事に、機能と戦術を磨いている。

合体に必要なのは、ドレッドという戦闘機と俺の乗る人型兵器――

どちらを狙えばより有効か、馬鹿でも見分けがつく。
そして、敵は馬鹿じゃない』

『君が所有する武器が狙いだと言う推測の根拠は?』

『敵は合体を脅威に思っていない場合だ。
合体の要として俺を狙うのではなく、俺が持つペークシスを脅威に感じているかもしれない。

ペークシスを自由自在に制御出来れば、これほど都合の良いエネルギー源はないからな』


 敵の制御率がどれほどのものかは分からないが、少なくとも完全には制御出来ていない。

完璧な制御が行えているならば、出来損ないの無人兵器は不要。

ニル・ヴァーナ攻略に、キューブ型の自爆を用いたりしない。

艦長は難しい顔を崩さない。


『君の話は分かった。
だが…このような仮定の話は憚られるが…』

『遠慮なく言ってくれ。今更だ』

『仮に…君が戦死した場合――

――その後、敵が我が母星を狙う可能性がある。

彼らはその為に、我々に度重なる攻撃を行っている』

『いや、それもない。

…仮に、俺が死ねば――



敵が次に狙うのは、逃げた貴方達とニル・ヴァーナだ』

『どうしてそう言える。
君の事だ、確証はあるのだろうが』

『断定は出来ないが――』


 前置きして、話す。

カイの表情は引き締められていて、一分の隙もない。


『――俺が、あいつ等に傷を負わせる。
足止めを余儀なくさせられる程の、大打撃を――

敵の心胆を震わせる――プログラムの優先順位を狂わせる致命的ダメージを、与えてやる。

脅威に感じた敵は、逃げた貴方達を追う。
今度の今度こそ、ニル・ヴァーナの完全破壊を目論む』

『そ、そんな事が――!?』


 可能なのか、と言いかけて口を噤む。

威厳ある艦長ですら一瞬怯んだ、少年の眼光――


――覚悟を決めた、男の顔。


自分の死を、受け止めた戦士の決意。

少年は、笑った。


『…あいつらを…

皆を、頼んだぜ…艦長。

あんただから、俺はこの作戦を預けられるんだ』

『――少年…



我々に…君を犠牲にしろというのか…』
 















「あんたを犠牲にしろって言うの、ジュラ達に!!」


 激しい剣幕――

食堂に誰もいないのは、幸いだったかもしれない。

他に誰かがいれば、この様相に警備員を呼んでいたかもしれない。

カイは厳しい顔で言い返す。


「違う。俺を置いて逃げろって言っているんだ」

「同じ事じゃない! 
あんな大軍相手に、ひとりでどうやって戦うのよ!」


 ジュラは、哀しかった。

心の琴線が震えているのを、どうしようもないくらい自覚していた。

嗚咽を懸命に堪えていた。

少年の顔が、あまりに優しくて――


「出来る限りやってみる。
だからお前も、自分の出来る事をしてくれ。

ニル・ヴァーナまで連中と救助船を護衛出来るのは、サブリーダーのお前だ」

「…冗談…じゃないわよ…

だったら、ジュラが残るわ!」

「お前じゃ無理だ」

「何ですって…ジュラにだって、そのくらいの決意は――」


「バーネットはどうする?」


「――!」


 ジュラの表情が、歪む…

唇が震える。


――躊躇した。


一瞬だとは言え、自分が死ぬ事を恐れた。

カイは、ジュラの肩を叩く。


「お前は、生きているだけで意味がある。
お前の命は、お前だけのものじゃない」

「でも、でも――!!」


 ――言いたかった…


カイの命にも、意味はあるのだと。

その価値を、誰よりも自分が教えてやりたかった。


だが、今の現実が許さない――


カイの立てた作戦を除いて、犠牲者が出ない作戦なんて出せない。

確かに、カイの戦術も褒められたものではない。

幾つもの仮定と、推論の上に成り立っている。

どこかで破綻が生じれば、終わりだ。

だが、何処で作戦が狂っても――


――責任者は、責任を取るシステムになっている…


ジュラは、泣いた。

心から悔しくて、哀しくて…人前で、涙を零した…

カイは全員を見渡して言う。


「そんなにしょぼくれた顔をするなって。
出来るだけ、足掻いてみるさ。

案外チョロイ敵かもしれないからな。

やれるだけ、やってみるって。な?」


 ――最後まで。


最後まで、一度も勝つとは言わない…


少年の拙い優しさが、皆には辛かった。


































<to be continued>







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